123話 さらなる死闘の予感
第5章です! いよいよクライマックスにさしかかってくるかと思います!
「よくやったな! 皆!」
ザイオン達、フリーフェイスの別働隊と合流した私達。街の魔道士達も、既にザイオン達、それにフリーフェイスの勢いに乗じてやってきた9番地区の住人達によってすっかり制圧されていた。
一方で、これまで9番地区の住人達を人とも思っていなかった、いわゆる上流階級だったシュルプの住人は皆、頼りの魔道士が制圧されたことで、もはやフリーフェイスの面々に抵抗するような素振りも見せず、皆怯えた小動物のようになってしまっていた。
「おい、てめえら、今まで良くも……!」
一人の男が、住人達に近づいていく。
「ひぃっ!」
「やめろ、レックス。私達の目的は、あくまで腐敗した聖教会にある。住人達は関係ない」
「でもよ、リーダー! こいつらもその聖教会に甘い汁を吸わせてもらっていた連中だぜ!」
「レックス、その行為に、『義』はないだろう?」
「わかったよリーダー……」
不満そうに言葉を返したのは、レックス。だが、ここで住人達に手を上げるようなことがあれば、それはただの暴徒。流石にフリーフェイスのメンバー達もそれはわかっていたようで、渋々ザイオンの命令に従ったのだ。
「イーナ、それに皆! シュルプの本部を…… マーズ大司教を打ち破れたのは、間違いなく君達の力のお陰だ! 協力感謝する!」
そして、私達の元へと近づいてきたザイオンは、深々と頭を下げた。
「そんな……! フリーフェイスの皆の力だよ! でも大変なのはこれからだよ! この知らせはすぐに国にも行くだろうし!」
そう、まだフリーフェイスの面々はまだシュルプの街一つを落としただけに過ぎない。この知らせが国に入れば、間違いなく国を挙げて、フリーフェイスの面々を叩きに来ることは目に見えている。そうなれば、間違いなく、あの『白の十字架』の連中も、私達の前に姿を現すだろう。本当の戦いはここからなのだ。
「ああ、だからこそ…… ここからはエンディアの同志の力も必要になる! ……それにしても、遅いな…… いくら、迅速に本部を落とせたとは言え、もうそろそろ来てもおかしくない時間だが……」
確かに…… ザイオンの合図からかなりの時間が経っているが、未だ街にエンディアからの援軍の姿はない。
「まさか、エンディア国に裏切られた…… とかは無いですよね?」
不安そうな様子でそう口にしたのはナーシェ。今回のフリーフェイスの作戦は、まずシュルプの街を落とし、そしてエンディアからの援軍と合流、エンディア国と共に、聖教会の総本山がある、聖都アレナへ進行するといった予定であった。
もし、エンディア国の援軍がいなかったとしたら…… 私達の置かれた状況はまさに最悪そのものになってしまう。いくらシュルプは落とせたとは言え、アレナ聖教会の本隊…… それに白の十字架の連中を相手に、私達とフリーフェイスの面々だけで対抗するなど、無茶苦茶な話だ。
「大丈夫だ。エンディアは裏切らない。彼らは信用できる」
皆の中に伝播しつつあった不安を一掃するように、ザイオンが答える。まさにその時だ。戦いを終えた私達の陣の元へ、エンディアからの使者が合流したのは。
「おい、どうした! 血だらけじゃないか!」
ざわつくフリーフェイスのメンバー達。息を切らしながら、体中に血を浴びた女性が、ザイオンの元へと必死に走ってきたのだ。
「ザイオン様! ザイオン様! 大変です!」
「どうした? 怪我を負っているではないか!」
一目見ただけで異常事態が起こっていることは明白だった。そして、女性は息つく間もなく、そのままエンディアからの援軍に起こった事実を私達に告げたのだ。
「エンディアからの先行部隊が! 全滅! 皆さんの動きが! 教会側に筒抜けだったようです!」
その知らせに、フリーフェイスのメンバー達に動揺が走る。信じられないような知らせであるが、血塗れの女性の必死な様子からして、その報告は嘘だとは思えない。
「まさか!? そんなはずは……」
流石のザイオンも、動揺を隠せない様子でそう言葉を漏らす。一方で、勢いづいたのは、先ほどまで怯えていた、上流階級の住人達。途端に水を得た魚のように、フリーフェイスの面々へと抵抗を示してきた。
「てめえらなんか! てめえらなんか、聖教会の連中に殺されちまえ!」
「私達だって!」
そして、暴徒化し始めた住人達。慌てて抵抗しようとしたフリーフェイスやレジスタンスのメンバーだったが、もはや勢いづいた大量の住人を相手に、傷つけることなく鎮圧するというのは不可能に近かった。
「てめえ……!」
そして、住人に対し、遂に手を出そうとしたレックス。ザイオンが叫ぶ。
「やめろレックス!」
「……あらあら…… もう仲間割れかい! 三日天下…… どころか…… 1日も持たなかったようだねえ!」
突如として、空から聞き覚えのない声が広場へと響き渡る。暴徒化していた住人も、フリーフェイスのメンバー達も、そして、私達も一斉に声のした方、空の方へと視線を移した。
宙に浮いていたのは少年。血に染まったその少年は、まるで獲物を狩る肉食獣のような目で、戸惑う私達を見つめていたのだ。不適な笑みを浮かべながら。




