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幽体離脱-夢の世界を旅する二人-  作者: 砂風(すなかぜ)
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Episode14/幻想

 空を飛びに飛び、やがて高層ビルの屋上に僕と瑠奈は到達した。

 瑠奈は、僕に対してあいつは誰なのか、何者なのかと疑問をぶつける。読心術がつかえるはずなのに、わかっているはずなのに……わざと自分の口から言わせたいのだろう。


「あれは……死にたがりの僕自身だ」


 幼い頃から暗い日常を過ごし、友人はもちろん誰もできなかった。


「勉強もダメ、運動ダメ、交遊関係もダメのダメダメだった。勿論大学には行けず底辺高校に行き、無論大学には行けず、高校卒業後、工場で働きはじめた」

「ならよかったじゃない」


「ダメに決まってるだろ! ……働きには出たものの、三ヶ月でやめたのさ。すぐに退職して、そこから永遠とニート生活。部屋に引きこもり、稀に出るときは飯を買うときくらい。暗い暗い部屋のなか、両親からも強いたげられ……きっと、失敗作だと思われてるさ」毎日世界が滅ぶのを祈っていた。「きっとあいつは、そんな僕の抽象風景が形となって現れた者」

「……じゃあさ、わたしと暮らすのもつまらなかったって言いたいの!?」


 瑠奈は怒りと不安の入り交じっていた表情で問いかける。


「そうじゃない……」タルパーー瑠奈と暮らしていた生活は、瑠奈と幽体離脱で遊んだり訓練していた事柄は……。「僕が死なずに生きつづけることができた唯一の希望だったんだ」

「じゃあ」


 瑠奈はこちらを見据える。


「せっかく毎日が楽しくなってきたのに、奪われてたまるものか!」


 しかし瑠奈は問う。


「このままでいいの?」


 ……と。


「いくら幽体離脱が楽しくたって、砂風が生きているのは物質界(現実)の世界。現実でも人並みの生活を送るべきだと今さらながらに思う」

「そんなの無理だ……無理に決まってるだろ……」


 僕は本心を奥隠して、そう言い捨てた。




 あいつが来そうにない場所を二人で相談する。あいつはたしかに空は飛べないが、あの旅館まで高速で辿り着いた。ならば、いずれ空を飛ぶことも可能になるかもしれない。


「いっそのこと、宇宙に行かない?」

「宇宙? 呼吸できるの?」

「幽界なんだから大丈夫でしょ」


 そこで考え付いたのが、宇宙に行くこと。


「じゃあ……宇宙にいこうか」

「ん、おっけぃ」


 二人は頷き、更なる空へ空へと飛翔する。

 途中で瑠奈にお姫様抱っこで助けてもらったりしながら空へと上がる。

 ……相変わらずこの格好は恥ずかしいな……。


「あれ?」


 しかし、ある一定の上空で瑠奈は頭をぶつけたかのように止まった。


「どうしたの?」

「ちょっと触ってみて?」


 なんと、ある一定のラインまで飛ぶと、謎の透明な壁が僕たちを阻んでいた。叩いてみてもぶつかり、それより上空に行けなくなってしまう。

 なんとかならないか考えてみる。


「ちょうどいいじゃん。壁抜けを試してみようよ」

「壁抜け……?」


 壁に向かって通り抜けようとするも、無論失敗。


「まあ、いきなりは無理だよね」


 瑠奈はコツを伝授する。

 自分の体が透明になり、すり抜けられて当然だ! という思考を抱きながら、壁に『ぶつかる』のではなく、『壁をないもの』だとイメージしながら通り抜けろと言うことらしい。

 瑠奈はそのように言う。

 そんな上手く行くかぁ……?

 と、言われてみたとおりにしてみると、見事に少しずつ体が通過していった。


 しかし、上半身が抜けたところで違和感を覚える。

 空の壁を通過しているはずなのに、壁抜けした両の手は空気ではなく芝生をおさえている。

 そのまま抜け出すと、そこにはあり得ない景色が広がっていた。

 遅れて瑠奈もやってくる。瑠奈も呆然としている。なんだ、これは……と。 

 そこには、緑一面の草原と、そのさきには銀色の海が広がっている。真っ白で美しい大きなお城が、海の離れ小島に建っている。


 そんな幻想的な光景が、僕たちの眼前には広がっていた。


「な、なにこれ……?」

「僕たち、宇宙を目指していたはずだよね」


 明らかに宇宙ではない。幻想のような姿をした広大な大地。草木が踊り、銀の海は波立ち、現実に酷似していながら微妙に異なる潮風が頬を撫でる。


「き、綺麗……」


 自然と呟く瑠奈に、僕も自然と同意した。

 幽体離脱には、こんな生活も広がっているのか……。

 宇宙に行くという目的は果たせなかったが、この幻想の空間を目にして感極まってしまい、僕の頬に自然と涙が伝う。危ない危ないと、慌てて涙を拭う。

 瑠奈も相変わらずその光景を眺め見惚れている。


「ま、まあ、とにかくあいつをなんとかしないと、砂風が現実に戻れないどころか、こんな綺麗な世界まで崩壊しちゃうよ?」


 と、瑠奈に唆され、しばらく美しい世界の真ん中で、二人で対策を練ることにした。

 戦闘では、圧倒的な差で以て敵わないのを思い知らされた。

 瑠奈でさえ動きを止めるのでいっぱいいっぱいだ。

 どうすれば相手に敵うのか、それがわからない。


 二人して風が吹き草原が踊る地に腰を降ろし二人で相談をつづける。

 思考する。

 考える。

 考察する。

 しかし、なにをしても良い案は思い浮かばない。


「あいつを知ればなにか対策が沸き上がるかもしれない」


 でも、どうやって?

 あいつは、ある意味もうひとりの自分だ。なのに、いかれた強さを誇っている。なぜ強い?

 ……そうだ。

 僕が現実に絶望し、死にたいという欲が強まれば強まるほど、それは奴のエネルギーになるのではないのだろうか?


「それはわたしも考えてみた。つまり、砂風が現実と幽界で死にたくない気持ちを強めれば勝てるのかもしれない」


 幽界はともかく、現実では死にたい死にたいとしか思っていなかった。いっそ世界が滅びればいいとすら思っていた。

 なのに……。

 死にたい僕を倒すのには、死にたくない僕が挑めばいい。それだけだ。

 なら、なぜ? 先程は歯が立たなかったのか?

 答えは簡単だ。少しでも残っていたのだ。現実世界で死にたいという、僕の残留思念が……。


 でも、それをどうやって改善すればいいのだろうか?

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