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第二話【玄武襲来】

(/・ω・)/ここから戦闘開始です。

 第二話【玄武襲来】



 集合地点であるバリケード後方の木造小屋には、昼の部隊を指揮する杉本副隊長が扉の前で待っており、到着した大和を敬礼で出迎えた。

「休息中に悪いねぇ、隊長さん」

「いや、助かったよ」

 大和の言葉に杉本は首を傾げる。

「ん、何かあったのか?」

 その言葉に、先ほどのことが脳裏に過ぎり、顔面に血液が集中する。

「何でもない、忘れてくれ」

 赤く染めつつある頬を腕で隠して答えると、杉本は再び首をかしげたもののそれ以上の詮索はしてこなかった。

「寒い中、待たせたみたいで悪いな。別に階級は同じなんだ、気を使わずに中で待ってて良かったんだぞ?」 

「そういう訳にもいかねえのさ。俺と隊長の間にしこりが出来たら、昼と夜で派閥が出来ちまう。そうなるとこの部隊の秩序が乱れちまう訳だ」

 杉本は煙草を口に加え、シルバーのオイルライターで火をつける。

「そういうもんか?」

「そういうもんなのさ。命をかけてる軍隊はなおさらにな。めんどくせぇって感じるのは理解できるが、我慢するんだな」

 煙草の箱を大和に差し出すが、それを手で断られてしまったため、杉本はそれを胸の内側にあるポケットの中に収めた。

「良いライター使ってるんだな」

「だろ?嫁から貰ったんだよ。旧時代で作られたアンティーク品なんだとさ。どーだ、羨ましいだろクソガキ?」

「クソガキっておい、さっきまでの秩序はどうしたよ?」

「細まけえこたぁ良いんだよ。・・・・・・十二月になれば東京のコロニーにいる嫁と子供に会えるからな。死ぬわけにはいかねえ」

 杉本は煙草を大きく吸い込むと、煙を空に向かって吐き出し、吸殻を軍靴で踏みしめた。

「帰りを待つ奴がいるのか・・・・・・羨ましい限りだ。しかたねえ、同じ階級でも部下は部下だからな」

「俺にも出撃命令が出ればな・・・・・・いつも一人ですまない。大和隊長」

「はっ、ありえない地位がこんなクソガキに与えられてんのはこのためだ。昇進したいだろうが、俺から仕事を取らないでくれよ・・・・・・それに、今回は俺がやらないといけねえんだ。さぁ時間だ。無駄話はこの辺で切り上げて、今日も神様退治に出かけるとしようぜ」

 大和のその言葉に杉元の表情は、別人のように切り替わった。

「はっ! 情報は揃っております。兵装と出撃準備が整うまで中でご確認を!」

 杉本は大和に敬礼し、管制室である木造小屋の中に招き入れる。すでに中央のデスクには資料がまとめられており、二人は管制室の担当者と共にブリーフィングに入った。

「始めるか・・・・・・平山中尉、状況報告を」

「はっ!申し上げます!敵性対象は荒神化した【玄武】。現在時速二十五キロにて兵庫・鳥取の県境の海沿いをこちらに向けて進行中。発生原因は八時間前、京都の基地防衛に当たっていた亀戸少将が、新型である清国製の大型バトルロイドとの交戦の末、戦死されたことが原因であると断定しております!」

「そうか・・・・・・交戦が始まったのは報告を受けてはいたが・・・・・・なぜ少将のご遺体と神核の回収ができなかった?」

「はっ!交戦経験がない大型バトルロイドとの交戦にて、負傷者多数の上、バリケードの突破を受け、亀戸少将は神格化されました。結果、みごとバトルロイドに大きな損壊を与え、戦況は好転。しかし・・・・・・バトルロイドの新兵装レールガンを複数直撃。回復する間も無くロケット砲の集中砲火を受け、神格体が広範囲に爆散。新型のバトルロイドは海上へ逃走しましたが、清国の小規模襲撃が続き、回収が間に合わなかったと報告を受けております」

 平山は時折、バインダーに挟んだ資料に目を向けながら報告を続ける。

「おそらく核の損傷もあるだろうが、少将は集中砲火時の衝撃で亡くなったはずだ。それで肉体が核ごと依り代化したんだろう・・・・・・嫌な仕事だ」

 大和は玄武の大まかな推測を述べると、大きく溜め息を吐いた。

「悪い、続けてくれ」

「・・・・・・はっ!報告を続けます。玄武との交戦予定地は鳥取砂丘。ヘリでの移動になります」

「了解だ。俺は直接降下するからヘリは着陸しなくて良い。高度は安全のため、対象から五キロ離れた地点で高度千メートルの維持を厳守。俺が降下したらすぐにその場を離れ、四十キロ離れた地点で待機しろ。俺からは以上だ」

