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第十二話【旧時代の夜明け】

第十二話【旧時代の夜明け】



今日は月一回ある土曜日の登校日で、午後の授業は無かった。放課後になり、天照はクラスの女子に半ば強引に腕を引かれ、文化部の見学に連れていかれてしまった。とりあえず俺は、岩本と共に家に帰ることにした。

「へぇ、ここが大和氏の自宅でござるか・・・・・・」

「あぁ、といっても住み始めて一週間も経ってねえけどな。とりあえず上がれよ」

「あ、お邪魔するでござる」

 岩本をリビングに通し、天照の部屋からノートPCを手にリビングに戻った。

「これでござるか?」

「あぁ、多分これだろ?」

「ほうほう、最近発売されたモデルですな。大和氏は一体どこでこれを?」

「妾の部屋からじゃ」

「へえ、これ天野氏の―――ひぃぃ!」

 突然現れるもう一人の声に、岩本は跳ねるように飛び上がった。振り返るとそこには、満面の笑みを浮かべた天照が立っていた。

「大和よ、これは何じゃ?」

「何って、お前のパソコンだろ?」

「違う、そうではない。 妾が聞きたいのは、なぜここに妾のパソコンがあるのかと聞いておるのじゃ」

「減るもんじゃねーんだし、別に良いだろ?」

「良くないわ! そなたにはこの世界の常識を教えぬと駄目なようじゃな・・・・・・」

 予備動作もなく放たれる拳は、的確に鳩尾を打ち抜き、その衝撃に俺はいとも簡単に膝を折らされる。

「うぐっ・・・・・・てめえ、何しやがる・・・・・・」

「当然の報いじゃ。まったく、プライバシーの侵害も甚だしいぞ・・・・・・」

「ひ、ひぃぃいぃ! 何で天野氏がここに!」

「喚くなわっぱ、近所迷惑じゃ。それに、これはそなたの差し金であろう? 此奴がパソコンなんて自ら触れるわけがないからのう・・・・・・そなたの目的は何じゃ?」

「し、知らなかったでござるぅ! これが天野氏のパソコンだと知らなかったんでござるぅ! 命だけはどうか! どうかぁご勘弁を!」

「うむ・・・・・・その言葉に偽りは無いようじゃが・・・・・・おいわっぱ、落ち着け。目的は何じゃと聞いておるのだ」

「は、はいぃ・・・・・・実は・・・・・・」

 見つめる二つの瞳に恐れをなした岩本は、事の経緯を全て天照に打ち明けた。

「く・・・・・・くく、はっはっは。なるほどのう。そなたよく考えたものだな。元凶であるミサイルを潰すとは良い考えじゃ。褒めて遣わすぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃが、二十点かのう・・・・・・厠の落書きに人々が動くとは到底思えぬ」

「そ、そうでござるよね・・・・・・でも、βチャンネルはもちろん、その他の多くのSNSは、多くの人に情報を与える力を持ってるでござる・・・・・・それに大和氏は本物でござる。タイミング良くその証拠を出せば必ずできるはずでござる!」

 辛辣な天照の評価に珍しく岩本は噛みつき、自論を展開した。

「ふむ・・・・・・だが、そなたは妾達に協力して、一体何のメリットがあるというのじゃ? 無欲の者より、まだ下心を持って近づいてくる者の方が信用できるぞ?」

 岩本はその言葉に、今までにない鋭い眼光で天照を睨みつけた。

「拙者は・・・・・・ギャルゲーが好きでござる! ラノベが好きでござる! 妹が好きでござる! 二次元の世界に行きたいと願い続けている、友達すら居ない重症オタクでござる! だけど、大和氏はそんな僕に友達と言ってくれたんだ! だったら僕は悪友役として、バットエンドなんて認めない! 大和氏をハッピーエンドへと連れて行く! それが拙者の目的でござる!」

 涙を浮かべて必死に吐き出される言葉は、嘘偽りの無いだものだった。

「・・・・・・ふん、嘘は言っておらぬようじゃな・・・・・・ならばやってみるがよい」

「は、はいぃ!」

 岩本は天照に深々と頭を下げて返事をした。

「ところで、天野氏・・・・・・やけに拙者が話すことを理解するのが早かったでござるが・・・・・・もしや、ネラーでござるか?」

「なっ―――」

 その岩本の一言で、天照は一瞬にして顔を紅潮させた。

「なんだ? ネラーって?」

「う、う、うるさい! 大和は黙っておれ!」

 口を挿んだ俺に酷く一喝し、天照は未だに頭を下げたままの岩本を無理やり起こし、その胸倉を掴んだ。

「決して妾はネラーではない! 断じてない!」

「ぬるぽ」

「ガッ・・・・・・はっ―――」

「ほう、意外と古参なんでござるな」

 それがどういう意味なのか分からないが、そのたった一度のやりとりで、天照は焦った表情で冷や汗を頬に流した。

「このことを誰かに言ってみろ。そなたは魂すら残らず灰燼にしてやろう・・・・・・」

「わ、わかりましたでござる・・・・・・ほ、ほんの冗談ですので、そ、その、絞め落とそうとしないでく欲しいでご・・・・・・ざる」

 それからしばらく時間が経過し、話がついたのか、天照と岩本はパソコンを起動させ、二人で作業を始めたようだった。

「して、どのような策で行くのじゃ?」

「と、とりあえず、ジョンタイターを参考にしようと思うのですぞ。君たちは未来から来たんでござろ?任務を帯びているというのも、彼と共通しているでござる、なによりオカルト以外にもメディアに取り上げられているでござるしね」

