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作戦2:不貞行為(3)

 黄色、白、緑、桃色、紫、赤。


 次々と変わるのは、ある男の隣で揺れるドレスの色。

 ふらふらと知り合いに話しかけながら歩いている。何人かとは顔を近づけ秘め事を囁き、親密な雰囲気だ。


 彼はリクセス伯爵家の嫡男、ケネス・リクセス。

 デビューしたての初心な娘から妖艶な未亡人まで、来るもの拒まず去る者追わず。社交界では知らぬ者のいない遊び人だ。

 既婚者に手を出して賠償金を支払ったのも、一度や二度ではない。


 エドウィンに関する調書を受け、私はターゲットを変更する事にした。フライングさんは一人だけだったので、他の視点で相手を探し、目をつけたのが彼だ。


 次の結婚相手とまでは望まない。たった一度相手してくれれば良い。それを発覚させたら、私の目的は達成だ。


 サミュエルの方を見やる。もう大分遠くへ行った。

 夜会において最低一回は私から離れる。どうやら、宰相の娘には聞かせたくない話があるようだ。


 さり気なくケネスへ近づき、女性と離れた隙を見て話しかける。


「ごきげんよう。リクセス伯爵のご子息、ケネス様とお見受けします」

「これはエレノア妃殿下。お目にかかれて光栄です」


 お互い、表面的な笑顔を向け合う。

 初対面だ。彼と話す女性は貞操観念が疑われるので、避けていた。


「実は……折り入って相談したい事があるのです。二人きりでお話させていただけますか」

「私でお役に立てる事なら、喜んで」


 流れるような動作で手を取られ、ダンスホールへエスコートされる。

 戸惑ってしまう。二人きりで話したいと言えば、テラスかバルコニーへ行くのが定番だ。


「あの……出来れば落ち着いた所の方が……」

「殿下と二人きりで話すならば、ここしかありません」


 リードされワルツを踊る。さすが上手い。安心して身を任せられた。

 彼は踊りたい気分だったのだろうか。


 サミュエルが戻る前に話を進めたい。このまま本題を切り出してしまおう。


「私が何をお願いしたいか、もうお判りなのでしょう?」

「……そうですね。話しかけてくる女性の目的は、大体同じです」


 思った通りだ。話が早い。

 身体を寄せる。今日は胸元や肩の露出が多いドレスを選んだ。


「ほんのひと時で良いのです。どうか、受け入れてください」


 首を傾け、切なげな瞳で見上げる。

 どうか乗ってください。賠償金なら上乗せしてお返しします。


 ケネスは変わらない微笑みを浮かべていた。


「何も知らないのですね」



 …………え?


「貴女は、触れてはならない花なのです」


 くるりと回される。けれど何故か途中で手を離され、倒れてしまう……と思ったら受け止められた。


「その願いを叶える者がいれば、ただの愚か者だ」

「…………何を仰ってるのか」

「私の口からこれ以上は。どこに逆鱗があるか分かりませんから」


 逆鱗?ますます何の話だ。


「私では、ケネス様のお相手に不足でしょうか」

「いいえ。むしろ手に負えないのです」


 来た時と同じように、自然な動作でダンスホールの外へエスコートされる。


「お力になれず、申し訳ありません」


 言い残し、引き止める間も無くするりと人混みに消えてしまった。

 ぽつんと取り残される。


 ……あっさり断られてしまった。


 変な言い回しだったけれど、まともな男は私の相手をしないと言っていた。


 自分の顔を手で確かめ、身体を見下ろす。

 思っていたより、女性としての魅力に欠けるのだろうか。もしくは、髪が想像以上に足を引っ張っているか。


 付き合いの長い近衛騎士の手を引いた。


「ねぇ、これくらい髪が短いと、男性から女性として見られないものかしら」

「……サミュエル殿下をご覧になっていれば、分かるのでは?」

「彼はどんな妻でも女性扱いするだろうから、参考にならない。貴方はどう?私を女として見られる?」

「自分の身が可愛いので、その問いにはお答え出来ません」


 つまり、見られないという事か。

 大誤算だ。これでは不貞行為で離婚なんて出来ない。


 いや、一人だけ…………


「エレノア様」


 彼ならまだ望める。


 思い浮かべていた人物に声をかけられ、振り向く。前に願った通りの笑顔だ。

 けれど、どこか……いつもと雰囲気が違う。私の見る目が変わったからだろうか。


「ごきげんよう、エドウィン様」

「またお会いできて嬉しいです。毎日、貴女を想っておりました」


 鳥肌が立つ。お世辞に聞こえていた言葉も、今は本気だと分かった。

 手を差し出される。


「僕とも踊っていただけますか」


 ……彼をどう扱うべきか。

 行き過ぎた所があるのは確かだ。けれど、面と向かって話すエドウィンは、それなりに紳士的でもある。


 恋人同士なら手紙やプレゼントを送っても不思議ない。私室へ近寄ったのも、理由によっては許容できる……かも知れない。


 異常といえる部分は深い愛情と受け入れ、彼の手を取るべきか……取らざるべきか。


「……喜んで」


 微笑みながら手を取った。

 まずは離婚を成立させよう。結婚するかどうかは、彼の様子を見て決める。



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