120話 炎と炎のぶつかり合い
「ここをどこだと思っておる? わしを誰だと思っておる? おぬしらが今刃を向けているのは、まさしく国そのもの。国を裏切ったおぬしら全員に待っているのは、もはや死のみ……」
燃えさかる炎の中、そう冷たく言い捨てたマーズ大司教。ここまで怒濤の勢いで攻め込んできたフリーフェイスの面々だったが、圧倒的な魔力で立ちはだかったマーズ大司教を前に尻込みする者も現れ始めたのだ。
そして、その状況をまずいと思ったのか、魔鉱石の銃をマーズ大司教へと向けたのはブラック。引き金に手をかけたブラックは、迷うことなくそのまま力強く引き金を引いたのだ。
「これでもくらいな! 化け物め!」
銃先から発射された魔法。だが一方のマーズ大司教はと言うと、全く動じる素振りも見せず、再び魔法を発動させたのだ。
「無駄だ。そんな子供だまし、わしにはきかん」
そう、相手は巫人。なれば、マーズ大司教の言うとおり、あの程度の魔法攻撃など対処もたやすいのは、私でもわかる。確かにエンディアからの武器は、誰でもそこそこの魔法を放つことが出来るという点では、強力であることには変わりないが、それはあくまで普通の魔道士に対しての話。
巫人となれば、話も変わってくるのだ。仮に、私に向けられたとしても、あの程度の攻撃なら防ぐのもそう難しくはない。
そうなれば、私達がするべき事は明確だ。このままマーズ大司教一人に、せっかく出来た流れを持って行かれるわけにはいかない。相手が巫人となれば、同じく巫人である私達の出番というわけだ。
「ブラックさん! 下がって! あいつは私が相手をする!」
炎の魔法を操るマーズ大司教。相手にとって不足はない。火力勝負なら、九尾の巫人である私が、相手をするのに最も適している。
「イーナ、私に任せてったって…… お前…… あんな化け物相手に……? 大丈夫なのか?」
私を心配するようにそう口にしたブラック。大丈夫。私は笑顔で返す。
「大丈夫。私に任せて、皆下がって」
戸惑うままのフリーフェイスのメンバー達を、私達の仲間達、ヴェネーフィクスのメンバー、それにアマツが外へと誘導する。仲間達はもうすでにわかっているのだ。これから始まる私と大司教との勝負。炎と炎がぶつかり合い、戦場が火の海に飲まれると言う事に。
「……あなたが炎の力を使うなら、私があなたの相手をする」
「誰だ? おぬしは?」
「私の名前はイーナ。あなたと同じ、炎の巫人だよ」
巫人という言葉を聞いたマーズ大司教は、ふっと小さく笑みを浮かべる。そして、すぐに険しい表情へと戻ったマーズ大司教は、そのまま私に向かって、魔法を発動してきたのだ。
「だからなんだというのだ! 愚か者め!」
高らかに叫ぶ大司教。炎の渦が、龍のように形作られ、そして私目掛けて一直線に襲いかかってくる。だが…… あの程度の炎の魔法。私の九尾の炎の魔法の前では、火遊びもいい所だ。
「炎の術式、纏炎」
炎と炎がぶつかる。あちらこちらにあった木製の椅子や家具は、そのまま炎に飲まれ、燃え尽きていく。私と大司教の炎がぶつかり合った建物の内部は、石で出来た壁を除き、全てが火に包まれかけていた。
「……妙な力を使うな…… おぬしは……」
「だから言っているでしょ? 炎の…… 九尾の巫人だって!」
「九尾……!? まさか…… 本当に……」
九尾という言葉に驚いたような表情を浮かべたマーズ大司教。何かか心当たりでもあったのだろうか、いや、今そんな事はどうでもいい。私がやらなければならない事。それは全力で大司教を打ち破ることなのだ。
――今度は、こっちの番!
「炎の術式……」
相手が炎の魔法を使うなら、私は相手よりももっと強力な炎で…… 攻める!
私の新しい魔法。炎の術式の中でも最大級の火力を誇る、その魔法の名前は……
「陽炎!」




