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第一話【汚染された世界で】

(´・ω・`)見てくれる人が居ると良いなぁ・・・・・・

第一話【汚染された世界で】


 西暦二〇九五年、地球は七十五年前の核戦争によって引き起こされた気候変動により、太陽は厚い雲に阻まれ、その光は雲を形成する地表より巻き上げられた大量の微粒子に乱反射を繰り返し、月明りほどしかない僅かな陽光が二十四時間降り注ぐだけだった。気温は十月初旬にもかかわらず、摂氏六度を下回るのことは日常茶飯事であった。

 また同時に、地表には核戦争時の高濃度の放射物質が地球全体を循環していた。

とても人間が住める環境ではない。

 しかし、そんな環境下でも戦争は起きていた。

「おいーす! 今日もよく冷えてんな。お待ちかねの交代の時間だ。お前らの大好きな穴蔵に戻れるぞ!」

「大和隊長待ってましたよ! やっと飯にありつけます!」

 高濃度の放射物質がはびこるこの環境下で、彼らはマスク一つ付けることなく、平然と地表で活動していた。

「敵影は?」

「ありません。平和そのものであります!」

「そうか、このまま戦争も終ってくれたら良いんだがな。さて、これより第一分隊が夜営を引き継ぐ。第二分隊は穴蔵に退却しろ」

「了解であります!」

 乾いた大地の上で忙しなく活動する彼らは、日本軍領土防衛軍に所属する兵隊達だ。

「それと、安定剤の注入を忘れるなよ!別の基地で適合率の低い奴が乗っ取られたという報告が上がってきている。穴蔵の中で神格化なんてしたら洒落にならんかな」

「ははは、隊長は心配性っすね。穴蔵に入る前に皆に打たせますよ」

「おう、頼んだぞ磯部伍長」

 放射能に耐えられる肉体。日本政府はこの戦争が始まる前から一つの結論に達していた。

 この世界は多次元世界であり、八次元に生息する存在について研究が進んでいた。西暦二〇一〇年六月某日。日本は世界で唯一であり、初めて八次元に住む彼らを三次元空間に引きずり落とし、空間に固定することに成功した。

 その技術の名は、【神落し】このおぞましい技術の前で、八次元に存在し神と、呼ばれ信仰の対象であった彼らは、実験動物に成り下がったのだった。

 神と呼ばれていた研究が進むにつれ、放射能に対する影響がほぼゼロだということが判明した。そして、研究は次の段階に進み、カメリア合衆国、ルシアン連邦、清民主主義人民協和国で研究され、日本がその最先端を走っていた合成獣技術が応用された。

 日本はその技術を使い、人間が踏み入れてはならない境界線を超えてしまった。

 それは、人と神の合成・融合だった。

 人間と動物は同じ肉体に共生するのは難しかった。遺伝子と言う双方の設計書が反発し合うからだ。しかし八次元空間から人間に憑依する神は、三次元空間においてもそれは顕著に現れた。

 人と動物のように胚からの合成ではなく、固体形成後の融合が可能であった。神々の持つ一重螺旋構造の遺伝子情報は、まるで人間の持つ二重螺旋の遺伝子情報と結合し、三重螺旋構造へと進化を果たしたのだ。

 意識を神々に乗っ取られることなく、人間として生きていくために必要な適合率は、22%と非常に低い数値での生存が可能であり、この数字が高い人間になるほど、神々の持つ権能を行使する力が大きくなった。。

 この結果から日本が行ったのは、日本の八百万の神々はもちろん、全世界中から神と呼ばれる存在を秘密裏に強奪することであった。

 それから西暦二〇一八年、神々を失った世界は、各地で巨大災害に見舞われ、経済の不安定化を起こし、世界情勢は悪化の一途を辿った。

 そして二〇二一年二月二十八日、ついに第三次世界大戦の火蓋が切られた。食糧難に見舞われた神聖陽鮮王国の核武装及び、海上核配備のための大陸弾道ミサイルに詰まれた核弾頭が、実験的に発射され、予定着弾地点の太平洋沖に到達することができず、大阪府に着弾。その後は核報復打ち合いだった。その余波は世界中に吹き荒れ、恐怖に支配された人類が、全世界で核兵器を使用されるのに一週間とかかることは無かった。

 それから百年の歳月が流れ、人類は地下に巨大都市コロニーを建造し、放射線物質から逃れた。しかし、そこから起きたのは資源をめぐる戦争だった。戦争は激化の一途を辿り、泥沼化したのが今の現状だった。

