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最終話【未来への帰途】

最終話です。

読んでくださると幸いです(*´ω`*)

最終話 【未来への帰途】


 リョウメンスクナの出した被害は甚大な物であり、死者二万三千名以上、負傷者、重傷者、計七万二千名、行方不明者八百十七名という大きな爪跡を残した。

 暴露されたスキャンダルによって、復興の目途が立ち次第、衆議院、参議院ともに解散総選挙が決定された。

 世界の反応は想像以上に大きく、オリンピックによって世界中の人々が集まっているにもかかわらず、核ミサイルを飛ばした陽鮮王国に対し、国連軍が制裁に乗り出して王政は廃止され、民主国家と姿を変えることとなった。その際に芋づる式に明るみに出た、清民主主義人民共和国との国家間機密文書が露呈し、世界各国からの金融制裁が決定した。

 また、陽鮮王国が発射したミサイル搭載エンジンが ルシアン連邦製であったことも報じられ、関連性が追及されている。

 この一件を発端に、世界各国で大小様々な反応を見せ、世界の歴史は大きな転換期に突入していくのだった。

 そして未来を勝ち取った彼らは―――



 作戦を実行した大和達は、リョウメンスクナ、核ミサイルという重大な事件が発生してしまったため、警察が捜査する人員的余裕が無く、また大和達の動きを掴めなかった公安への非難を怖れた結果、文部科学省の占拠及び、逃走時の放火などの捜索は秘密裡に打ち切りが決定された。

 協力してくれたテレビ局は、様々な追及を受ける事になったが報道の自由と、また長時間の間電波ジャックを受けていたという主張を一貫し、重要な報道であったことを理由に事なきを得ていた。

 和大の舎弟達は、今回の件を深く胸の奥に仕舞い込み、日々の変わらぬ日常の中へと戻っていった。しかし、彼らの中に刻み込まれた志は消えることなく、日本の未来を支える大切な礎へと成長していくこととなる。そして彼らは生涯、八月九日という日には必ず集まり、酒を飲みかわしながら、忘れえぬ日の思い出に話を咲かせていた。

 岩本 良太は今回の事件によって、ブログと動画サイトで数十億という収入を得ていた。天照はそんな岩本を見てチクチクと嫌味を言い続けた。しかし、そのお金の殆どが心臓の悪い妹の、心移植手術の費用に当てられることを知り、己の行いを恥じた天照は、すぐさま岩本の妹の下へと向かって最高神の加護を授けるのであった。

 朝月 明は人工知能を生み出し、神落としに関する研究を行おうとする世界中の機関の妨害を行い続けた。そして将来、母方の実家の猛反発を押し切って結婚した明とアリサは、二人の子供に恵まれ、その使命を引き継ぐことになる。

 黒木場 和大は高校を卒業し、明と共に都内の大学に通うことが決まった。結局、天照から重要な話を聞き出すことはできなかった。すでに大学の推薦合格を貰い、学校に行かなくても良くなった和大は二月の終りに、訪問してきた人間の女性によって全てを知ったのであった。

 煌くその紫色の瞳の女性の腕の中には、眠る一人の乳飲み子が抱かれていた。  

 天照大御神は、正式にこの時代の最高神に挿げ替えられた。仕事を全うするために戻った伊勢の地で、彼女が心待ちにするのは、人となったこの時代の天照から送られてくる子供の写真と、家族揃っての年二回のお伊勢参りだった。

 そして大和は―――



 未来を取り戻したあの日から、四日が過ぎた。

 大和は全国のテレビに映ったことによって住所が特定され、住んでいたマンションは報道陣、警察などが押し寄せ、戻ることは不可能だった。

「にしても、蛭子って奴には本当に悪いことしちまったな・・・・・・」

「安心せい。奴はいくつもの日本での顔を持っておる。そのうちの一つが消えたに過ぎん」

 二人は新たな住居を蛭子に提供され、そこで生活を送っていた。

「大和よ、本当にもう帰るのか?」

「あぁ、大安吉日だからな。昨日あいつらに別れを言ってきた」

「そうか・・・・・・どうじゃ大和、最後に茶でも飲みに行かぬか?」

 その誘いに大和は快く了承し、向かった先は朝月家の屋敷だった。

「茶ってお前、明の家じゃねえか」

「そう言うな、アリサの紅茶は絶品じゃぞ?」

「そうだけどよ・・・・・まぁ良い、暑いし早く入ろうぜ」

 大和は呼び鈴を鳴らし、扉が開くのを待った。

「あら、大和さんと天照さん、お待ちしておりおました。お茶の準備はできてますよ」

 銀色の長い髪を靡かせながら、扉を開けるアリサは二人を笑顔で迎え入れ、明の部屋へと案内した。

 部屋の中には明、和大、岩本の三人がソファに座り、二人の到着を待っていた。

「やっと来たか、待っていたよ。外は暑かっただろう、楽に腰かけると良い」

 上座に座る明は、頬杖を突いたまま二人にそう促した。しかし、大和がソファの歩き出すと同時に岩本が立ち上がり、大和の下へと駆け出した。

「大和氏ぃぃぃぃぃ!」

「うおっ!」

 岩本は勢いのまま、その脂肪の乗った巨体で大和に抱きつくと、泣き喚き話し始めた。

「大和氏は、拙者という友達を置いて本当に未来へ帰る気でござるか? 拙者はまだ、大和氏には恩返しができてないでござる! 大和氏のおかげで命よりも大切な妹が、手術を受けれるようになったんでござる! 拙者はこの人生を掛けて恩返しがしたいのですぞ! 拙者は大和氏に、もっと楽しいことを教えたかったんですぞ! それでも帰ると言うのでござるか?」