「はっ!かしこまりました!報告は以上になります」

 平山はバインダーをデスクに置き、椅子に着席すると同時に扉が開いた。

「報告します! 兵装の準備及び、ヘリの離陸体勢が整いました! いつでも行けます!」

「あぁ、すぐに向かう」

 大和はすぐさま返答すると、机の上にある資料を手早くまとめて平山に手渡した。

「これらの資料は機密文書扱いとする、他の隊員に露見する前に処分しておいてくれ」

「はっ! かしこまりました!」

 大和は資料を受け取った平山の肩を軽く叩いて、管制室を後にした。

 ヘリの発着場に到着した大和はその場に居る隊員に告げた。

「これより、この部隊の全権限を俺から杉本副隊長に移行する。まぁいつものことだが、、玄武に関すること、俺が討伐に向かったことに関しては、全てにおいて緘口令を敷く」

「はっ!かしこまりました!」

 大和の言葉に杉本は即座に敬礼する。

「杉本副隊長、何かあったら後は頼んだぞ」

 大和は懐から基地の隊長の証である金の装飾を施された懐中時計を取り出し、敬礼を解いた杉本に手渡した。 

「確かに受け取りましたが、俺はこんな重たい物を背負う気になれないんでね・・・・・・いや、絶対に無事で帰って来てこいよ隊長。マジでご武運を祈りまくってるからな?」

 懐中時計を受け取った杉本は大和との距離をさらに詰め、他の隊員に聞こえないように耳打ちした。

「あぁ、帰ったらさっさと返せよ。そんじゃ行って来る」

 必死の形相で懇願する杉元にそう言い残し、大和はヘリに搭乗した。それと同時に、既に暴風を巻き起こしていたプロペラがさらに回転数を上げてゆっくりと浮上した。

 杉元は遠ざかっていくヘリが地平線に消えるまで敬礼を解かなかった。



 大和はヘリの中で兵装を身につけ、戦闘の準備を整える。

「おい、目標地点までどれくらいかかる?」

「あと三十分ほどで到着します!」

「俺の準備は終った!速度を上げて十五分で到着させろ!」

「了解!」

 大和の指示通り、ヘリは徐々に前傾に傾いて速度を急速に上昇した。

「隊長、対象を目視しました!」

 助手席の副操縦士が、双眼鏡を片手に

 パイロットは指示通り、十五分を切るタイムで目標地点に向けて突き進む。すでに眼下は木々が枯れ、その規模を十数倍に拡大した砂丘が広がっている。

「あぁ、俺が降りたらすぐに引き返せ。良いな?」

「了解です!」

 ヘリが玄武との距離を詰めるにつれ、その巨大さがあらわになっていった。

「隊長!間も無く目標地点です!」

「ハッチ開けんぞ!速度を緩めろ!降下後は旋回して全速力で退却!」

「了解!」

 出した指示に返答があったことを確認し、大きく息を吸い込んだ。

「カウント行くぞ!三、二、一、降下!」

 カウントの終了と共に乗組員によってハッチが開かれ、大和の身体は荒れ狂う大気の流れに身を投げ出した。しかし、その背中にはパラシュートの装着はなされていなかった。

 腰に差す四本の刀剣は風に煽られ、ガチャガチャと音を立てて不規則に踊り狂う。

「やっぱ風が冷てえな・・・・・・」

 徐々に近づく砂の大地。しかし、大和は表情一つ変えることは無かった。

「行くぞクソ犬・・・・・・神威開放」

 大和の身体は重力に逆らうことなく落下し、大きな砂塵を巻き上げて砂の大地と衝突した。

 次の瞬間、周辺を覆っていた砂煙が、内部より突如発生した無数の風によって縛散する。

「目標まで五キロ。こちらに気づいて立ち止まったか」

 晴れた煙の中から現れた大和は、肩膝すら着いてはいなかった。

 風で煽られて緩んだ軍帽を深く被り直し、大きく息を吸い込んで止めると、玄武に向けて一直線に走り出した。およそ五キロに渡る砂の道のりを駆け抜けるのに、一分とかからなかった。