 大陸の国々は豊富な鉱物資源を元にバトルロイドと呼ばれる無人兵器を運用し、日本の水資源及び、太平洋側に眠る海底資源の強奪を画策した。

 対する鉱物資源の乏しい日本は日本中にあった建造物などに使用されていた資源を地下都市に使用してしまっていたため、技術はあれど無人兵器を作る余裕など無かった。

 そこで戦争に導入されたのが、放射能の影響を受けない神と人為的に融合された人間兵器だった。


 穴蔵と呼ばれる基地に戻る分隊を見送り、大和はバリケード後方に立てられた木造の建物の中の一室へと向かい、ノックすることもなく扉を開け放って中へと入った。

「おい優希、レーダーに反応は?」 

「いえ、今のところ周囲に敵性反応はありません」

 扉の先に居た優希と呼ばれた銀髪の少年は、複数のモニターを凝視しつつ、両耳を塞ぐヘッドセットをずらしながらそう答えた。

「そうか。ったく、敵は清国だけじゃねえからな。暴走して逃げ出した野良神にいつ襲われるか分かったもんじゃねえ」

「それを言うなら荒神では? まぁ、確かにそうですね。ここ最近の緊張状態から判断するに、今は決して油断できる状況じゃない。でも・・・・・・大和隊長は、今日も資源回収に出られるんですよね?」 

「あぁ、上の方から指令が来ててな、金属資材の納品ノルマを上げるとのことだ」

「今まで溜めておいた分のストックは?」

「今後の事を考えるとあっという間に底を付いちまうな」

「そうですか・・・・・・」

 大和はため息を吐きながら力なく答える。

「十五分後に十人の兵を連れて出る。回収地点はここから直線四十キロ南西にある海側の旧市街地だ。レーダーに反応があれば俺のターミナルに位置情報を報告しろ。すぐに俺が対処する」

「了解しました・・・・・・いつも一人で全部背負わせてごめんね大和にぃ・・・・・・」

「子供の頃見た映画で言ってただろ?ノブレスオブリージュ・・・・・・まぁ、こんなことはできる奴がやれば良いだけのことだ。あと、口調が戻ってるぞ」

 大和は扉に手をかけ外へと出た。

「もう、誰も死なせない・・・・・・」

「やま―――」

『ガチャン』

 扉は優希の言葉を遮るように音を立てて閉じられた。


 黒木葉 大和。階級は大佐。総員百五十名からなる一個中隊の隊長である。戦場は旧島根県と旧鳥取県西部の日本海沿岸という敵勢力の進攻が激しい地帯の守護が主な任務だ。

 大和が率いる部隊に所属する兵士の平均年齢は二十五歳。最年少は十五歳、最年長でも三十五歳と全国のどの部隊と比較しても異例な若さを誇っている。それはひとえに大和が統率する部隊の死亡率の低さから、前線に出る若年兵士の配属先は優先的にこの部隊に回されることになっていた。

 この国に生まれた女子は、女神または強力な獣神を宿せない場合は、全国に四つある生まれ育ったコロニーに残り、製造などの作業に当たるのが普通だ。男子は十二歳で軍事教育が開始され、十五歳には戦場に駆り出されることになっている。

「おい野郎ども! 資源回収に出るぞ! 山岡、中洲、川浜、浮竹、星見、緒方、吉永、佐川、沼田、浦河、以上呼ばれた十名は十五分後に出るから準備しろ。車両はダンプ四台で出撃する」

「マジすか・・・・・・了解です」

「いーやーだー! 行きたくないでありーまーすー!」

「えー隊長、この寒い中に出るんすか?」

「隊長、外に出るのは危ないよ?」

「うるせぇな、俺だって年中この寒い中、お前らに出撃させたくねえよ・・・・・・だからこうして俺も付いて行ってんだろうが!」

 露骨に嫌がる兵士達から湧き出るブーイングを大和は声を荒げて跳ね返す。

「ったく・・・・・・聞けお前ら! 今回の資材納品ランキングで全国一位の部隊には、本物の牛肉が人数分配給される! それに焼肉のタレも付いてくるぞ!」

 騒がしかったバリケード内は一瞬にして沈黙し、皆は何が起きたのかわからない表情を浮べ、一様に目を丸くした。そして次の瞬間―――

「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉおぉ! 牛様の御身肉じゃぁあぁぁぁぁぁ!」」」」」」」」」」

