ニートが魔術学園講師になる①
あの事件から二年後………。
王城から少し離れた所に、廃屋当然の屋敷があった。
屋敷自体は、大きく立派であったが、屋敷の壁には蔦が伸びて張り付いており、昔は綺麗であっただろう玄関までの少しの庭も雑草が伸びきっていた。
その廃屋当然の屋敷に向かって、ローブをまとった一人の男が歩いている。
男の容姿はとても整っていて、腰まである真っ白い髪を後ろでまとめていた。
男は、玄関までたどり着き、扉に手をかけると、扉はギィィと錆びた音を出しながら開いた。玄関の鍵はかかって無かったらしい。
男はそのまま玄関から入り、勝手を知っているかのように、屋敷内を歩き始めた。
突如、男はある部屋の前で立ち止まり──
「ごきげんよう、クライストス君。元気にしてるかな?」
バァンッと、力任せに扉を開け、意気揚々(いきようよう)と部屋に入っていた。
部屋はまとりから見て、リビングのようだ。
そのリビングの真ん中に、ソファーの上で毛布にくるまって、寝ている男がいる。
その男が、この屋敷の主人、クライストス=レイザーだった。
クライストスは、突然の男の訪問にも驚かず、なんなら、目すらも開けず、寝返りをうって背を向けた。
それを見た男は、困ったなと言うように肩をすくめる。
「やれやれ。クライストス君、一応、私は客だよ。茶を出せとは言わないが、せめて起きてもいいんじゃないかな?」
「……………ねみぃ」
クライストスは、背を向けたまま、不機嫌そうに答えた。
「おや?おかしいな。君は、そう言い二年間も、食っちゃ寝、食っちゃ寝してるじゃないか。もうそろそろ、働いてもいいんじゃないかな?」
「…………」
男の言葉に、クライストスは毛布を頭まで被り、明確なる拒否を示した。
拒否された男は、ため息をついたのも一時。
突如、これから起こる事が楽しみで仕方ない、と、言った様子でニヤニヤし始めた。
「仕方ない…………。な!ら!ば!君が飛び起き、思わずあほ面で、僕の胸ぐらを掴んでしまうような話しをしようじゃないか!!!」
男は、意地悪い笑顔と共に──
「なんと………。君の生活援助金を、出してたレディス卿が、もう君の生活援助金を出さないらしい!!」
爆弾発言をした。
「な、な、な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
クライストスは、先程、男が言ったように、亜音速で飛び起き、寝起きのあほ面で、男の胸ぐらを掴んで揺すっていた。
「おいッ、フォーマ!どういうことだよッ!!なんで!?急に!?生活援助金を出さなくなったんだよ??」
フォーマと呼ばれた男は、クライストスに胸ぐらを掴んで揺すられながら、笑っていた。
「あはは。だって、君、もう大人じゃないか。」
「ぐっ……!」
「それに………」
突如、フォーマは笑顔を辞め、真剣な顔をした。
「確かに、二年前のあの事件……。君の精神的苦痛は、想像を超えるものだっただろう。だから、私達は、君の事をそっとしておいたんだ。…………なにもしないで、ただ嘆く。そうすれば、気が幾分か安らぐからね。ただね…………。」
フォーマは少しの間、目を閉じ。
そして……。
「二年間は長かったのさ!もう、これ以上は面倒を見切れないって、レディス卿が仰っていたよ。さあ、これからは君も働くのさ!」
笑顔と共に死刑宣告をした。
「嫌だあああああああああ。働きたくないぃぃぃぃぃぃぃ」
フォーマは、ソファーの上で落ちないように、器用に転がるクライストスを見て、笑っている。
「アハハ。だけど、どうするんだい?生活援助金が無くなった今、君はどうやって生きるつもりかな?君の事だ、どうせ貯金もして無いだろうし。明日を生きるのも辛いんじゃないかな?」
「ちくしょう……。どうすればいんだよ……」
クライストスは、転がるのを止めて、ソファーに顔をうずくまらせている。
それを見たフォーマは、仕方ないとばかりに微笑んだ。
「あーあー。もし、君が、私の指名した就職先で働くなら、給料を貰えるまでの間は、私が面倒を見よう」
「ま、マジでぇ!?」
「ああ、マジだとも。」
「助かった〜」
(ん?待てよ………)
餓死をまぬがれ、喜んだのもつかの間、クライストスは疑問に思う。
(俺にメリットが多すぎる。しかも、条件を出してきたのはフォーマの方からだ……。)
フォーマという男は、とてつもなく腹黒く、しかも裏の読みあい、駆け引き、と、言った頭脳戦なら負け無しの男。
そんな男が、自分にメリットが、一切無いようなことをするはずが無い。
(怪しすぎる………。一体、何を企んでやがる………?)
あまりの怪しさに警戒していると、後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「ん〜。確かに、私は頼まれてここに来た。君をある場所で働かせて欲しい、と、言われてね。そして、君は、依頼人の名前を聞いたら否応でも、働かなくちゃならない。」
(フォーマに、頼み事ができる人物だと?)
フォーマは、ハンバルト王国宮廷魔術師長をやっていて、魔術に関しては右に出るものは、誰もいなかった。
そんな男に、ニートの仕事紹介を、頼める人間なんて上層部の限られたものだけだ。
(そんな人間が俺に仕事の紹介をするなんて、絶対ろくでもない事がある。)
「依頼人の名前は………フェリス女王陛下だ。」
「は……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」