4話
アーケードにある喫茶店、四人の女の子が話すこともなくぼんやりと過ごしていた。
彼女たちも最初から黙っていたわけではない。来たばかりの頃は年ごろの女性らしくかしましく話していたのだ。しかし、雑談からクリスマスのイベントの計画へと話が変わっていくとだんだんと口が重くなり、今では誰も話さなくなってしまった。
彼女たちは仙台ローカルの関係者なのだが、十二月二十五日、つまり今日の夜行う公開放送のクリスマスイベントを決めるためにここにきている。しかし、誰もアイディアを出さないまま二時間近く時間がたってしまっていた。
「あのー、昨年って何をやったんでしょうか?」
四人の中では最年少、現役高校生パーソナリティの朱里が沈黙に耐え切れずに声を上げた。
「えーっと、去年はねぇ。そう、商店街のスポンサーがついてくれてプレゼント企画をやったのよね」
答えたのは美鈴。彼女だけはパーソナリティではなく、グラビアアイドル麗華のマネージャーだ。
「今年はスポンサーがないから問題なんだよねー」
麗華が美鈴の言葉に同調する。
「アノ、それならクリスマスプレゼント企画はドウですカ?私たちみんなで一つずつ用意してみなさんにプレゼントしまス」
流暢ではあるがどことなく変わったイントネーションで話す金髪の外国人はクリス。
安直ではあるが、クリスの意見は限られた時間の中で実行できる案だとして、皆がそれでいいかという流れに落ち着いていたころだった。
全員に異変が訪れたのは。
すぐ近くで話す四人組に急に意識を持って行かれたのだ。
それまで、変に騒いでいる学生の集団だとしか思っていなかったのだが、なぜだか惹かれてしまう。
一度、彼らの方を向くと目を離すことができない。
朱里は熱弁をふるう、腹の出た男に。
美鈴はメガネをかけた卑屈な笑いをする男に。
麗華は身長のやけに高いやせ形の男に。
クリスは筋肉質なタンクトップの男に。
恋をしてしまったのだ。
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センパイがお手洗いに行ってしまわれると、赤城先輩と車田先輩から矢継ぎ早に先輩のお話を聞かせていただきました。
センパイは我々の所属する映画研究会一の映画通ということでサークルの中でも名の通った方でした。
映画を語らせれば右に出るものはいない。入学直後に一度お話を聞かせていただいた以来、映画についてのお話を直接聞くこともなかったために興味深く聞かせていただいていたのですが、途中で話を切ってしま
われました。
顔を真っ赤にしていたため、相当せっぱつまったものがあったのでしょうが、気づかない振りをするのが淑女というものでしょう。
赤城先輩と車田先輩のするセンパイのお話は私がサークルに所属する前のものが多く、大変興味深く聞かせていただいていたのですが、赤城先輩が突如として立ち上がると、センパイの行ったトイレの方に猛然と向かってしまわれました。
これまた、何も言わないのが淑女の務め、赤城先輩を追っていた目を車田先輩に向けると、とても難しい顔をしてこちらを見ていました。
私がどうしましたか? と問いかけようとした瞬間、四人の女性が私たちの隣の席の男性たちめがけて小走りで近寄ってきました。
私は人生で初めてナンパ、それも女性の方から行うナンパと言うものを見てしまいました。
四名の女性は同性の私から見てもとても魅力的な方達で、その魅力をもってすれば当然と言ってしまえる
ことなのかもしれませんが、すぐさまナンパを成功させ、腕を組んで店の外へと出ていきました。
その手際の良さはまさに神業。あっという間に取るものも取らずに、店の外へと言ってしまわれました。
しかし、余りにも急いで出て行ったため、四名の男性はあちらこちらに体をぶつけてしまい、私たちの机の上、そして男性たちの机の上に乗っていた計八つの紙袋が落ちてしまいました。
幸いなことにコーヒーはこぼれずに済んだのですが、そもそもどれが誰の紙袋だったのか見分けがつきません。
プレゼント交換までは中を見ないのが原則というもの、とりあえず個数だけ合わせて席に戻します。
そこにセンパイと赤城先輩が戻ってきました。
「あの、この紙袋ですね……」
