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103話 謁見


 私達に続き、ルカやナーシェ達も無事にタルキス王への挨拶を済ませる。一目厳格そうな老人に見えたタルキスの王、リチャードだったが、いざ話してみると物腰は柔らかく、優しいお爺ちゃんといった印象を抱いた。そうは言っても、タルキスの王から放たれる風格や威圧感、それに、私達のような初めて会う者にも丁寧に接してくれるその様は、まさに為政者としてこれ以上無い、稀代の名君であると言う事は私にもすぐにわかった。


「して王よ…… 状況は?」


そして挨拶も早々に、ミズチが口火を切る。私達もミズチがどうしてタルキスに派遣されたのかは知らされていない。ただ、ミズチの神妙な面持ちや、ピリついて少し重い空気から、なにか深刻な事態が起こっていると言うことだけはわかった。


「ふむ…… ついにエルナス帝国が動きそうじゃ。対応を間違えれば、間違いなく平和なアーストリアに戦火が襲うことになるだろう」


 エルナス帝国…… 初めて聞いた名前だが、まあ会話の流れから言うとなにやらよからぬことを企んでいる連中である事は間違いなさそうである。初めてブレイヴと共にシャウン王宮に向かったとき時、彼が口にしていた『きな臭い世の中』という言葉。いざそう言う事実を直接耳にすると、事態もますます深刻な状況に思えてくる。


「やはりそうですか。すでに我が国も挙兵の準備は整えてあります」


 王の間にはリチャード王とミズチの声だけが響き渡っており、他の誰もが声を上げるようなことはなかった。私とて聞きたいことは沢山あったが、流石に王の面前ともなれば、そう気軽に仲間達と会話も出来ない。今はただ2人の会話の行く末を黙ったまま見届けることしか出来ないのだ。


「ねえ、イーナ様…… なんか怖いね……」


 小さく言葉を漏らしたルカ。それと同時に、ちらっとリチャードが私達の方を見たのがわかった。先ほどまで真剣な表情をしていたリチャードはルカの言葉が聞こえたのだろうか、一気に最初に挨拶をしたときの優しい表情へと戻る。


「……ミズチよ、話はまた次の機会にしよう。せっかく今日は可愛らしいお客様が沢山来られたのだ。せめて今日くらいは盛大に盛り上がるとしよう!」


「おおっーー!」


 王の言葉に、王の間を包んでいた深刻な空気も一気に取り払われ、兵士達も明るい表情へと代わる。喧噪が王の間を包み込み、宴の準備をせんと動き出した兵士達。戸惑いつつもその光景をただ呆然と眺めていた私達をリチャード王が呼ぶ。


「主らは、すぐにアレナ聖教国に向けて出発するつもりかも知れないが…… せめて、今宵はタルキスを楽しんで行ってくれ」


「そんな申し訳ないこと……」


「ありがとうございます! リチャード王様!」


 挨拶に来ただけなのに、もてなしなんて…… と、私が恐縮の言葉を口にしようとしたのと同時に、ルカが明るい表情でリチャードに向けて頭をぺこりと下げる。王の面前であるにも関わらず無邪気に振る舞うルカの様子に、思わず、私もルカの名前を口にしてしまう。


「ルカ……!」


 だが、リチャードはそんなルカの様子を、まるで孫を優しく見守るお爺ちゃんの様に微笑ましく見ていた。そして、まだ緊張が残っていた私の肩をぽんと叩き、一言。


「いい。そんな畏まることはない。今宵は宴じゃ!」


 それから、宴の準備が整うまではそう時間もかからなかった。流石に肉の名産地であるタルキスと言うだけあり、王の間に並べられたテーブルの上にはすぐにかぶりつきたくなるような、豪勢な肉料理が所狭しと並べられていた。それを囲む兵士達はみな、一様に笑顔を浮かべており、賑わいが王の間を包み込んでいた。


 だが、タルキスの王が動き出した途端に、賑わいを見せていた王の間も一気に静まり、一転して沈黙が包み込む。グラスを手にした王はコホンと小さく咳払いを1回。そして、沈黙を破る。


「諸君、本日はシャウン王国より客人が来られた! これから我らの同士として、共に戦うことになる戦友となろう! そしてこれからの両国の関係が永遠に良好なものであることを心より願う。それではみなの者、ひとときの宴を全力で楽しもうぞ!」


「おお!!!!!」


 再び一気に賑わいを取り戻した王の間。酒を手に騒ぐ者、豪勢な料理にかぶりつく者、今宵だけは無礼講と言わんばかりに、みなが宴を楽しんでいた。ルカやテオは特に兵士達に人気で、もうすでにすっかり打ち解けているような様子だ。アマツやナーシェと共にタルキスの料理を楽しんでいた私の下に、タルキスの王リチャードが柔らかな表情を浮かべながら近づいてきた。


「イーナ、ナーシェ、アマツよ。タルキスの宴はどうだ?」


「とっても楽しいです! それに料理も美味しいですし…… 本当にありがとうございます!」


「そうだろう! そうだろう!」


 上機嫌に声を上げるリチャード王。酒も少し回っているのだろうか、少しリチャード王の頬は赤みがかっていた。そのまま陽気に言葉を続けたリチャード。


「して、主らよ。アレナ聖教国にこれから向かうのだろう?」


「はい、明日にでも出発するつもりです」


「巫人たる主らの力があれば問題は無いと思うが…… 気をつけるのだぞ。アレナ聖教国については、交流もないため儂らも詳しくは知らないが、悪い噂だけは良く聞くのでな……」


「悪い噂?」


「貧富の差…… それに犯罪…… 弾圧…… アレナ聖教会が全てを支配し、奴らに刃向かう者には死が与えられる。シャウンやタルキスで通じるような常識はあそこでは通じない」


「……」


 話を聞けば聞くほどに、アレナ聖教国に対するネガティブなイメージが増幅されていく。一体どんな無法地帯なのだろうか。ここまで言われると、一周まわって興味が湧いてくる。


「まあ、そんなに恐れることはない。いかに厳しい道でも諦めなければ必ず未来は開ける。決して折れるでないぞ……!」

 

 そう強く言い切ったリチャード。誇り高きリチャードの振るまいはまさに勇敢な兵士達が集うタルキスを象徴していた。不安がなかったと言えば嘘になる。だが今は、リチャードの言葉を聞いた今なら、たとえ何がおこったとしても大丈夫な気がする。


「ありがとうございます! リチャード王! 私達は私達のするべきことを全うして参ります!」


「うむ! よい心がけだ!」


 それからもしばらく宴は続いた。夜遅くなっても、兵士達は飲み続け、騒ぎ続け、そして気が付けば楽しい夜はあっという間に過ぎ去っていた。


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FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。 ツギクルバナー
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