 玄武との距離が三百メートルを切ったその時、尾であり身体に絡み付いていた筈の巨大な白蛇が、音も無く大和の立つ大地に突撃した。

 爆発のような衝撃と共に、巨大な砂煙が舞い上がる。大和は白蛇の襲撃に素早く反応し、空中に大きく跳躍していた。そして刀剣に手をかけ、ゆっくりと抜刀した。

「纏え、黒狼炎刀装!」

 まるで水滴の波紋を写し出したかのような美しい刀身は、大和の一声によって黒き炎に飲み込まれる。

 天に向かっていた大和の身体は反転し、玄武へと一直線に急降下する。だがその先には、白蛇は既に体勢を整え、宙に舞う大和に向けて再び襲撃を開始した。

 その身体が辿る軌道の先には、大蛇の巨大な口が開かれ高速で迫っていた。しかし大和は軌道を変えることなく、巨大な口の中へと飲み込まれてしまった。

 白蛇は、空に向かって最大に伸びた所で上昇を止めて静止した。

『ブォン―――』

 鈍い音と共に、純白の身体全体に無数の黒い線が走った―――その次の瞬間だった。

『ドォオオォォン!』

 白蛇の身体が鮮血と肉片を撒き散らして、盛大に破裂した。

「うおぉぉぉおぉぉぉおぉおぉぉぉぉ!」

 大和は雄叫びを上げ、舞う肉塊を足場にさらに加速して玄武へと突き進む。

 玄武は猛烈な勢いで迫る大和に視線を向けた。

『グオォァアァァアォォァァオァ!』

『パキン、パキン、パキン』

 大気を激しく揺るがす咆哮と、薄氷を割るかのような微かな音が鼓膜を擽る。すると、玄武と大和の間に正六角形の障壁が三つ形成された。

「六甲障壁か・・・・・・そんなもので俺を止めれると思うなよ!」

 刀身を包む黒炎はその濃度を増し、そこだけ空間が欠落しているのかと感じさせるほど黒く染まった。そして大和は刀剣を大きく横一直線に振るった。

「絶空!」

 その声と共に、振り抜かれた刀身の軌跡に残る黒炎が、黒き刃となって凄まじい速度で障壁と接触した。

 そこに音など存在しなかった。

「俺の前に防御なんて意味がねえ。そう言ったのは清一郎爺・・・・・・あんただろうが!」

 摩擦係数ゼロ。放たれた黒き刃はそこに何も無かったかのように三枚の障壁を切り裂き、貫いた。そして、その刃が霧散すると同時に、穿たれた穴をすり抜けて障壁を突破した大和が刀剣を振り上げた。

「絶く―――」

 突然、大和は刀剣に纏わせていた高濃度の黒炎を霧散させ、刀の峰に手を添えると、瞬時に刀を構え直した。それと同時に凄まじい衝撃が襲い、大和の身体は高速で吹き飛ばされていた。

「ぐあっ!」

 空中で体勢を立て直し、玄武と向き合う姿勢を取りながら砂煙を巻き上げて着地した。

「おいおい、マジかよ・・・・・・」

 言葉を失った大和が見つめる先には、十の頭を持つ白き大蛇を幾重にも巻き付けた玄武の姿があった。

『ヴモォォオォォオォオォオォォォォオオォ!』

 玄武は雄叫びを上げながら、数百メートル離れた大和に全速力での突撃を開始する。

「一段開放でやれるとは考えていなかったが、まだ二段目に移るにはリスクが高すぎるな・・・・・・時間稼ぎが必要か」

 意を決したように大和はそう呟くと同時に、再びその脚は玄武へと駆け出していた。

 一陣の大和が白蛇の攻撃圏内に入った瞬間だった。

「なっ・・・・・・」

 大和の周囲を円形に囲うようにして、六つの頭が凄まじい速度で攻撃をしかけてきたのだ。外周に逃れるすべが無い大和は開かれた口が密着しあう前に、中心部へと跳躍して回避した。

 後方から聞こえる衝撃音。しかし、振り返り様子を見る暇など無かった。

「次はそう来るよな・・・・・・!」

 周囲は柱のように聳え立つ、六本の白蛇の胴によって塞がれ、前方からは三体の白蛇が柱に沿うように迫っていた。

「ちっ・・・・・・絶空!」

 黒い炎を再び刀身に纏わせると、即座に構えを取り横一文字に刀を振るった。

 放たれた漆黒の刃は、硬質であるはずの白蛇の鱗を抵抗無く斬り裂き、二体の白蛇を屠りさった。大和は残る一体の攻撃を辛うじて回避して、もう一度斬空を放ち柱に穴を開けると、二体の白蛇の亡骸を足場にしてどうにか脱出を果たした。