「ちょっと、私たち席外すね」
赤城先輩は私の話など聞こうともせずに、自分の席においてあった紙袋を手に取ると、センパイを引っ張って外に出て行ってしまいました。
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私が赤城先輩に引っ張られて連れていかれた先はカラオケルームでした。なんでも、二人きりで話すには最適とのこと。
二人きり、本来甘酸っぱい印象を私たちに与えてくれるこの言葉だけれども、今回は気をつけなければいけないことがある。
私が現在、恋愛感情を抱いてやまないのは、赤城先輩ではない。これを決して忘れてはならない。
私たちがコの字型の対面に座ると、赤城先輩は先ほど手に取った紙袋を渡してきた。
「えっと、これは?」
「君に貰って欲しくって」
「あの、これはでも。プレゼント交換用ですよね?」
赤城先輩の渡してくる紙袋を見ると、自分が用意した映画のことが思い出された。
「それは、そうなんだけどね。でも、やっぱり君に貰って欲しくって……迷惑かな」
迷惑なわけがありますかー。
上目づかいで、頬を赤く染める赤城先輩は女帝と呼ばれて恐れられた人と同じ人物とは思えないほどかわいくて、その圧力に負けて、紙袋を受け取ってしまった。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
中を見ると変な声が出た。
うろたえて、変な声を出した私を、誰が責められるだろうか。なぜなら、中には女性ものの下着がたくさん。それは、もう。赤、黒、白に紐やら、どこを守るつもりなのかわからないものやら、透けているのやら。古今東西ありとあらゆるパンツがたくさん入っていたのだから。
「あのね、使ってみていいなって思ったのをね」
「使ってみて!!」
つまりこれは、赤城先輩の使用済み!
いったいどうやってこれが彼女の特定部分を守っていたと言うのだろうか。この紫のやつなんて、ほとんど透け透けで、防御力ゼロの装備品にすぎないんだぞ。
「うん、そうなの。ちょっと恥ずかしいかな」
ちょっとどころじゃない。
つい、気になってしまい赤城先輩のジーンズの中を想像してしまう。
あー、待つんだ。待つんだ。首を激しく振り、妄想を消し飛ばす。
思い出すんだ! 彼女に対しての高潔な意思を! そして、生まれてから今日まで守ってきた純真なる想いを!
「あのね、ぜひ君にも使って欲しいなって」
「使って!?」
あの、これを使って私にどうしろと。どうやって使えばいいんだ?
「うん。ぜひ毎日、私だと思って常に身につけて欲しいなって」
「常に!?!?」
つまり、これを穿けと?
女物の下穿きを毎日身に着ける男が好きなんですか?
赤城せんぱーい!!
私が紙袋の中を気にしていると肩を触られ、紙袋をすぐさま隠した。
「赤城先輩? ど、どうしたんですか?」
気づかぬうちに、赤城先輩はコの字型の対面から、隣へと移動し私の肩を触っていた。
「べっつにー、なんでもないよ」
なんでもない、という様子ではないのだ。にやにやしながら私を見る赤城先輩は、獲物を前にした猫のよう。縮こまった私は赤城先輩の人差し指と中指が、私の腕を上っていく様を見ていることしかできない。
「あ、そういえばー。二人を残してきてよかったんですかねー」
精一杯腹から声を出したせいで、距離感と声量があっていない。
「他の人の話はいらない。私だけを見て欲しい」
腕、肩、首そして頬を上った赤城先輩の二本の指は今では私の唇の感触を楽しむように、押しては引きを繰り返している。
「あ、あのーどうしてこんなことを」
指が頬へ移動したタイミングを狙って、私はかろうじて声を出した。
「好きだから、君のことが」
あー、だめだ。そもそも男というものは女に勝てないのだ。全面降伏を訴える、頭を前に最後の悪あがきの言葉を続けた。
「あの、いつからとか、どうしてとかは」
「そんなものはどうでもいい。今君が好き」
赤城先輩の顔が急にアップになり唇が触れる寸前に、私は昨年のゴールデンウィークのことを思い出し
た。
「と、トイレに行ってまいります」
裏返った声で宣言すると、紙袋を持って猛でトイレへと駆け込んで行った。




