102話 タルキスの王
トゥサコンに滞在すること二日。無事に嵐も過ぎ去り、私達は再びタルキスへと進路を進めた。そして……
「タルキスーー!」
眼下に広がるタルキスの王都。フリスディカに勝るとも劣らない大都会タルキスの街並みに、ルカが興奮の声を上げる。
フリスディカの都市とは全く異なる雰囲気を醸し出す、どこか異国情緒の溢れるタルキスの街並み。畜産が主な産業であるタルキスは、シャウンに比べて乾燥した気候のようで、建物や街ゆく人々の服装というのも、それに適応した結果なのだろう。
人々の活気が溢れる大通りをミズチの案内でひた歩く。もちろん私達が向かっていたのはタルキスの王宮。本当はもっとゆっくりタルキスの街を楽しみたかったと言うのが本音ではあるが、今回私達がタルキスへと寄ったのは、観光のためではない。あくまで私達の目的地はさらに先、アレナ聖教国であり、王様への挨拶を済ませて私達は先に進まなければならないのだ。ただでさえ嵐によって足止めを食らってしまったのだから、これ以上のんびりと過ごしているというわけにも行かない。
そして、大通りを歩くことしばらく、私達の目の前、大通りの終着点に、立派な建物が姿を現した。豪華絢爛さ、そして荘厳さ、一目見て大国タルキスの王の住まう宮殿であると言うことは明白だ。
「アレがタルキスの王宮!?」
道中も初めて見るタルキスの街並みに感動を隠しきれない様子のルカは、ひとたび宮殿を視界に捉えると、なお一層興奮を抑えられないようだった。もちろん私だってそれは例外ではない。シャウンの王宮もさぞ見事な宮殿であったが、タルキスの宮殿はそれと同じくらい、いや豪華さという点ではシャウンを超えているだろう。
そして、宮殿と言うだけあって、門の前には大勢の兵士達が街ゆく人々を厳しく見張っている。やけにぴりぴりとしているようで、まさしく厳戒態勢といった言葉がふさわしいような、そんなどこか物々しい雰囲気だ。
「おい、そこの者ども、宮殿に一体何の用だ!」
王宮へと近づく私達に気付いたのか、数人の兵士達が私達の下へと駆け寄ってくる。冷静に考えれば、私達の格好は、街ゆく人々の格好とは全く異なり、言ってしまえば王宮へと近づいてくる怪しい人達であると言うことは言うまでもない。これだけ兵士の中に緊張感が走っているのならば、私達に対し不審人物という第一印象を思い浮かべたとしても全く不思議ではない。
つい、ビクッと反応してしまった私やルカ。だが、ミズチは全く動じる様子もなく、兵士に対し近づいていった。そして、懐から丸まった分厚い紙を取りだし、兵士達に対して掲げる。
「シャウン王からの書状を預かってきた。お通し願いたい」
「……っこれは…… 失礼しました! どうぞこちらへ! 王も待ちわびておりました!」
書状を見るやいなや、一気に畏まった様子へと変貌した兵士達。兵士達の案内で、私達はそのまま分厚い門をくぐり、王宮の内部へと足を踏み入れたのだ。
「すごーい!」
王宮の内部も、外見に劣らず豪華絢爛といった言葉以外にふさわしい言葉が見つからないような、そんな構造であった。天井は遙か頭上、おそらく10mほどはあるだろう、そしてきめ細やかな彫刻が細部まで施されており、タルキス王国の発展ぶりを象徴しているようなそんな豪華さであった。
そして、案内役の兵士が壁を指さしながら誇らしげに私達に説明する。
「壁に掛かる真紅のタペストリー。あれは勇敢なタルキスの兵士達を現しているものなのです!」
タペストリーには猛るライオンのような荒々しい動物が描かれており、おそらくこれもタルキスの兵士達の勇敢さの象徴であるのだろう。噂に聞いていたが、流石軍事の力でここまでのし上がった大国と言うだけあり、そこらにそれを象徴するようなモノが垣間見える。
そのまま真紅のカーペットの敷かれた廊下をひた進んだ私達。廊下の最奥にあった部屋の扉を案内役の兵士が静かに開ける。少しずつ開いていく扉の奥には、兵士達が列をなしており、その先にはこれまた装飾の施された豪華な玉座が見える。そこに座る1人の厳つい老人。間違いなく、あのお方がこの国の王であろう。
「よくぞ参ったミズチよ! タルキス国民を代表してまずは御礼申し上げる!」
扉が開き、完全に視界が開けると同時に、王の間に厳かな低い声が響く。声の主は他ならぬタルキスの王。厳格そうな見た目からも容易に想像できるようなどこか威圧感のあるそんな声である。
「リチャード様。お久しぶりでございます」
すぐに深々と頭を下げるミズチ。ミズチに続いて慌てて私達も頭を下げ、そのままミズチの後をついてタルキス王へと近づいていった。
「おお、初めて見るものも沢山おるが……」
タルキスの王と目が合う。こちらをじろじろと見つめるタルキス王の視線がどことなく痛い。何せ、まだ私はこういう場には全く慣れていない。挙動不審にならないように、失礼の無いようにと意識するだけで手一杯なのだ。おそらくはヴェネーフィクスのメンバー達もそうなのだろう。みな、緊張からか、どこか動きも固く、ナーシェに至っては同じ方の手と足が同時に出ている変な歩き方をしていた。
「新たに私達の仲間となった者達です。九尾の巫人イーナ。それに大神の巫人ルート。そして彼らの仲間達。あとは、ミドウの娘であるアマツ。この度彼らは、アレナ聖教国に向かう任を任せられ、その道中王へと挨拶に参った次第になります」
すっかり緊張に支配された私達に変わって王へと言葉を返すミズチ。ミズチは相違家終えた直後、私とルートに視線を送って挨拶を促してきた。そのままミズチの言葉に続いて、促されるままに私も自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。新たに使徒として拝命をされました九尾の巫人イーナと申します」
「同じく、大神の巫人ルートと申します」
「おお、そなたらが使徒の…… 噂には聞いていたが…… シャウン王とは長い付き合いになるのでな。これからもそなたらの世話になることも多々あるだろう。私はこのタルキスの王、リチャードと申す。これから何卒よろしくお願い申し上げる」