 白蛇の胴体の上に出た大和は、大きく速度を落としたものの、依然として前進を続ける玄武に向け、一直線に走り抜けた。

 だが、白蛇の執拗な襲撃が行く手を阻み続ける。大和はそれを時折、切り伏せながらも最低限の動きで回避して止まることなく進み続け、上方向から立て続けに三体襲撃してきた白蛇を回避して足場に利用し、巨大な甲羅から長く伸びた玄武の頸部に向けて高く跳躍した。

「うおぉおぉおぉぉぉ!」

 雄叫びとともに、黒く燃える刀剣を構えて迫り来る大和を、玄武は残った片方の瞳で凝視していた。

『パキン、パキン、パキン、パキン』

 再び薄氷の割れる微かな音が鼓膜を擽った。それと同時に、大和の正面には六甲障壁が幾重にも出現し、行く手を阻んでいた。

「ちっ・・・・・・邪魔だ!」

 障壁との衝突を回避するため、大和は躊躇う事なく絶空を放った。黒い刃は五枚の障壁を斬り裂いた所で消滅してしまった。さらに絶空を放った反動で上昇していた大和の身体は大きく推進力を失い、僅かな静止の後、落下が始まっていた。

「制限付きだとこの距離が限界か・・・・・・だが、氣の制御が利いてきたぜ」

 仰向けの状態で落下していた身体を翻して落下地点に目を向ける。そこには複数の白蛇が待ち構え、すでに跳びかかる態勢が整っていた。

「準備万端という訳か、清一郎爺らしいな・・・・・・」

 開かれた巨大な口には、大和の肉を貪ろうとする鋭利な双牙が鋭く光を放っている。そして白蛇達は、間髪無く次々と対象に喰らい掛かった。

 地面と向き合った状態で落下を続ける大和の正面に、開かれた白蛇の大口が待ち受けていた。しかし大和は、口内に入り込んだ瞬間に下あごから頭部を切り離し、その頭部を落下しながら掴むと、続く蛇の開かれた口に押し当て、それを足場に大きく横方向に飛び跳ねた。そして、襲い来る白蛇達の間をすり抜け、砂の地面に辛うじて着地する。しかし、油断する暇も無く上からの白蛇たちの突撃が続き、大和は回避行動を取りつつ、二本目の刀剣を鞘から抜き出した。

「はぁ、はぁ・・・・・・かなり押されちまったな。だが・・・・・・順応するには十分に時間は稼げた」

 白蛇との距離を取り、軽い息切れに襲われる大和は両手に握る刀剣を地面に突き刺した。

「我・・・・・・今こそ、この身を締め付ける革の戒めを破らん!引き千切れろレージング!」

 大和を中心にして、何かが破裂したかのように砂煙が円形状に舞い上がった。

「これで次までの時間稼ぎになってくれれば良いんだがな・・・・・・」

 砂煙の中から出てきた大和の形相は一変していた。瞳は赤く染まり、尖った耳と頬には黒く硬い獣の毛が生え揃っていた。

 玄武は地響きを轟かせながら迫り、既に大和は攻撃圏内に収められていた。そして、白蛇の一体が、全身の筋肉を極限まで収縮させ、音速を超える速度で大和を目がけて襲い掛かった。

「・・・・・・」

『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン』

 その衝撃の凄まじさを、上空に高く巻き上げられた砂煙が物語っていた。

 時間が止まったかのように、白蛇は砂煙の中に突んだまま動かなかった。その膠着状態が数秒続いたその時だった。

『ヴオォオォォォオォォォォ!』

 突然、砂煙の下方から黒炎が巻き上がり、全体を包み込むと弾けるように霧散した。

「ったく、この速さになると避けれねえな・・・・・・」

 黒炎が消え、閉ざされていた景色が露になる。

「まぁ・・・・・・斬るだけだがな」

 砂と鱗が擦れ合う音が鈍く轟いた。するとそこには、先ほどと同じ位置に立っている大和と、その数メートル先を境に二つある鼻孔の中心から真っ二つに斬られ、二つに枝分かれした白蛇の身体が十数メートルに渡り横たわっていた。

