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13話 炎の力、マナの力


「皆おかえり! どうだった?」


 辺りも薄暗くなりかけた頃、ルカの家へと戻ってきたルート達。俺はルート達に進捗について訪ねた。だが、彼らの表情を見た俺は、良い報告がないということを、すぐに理解した。渋い表情を浮かべたルートが、どこか申し訳なさそうな様子で口を開く。


「何も…… 見つけたのはオーガ一匹だけだ」


――またオーガ? そんなにオーガってウヨウヨいるもんなのか? 


 ルート達が今日探索をしたのは、妖狐の里の周辺のはずである。なのに、オーガが立て続けに現れていると言う。この前の出来事や、ルートの話を聞いても、この里に近い場所だからといって決して安全というワケではは無いようだ。そうなると、俺だっておちおち不用意に里を離れるという訳にもいかない。森の中であの化け物に出くわしたら一発お陀仏になる事なんて目に見えている。


 妙に感じていたのは、どうやら俺だけではなかったようだ。神妙な声色で、サクヤも言葉を漏らす。


――妙じゃな。たまに妖狐の里の方に迷い込んでくるオーガはいるものの、基本的には奴らは森の奥に住んでいる。こうも立て続けに妖狐の里周辺に姿を現すと言うことは、何か森に異変が起こっているのかも知れないな……


――異変?


――わらわにもよくわからないが……


 何か森に異変が起こっているとして、結局はルート達に頼るしかないというのが現状だ。情けないが、俺ではまだ力になれそうにない。気にはなるが今の俺にはどうすることも出来ないのである。


「それはそうとイーナ。今日はちゃんと剣を振ったか?」


 空気を変えるようにハインが俺に問いかけてきた。昨日の厳しい表情とは打って変わって、おおらかな様子へと戻ったハイン。俺もハインに向かって手を伸ばしながら自らの努力の証を見せる。


「ちゃんとやったよ! 手がマメだらけになっちゃったけどね!」


 昼間、無心で剣を振り続けた結果、俺の手はすでにぼろぼろになっていた。それでも俺は、早く皆に追いつきたい。その一心で痛みに耐えながら俺はひたすらに剣を振り続けた。


 俺の手に刻まれたその証を見たハインはフッと笑みを浮かべた。一方で心配そうな表情を浮かべていたのはナーシェである。少し怒ったような様子で、まるで自分の子供を心配する母親のように、ナーシェは俺へと近づいてきた。


「駄目ですよ! せっかく綺麗な肌なのに! ほらこっちに手を出して!」


 ナーシェはそう言うと俺の手に自らの手を重ね、治癒魔法を使いはじめた。少し温かい感覚に包まれ、あのときと同じように、ジュワジュワと音を立てながら治っていく俺の手。ナーシェのお陰で俺の手はすべすべの綺麗な肌へと戻ったのだ。そして、ナーシェの治癒が終わるのを待っていたかのように、ハインが俺に向けて笑顔を浮かべる。


「おい、イーナ。ちょっとだけ付き合う気はないか?」


「付き合うって? もう大分遅いよ?」


「剣術指導だ。昼間はお前に付き合えないからな。イーナが約束を守った以上、俺も約束を守らないといけないだろ?」


 ハインの提案はすごくありがたかった。正直、ルカと一緒に修行とは言っても、お互い剣術なんてやったこともない。昨日のハインに指導してもらった型を無心で振っていることしか俺には出来なかったのだ。


「ありがとうハイン! 是非お願いします!」


「駄目ですよイーナちゃん! あんまり無理をしちゃ!」


「大丈夫だナーシェ。少しだけだ。明日も朝は早いしな」


 すっかり暗くなった中、俺とハインは家の近くの開けた場所へと向かった。そして、自らの背中の方に手を伸ばしたハイン。そのままハインは背負っていた双剣を下ろし、俺へと手渡してきた。


「ハインこれって?」


「持ってみろ」


 なんだろう? ハインの剣は確かに綺麗に手入れこそされていたが、ぱっと見た感じ普通の剣としか思えない。ハインが何を俺に伝えようとしてるのか全く見当もつかないまま、俺はその剣へと手をかけた。


