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15話 新たな出会い


「じゃあ、行ってくる。イーナ、頼んだぞ」


「任せてよ! 気をつけてねみんな!」


 まだ薄暗い朝早くのことである。今日も調査へと出発したルート達。皆を見送った俺とルカは、昨日と同じように修行へと向かった。昨日の話が真実ならば、この里だっていつダイダラボッチやオーガの襲撃に見舞われてもおかしくはない。だからこそ、俺も早く力を使いこなせるようにならなくてはならない。


 まずはウォーミングアップも兼ねて、木刀を振るところから俺達の修行は始まる。少し冷えた空気がまたなかなかに気持ちが良い。思えば、スマホもなければゲームもないような生活は子供の時以来だ。


 自然の中で、綺麗な空気を吸いながらゆっくりと流れていく時に身を任せるような生活。妖狐の子供が行方不明になっている今、そんな悠長なことを言っていられないというのも事実ではあるが、何よりこうして自分だけと向き合えば良いというこの時間が、俺にとってはなかなかに心地の良い時間であった。


 初日は刀を振るだけ、たったそれだけの事が地獄のようにしんどかった。だが、昨日のマナの使い方の訓練のお陰か、それとも剣を振ると言うことに慣れてきたお陰か、前よりは幾分いくぶんと、剣を振ると言うこと自体は楽になってきた。力任せに振っていた以前とは異なり、だんだんと自分の振り方や、力の入れ方にも気を配る余裕が生まれてきていた。


 だんだんと汗がにじむ中、それでも俺は、無心に刀を振り続ける。ルカは俺に影響されたのか、大きな火の玉を作っては、首をかしげながら何かを呟き、再び魔法を唱えるという作業を繰り返していた。


「ルカ、そろそろ一旦休憩にしよう!」


「うん!」


 太陽も完全に顔を覗かせ、周りもだんだんと陽気に包まれ始めたころ、俺達は一度休憩をとることにした。木陰へと移動し、草原に座り込む。優しい風が、汗ばんだ俺の顔に当たり、少しずつ体温を下げていく。本当に気持ちが良い。


「イーナ様! 見て! ルカも魔法を少し練習したんだよ!」


 そう言って俺に自らの修行の成果を見せつけるように、手元で小さな炎を作り出したルカ。それを俺は微笑ましく見つめていた。


 だが、その直後、俺達の背後の森の茂みが揺れ動いた。がさっという音がこだまする。風が揺らした音ではない事はすぐに俺もルカも理解した。何かがいる。先ほどまでの、のどかな空気とはいっぺん、俺とルカに一気に緊張が走る。


――オーガ?


 いや、物音から推測するに、そこまで大きな生き物がならしたものではなさそうだ。だけど、油断は禁物。何が飛び出してくるかわからない以上、警戒をおこたるわけにはいかない。


「ルカ、後ろに隠れて。見に行くよ」


 ルカを背後に、俺は音の鳴った方へと歩みを進めた。おそるおそる茂みをかき分け奥を探る。茂みの奥は森。青々と茂る木々と、そして大きな石が見える。よく見ると、石の影から、毛がふさふさと生えた尻尾のようなものが、ちらりちらりと顔をのかせている。


「猫?」


 どうやら本人は隠れているつもりらしいが、こちらからはバレバレである。そのままゆっくりと近づいていくと、こちらの接近に気が付いたのだろうか、ふりふりと動いていた尻尾はピタリと動きを止める。どうやら敵ではなさそうだと判断した俺はとりあえず、その尻尾の主の方に声をかけてみることにした。


「さっき音を鳴らしたのは君?」


 冷静に考えれば、猫相手に言葉が通じるはずはない。だけど、どうも獣医という職業病からか、動物を見かけると話しかけてしまうのだ。端から見れば不思議な習性に思うかも知れないが、獣医という生き物はそういうものなのだ。


「ニャ! まさか僕の正体に気付くだニャんて…… ただ者じゃないのニャ……」


 俺の問いかけに呼応するように、突然に岩の影から聞き慣れない声がしてきた。急な返しに驚いたというのももちろんあったが、動物と意思疎通いしそつうが取れているという事に俺はむしろ驚きよりも、喜びの感情の方が先に出ていた。


 そして、尻尾の主はもぞもぞと動き出し、俺達の前へと姿を見せた。妙なことにこの猫、2本脚で立ち上がっている。ぱっと見は普通の猫といった感じだが、よく見ると尻尾は二股に割れており、話せるといったところからも普通の猫というわけではなさそうだ。


――ケット・シーじゃな


――ケット・シー?