「隊長!モタモタしてる暇じゃないっすよ!肉っすよ!肉!しかも牛!」

「早く肉取りに・・・・・・じゃねえ!資材を取りに行こう! 大和隊長!」

 先ほどとは打って変わって,活気に満ち溢れる兵士達。大和はそれを流し、適当に返事を返す。

「あいよ。そんじゃ気合いれて行くとするか。お前らは、さっさと車両の準備をしろ。それと残りの隊員はバリケードの防衛に当たれ、止む得ない場合は神威の使用を許可する。だが、活性剤と神格化の許可はしねえ! もし、暴走しちまったら俺が首根っこ押さえつけて、安定剤注入してやるから安心しな。肉を食わせる前に死なせはしねえ。今後の指揮は朝月 優希少尉に引き継いである。まぁ、何とかなるだろ・・・・・・話は以上だ。各位、直ちに配置に散れ!」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 一糸乱れぬ動きで皆がそれぞれ配置に付き、それを見届けると大和は用意された車両の助手席に乗り込む。

「時間か・・・・・・出撃する!開門しろ!」

「開門します!門兵!開門だ!」

「「「了解!」」」

 門が開かれ、エンジン音轟かせる四台の車両は土と石に覆われた荒野に向け進み始めた。

 大和はサイドミラーで、門が閉じられるのを確認すると車内に内蔵された無線機を手に取る。

「あー、あー、聞こえるか? 各車両に注ぐ、進路は南西四十キロ先にある旧市街地、【出雲】だ。マップはそれぞれのナビに送ってるから、案内が始まってるはずだ。今日は少し風が出てるから慎重に進め。だが、一番に着いた車両には褒美に俺の配給ビールをくれてやる。以上だ」

