第八話 悪魔王と魔王
「異界に潜みし 罪負うものよ
その姿を現し 我に力を示せ」
詠唱とともに魔法陣の光が中央に集まる。部屋の空間が歪み始め、唐突に大きな気配が現れ、
「汝何を望み…その…えっと…対価に何を捧げるか…寝てもいい?」
「…あなたは何者ですか?」
「…あ、言うの忘れてた」
「忘れてた、ってそんなことあるのか…」
そういえば、といった風に目を見開き、そして口を開く。
「ボクの名前はマキナ。たしか、悪魔王って呼ばれてた…気がする」
雰囲気に反して大物だった。
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「それで、ボクに何を望むの?知識?力?できれば楽なことがいいなぁ」
「我々と共に戦ってほしいのですが、よろしいですか?」
「今が戦争中には感じられないけど…あれ、魔王いるじゃん。納得」
「話が早くて助かります。条件は?」
「受肉するための器、はもうあるね。あとは三食昼寝が欲しい」
「破格ですね…アル、それをこちらに」
「よっと、ここらへんでいいか?」
「なかなかいいものだね、それじゃあ契約完了ってことで」
魔方陣の中央にあった力の塊がアルから分離したスライムに入り込み、その形を変えていく。
現れたのは、無造作に跳ねた深緑の髪、同じく深緑で半開きの目に眠たげな表情、しわの寄った服のいわゆる残念美人だった。
「契約もしたしもう一度。ボクは“怠惰”マキナ=クロウス。よろしくね」
「私は“龍王”ファヴナ=ジークリント。これから、よろしくお願いします」
「俺はアルトリア。よろしくな」
「あとで魔王にもあいさつしなきゃね。ところで…」
「なんだ?」
「すごく眠いんだ、どこかで寝させてもらえるかな?」
「あ、あぁわかった」
なんとも言えない空気が漂っていた。
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―――朝
「――ぴゃあ!」
「リル!?」
「お嬢!」
二人はリルの寝ている部屋へ走る。扉が開き、廊下に飛び出してきたらしいリルが部屋の中を見ながら震えていた。
「リル、どうした?」
「あ、アル、あのね、知らない女の人がわたしにギュって抱き着いてて…」
「知らない女の人?…まさか」
部屋の中にいたのは―――
「こんなに驚くとは思わなかったよ。ごめんね、可愛い魔王さん」
「マキナ…お前なぁ」
「迷って疲れたところにベッドがあったんだ。仕方がなく、だよ」
「少しくらい反省しろ…リル、彼女は俺たちの仲間だよ」
「仲間…じゃあ、自己紹介しなきゃね」
リルが髪を軽く整えて言う。
「わたしは“魔王”リルムツヴァイ=アルバ=オルタニア。リルって呼んで!」
「ボクは“悪魔王”マキナ=クロウス。これからよろしく」
「よろしくね、マキナ!…髪、寝ぐせついてるよ。ちょっとしゃがんで―――」
マキナの髪を直すリルを見ながら、
「仲良くできそうだな」
「ええ、よかったです」
魔王城のいつもとは違う一日が始まる。