ニートが魔術学園講師になる②
クライストスは、予想の斜め上を行く答えに、二度目のアホ面を晒し、フォーマの首を揺すっていた。
「じょ、女王陛下がわざわざ俺にぃ!?仕事を紹介ッ!?なんで!?」
「さあ?理由は知らないな。」
フォーマは肩をすくめて、困ったようにしている。
「私が頼まれたのは、君をある場所で働かせて欲しい、と、いう事だけだ。君こそ何か知っているんじゃないか?」
「思い当たる節は、何もねえよ……」
クライストスは、突然のことに、情報処理機能が完全にパンクしており、頭を抱えている。
「なるほどな…………。だから依頼人の名前を、聞いたら絶対に働かないといけないのか。」
「御明答。女王陛下の頼み事である以上、これを断れば、女王陛下の命令に逆らってるのと同義。女王陛下が許したとしても、他が許さないからね」
「ああ〜〜。働きたくない〜〜〜。」
働きたくないが、女王の頼み事である以上、断ることもできない。まさに、八方塞がりであった。
すると、クライストスは大事なことを忘れていたかのように首を傾げた。
「ん?そういえば、どこで働くか聞いてないぞ?」
そう、クライストスは、自分の就職先を聞いていなかった。
それを聞いたフォーマは、また、これから起こる事が楽しみで仕方ない、と、言った様子でニヤニヤし始めた。
「君の再就職先は………レニオデス魔術学園の講師さ」
「は、はあああああああああああああ!?」
本日、三度目のアホ面を晒ししていた。
「くくっ。君は本当に面白い反応をするね」
「じゃかましいわ、ボケ!!んなことより、俺がレニオデス魔術学園の講師だと?正気か!?」
レニオデス魔術学園は、王国の中でも、三指に入る名門校。
しかも、完全実力主義の校風から、貴族も平民も関係なく、入学できることにより、生徒の水準も、講師の水準も屈指のものだった。
そんなところに、二年間も引きこもっていた男を、講師として入れるなんて、正気の沙汰じゃなかった。
それに、それ以前の問題もあった。
「そもそも、俺たち<解放者>は、二年前の事件の一件で、政府上層部から睨まれている。そんな奴が魔術学園講師なんて、できるはず無いだろ。」
三年前。
打倒女王陛下を掲げる<革命軍>が危ない所まで戦力を保持していた。それを危惧した女王陛下は、秘密裏に腕に覚えがあり信用できるものを集め、女王直属騎士団<解放者>を作った。
<解放者>の戦果は凄まじいものだった。王城に入ったスパイの始末。武装した<革命軍>を少数で蹴散らし、<革命軍>本拠地を制圧。さらに、神殿の攻略。魔人との戦争。
表部隊だったら、表彰ものの手柄をいくつも達成していた。
だが、ある時<解放者>ナンバー2[星巫女]ヘレナ=シャーロットが謀反。
仲間の一人を殺し、試練の扉から魔獣達を解放し、近辺の村や街は壊滅。
死者は、一万人にも及んだという。
その一件から<解放者>は責任を取らされ解散。
元<解放者>のメンバーは、また謀反を起こすのではないかと政府上層部から睨まれていた。
だが、特例はいた。
この男、元<解放者>ナンバー5[大地]フォーマ=レイブルは能力の高さと、<解放者>になる前の戦争の戦果が評価され、自由に行動が許されていた。
しかし、それは特例中の特例。
ましてや、軍部の人間でも無ければ、宮廷魔術師でも無かった、元<解放者>ナンバー3[穢れ]クライストス=レイザーは、毎日、どっかしら監視の目がついており、自由に行動が許されない立場だった。
そんな男が、魔術学園の講師なんて、できるはずがなかった。
「確かに、あの事件の一件から元<解放者>は、政府上層部から目を睨まれている。でも、女王陛下が、裏で上手くやったみたいでね。条件付きで、政府上層部が認めたよ」
「条件付き?」
(あの頭が固い政府上層部が、特例を認めるだと!?どんなめんどい条件だ??)
「君の後輩で、今は、女王近衛隊副団長ネルトラ=シャルルちゃんを、お目付け役に、つけるなら魔術学園講師を、やってもいいらしい。」
「なっ、ネルトラを、お目付け役につけるだぁ〜!?」
「ああ、そうだとも。」
(なんでネルトラがお目付け役??…………女王近衛隊副団長って、どういうことだ………??)
クライストスは、どんな、めんどくさい条件が、来るんだ、と、予測していたが、どれにも、かすらないで、頭の中は混乱を極めていた。
フォーマは、混乱しているクライストスを、知ってか知らずか話し始めた。
「君が、引きこもっている間。ネルトラちゃんは、圧倒的スピードで戦果を挙げ、今は、女性初の、女王近衛隊副団長だ。……子供の時から、知ってる身としては、私も鼻が高いよ。」
「……そうか。ネルトラが……近衛隊副団長……」
ネルトラは、クライストスが魔術学園生徒だった時の、後輩だった。武術の才能は、ピカイチだったが、魔術の才能は乏しく、よく、クライストスと一緒に勉強していた。
(俺が、引きこもっている間に、そんなに出世してたのか………)
クライストスが、感慨深いものだなと、考えていると、頭の中に疑問が浮かんだ。
「……いや、まて。なんで、ネルトラが、お目付け役になったんだ??」
「それはね」
「そんなの、先輩が、心配だからです!!」
突如、扉の方から女の声が、聞こえた。
振り向くと、扉の方に軍服をまとって、仁王立ちをした、女性がいた。
身長は、女性の中では、珍しく大柄だが、別にごつい訳でもなく、逆に細い訳でもない、モデル体型で、桜色のふんわりとした髪は、腰まで伸ばしていて、街中で100人とすれ違えば、100人は振り返るような美女だった。
「ネッ、ネルトラ!?」