 無線が切れると同時に、車両は猛烈な加速を始める。

「おい川浜二等兵、俺も飲みてぇんだから負けんなよ?」

「YES! BOSS!」

 大和は隣で満面の笑みを浮かべて運転する川浜に一言声をかけると、椅子を倒して眠りについた。

「あれ、でも隊長・・・・・・飲酒できる年齢じゃ―――」

「川浜、後続に抜かれたくなきゃ、黙ってアクセルを踏み続けるだな」

「りょ、了解でありますっ!」

 帽子で顔を覆い眠りに付く大和に釘を刺された川浜は、さらにアクセルを強く踏みしめた。

 荒野を走ること三十分、全ての車両が資材回収ポイントに到着した。

「川浜二等兵よーくやった! おかげで俺のビールは守られた。今日の晩酌を楽しみにしておけよ」

「あ、ありがとうございます隊長!」 

 喜ぶ二人を片目に僅かに遅れて到着した八名の兵士は皆一様に悔しがる。

「お前ら・・・・・・こんなことで落ち込んでるんじゃねえよ。鉄クズを目標量集めれたら俺の分をくれてやる。だからさっさと仕事に取り掛かれ!」

「「「「「「「「イェッサー!」」」」」」」」

 意気消沈していた兵士達の瞳に再び闘志が宿る。

「ったく、扱いやすい奴らだ」

 回収班と捜索班に別れて作業を進めること二時間、トラック一台分の金属資材が収集された。

「お前ら集合しろ!これより積荷班は二十分間の小休憩とする。軽食、水分補給を済ませろ!」

「「「「了解!」」」」

「さーて、乾パンでも食おうかねえ」

「ずりーな、俺は次の配給までおやつ抜きだぜ?」

「おいおい、計画性が無いお前が悪いんだろ?・・・・・・しょうがねえな、一つやるよ」

「ホントか!!サンキュー心の友!」

「今度のトイレ掃除変われよ?」

「んぐ!?ゲホッ、ゲホッ・・・・・・おい星見、食ってから言うなよ!」

「ははっ、聞かずに食うお前が悪いんだろ?」

「ちくしょう・・・・・・わかったよ!」

 星見と吉永のやり取りを見つつ、他の隊員達も笑いながら談笑を始めた。その様子を見ながら、大和は通信端末であるターミナルを取り出した。

「おい捜索班、何か見つかったか?目ぼしい物が無ければ、一時こちらに戻って休憩しろ」

 大和の問いかけにすぐに返答が帰ってくる。

『こちら捜索班の山岡っす、隊長喜んでください、状態の良い本が大量に出土しました』

「本当か! そいつは良いな。こちらも周囲の資材をあらかた回収し終えたところだ。今からそちらに向かい合流しようと思う、場所はどの辺だ?」

『旧市街地の山側、北西の方向っす」

「了解、今から向かう」

『あと、もう一つ妙な物が出てきまして・・・・・・これはこっちに来てから確認して欲しいっすね」

「わかった。お前らは現地で待機、休憩を命じる」

『了解っす。じゃ、待ってるっす』

 通信を切り、大和は拳を握り軽く振るった。

「よっしゃ・・・・・・お前ら、休憩を中断だ!捜索班より吉報があった。各車両に乗り込み、現場に急行するぞ!」

 腰を下ろしたばかりの隊員達は、あからさまに嫌そうな表情を向ける。

「えー、たった今休憩に入ったばかりじゃないですかー」

「うるせえ、さっさと動け!」

 怒鳴り散らす大和を見て、隊員達は文句を言いつつ渋々立ち上がった。

「ケチ隊長!」

「鬼畜隊長!」

「冷血隊長!」

「童貞隊長!」

「てめえら・・・・・・今度の配給減らすぞ?」

「「「「ひいぃぃ!」」」」

 ぼそりと発せられた大和の一言で縮み上がる隊員達は、皆一様に肩を震わせている。

「それに・・・・・・お、俺は、ど、ど、ど、童貞じゃねえ!」

 大和は顔を紅潮させ必死に訴える。

「あ、あぁ、なんか・・・・・・すみません隊長」

「自分もつい調子に・・・・・・はい」

「俺・・・・・・今度の配給菓子譲ります・・・・・・はい。隊長は甘食をいつも楽しみにしてましたよね」

「あの隊長、お互いにその・・・・・・強く生きましょう」

 隊員達は生温かい眼差しで大和を見をつめ、優しい一言と共に車両に乗り込んでいく。

「ちくしょう・・・・・・ぢぐじょうっ・・・・・・!」

 大和は全身に力を籠め、溢れ出しそうになる涙を堪えるので必死だった。そして、憔悴しきった大和は、ゆらりと体を揺らしながら車両へと乗り込んだ。

「北西の山側だ・・・・・・出してくれ」

「あっ・・・・・・はい」

 力の無い大和の道案内で、車両は十分ほどで合流ポイントに到着した。

 外では、綺麗に剃られた髭とは裏腹に、長く伸び放題になった髪を一本に結んだ髪型が特徴の山岡軍曹が待機していた。

「寒い中で待たせて悪い。で、本はどこにあるんだ?」

「こちらっす。先に確認してたっすけど、全体的に濡れも風化もしてなくて状態は良いっすね」

 車両から降りた大和の第一声に、後に続いた隊員達が唖然とする。

「隊長・・・・・・鉄は?」

「なー隊長、牛様になる資材は?」

 捜索班の山岡と話し込む大和を見て、回収班のメンバーが声をかけてくる。

「んなもんねーよ。本が出たって報告があったんだ。鉄クズなんて知ったことかよ」

 悪びれることも無く、大和は部下に平然とそう言ってのけた。

「ふざけんな隊長!」

「自分の収集癖に付き合わせるなんて職権乱用だぞ!」

「そーだそーだ!」

「ふっ、ふっはっは!職権乱用上等だ!悔しかったら俺より昇進するんだな!さぁ、俺のために馬車馬の如く働けぇ!さっさと本を積み込むんだ!」

「ふぇえ!隊長の鬼!」

「横暴だ!この我欲の悪魔め!」

「圧制を敷く愚王が!」

「童貞!」

 回収班のメンバーは罵声を吐きながら、手を振る他の捜索班の下へと走り去っていく。

「ふはは!好きに言ってろ馬鹿共め。・・・・・・それで、妙な物って?」

「はい。ここから少し離れた小さな神社跡と思われる場所っす」

「向かうぞ」

「うぃっす」

 大和と山岡は、本の運搬を開始した隊員を一瞥し、その場を後にした。

「隊長、これっす。倒壊していた建物の瓦礫をどかしたら出てきました。たぶん、ここにあった建物の下に穴を掘って保管されてた物だと思われるっす」

 山岡に案内された先にあった物は、人の姿をかたどった人工物だった。

「おう、こいつは金・・・・・・いや、金メッキの銅像か?」

「そうっす。恐らく何かの女神をかたどった像でしょう。発見した際にナイフの背で軽く擦ったところ、金メッキが剥がれました。中は銅製のようっすね」

「そうか・・・・・・だが特に異様な所なん・・・・・・て」

 大和は山岡の話を聞き流しながら女神像を観察していると、ある違和感を感じた。

「気がついたようっすね」

 表情を読まれたのか、山岡が口を開いた。

「ありえねえ、こんなもん・・・・・・一体いつ作られたんだ?」

 俺の呟きに山岡が無言で頷く。

 この市街地はもとい、日本全土の地表面が人間が住む領域として破棄され、八十年近くの時間が経過している。たとえ腐食耐性の高い金のメッキ加工であったとしても、雨風、砂嵐に数十年の年月を耐え抜くことは不可能なはずだ。それにも関わらず、目の前にある像は山岡が付けた傷以外のメッキ剥がれは見受けられなかった。