 岩本はポロポロと涙を溢しながら、未来に返すまいと必死に大和を強く抱きしめる。

「恩返しをしたいのは俺の方だ。岩本、お前が居てくれたからこんなに仲間を集めることができた。お前が俺と一緒の飯を食ってくれたから、未来を取り戻すことができた。お前が・・・・・・俺の話を信じてくれたから・・・・・・友達になれたんだ!」

 大和の頬からは熱い波が零れ落ち、だらりと下がっていた腕は力強く岩本の身体を抱きしめる。

「俺は今まで、友達って奴が居たことが無かった。居たのは家族と部下、それに上司だけだ。俺は軍人だからな、特殊な部隊に所属してたし、自慢じゃねえけど出世するのも早かったから、友達なんてできたこともねえ、上から注意されても、部下とラフに話し続けてたのも、友達って奴に憧れてたからかも知れねえな・・・・・・。この世界に俺は、全てを失ってから来た。お前は最初、俺に怯えてたけど普通に話してくれた・・・・・・それが、すっげえ嬉しかったんだ! 本当は帰りたくなんかねえよ! 皆ともっと思い出だって作りたかったさ! だけどこれ以上この時代に居たら、皆に迷惑が掛かっちまう・・・・・・」

 大和は岩本の抱擁を解き、肩を力強く掴んだ。

「岩本、お前は俺の人生で初めての友達で、最っ高の親友だ!」

「ちょ、大和氏、それ以上はやめて、涙腺が崩壊するでござる!」

「ばーか、もう泣いてんじゃねーか」

「違うでござる、これは心の汗でござる。泣いてるのは大和氏でござろう!」

「あぁ、泣いてるさ。当たり前だろ、親友との別れは悲しいからな。だから俺は、この涙を偽ったりしねえ、俺は岩本も今日流した涙も忘れねえ! だから、最後は笑顔で別れようぜ?」

「や、や、大和氏ぃぃぃぃぃぃいぃぃ!」

 二人は再び強く抱擁し合い、そして袖で涙を拭い、二人はぎこちない笑顔で抱擁を解いた。

「ったく、お前ら二人そろって暑苦しいんだよ」

「昭和風ヤンキーの和大氏には言われたくないでござる!」 

「誰が昭和風ヤンキーだ・・・・・・ったく、俺の曾孫がピーピーと情けねえな・・・・・・だけどよ、流すべき時に涙を流せねえ大人になるんじゃねえぞ?」

 大和はその言葉に少し照れながら礼を述べる。

「そのなんだ、ありがとな」

「礼を言うのは俺の方だぜ。お前のおかげで封神石を壊すことが出来た。俺の力じゃ、どうにもできなかったからな。これであいつを守ることができる・・・・・・ありがとな」

 和大は大和を力強く抱きしめ、その硬い髪の毛を強く撫でた。

「前にも言ったが、お前は化物なんかじゃねえ、れっきとした人間だ。俺の曾孫なら胸張って堂々と生きろ、分かったか?」

「あぁ、肝に銘じておく」

 抱擁を解いた二人は、硬く握りしめた拳と拳をぶつけて別れを済ませた。

「僕で最後か・・・・・・先に言っておくが、二人のような暑苦しいのは無しにしてくれよ?」

「当たり前だ、お前に抱きつかれたら逆に引くわ・・・・・・」

 クスリと笑う明は、大和に右手の平を差し出して握手を求めた。大和はそれに快く応じ、その掌を握り返す。

「君のおかげで、アリサを守ることができた。心から君に感謝するよ」

「いや、明が居なかったら未来は変えられなかっただろう。俺にもう一度、望に会うチャンスをくれた恩は絶対に忘れない」

「僕の可愛い曾孫だ。不幸にしたらただではおかないよ?」

「おいおい、真顔で言うなよ。お前の場合、冗談になってないんだよ」

「冗談なわけが無いだろ?」

「えっ・・・・・・」

 神妙な面持ちの明に、大和は思わず凍り付いた。

「ははっ、君は揶揄いがいがあって嫌いじゃないよ」

 明は笑いながらそう言い放ち、握手を解いた。

「君の未来が、優しい希望で満ち溢れている事を祈っているよ」

 明は大和の胸を拳で軽くノックし、別れの挨拶を済ませた。

「行くか?」

「あぁ、これ以上この時代に居たら、俺は帰りたくなくなっちまう」

「そうか・・・・・・」

「なぁ、天照」

「どうしたんじゃ?」

「ずっと考えてたんだが、未来を変てしまったけどよ、それで望に会うことができるのか?」

「なんじゃ、そんなことを考えておったのか? 安心せい、毎年の神有月に出雲で神である我等が、何をしておると思っておるのじゃ?」

 ニヤリと笑う天照は、意味ありげにそう問いかけてきた。

「そんなん知るか、何やってんだよ?」

「秘密じゃ」

「何だよそれ」

 二人はクスクスと笑い合うと、再びお互いに向き合い、顔を真っ直ぐに見合わせた。

「未来で待っておるぞ?」

「あぁ、また会おうぜ」

 天照は大和の胸に抱き着き、大和もその肩を抱きしめた。

「暫しの別れ、さらばじゃ大和よ・・・・・・開け時と空間の扉よ」

 足元に展開される陣は激しく燃え上がり、天照は抱擁を解いた。

「この者をその奥へと通せ!」

 炎は完全に大和の身体を包み込み、激しく爆散する。するともうそこに大和の姿は、跡形もなく消え去っていた。


残るはエピローグ。

読んでくださると幸いです。

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