 握られている刀剣の黒い炎は先ほどまでとは一変し、激しく燃え上がり揺らめいていた。

「次はこっちからだ・・・・・・」

 大和は静かに力を籠めるように呟くと、横たわる白蛇を足場にして再び玄武に向けて走り出した。

「行くぞ、クソ亀ぇ!」

 白蛇の身体を駆け抜ける大和に、白蛇が一斉に襲い掛かった。

「何度も同じ手は喰わねえぞ!」

 大和は身体を捻らせながら跳び、黒炎揺らめく刀を振るった。

「絶空乱舞!」

 全方位から迫りくる白蛇に対して大和は宙で数度回転し、全方位に向けて絶空を放った。

 音もなく次々と白蛇の頭部が落ちていくのを一瞥し、走っていた時と大きく変わらぬ姿勢で着地した大和は全速力で駆け抜けた。

 玄武は次々と障壁を張り、大和の進路を妨害する。しかし、それが形成された瞬間には障壁は斬り捨てられ、大和の進行を止めることはできなかった。

 白蛇の身体と玄武の顔面が最も近くなる地点で大和は一気に跳躍した。

「やっとこれで一本だな」

 そして玄武の眼前に出た大和は一気に刀剣を振り下ろし、琥珀色の瞳を斬り裂いた。

『ヴモオォォォォォォオオ!』

 斬りつけられた眼球から硝子体液が噴出する。玄武は苦痛の叫びを上げて顔を大きく仰け反らせた。落下する大和は隙ができた玄武の長く伸びた頸部に、再び絶空を放とうとしたその瞬間だった。

「ぐぁっ!」

 突然、大和に衝撃が走り、吹き飛ばされた身体は一瞬にして砂の大地に叩き落されていた。

「くっ・・・・・・そ・・・・・・再生が早すぎんだよ・・・・・・」

 落下したのは砂の大地ではあるものの、その衝撃は着用している軍服はズタズタに引き裂くには十分すぎるものだった。大和は滲む視界とともに引き剝がされそうになる意識を辛うじて繋ぎ止めて立ち上がった。

「はぁ・・・・・・はぁ、そうか・・・・・・ようやく俺は、お前の脅威として認められたわけだ・・・・・・」

 大和の瞳に映った玄武の姿は、頭部を完全に再生した蛇たちを含めて、異様なまでに変化を遂げていた。

 玄武の身体に巻き付く純白の蛇たちは深い黒に染まり、丸みを帯びていた蛇たちの眼は吊り上がり、尖るように隆起していた。

「不死と再生を司る水神・・・・・・なるほどクソ喰らえだ・・・・・・」

 そして薄い灰色だった玄武の身体には徐々に黒い模様が浮き出てきていた。その間も蛇たちは忙しなく這いまわり、その巨体に絡みついていた。

『ヴァモオォォォォォォォォォォオォォォォオオォォオォオオォオォォォ!』

「ぐっ・・・・・・ぅ・・・・・・」

 巨大な咆哮と共に、玄武の瞳を囲うように浮き出る模様。その全てが浮き上がった時、大和に斬られて閉じられていた瞼が開かれた。

 その轟きはもはや音ではなく衝撃だった。神威を解放し、常人をはるかに上回る身体能力を持つ大和でさえ、立つことすらままならず、衝撃とともに叩きつけてくる砂嵐を片膝を付き防御姿勢で耐える他無かった。

 咆哮が止んだ瞬間に絶空を放つため、その衝撃が若干弱くなったところで大和は大まかな玄武と黒蛇たちの位置を予想して刀を構え直した。

 咆哮が消え、砂嵐が過ぎ去った瞬間、大和は目を開き、即座に刀を振るおうと対象を目視した。しかし、すでにそこには黒蛇達が最大にまで巨大な口を開き、高エネルギーのブレスが放たれようとしていた。

 もはや、黒蛇たちのブレスを回避する猶予など残されてなどいなかった。

「くそ―――っ絶炎障壁(ぜつえんしょうへき)!」

 大和が二刀の刀を地面に突き刺すと同時にブレスは放たれた。

「うおぉぉぉおぉぉぉおぉおぉぉぉぉ!」

 大和は絶叫に近い雄叫びを上げて全力で刀に氣を送り込み、黒炎の壁を作り出した。黒蛇たちのブレスは、揺らめく黒い炎と接触した瞬間に消滅し続けている。

「ぐっ・・・・・・限界・・・・・・だ・・・・・・!」

 揺らめく黒炎に微かに密度の薄い部分が生じた瞬間だった。

「うわぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」

 触れたもの全てを消滅させていた漆黒の炎は、青白く眩い閃光を放つブレスに貫かれた瞬間に霧散した。そして、貫いたブレスは一直線に大和を襲い、その叫び声もろとも一帯にある全ての物は平等に吹き飛ばされたのだった

読んでくれてありがとうございました(*´ω`*)


まだまだ続きますので、次も読んでいただけると嬉しいです。

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