2-14話 別れ
「あらあ! イーナ! ルート! ゆっくり休めた?」
休憩所から出てきた私達を、いかにも嬉しそうな笑みを浮かべながら迎えてくれたのは、ウズメ。そして、ウズメと一緒にいたリンドヴルムは興奮したような様子で、私達2人へと話しかけてきた。
「イーナ! ルート! 待たせてすまなかったな! それにしても、この煌夜街…… すごく楽しいんだな! ウズメと一緒に色んな店を回らせてもらったぞ! あの豪華な部屋はすごかったな!」
「本当に…… リンドヴルムったら…… 興奮しちゃって大変だったわよ……」
照れたような表情で、リンドヴルムの言葉の後に続いたのはウズメ。……一体2人の間に何があったのだろうか…… いや、考えるのはやめておこう。どうせウズメのことだ。そうやって、思わせぶりな台詞をあえてはいて、私やルートの反応を楽しんでいることなんてもうすでにわかりきっている。
「……それで? 私の用意したスイートルームはどうだった? お二人で…… 楽しめたかしら? イーナ? ルート?」
「すごい部屋だったよ! ウズメありがとう! おかげで、ゆっくり休めたし……! ね、ルート!」
「ああ、久しぶりにゆっくり過ごせた」
ウズメのおかげで、久しぶりにリフレッシュというか…… まったりとルートと楽しむ時間を作れた。本当にありがたいと、今ならそう言える。まあ、ウズメが想定していたであろう展開には、もちろんのこと、ならなかったけど…… それでも、ルートと普通に話が出来た。それだけでも私にとっては十分なのだ。
「……あら、そう、よかった!」
私たちの返答の仕方でウズメも、私たちに何も起こらなかったことを察したのだろう。少し残念そうな様子で、ウズメはそう言葉を返してきた。
「まあ、今日のところは、こんなもんか…… また、明日だな」
私たち零番隊が見回らなければならないのは、この煌夜街だけではない。いつまでもこの煌夜街だけにとどまっているというわけにもいかないのだ。
「そうだね! それより…… ウズメも気を付けてね! 明日も来るし、それに何かあったらすぐに誰か走らせてくれたら行くからさ!」
私たちは仕事が終われば、この煌夜街を離れることにはなるが、この街の住人であるウズメ、それにスクナたちはこの堕魔の巣食う煌夜街から出ることはない。それにここに潜伏している堕魔たちにとっても、彼女たち…… 煌夜会は邪魔者には違いないのだ。零番隊として、名が知られている私たちよりも、煌夜会の面々のほうがよっぽど危険と隣り合わせといっても過言ではない。
「りょうかい! 一応…… これから天使商会の方もこそっと調査に行く予定になっててね…… 何かわかったらすぐにあんたたちにも知らせるよ」
「一人で行くの? ウズメ? ……本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。大人数で行ったほうが逆に怪しまれるし!」
なんだか心配であるが、これ以上は私たちがどうこう言えるような話でもないし、仕方ない。それに、なんだかんだ言ってウズメだって、そんじゃそこらの男に襲われようと、簡単に撃退できるほどの腕は持っている。きっと、きっとウズメなら大丈夫だろう。
「……本当に気を付けてねウズメ! じゃあまた……」
そのまま、ルート、そしてリンドヴルムとともに煌夜街を去ることにした私達。私達の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていたウズメ。そして、それがウズメとの最期の別れになることになるとは、この時の私はまだわかっていなかったのだ。