「この像を祀っていた建物があったのか?」

「あったとしても、瓦礫の量から見て、そんなに大きくない建物のはずっす。たとえ穴を掘って保管していたとしても倒壊時にどこかしら損傷が出るはずっすよ」

「だよな・・・・・・とりあえず、この像はバラさずにこのまま持ち帰ることにする。しばらくの間、納品は見送る。野良神の依代かもしれねえしな」

「了解っす。あ、そういえば、そろそろ本の回収が終る頃じゃないっすか?」

「それもそうだな。戻るぞ山岡」

「うぃっす」

 合流したのは本を車両に積み込む作業を終えた頃だった。当然、二人はブーイングを浴びたのだが、大和は悪びれる様子も無く、女神像を車両へ積み込むを事を命じたため、ブーイングはバッシングに変わったのは言うまでもない。

 女神像を回収したところで刻限が迫ったため、この日の回収任務は終了となった。

「今日も寒い中ご苦労だったな。皆のおかげで思わぬ収穫物が二つ見つかった。本に関しては風紀を乱す如何わしい物がないか、しかたなく俺が一旦預かって検品する」

 大和の言葉に山岡以外のメンバーは明らかに不満の表情を浮かべて抗議する。

「ふざけるなー! 職権乱用だぞー!」

「働けー! 職務怠慢だぞー!」

「俺にも風紀を乱す如何わしい本を見せろー!」

「「「「そーだそーだ!」」」」

「ふん、俺より階級が低い奴に何を言われようと関係ねえな。だが、上官に牙を向けるとは良い度胸だ・・・・・・山岡以外の全員で倉庫にこの像を運搬しろ! 歯向かう奴は配給を減らすぞ!それが嫌ならさっさと取り掛かれ!」

