101話 私達は友達
「はあぁぁぁぁ~~~」
思いっきり脚を伸ばしながら湯に浸かる。身体にたまっていた疲れが一気に抜けていく。少し濁った湯からは湯気と、わずかな硫黄の匂いが立ち上がっており、それがまた修行を終えて疲労のたまった身体に効くのだ。
「最高……」
あまりの心地よさに思わず声が漏れ出てしまう。本当に温泉というものは偉大である。
「ルカもう動ける気がしない……」
アマツとの修行が相当身体に堪えたのか、いつもは元気いっぱいであるルカも、今日は口数も少ない。顔だけを水面から覗かせ、ただただ海に漂うクラゲのように温泉に身を預けていた。
一方で上機嫌だったのはアマツ。相変わらずつかみ所の無い様子は変わらないが、どことなくいつもに増してアマツのテンションも高い気がする。きらきらと目を輝かせながら、ナーシェと共に温泉を満喫している。すっかりリラックスした身体を起こし、私はアマツへと声をかけた。
「なんかアマツ、すごい楽しそうだね!」
「そうかな~~ そうかもね~~」
やっぱり、いつもよりテンションが高い。台詞こそいつもと変わらない様子であったアマツであったが、言葉の端々から隠しきれない高揚がにじみ出ている。まあそれは私だってそうだし、ルカやナーシェもなんだかんだ言って楽しそうだし、やっぱりこういうイベントというのは自然とテンションが上がるものだ。仕方無い。
「アマツちゃんって、普段はどんなことをしているんですか?」
「ん~~、まあお父様からの言葉で動くことが多いかな~~? ほとんど雑用みたいなもんだけど~~」
「大変だね。アマツも……」
「まあもう慣れたよ~~ それにこういう生まれだから仕方無いしね~~」
言ってしまえば、シャウン国王の側近として日々各地を駆け回っているミドウ。私には想像も出来ないほど多忙な毎日を過ごしていることは間違いないだろう。それにしても、まだ若いというのに、割り切ってミドウのために働いているアマツはすごい。本当ならば、おしゃれして友達と遊びに行ったりしたくなる年頃であろうにもかかわらず、既にミドウの娘としての自覚があるというか、むしろ何か縛られてしまっているというか…… 私だったら、不満の一つでも言いたくなってしまうかも知れない。
「ミドウさんのこと、本当に尊敬しているんだね!」
「どうだろう~~? ああ見えて結構抜けてるところがあるというか~~ 時々心配にはなるよ~~」
皮肉交じりに笑うアマツ。だが、それでもミドウのことが大好きだというアマツの気持ちは十分に伝わってくる。そして、先ほどまで完全に湯に浸かっていたルカも、泳ぐように私達の下へと近づいてきて、会話へと混ざってくる。
「ルカもね! イーナ様のこと本当に大好きだから、アマツと一緒だね!」
なんだかこちらまで恥ずかしくなってくる。いや、何よりも嬉しい言葉であるのは間違いないが、いざ目の前でそんな真っ直ぐに言われてしまうと、なんと返して良いものか全くわからない。そして、そんな私の様子が可笑しかったのか、私を茶化すように、アマツも言葉を続ける。
「ね~~ 私もイーナの事大好きだよ~~ 私達仲間だね~~」
………………………………………
結局それからも、ルカによるべた褒めと、アマツによる冷やかしが続き、長い長い入浴タイムは終わった。まあ気持ちは嬉しかったが疲れたことは言うまでもない。部屋に戻った私達はすぐさま布団へと転がり込んだのだ。
気が付けば、ルカもナーシェも旅の疲れがあったのか、すぐに眠ってしまったようだ。真っ暗な部屋の中、ごそごそという音と共に、アマツが私に向かって声をかけてくる。
「ねえイーナ~~ もう寝た~~?」
温泉に浸かり、どっと疲れが出てきて眠かった私は、おぼろげな意識の中、なんとかアマツに言葉を返した。
「……もう寝そうだよ……」
「さっきの話なんだけどさ~~ アレはホントだからね~~ 前にも言ったでしょ、私とイーナはソウルフレンドだって~~」
「うん…… 私もアマツのこと大好きだよ」
再び沈黙が部屋を包み込む。眠いことは眠いが、何となく気まずいという思いからか、なかなか寝付けない。寝付けないのはアマツも同じだったようで、こちらの様子を伺うように、アマツが再び声をかけてきた。
「……実はさ、私こんな風に友達と楽しく過ごすような経験をあんまりしたことなかったんだ~~ だから、すごく楽しくて~~」
考えてみれば、アマツが今日異様にテンションが高かったのは、温泉がどうこうと言うよりも、ルカやナーシェと言った仲間達とこんな風にわいわいと過ごせると言う事の方が大きな要因だったのだろう。今までミドウの右腕として、各地を回ってきたアマツ。同じくらいの歳の友達が出来なかったとしても何ら不思議ではない。
そして、再び訪れた沈黙の後に、アマツが小さな声を上げる。
「ごめんね…… なんか私ばっかり盛り上がっちゃってるみたいで~~ お休みイーナ~~」
布団を被り、眠りに入ろうとするアマツ。そんなアマツに私は一言声をかけた。
「……大丈夫だよ。だって、もう私達は友達だからね」
それから、もう言葉は返ってこなかった。ただもぞもぞと布団が動く音だけが、部屋の中にこだましていたのだ。




