115話 第一印象は大切です
聖都シュルプの9番地区、ごろつき共が屯する路地裏の一角に、フリーフェイスの本部はあった。扉を開いたザイオンの後を、おそるおそる付いていった私。既に集まっていた、フリーフェイスのメンバー達と思われる人達の、私を見る視線が妙に痛い。
――なんだあの妙な女は?
私に注がれた視線から、皆が思っているであろう事は、すぐに伝わってくる。一目、ただの少女である私なんだから、そう思われるのは、ごく自然な話。そして、そんな何とも気まずい沈黙を、破ったのはザイオンだった。
「皆、忙しい中集まってもらい感謝する。彼女が、昨日オルガが言っていたイーナだ。正式に我々の同士となった」
「イーナです…… よろしくお願いします……」
声を振り絞り何とか皆に挨拶をする。やっぱり第一印象は大切だろう。なんと言っても、彼らにこれからお世話になるであろう事は、目に見えているのだから。まあ、私の皆に対する第一印象は、最悪極まりないけど。
「こう見えても彼女は、シャウン王から密命を受けてここに来たそうだ! つまり我々の背後に新たにシャウン王国が加わった! 正義は我らにあると、連邦も言っている事に他ならない!」
その言葉を聞いた途端に、集まっていたフリーフェイスのメンバー達がざわつきに包まれる。上手いことザイオンに利用された気もするが、今はこっちだってなりふり構っていられるような状況では無い。仕方ない。
「リーダー、あんたの言うことだ。あんたが言うのならそうなんだろう。それにどちらにしても、俺達は猫の手も借りたい状況であるのは変わりねえ」
そう口にしながら、私達の元へと、一人の男が近づいてくる。スキンヘッドが特徴的なその男は、目つきも悪く、そこらのごろつきにしか見えないようなそんな男だった。だが、おそらくフリーフェイスの中でも比較的上の立場なのだろう。私へと注がれていた連中の怪しいものを見るような鋭い視線が、一瞬にして全く異なる視線へと変化した。
「俺はブラック。フリーフェイスのサブリーダーをやっている。イーナ、よろしく頼む」
ブラックと名乗ったその男は、私にむかって太い腕を差しだしてきた。最初は怖そうな人だと思っていたが、すっかり笑顔になったブラックからは、獲物を狙うような鋭い眼光は消えていた。
「よろしくお願いします。ブラックさん!」
差し出された手に、私も手を伸ばす。手を握った瞬間に、ごつごつとした、筋肉の感触が伝わってきた。それだけで、彼が日頃から厳しい鍛錬を積み重ねているというのが、すぐに私にも伝わってきた。
「さて、イーナが我々の仲間に加わってくれたことは良いが、彼女は今大層困っているそうだ。何でも聖教会の連中共に追われ、仲間とはぐれてしまったらしい。彼女の仲間達も相当な手練れ…… 救出すれば、必ずや我々に力を貸してくれるだろう!」
「シャウン王国側に恩を売るってワケか? イーナこの礼は高く付くぞ? いいんだな?」
不敵な笑みを浮かべながらそう口にしたブラック。仲間の行方を捜すことなんて用意だと言わんばかりの自信に満ちあふれたブラックは、なんと言っても仲間とはぐれてしまった私にとっては心強かった。
「ブラックさん、それに皆さんも…… お願いします! 今後私も必ず皆さんのお役に立ちますから!」
「こんな可愛い子の頼みともなれば、はりきらねえわけにもいくまいよ! わかった、お前の仲間は俺達で見つけてやろうじゃないか! その代わり、作戦の時は、期待してるぜ、シャウンから来たお嬢さん!」
流石にリーダーとサブリーダーがそう言った以上、他のフリーフェイスのメンバー達も、もはや私を拒絶する者はいなかった。奇妙な者を見るような視線は、仲間を受け入れるような温かな視線へと変わっていた。
「そう、そして、作戦は予定通り決行する。イーナ、君や、キミの仲間達には、戦闘部隊に入ってもらうことになる。君の、君ほどの魔力があれば…… 必ずや聖教会の魔道士達も打ち破れるだろう。こちらこそ、どうかよろしく頼む」
皆の前であるのにもかかわらず、私に向かって深々と頭を下げたリーダーのザイオン。リーダーにここまでされてしまっては、私だって張り切らないわけにはいかない。なにせ、ようやく『白の十字架』の正体が手の届きそうな場所まで近づいてきたのだ。それに、正直私だって、聖教会に対するフラストレーションは大分たまっていた。
それに、もう私達だって部外者ではない。アレナ聖教会の連中に敵として見なされてしまった以上、こちらだって黙ってやられているだけというわけにも行かない。魔道士達には申し訳ないが、これは生きるか死ぬかの話。私達が生き抜くためには仕方ないのだ。
そのまま会議も終了し、彼らを信じること以外、特にできる事が無かった私は、そのまましばらくお世話になるであろう、バーのマスターの元へと帰ることにした。