 配給という単語が出た瞬間、開かれていた口は閉じられた。闘志で燃えていた瞳は、すでに恐怖で怯え、眉は垂れ下がっている。

「配給はずりーよたいちょー」

「くっそー覚えてろよ!」

「ちくしょう!ぜってー隊長より偉くなってやる!」

 隊員達は足早に捨て台詞を吐いて立ち去り、作業に取り掛かり始めた。

「山岡は俺と回収した本を隊長室に運んでくれ」

「了解っす」

 大和と山岡は、車両に積載された本を腕の中で高く積み上げて隊長室へと向かった。

「隊長室の冷蔵庫に人数分のビールが入れてある。作業が終ったら皆で飲め」

「ぷっ・・・・・・やっぱ甘いっすね」

 山岡は前を歩いている大和を追い越しながら、ぼそりとそう呟いた。

「うるせえ、無駄口叩く前にさっさと運べ」

 大和は前方にある、山岡の脛を軽く蹴飛ばした。

「ははっ、痛いっすよ」

「ふん、もうすぐ交代の時間だ。急げよ」

「了解っす!」

 全ての作業を終える頃には、交代の第二分隊が朝礼のために整列を始めていた。大和は、副隊長の杉本大佐に引き継ぐ内容を申し送りして、この日の任務を終えた。

 隊長室に戻ると優希が大和の机に座り、パソコンで作業をしていた。

「あっ大和、今日もお疲れ様」

「あぁ、悪いな面倒な雑務を押し付けちまって」

「ううん、大丈夫。それより回収した本のことは報告するの?」

 優希は普段はしない眼鏡をかけて、本部に提出する日誌を仕上げていく。

「いや、その必要はない。面倒な処理が増えちまうからな」

「もう、発覚すると査問会議だよ?」

 大和は応接用の机に詰まれた本の前に座り、本を手に取りながら返答した。

「構わないさ、本は俺が選別してから本部に送るか判断する。あと回収資材の量だが、今日は二トンぐらいで調整しといてくれ」

「はいはい、いつも通り報告しとくね」

「あぁ、よろしく頼む」

 大和は本の整理を済ませると。隊長室の地下に隊員達に掘らせて作った地下書庫に本を収納しに向かった。

「だいぶ溜まって来たな。またあいつらに掘らせて拡張させるか・・・・・・よし、これで最後だな」

 本棚に回収した全ての本を収納し終えると、上から優希から呼ばれる声が聞こえた。

「大和、日誌の作成が終ったよ」

「あいよー、本部に送っといてくれ!」

「駄目だよ、報告物はちゃんと自分で確認しないと!」

 大和の生返事に、上から優希の怒鳴り声が響いてきた。

「わかった、わかった。すぐに確認する」

「もう、いくら僕が完璧だからって仕事はしてくれないと困るよ?」

 大和は優希の小言を聞き流しながら階段を登り、床から這い上がると、慣れた手つきで蓋を閉めて絨毯を上から被せた。

「確かに完璧だが、自分で言うと印象悪いぞ?」

「だから普段はちゃんと本性を隠してるんじゃないか」

 胸に拳を当て、自信満々に語る優希を無視し、大和はパソコンの前に座って作成されている日誌に目を通すふりをして、送信ボタンを押した。

「今日の仕事は終わりだ。さっさと穴蔵に帰るぞ」

「はーい。ねえ大和、今日のご飯は何かな?」

「どうせ、良くわからない人工蛋白質とでんぷん化合物だろ」

「もう、美味しくなさそうに聞こえる言い方はやめなよ」

「それが事実だろ。腹に入れば皆同じだ」

 大和は話しながら隊長室から優希に出るように手で促し、灯りを消して扉を閉める。

 穴蔵に戻るとすでに先に戻った隊員達が食堂に入り、食事を始めていた。その中には山岡を始めとする資材回収の任務に当たった者達の姿もそこにはあった。その手には配給ビールが握られている。

