113話 敵は聖教会にあり!
目を覚ましたときには、もうすでに外は明るくなっていた。昨夜は遅くまで働いたと言う事もあり、疲れもたまっていたのだろう。少し重い身体を起こし、私はそのまま部屋を出た。
「おはようございます、イーナくん。昨日は良く眠れたようで」
既に営業の準備を始めていたマスター。爽やかなマスターの挨拶に、私も笑顔を返す。
「おはようございます! マスターのお陰でよく眠れました! 本当にありがとうございます!」
「いえいえ…… それよりも、もうすでにお探しの方は来られていますよ」
マスターのその言葉に、店の中を見渡した私。まだ客がいないはずの店内、カウンターの一番端の席には、オルガの姿があったのだ。
「おはよう、イーナ。マスターから聞いたよ。僕達に協力してくれるんだって?」
「……私達の仲間の居場所がばれた。もう、私にはあなたたちに協力すること以外に道は残されていないんだ」
「なるほどね…… そっかそっか、僕達に協力する代わりに、仲間を探す手助けをして欲しいと、そういうことで良いのかな?」
不敵な笑みを浮かべつつ、そう口にしたオルガを前に、私は一つの疑念を抱く。
「……まさかとは思うけど、あなたたちが仕組んだというわけじゃないよね?」
「まさか! 僕らにとってあいつらは、ただの敵でしかないんだよ!」
真偽のほどはわからない。だけど今の私には、オルガの言葉を信じる以外の道はない。1人になってしまった私には、仲間の行方がわからない私には、彼らに頼る以外に道はない。自らの無力さに打ちひしがれながら、それでもオルガの誘いに頷くしかなかった私に対し、オルガは笑顔を浮かべたまま、再び口を開いた。
「……まあ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。僕達の情報網があれば、キミの仲間もすぐに見つかる。オーケー! これで契約は成立だ! リーダー!」
入り口の方へと向かって声を上げたオルガ。その声に呼応するかのように、酒場の扉が静かに開く。入ってきたのは若い男。がっしりとした体格の、どことなくハインに似た雰囲気を放っていた男だった。
「キミが…… オルガから話は聞いている。私はザイオン。フリーフェイスのリーダーをやらせてもらっている」
「イーナです。私もフリーフェイスのお話は既に聞いています」
「イーナ。聖教会に支配された、この腐った国を変えるために、君達の力も貸してくれると聞いた。まずは、フリーフェイスのメンバーを代表して礼を言わせてもらいたい」
深々と頭を下げたザイオン。慌てて私もザイオンに言葉を返す。
「ザイオンさん! そんな礼なんて……! それに、現状お礼を言いたいのはこちらの方です! フリーフェイスのお陰で、今私はこうして無事に過ごしていられるんですから」
「……少しばかり話は聞いた。イーナ君達の話を詳しく聞かせてくれないか? 君達がどこから、そしてどうしてここに来たのか。そして、今君達の身に何が起こっているのか?」
それから私は、ザイオンにここまで私達の身に起こったことを洗いざらい話した。私達が、『白の十字架』の消息を追って、シャウン王国から来たと言う事、そして、聖教会の魔道士達に、私達の居場所がばれて仲間が離ればなれになってしまったと言うこと。黙ったまま私の話を聞いてくれていたザイオンは、私が話し終わったのを確認した後で、私を安心させようとしているかのような、優しい表情を浮かべながら口を開いた。
「なるほどな。私達もまだ、シャウン王国から来た者が聖教会に捕まったという情報は得ていない。おそらくはキミの予想通り、皆無事に逃げ延びてはいるのだろう。大丈夫だ。私達フリーフェイスの情報網があれば、きっとキミの仲間もすぐに見つかるさ」
「本当ですか!? ザイオンさん!」
「ああ、それに君達が協力してくれるというのなら、こんなに心強い話はない。連邦、それにエンディア…… 周辺の大国が私達に協力してくれるというのなら、私達にとっては何よりも明るい話になるんだ」
聖教会の調査を進める為には、間違いなく近い将来あの魔道士達との衝突は避けられないだろう。そうなれば私達に取っても協力者は多いにこしたことはない。こうしてようやく、私とフリーフェイスのリーダー、ザイオンとの間で、お互いに協力しあうと言うことが決まったのだ。