――森に住む猫じゃ。妖狐には及ばないが、魔力を秘めた猫の一族じゃ。特にこちらから危害を加えない限り襲いかかってきたりはせん。


「そうなのニャ! 僕はケット・シーのテオ! あなた様は…… まさか九尾様なのかニャ?」


 どうやらこのケット・シーという猫のような生き物、こちらのサクヤとの会話を聞き取れるようだ。ある意味では話が早くて楽である。


「まあそんな感じ? 代理だけどね!」


「ニャニャ-! 良かったのニャ! 九尾様にどうしてもお会いしたくてはるばる来たのニャ!」


 ジャンプしながら喜ぶテオと名乗ったケット・シー。なかなか可愛らしい光景ではあるが、ずっと見とれているというわけにもいかない。わざわざ会いに来たと言う事は、何らかの事情があるに違いない。俺はテオに問いかけた。


「何かあったの?」


「ニャ…… 実は、ボクらの住処すみかの近くにオーガ達が頻繁ひんぱんに姿を現し始めて…… 近くを荒らすものだからすっかり困り果ててしまったのニャ…… それで僕がケット・シーを代表して、九尾様達のお力を借りられないかと思って来たのニャ!」


 ケット・シーもオーガによる被害を受けているようだ。愛くるしい猫のようなモンスターが頼ってきてくれた以上、何とか力を貸してあげたいところではあるが、まだまだ今の俺にはそんな他の種族にまで気を配るような余裕なんて無い。そもそもオーガの一匹も倒したことがないというのに、どうやって力になれるというのだろうか。


 どうやって断ろうか、そう考えながらテオに俺は視線を向ける。直立しながら自らの顔をこするテオ。ふわふわとした柔らかそうな毛並み、そして、愛くるしい顔、ああなんて可愛らしい生き物なんだろうか……


 いや、いかんいかん。だめだ、いくら可愛い動物の頼みでも受け入れるわけにはいかない。そして、もう一度テオに目を向けたとき、俺はテオの脚にある小さな傷口に気が付いた。


「まって、君怪我してるよ?」


 テオもどうやら自らの怪我には気が付いていなかったようだ。まあ、傷は全然深くないし、おそらくはかすり傷だろう。


「ホントなのニャ…… さっきオーガと出会って逃げたときに怪我したのかニャ? 必死だったから気が付いていなかったのニャ!」


「オーガと出会った? どこら辺で?」


「本当にさっきなのニャ! だから僕は岩陰に隠れていたのニャ! どっかに行ったみたいだけど、もしかしたらこんニャ風にすぐ戻ってくるかも知れないのニャ!」


 そう言いながらテオは俺達のすぐ横にいたオーガを示した。確かに、テオがさっきオーガにあったというのなら、この周辺にいるはずである。俺達だっていつ出くわしても不思議ではない。そう、だって現に目の前に大きな巨体をしたオーガがいるんだから……


……


えっ?


「イーナ様! オーガ!」


 ルカの叫び声が響く。慌ててテオを抱き寄せて回収しながら距離を取る俺。大きな棍棒をこちらに向けて振りかぶったオーガであったが、何とか回避は間に合ったようだ。


 ついテオの愛くるしさに夢中になって反応が遅れてしまった。まあそれは良いとしよう。獣医師たるもの、可愛い動物を前にしては、無力になってしまうのも仕方が無い。問題はここからだ。ここには俺とルカとテオという小さな猫しかいない。


 選択肢は二つだ。逃げるか戦うか。だけど、妖狐の里に近いこの場所から逃げたところで、今度は里の皆を巻き込んでしまう事になる。それは避けなければならない。結局、俺が選べる道は一つしか残されていないというわけだ。


――木刀しかないけど…… 大丈夫か?


――やるしかないじゃろ。 所詮オーガじゃ、おぬしなら何とかなる。


「……もうこうなりゃ、出たとこ勝負だ」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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