105話 聖都シュルプ
アレナ聖教国
タルキス王国からさらに東、ラングブールの壁を越えた先に位置するアレナ聖教国はその名の通り、アレナ聖教が全てを支配する宗教国家である。アレナ聖教国は、教会の総本山が位置する聖都アレナ、そして、聖都アレナから見て4つの方角に、教会の分院がある聖都シュルプ、聖都シャムナ、聖都ライアット、聖都ボフィアがそれぞれ位置しているようだ。
そして、私達が今訪れているのは、聖都シュルプ。アレナ聖教国の西部における中心都市である。もちろん流石にいきなり飛空船で乗り込んでくると言うわけにも行かず、街から少し離れたところに飛空船を停泊し、管理を行ってくれるアボシを1人残して、私達は徒歩で聖都シュルプまでやってきたと言うわけだ。
私達が聖都シュルプに来て驚いたこと。それは、聞いていたよりもずいぶんと綺麗な街であると言うことだ。人々は質素ながらも、小綺麗な衣装に身を包み、街並みもレンガを基調としたおしゃれな風景である。
「……なんか思っていたよりも平和そうじゃない?」
大通りは活気にも溢れていて、聞いていた話とは全く異なる。一体どうなっているのか…… 私達はさらなる調査を行うため、シュルプの街を中心部に向かって進んでいった。
「あらあ、奥さん今日も素敵なおめしものだこと……」
「ええ、先日アーストリアより特別に取り寄せてもらったのよ。おほほほ」
「タルキスから美味い肉が届いているよーー!」
「今夜は焼き肉にでもしようかしらね……」
街を行き交う人々の声が耳へと届く。極めて一般的な会話である。だが、ふと路地を歩いていたとき、上品そうな2人組のマダムの会話が私達の耳へと届く。
「ついにうちの息子も聖教会の洗礼を受けてね。魔道士として聖都アレナに配属されたのよ」
「出世街道間違いなしじゃない! 自慢のお子さんね!」
魔道士……? 魔道士って言えば、魔法使いってことだよね? アレナ聖教国は、魔道士を配下にしているってこと……?
2人のもう少しだけ、耳を傾けてみる。
「だと良いけど…… 何でも戦闘訓練やら何やらで大変みたい。祭司様が厳しいって……」
「そうね、でも、魔道士様達のお陰で今の私達の生活があるんだから…… それに、危険な仕事である事は変わりないし…… あなたの、いえ、私達の誇りよ! 頑張ってもらわないとね!」
……
「どうしたんですか、イーナちゃん? そんな難しそうな顔をして?」
「いや、さっきのマダムの会話…… 魔道士のお陰で生活が守られているって…… どういうことなのかなって…… どうしてそんな戦闘訓練をする必要があるのかなあ?」
「そりゃあ、モンスターとか、犯罪者とかそう言う危険から市民を守る為なんじゃないんですか?」
さも当然と言ったような様子で言葉を返してきたナーシェ。まあ普通に考えればそうだが、一見何の犯罪も起きなさそうなほどには平和だし……
「まあでも、思っていたよりは文明的なところで安心したよ~~! とりあえず長旅で疲れたからさ~~ 今日はもう休まない~~? 調査は明日以降ってことでさ~~!」
飄々とした様子でアマツが提案してきた。確かに、長旅で疲れたし、なんだかんだ言ってもう日も大分傾きつつあるし、今日の調査はこのくらいで大丈夫だろう。アマツの言葉通り、思っていたよりはずいぶんとまともというか…… 普通の都市といった感じですっかり拍子抜けではあるが、平和なら平和で言うことはない。
「じゃあ…… 宿屋でも探そうか? 街の入り口近くにあったよね!」
そう言って、来た道を引き返そうとした途端、ごーんごーんと大きな鐘の音が街中へと響き渡りはじめた。澄み渡った鐘の音はなかなか鳴り止まず、何度も、何度も街中へとこだまする。
「綺麗な音…… 幻想的な鐘の音ですね!」
突如として鳴り響いた鐘の音にナーシェも聞き入りながら、そう口にした。まるで、私達の聖都シュルプへの来訪を歓迎してくれているかのような、そんな鐘の音に私達は耳を傾けながら、シュルプの街の入り口へと踵を返したのである。




