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①、②も少し改稿しました。

「被告人は前へ」


 氷のように冷たい声が、ノエルを壇上へと促す。

 細い腕は後ろ手で拘束されたまま、ノエルは震える足でなんとか壇上へ進んだ。


 査問委員会で裁判官役を務めているのはジュード王子だ。

 ダリアは証人席についている。

 証人という体裁を取っているが、実質はノエルとダリアの二人が被告人扱いだ。


 傍聴席には大勢がひしめき、査問委員会への注目度が伺える。

 今さらながらにことの重大さに気がついたのか、ダリアは不安げな様子だ。


 傍聴席を見渡すと、ジュードに熱い視線を送っているセシリアの姿があった。

 自分を守ってくれた王子に対する敬愛の念でいっぱいなのが見てとれる。


 味方が誰一人としていない中で、断罪イベントがついに始まろうとしていた。

 

「ノエル・グリーグ。そなたは昨日、クレメンス伯爵令嬢であるセシリア嬢のドレスに毒針を仕込もうとした。そのことに間違いはないな?」

「…………はい」

「そなたはローレル侯爵令嬢ダリアの側使えであろう。そなたの主人は、この所業を知っているのか?」

「……あ」


 ノエルが声を上げようとしたまさにその時、証人席のダリアが立ち上がった。


「お待ちください! 今回のことは、すべてこのノエルが一人でしでかしたこと。わたくし、もとい、ローレル侯爵家には何の関係もございません!」


 ザワザワと会場がどよめく。


 昨日散々ノエルに口止めをしていったダリアだが、それでは飽きたらなかったらしい。どうやらノエルに証言自体をさせないつもりのようだった。

 しかし、ジュードはダリアの言葉を額面通りには受け取らなかった。


「今のダリア嬢の発言は誠であるか?」 

「…………」

「どうした? 返事をしないか!!」

 

 厳しい声がかけられるが、ノエルは黙ったままでいた。

 もともと喋るのが苦手なノエルである。

 話さなくてはと思っているのに、喉に何かひっかかったようになってうまくいかない。


「まあいい。他にも審議する事項があるからな」


 ジュードは吐き捨てるようにいって、さらに審議を進めていく。

 どうやらこれまでのセシリアに対する嫌がらせの数々が誰の仕業であるかをこの場で明らかにするつもりのようだった。


 ……こんなのは、ゲームのシナリオにはなかった。

 ゲームでは、ノエルがダリアのこれまでの悪事を次々と喋ってしまうのだ。

 しかし現実には何も言えないでいるノエルのせいで、シナリオに変化が生じているようだった。


「今回の件に限らず、これまでにもセシリアの周囲では不審な事故が多発している。彼女のドレスはこれまでにも狙われていて、部屋に侵入されて衣服を荒らされたり、靴をすり替えられたりといった被害が相次いでいるそうだ」

「…………」


 ノエルは沈黙を守っていた。

 確かに部屋に忍び込んだのは今回が初めてではない。

 ダリアの言いつけどおりにあちこち侵入するのはノエルの役目だった。


「まだある! 例えば先日彼女の頭上には植木鉢が落ちてきて、危うく大怪我をするところだった。これはすべてお前の仕業であるな?」


 それを聞いたノエルはギョッとした。

 それは、ノエルではない。

 ダリア嬢の方を見ても、ポカンとした顔をしている。

 もしやダリア嬢以外の別の令嬢がセシリアを狙ったのだろうか……?


「さらに! この度の毒針に仕込まれた毒は、致死性のものであった!」

「なんですって! そんなはずはありませんわ! あれは高熱が出るだけのものだったはずです!」


 ダリアが思わず叫ぶ。

 ……あ、バカ……。


 ジュードはしてやったりという顔をしている。

 きっと、カマをかけただけに違いない。


「それは、毒薬を盛ろうとしたのを認めたということですな、ダリア嬢?」

「あ……。いえ、その……」


 自ら墓穴を掘ったダリアは慌てて弁解するが、会場はさざめき立ってしまっていた。

「今の言葉、お聞きになりました……?

ええ、やはり、ダリア様がセシリア様に毒を仕込もうと……? ああ、恐ろしい……」

 

 その時だった。

 傍聴席のセシリアが立ち上がり叫んだのである。


「わたくし、植木鉢が落ちてきた時に見てしまったのですわ! 窓から顔を出すダリア様を……!」

「それは本当か、セシリア!?」

「ええ……。まさかダリア様がそんなことをするなんて信じたくなくて、これまで黙っていたのですが……。それに、これを見てください」


 セシリアが取り出したのは、ノエルが毒針を仕込もうとしたブルーのドレスであった。

 なんと、ビリビリに引き裂かれている。


「ひどい……。あれをダリア様が……?」

「セシリア様がジュード王子の寵愛を受けているのが気に入らなくて……? 何としたことでしょう……」


 会場は騒然となっていた。

 ダリアは半狂乱になって弁明する。


「わたくしはドレスを破れとまでは命じておりません! ただ薬を仕込んでおけと……」

「……メイドに命じたと?」 

「……はい」


 ダリアはがっくりと頭を垂れた。

 

「それでは、ドレスを引き裂いたのは貴女のメイドということになるな」

「そうなの、ノエル!?」


 矛先を向けられたノエルは首を振った。

 ドレスに毒針を仕込もうとした時に捕まったのだ。

 破る暇などあるわけがなかった。

 植木鉢にしたってそうだ。 

 自分の手は決して汚さないダリアが、自ら窓辺に立って植木鉢を落とすなど考えられない。

 大体、植木鉢を落とした犯人が窓からわざわざ顔を出すか……? 


 セシリアはさめざめ泣いている。

 しかし、ノエルはその涙を信じることができずにいた。

 まさか……自作自演?

 セシリアの方こそ、ダリアを陥れようと、査問委員会を利用しているのでは……?

 ジュード王子にしてもおかしい。 

 ノエルを捕まえたときに、ドレスが無事なのは確認しているはずでは……?

 

 いまや、聴衆の誰もがすべてはダリアとノエルの仕業だと信じてしまっている。

 ここで弁解しても余計に怪しいだけである。

 聴衆を味方につけたジュードは、ここぞとばかりに畳み掛けた。


「この通り、ここにいるノエルとダリア嬢はセシリア嬢を害しようとしたことが明らかになった!」


 証拠提出も、セシリアの発言の裏取りも、何も行われないまま、ノエルとダリアは犯人だと断定されてしまった。

 ジュード王子のあまりの強引さに、ノエルは呆れるを通り越して、そら恐ろしくなってしまう。


 こんな人だったの……。

 私の好きだった、ジュード王子……。


 ゲームをプレイしていた時の憧れの気持ちが、今度こそ微塵の欠片も残さず消え去っていく。


「皆も知っての通り、ここにいるセシリア嬢は未来の皇太子妃にもっとも近い女性。その彼女に仇なすとは、この第一王子ジュードに対する不遜でもある! 査問委員会はノエル・グリーグに対しては、極刑。その主であるダリア嬢には、貴族の身分を剥奪し、国外追放を求刑する!」 


 裁判長よろしく木槌を打ちならす。

 ダリアは顔面蒼白になっている。


 ーーああ、これで終わったーー。


 そう思った瞬間。

 会場の扉が開き、一人の少年が前に進み出た。

 年齢は十二、三歳くらいだろうか。

 艷やかなダークブロンドの髪に、海の色の瞳。

 あと数年したら、絶世の美男子になりそうな少年であった。


「その判決、お待ちくださいーー兄様」


 凛とした声の中に、わずかに幼さが残る。

 この声、どこかで……?

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