 ハインの剣を持った瞬間に、何故か身体に力が湧いてくる、そんな感覚に包まれた。一体どうなっているのか、ハインに尋ねようとしたその瞬間、俺の言いたいことをもう分かっていると言わんばかりのタイミングでハインは口を開いた。


「その剣は魔鉱石まこうせきという材料から出来てるんだ」


「魔鉱石?」


「マナをため込んだ鉱石の事だ。ロッドが言っていた事を覚えているか? 俺やルートは魔法が使えないと。確かにそれは正しい。だがな、魔法が使えなかったとしても、マナが使えないと言うわけじゃない」


「どういうこと?」


 いまいち話が見えてこない。マナは魔法を発動するために必要である。それは俺も何となくはわかっている。だが、『魔法が使えなかったとしても、マナが使えないわけじゃない』というハインの言葉は一体どういう意味なのか。考えて込む俺にハインが続ける。


「要は、マナを魔法という形で上手く還元できるのがロッド達魔法使いだ。だけど、魔法以外にも、マナは移動や攻撃を強化すると言うのにも使える。でも俺達はロッド達の様にマナを上手く扱えない。じゃあどうやってそれを補っているか。その答えがその魔鉱石の武器だ」


「これを身につけていると、剣術も強化されるって事?」


「そう、だがあくまで強化というだけで、剣の腕が上がったりするというわけではない。例えば、マナを脚に集中させることで、素早く動くことができる。マナを腕に集中させれば、強い剣戟けんげきを繰り出せる。まあ物は試しだ。まずは脚に感覚を集中させてみろ。その感覚は身体で覚えるしか無い」


 確かに言われてみれば、ルートの攻撃の威力や跳躍力ちょうやくりょく、それにハインの素早い立ち回り、初めて見たときに到底人間のなせる技ではないと思っていた。それもマナを使っていたと考えれば納得も行く。原理はよくわからないけど、まあそれはそう言うものとして理解するしかないのだろう。


「脚にマナを溜めて一気に放出する。その感覚を掴むんだ。その剣を持っていれば普段より感覚も掴みやすいだろう。俺に本気でかかってくるんだ」


 そう言うと、ハインは、もう1本の剣を俺に向けて構えた。いつでも来いと言わんばかりの様子で俺の前に立つハイン。こんなチャンスはまたとない。俺もゆっくりと剣を構え、脚に全神経を集中させる。


 脚がじんわりと温かくなってくるのがわかる。本当に使い方があっているのかどうかはわからないが、ひとまずは脚にマナが溜まっているのだけはわかる。


――後は一気に放出する!


 動き出すのと同時に一気に地面に向かってマナを放出する。あのときの魔法を自らの後方に、蹴り出した脚から垂直に放出させるように。すると、足元が一気に熱くなるような感覚が感じられた。そして、離れた場所にいたはずのハインの姿が、すでに目と鼻の先にあったのだ。


――やばい、止まらない。


 どうやら発射の勢いが強すぎたようだ。爆発するかのようにハインに向けて飛んだ俺の身体。ハインに向けて魚雷のように発射された俺の身体。だが次の瞬間には、柔らかい物に一気に包まれるような感覚が訪れてきた。気が付いた時、オレはハインの腕の中に包まれていたのだ。


「その感覚だ! 微調整は必要だが…… それにしても驚いた、こんなに早く感覚を掴むとは……」


 俺のすぐ目の前で笑顔を浮かべるハイン。どうやら、まだ未熟ではあるものの、マナの使い方の方向としてはあっていたらしい。正直一瞬の出来事過ぎて、自分でも何が起こったのか理解が追いついていなかったが、あの時の感覚は俺の身体にしっかりと残っていた。


「後ろを見てみろ、イーナ」


 ハインに言われるがままに、俺がさっきまでいたであろう方向を見ると、所々赤い光が見えた。草は所々剥げており、赤い光からはちっちっと小さな音が聞こえる。


「あれって火?」 


「そう、今イーナが移動してくるとき、イーナの足元に炎が見えた。さっきの恐ろしいほどの速さ、あれはおそらく炎属性の魔法の力が混じったことによるものだろう」


 それってすごくない? 思わず笑みを隠しきれない俺に、ハインは気合いを入れなすように真面目な表情で口を開く。


「そうは言っても、まだ力の使い方は改善の余地はある。繰り返して、その感覚を身体にたたき込むんだ! どんどん来いイーナ!」


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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