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幽体離脱-夢の世界を旅する二人-  作者: 砂風(すなかぜ)
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Episode13/化身

 旅館の中でハッと思い出す。

 あの日、今の今まで長くつづいている離脱のまえになにをしていたのかを……。


 それは、幽体離脱ができるという怪しい脱法ドラッグを利用したこと。それは瑠奈にも説明した。だが、もしかして、脱法ドラッグで昏睡状態になったのではなくて、脱法ドラッグで二度目に目覚めたとき、離脱したと勘違いした気がしてならない。幽体離脱は独特な感覚がある。それを脱法ドラッグの作用を勘違いして幽体離脱に成功したと勘違いしていたのではないか?

 たしか、あのとき瑠奈はいなかった。普段なら瑠奈は離脱後すぐ側にいたはずなのに、あのときはいなかった。


『わたしは砂風が離脱に成功したときに現れたよ?』


 瑠奈の言葉が頭をよぎる。

 もしかしたら、もしかしたら……。


「あのさ……瑠奈。脱法ドラッグで幽体離脱したと勘違いして、瑠奈がいないのを気にせず現実で飛び降りたのかもしれない」


 と、瑠奈にそれを説明する。

 瑠奈は激怒しながらも、あり得ない話じゃないかもしれないという。

 もしも、あの薬で感覚がおかしくなり、幽体離脱したと勘違いして空中飛行を試み落下したとなれば……下手したら死んでいる。

 いや……でも、まだこの世界は崩壊を始めていない。


「だから現実の砂風は生きているはずだと思うけど……」


 なら、どうして僕は目を覚まさないんだろう?

 それとも、目を覚ませないなにかほかの理由があるのだろうか?

 重症で寝たきりだったりして……。



 と、いきなり旅館の室内のなかに、仲居さんを突き飛ばしながら包帯男が現れた。


「認めろ!」

「死ね!」

「瑠奈と共に生を終えろ!」

「おまえが消えればすべては解決する」

「おまえがいつも望んでいたことだろう?」

「瑠奈が消えずともおまえが完膚なきまでに滅べば事は済む、瑠奈も消滅するだろう?」

「さあ、早く!!」


 と、口早に包帯男は支離滅裂な発言をつづける。


「現実で生きるのが辛いのだろう?」包帯男は言う。


 たしかに、現実で生きるのは辛い。


「だったら、実行すればいい。死にたいと日々願っていたおまえにはピッタリだ。そうだろう?」


 それを聞いて、僕は直感で理解した。


 こいつは、もうひとりの僕だ。


 こいつは、死にたいと願う僕のもうひとりの僕自身だ。


 表に出るはずのないもうひとつの人格、いわば(シャドウ)だ……と。


 僕は包帯男ーーいや、シャドウに反撃しようとするため砂を想起し創造し、シャドウの目元にぶつける。シャドウは一瞬たじろぐが、ほとんど効いていない様子だった。砂など、なにも効かずまったく歯が立たない。

 瑠奈もその隙にナイフを創造して反撃するが、シャドウの周囲で風が炸裂し、ナイフはバラバラに霧散する。

 やがて……素早い動作で僕を掴むなり、床に叩きつけた。


 強く。


 強く。


 強く強く強く!


 何度も僕を叩きつける。

 僕を片手で持ち上げ、振り下ろし地にぶつける。

 振り上げ、振り落とす。

 持ち上げ叩き落とす。


 幾度も繰り返されるうちに意識が朦朧としてきた。

 これは夢の世界のはずなのに、痛みはないはずなのにーー痛い。

 それは肉体ではなく心の悲鳴。


「砂風! このゲス野郎!!」


 瑠奈が隙を見て全力で暴風を飛ばし、シャドウに一瞬の隙をつくる。その一瞬はほとんど効いていない。

 だが、その間に僕の体を瑠奈は引ったくり、窓ガラスを強烈に破壊し、空へ空へと飛翔した。

 瑠奈はすぐさま向きを変え、とにかく逃亡することにした。可能なかぎり遠くへ、遠くへ。

 シャドウは追おうとするが、空は飛べないらしい。

 こちらを睨んでくるだけだ。


 あいつがこない場所、あいつがこない場所!

 それを考えながら、僕は瑠奈に片手を引っ張られながら上空を目指す。

 なにか策があるのかもしれない。


 それにしても……包帯男ーーシャドウ。


 僕が現実で死にたいと願った化身がこんな幽体離脱の世界に現れるとは思わなかった。

 僕は僕だけど、あれは死を願う僕だ。

 果たして、僕に勝てることができるのだろうか。


 そして、違和感に気づいた。

 包帯男の正体に、現実に戻れない理由。


 それは、もしかしたら、あの包帯男ーーシャドウが原因なのかもしれない。


 シャドウを倒せば僕は目覚める。シャドウに負ければ僕は死に永遠にこの世界に来れない……。

 それは嫌だ。嫌だけど、現実のクズ人間である僕にはふさわしいとすら思えた。

 だが、今は瑠奈に付き添いシャドウを倒すのが先決だ。

 ネガティブな考えてを捨て、僕は瑠奈に付き合う。


 ……いつの間にかお姫様だっこされているのは、この際どうでもいいだろう。


「さあ、とにかくあいつから逃げるよ!」

「逃げるたってどこに?」

「わたしに策があるから、そこまで逃げよう!」


 いったいあいつが襲ってこない場所なんてあるんだろうか?

 だが、今は瑠奈に従うしかない。



 僕は瑠奈にお姫様だっこをされながら、上へ、上へ、遥か上空に向かって飛翔していくのであった。


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