「よ、始めてるな?」

「おっ! たいちょー遅いっすよー。もう始めてたっす!」

 顔を真っ赤にしている山岡が大和に気が付き、いつもと違うハイテンションで話かけてきた。

「おい山岡、強くねえんだから飲みすぎるなよ?」

「わかってるっすよ! ほら、たいちょーも一緒に飲むっすよ!」

 山岡は立ち上がり、大和と無理やり肩を組んで酒を勧めてくる。 

「こら絡むな! ったく、うっとおしい!俺は今から風呂に入る。一時間は俺が独占するから誰も入らせるなよ」

「あっはっは! 聞こえたっすか、みんなー? たいちょーがお風呂入るから浴場に行ったら死刑っすよ!」

 山岡はそのまま床に倒れ、笑い転げていた。

「おい、お前らもほどほどにしとけよ! それと、後で山岡を部屋に運んでやれ!」

「「「りょーかいです!隊長!」」」

 大和は笑いが絶えないその場を後にし、廊下で待つ優希のもとへ向かった。

「待たせたな。さっさと風呂に行くぞ」

「う、うん・・・・・・」

 二人は部屋に戻り、着替えを手に大浴場へと向かった。

「俺が誰も入らないよう外で見張ってる。だから、さっさと行け」

「うん・・・・・・ありがとう」

「気にするな、ゆっくり入ってこい」

 優希は無言で頷き、浴場に入っていった。

 二十分ほどで優希は白銀の髪を湿らせたまま浴場から出てきた。

「もう良いのか?」

「うん、ありがとう大和。先に戻ってるね」

「あぁ、髪はちゃんと乾かせよ」

「わかってるよそんなこと! もう、いつまでも子ども扱いしないでよね!」

 優希は声を荒げて大和に文句を言うと、大きな足音と共に入浴上を後にして、部屋へと戻っていった。

「あいつ、何で怒ってるんだ・・・・・・? 思春期か?」

 大和は考えても意味が無いと判断し、気にせず浴場に入った。

「あぁ、良い湯だった。やっぱり風呂は良いなぁ・・・・・・一日の疲れが抜けていくぜ・・・・・・」

 入浴を終えて部屋に戻ると、優希が自分のベッドで髪を櫛で溶かしていた。

「髪乾いたなら飯を食いに行こうぜ?」

「うん!」

 優希は再び軍服に着替え、大和と共に部屋を出て食堂へ向かった。

 二人は食堂に到着し、厨房で動き回る中年男性に大和は声をかけた。

「いつも遅くに来て悪いな、料理長」

「いえいえ、良いんですよ隊長殿。我々は最後に頂いてますからお気になさらず」

 料理長は大和に笑顔で答える。すると、大和の後ろから優希が顔を出した。

「僕も居るんだけどねえ・・・・・・それで今日のご飯は何だいシェフ?」

「はは、これはこれは少尉殿。今日は人工蛋白をハンバーグにしてみました」

「おぉハンバーグ! 今日も美味しそうだね!」

「はは、そう言ってくださるのは少尉殿だけですよ」

 料理長は話しながら二人の食事の盛り付けを行っていく。

「少尉殿これは内緒ですよ?」

 そう言って料理長は二人のさらにもう一つ小さなハンバーグを追加する。

「料理長、この馬鹿を甘やかすのは―――」 

「私にはお二人と年が近い子供が居るんです。男性の少尉殿には失礼ですが、まるで私の一人娘と話しているような気がしましてね・・・・・・」

「料理長・・・・・・」

 盛り付けた皿がトレイの上に置かれ、パンとスープと共に提供される。

「すみません、暗い身の上話を聞かせしてしまって。あまり美味しいとは言えませんが、楽しんで行ってください」

 そう言い残すと、料理長は再び厨房の中を忙しく動き始めた。

 トレイを受け取った二人は、定位置である奥の席に座り食事を始める。すでに山岡は床で寝てしまっているが、他の隊員達は数本目の缶を開けていた。

「ねえ、大和は向こうの席に行かなくて良いの?」

「いいんだよ。飲むのは良いが、飲まされるのは嫌いなんだ」

「そう・・・・・・あまり僕に気をかけてくれなくても良いんだよ? 大和は好きなように―――」

「ごちそうさん。俺は先に部屋に戻るから、ゆっくり食って来い」

 優希の言葉を遮るようにして、大和は合掌して席を立った。優希は自室に戻る大和の背中見つめるしかできなかった。

「大和にぃの馬鹿・・・・・・」

 優希はぼそりと小さく呟き、食事に戻った。

 優希が部屋に戻ると、大和は自分のベットの上で横になって本を読んでいた。

「戻ったのか。ちゃんと歯磨いとけよ」

「もう、また子ども扱い・・・・・・」

 優希は軍服を脱いでハンガーにかける。

「何の本を読んでるの? また医学書?」

「あぁ今日、回収した本の中にあったんだよ。それに俺は医者になるって、優希と約束したからな・・・・・・おい、さりげなく俺の背中に乗るな、さっさと降りろ」

 うつ伏せで眠る大和の背中の上で、下着姿の優希が大和の肩甲骨に頬を乗せ、腕を首に絡ませる体勢で寝そべっていた。

「いつも大和は僕を子供扱いするんだから、別にこれぐらい良いじゃないか?」

「良いわけないだろ。それに部屋着は支給されてるんだから―――」

「ちゃんと僕は大人になってるよ? だから大和の鼓動が速くなってるんだよね?」

 首に絡んでいた腕は、いつの間にか大和の服の中に侵入し、掌は左胸に当てられていた。

「ねえ大和にぃ・・・・・・ドキドキした?」

 優希は大和の耳元でそっと囁いた。

「このっ!」

「きゃっ―――」

 大和は絡む腕を振りほどき、仰向けに倒れた優希の両肩を上から押さえつける。

「ふざけるのも大概にしておけ」

 馬乗りで体勢になった大和は優希に強い言葉で忠告した。しかし、優希はそれを気にすることなく、その白い指先で大和の右頬を擦った。 

「・・・・・・綺麗」

「いきなりどうしたんだ?」

「うん、大和にぃの瞳は綺麗な紫色だなと思って」

 二人はお互いに無言で見つめ合い、短い沈黙が続く。優希は何か意を決したように口を開き、それを破った。 

「ねえ、僕を本当の名前で呼んでくれないか?」

「・・・・・・駄目だ」

 大和は目を瞑り、まるで優希を諭すようにゆっくりと答えた。その言葉に抗うかのように白い掌が大和の左腕を強く握り締めた。

「お願い・・・・・・二人の時だけで良いの。ずっと名前を呼ばれてないと、自分の存在が消えてしまったみたいですごく不安なんだよ・・・・・・ねぇ、私の名前を返して・・・・・・大和にぃ」

 本来の口調に戻りながら必死の訴える優希の両目には涙が浮かぶ。だが、大和はその瞳を直視することができなかった。

「・・・・・・優希」

 大和は優希の瞳から溢れた涙を親指で優しく拭い、倒れるように身体を密着させ、力強く抱きしめた。

「俺は・・・・・・絶対にお前を守り抜くと・・・・・・二人が死んだあの日に誓ったんだ。だが俺には、まだ力が足りない。俺が腐りきったこの国を変えるその日まで、待ってはくれないか?」

「いつもそう言うだけじゃない・・・・・・一体いつになるのよ・・・・・・大和にぃ」

 震える声の優希は、大和のシャツを強く握り締めて、子供のように縋りつく。そんな痛々しい姿を見て、いてもたっても居られない大和は声を荒げた。

「俺は絶対に忘れない! 必ず、お前の名前を守り抜くから、だから、今は俺を・・・・・・信てくれ!」

 これが、今の大和が優希に言える精一杯の言葉だった。

「本当に?」

「あぁ、本当だ・・・・・・俺が今まで約束を破ったことがあったか?」

「・・・・・・それなりに」

「はは、酷評だな。でも、大切な約束は守ってきた・・・・・・そうだろ?」

「・・・・・・うん」

 大和は抱きしめる力を弱めて身体を起こし、優希と顔を合わせる。

「大和にぃの馬鹿・・・・・・見ないでよ」

「悪かったな。その、なんだ・・・・・・可愛いぞ?」

「うるさい! 馬鹿ぁ!」

 優希は大和の胸を、その小さな掌で作った拳で何度も叩いた。

「何で目を逸らしてくれ・・・・・・ないのよ」

 叩く力は弱々しくなり、真直ぐに目を見つめ続ける大和から、優希は顔をそらした。

「これが、この痛みが、お前が抱えてる痛みだろ。なら、俺が全部受け止めるだけだ」

 大和は優希の頭を撫でながら、優しくそう答えた。

「私の名前を呼ぶことができないのに、なんでそんな恥ずかしいことを真顔で言えるのよ!」

 優希は顔を真っ赤にして訴える。

「そんなこと決まってるだろ。お前が俺の命より大切だからだ」

 その言葉に優希は、覚悟を決した表情で一度背けた顔を再び合わせ、その筋肉質な身体を強く抱きしめた。

「大和にぃ・・・・・・なら、私とキスしてよ」

 静かにそして突然に放たれた優希の言葉に、大和の思考が数秒間停止する。しかし、その二文字は高速で脳内を駆け巡り、大和の顔を紅潮させていく。

「はぁ!? お、おい、いきなり何を言って!」

「大和にぃもそんな表情をするんだね。さっきは胸を当てても、表情一つ変えなかったくせに。実はドキドキしていたの?」

 泣いて腫らした瞳とは裏腹に、優希はしてやったりと言いたげな表情だ。

「うるせえ、悪かったな無表情で・・・・・・俺は男だぞ、女に抱きつかれて動揺しないわけが無いだろ」

「なら、今はキスで我慢してあげる。私のことを命より大切だって言うのなら簡単でしょ?」

 意地悪な笑みを浮かべる優希は大和に追い討ちをかけた。

「まるで脅しだな。お前・・・・・・かなり良い性格してるよ」

「でしょ?」

 大和は呆れた表情で大きな溜め息を吐き、覚悟を決めた。

「後悔するなよ」

「後悔なんて、大和にぃと一緒に進むことを決めた時から、一度もしてないよ」

「そうか・・・・・・」

 優希は仄かに紅潮した顔で優しく微笑むと、ゆっくりとその瞳を閉じた。大和は微かに赤みがかった桃色の唇を凝視する。

「くっ・・・・・・」

 意を決した大和は、優希の唇との距離を徐々に縮めていく。二人の唇が重なり合おうとしたその瞬間だった。

『ピリリリリリリリリリリリ! ピリリリリリリリリリリリ!』

 枕の傍らに置いていた通信端末から、けたたましい音量の着信音が流れた。大和はそれに跳びつくようにして即座に応答した。

「俺だ! あぁ、確認してる・・・・・・そうか、すぐに向かう。兵装の準備だけしておいてくれ」

 通信を切り、下に目を向けると明らかに不機嫌そうな表情を浮かべる優希の顔がそこにはあった。

「悪い、仕事が少し早まった」

 その一言に、優希は微かに髪を逆立てる。

「もう! 大和にぃのことなんか知らない!」

 身体を起こしてベットから降りた大和に、優希は頭から毛布を被り、強い口調で言い放った。それに対して大和は特に何も言わず、クローゼットの前で部屋着を脱いで軍服に着替え始めた。

 着替えを終えた大和は、ベットの上で毛布に包まる優希の頭をそっと撫でた。

「出る前に顔だけでも見せてくれよ?」

「・・・・・・やだ」

「そうか・・・・・・じゃあ行って来る」

 大和はその返って来た言葉にそっけなく答えると、立ち去ってしまったと勘違いした優希が、身体を起こして、毛布からひょっこりと顔を出した。

「大和に―――」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 優希の声が消えると同時に時間が静止する。白銀に輝く前髪はかき上げられ、その白い額に大和の唇が当てられているからだ。その下では優希の瞳が大きく見開かれ、顔を今までになく赤く紅潮している。静止した時間は、急激に加速する二人の鼓動と共に動きだした。

「や、大和にぃ、な、何をっ!」

「今はこれで我慢しろ。じゃあな、行って来る」

 いつも通りの表情を崩すことなくそう言い残し、大和は部屋を後にした。

 残された優希は放心状態のままベットの上に転がると、停止していた脳が今の状況を分析・再認識を開始する。

「いつもずるいよ! 大和にぃの馬鹿!」

 顔を枕に押し付け、毛布の中で手足をジタバタとさせながら優希は叫んだ。

 その頃の穴蔵の入り口では、膝から崩れ落ちて壁に背中を預けた大和が、顔を真っ赤にして大きな溜め息を吐いていた。吐き出された息は白い靄となって風と共に消え去って行った。

((((;゜Д゜))))ど、ど、どうでしたか?


(´・ω・`)次回も見てくれると嬉しいです

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