「ジョンタイター? なんだそれ?」

 わからない単語が出てきたのを好機と思い、俺も二人の会話の中に混ざることにした。

「うん、ジョンタイター。彼はアメリカの掲示板に自らをタイムトラベラーと名乗る人物が現れたんでござる。彼が語る未来は核汚染が深刻だった。この点においても、君たちの未来は共通している。たぶん、最初は小さい波しか起こせないでござるが、拙者にはとっておきの秘策があるんですぞ!」

「ほう、その秘策とはなんじゃ?」

「まとめサイトでござる。妹とゲームとラノベの資金稼ぎのために始めたんでござるが、意外と上手くいって、閲覧人数が月間五百万PVに到達しているんでござる。これを最大限に活用すればかなりの反響は出るはずなんですぞ」

「ふん、アフィカスめ・・・・・・」

「絶対に言うと思ったでござる」

「つまり、どういうことだよ? 俺にも解るように言ってくれ」

「大勢の人に、ミサイルの危険性を伝えることができるということでござるよ。でも、これはあくまでネタ程度としか受け取られないでござる。十分に反響を得たら、大和氏が爆弾を投下するというのが僕の考えたプランでござる。まぁ、まだ爆弾の中身を決めてないけでござるが」

 一気に喋り切った岩本は、息を切らしながら椅子に持たれかかった。

「まぁ、プランはそれで良いでじゃろう。じゃが、それを実行するには条件がある」

「いきなりどうしたでござるか天野氏?」

 天照は岩本と俺の顔を一度ずつ見つめて続ける。

「うむ、これはこの部屋の回線のみを使って実行するのじゃ。必ずしも妾達の存在を快く思わぬ者達もおるはずじゃ。万が一、ハッキングでもされてみよ、大和と妾はまだしも、そなたを危険に晒すこととなる。これだけは肝に銘じておけ・・・・・・良いな?」

「わかったでござる、天野氏!」

 こうして、岩本によるネット工作というものが開始された。最後まで俺にはどういった事をするのか分からなかったが、天照も賛同していることもあり、深く追求することをしなかった。

「ところで大和氏、何でここに天野氏が居るんでござるか?」

「何って、一緒にこの家に住んでんだよ」

 俺はテレビのボタンを押し、ソファーに座る。

「ふーん・・・・・・はっあぁぁああぁぁぁ!? 若い男女が同じ屋根の下で二人っきりでござるか! しかもクラスのアイドルで超美人の天野氏と?」

「いきなりなんだよ、テレビの音が聞こえねえじゃねえか。それに話してなかったか? 天照と暮らしてるって」

「まさか天野氏が天照大御神様だとは思わないでござる! この超絶リア充め、爆発するでござる!」

「いきなりなんだよ物騒なこと言いやがって」

「まぁ、良いでござる・・・・・・とりあえず僕は、一旦家に帰って道具を取ってくるでござる。せっかくの土曜ですからな、今夜は祭りですぞ!」

「何言ってんのか分からねえけど、気をつけてな。飯は天照が準備しておくだとさ」

「天野氏の手作り晩ご飯とか何のご褒美? 絶対生きてここに帰って来るでござるよ!」

 大げさに岩本はそう言うと一旦家へと帰っていった。それから二時間と掛かることなく戻ってくると、俺達と一緒に飯を食べた。その際岩本は、天照の作ったハンバーグという料理を涙ながらに頬張っていた。

「じゃ、早速始めるでござる。スレが勢い付くまで、自演したいでござるから、IDが被らないように、大和氏と天野氏はスマホを借りたいでござる」

「そうだな。だが、妾は自分でやれる。大和、そなたのスマホを岩本に貸してやるがよい」

「ん? あぁ、分かった」

 俺は岩本にスマホを渡し、岩本は慣れた手つきで操作を始めた。

「それじゃ、スレ立てするでござるよ・・・・・・伝説の始まりでござる!」

『ッターン!』

 岩本のキーボードが強く叩かれる。その音が消えると同時に、岩本は凄まじい速度で己のノートPCと俺のスマホを操作し始めた。

「手始めに天野氏! ジョンタイター乙とでも、書き込んで欲しいでござる」

「了解じゃ!」

 こうして、俺の理解の及ばない場所で戦いは始められた。部屋に響くのは、キーボードを叩く音と、二人の苛立ちながら呟く声だけだった。



 深夜、上限の月が照らす夜道を一人の男が歩いていた。

「ったく明の奴、こんな時間に呼びつけやがって、一体何の用だ?」

 男は通りから一本細い道に入り、目的の家に辿り着いたのか、荒々しくチャイムを鳴らした。

「はーい・・・・・・あ、和大さん」

 扉を開けて出てきたのは、流暢な日本語を話す、銀髪で灰色の瞳の少女だった。

「夜分遅くに悪いなアリサ」

「また、明さんに急に呼び出されたんでしょう? いつも迷惑をおかけして、本当にすみません。さぁどうぞ、お上がりください」

「悪いのはあいつだ。アリサは謝らなくて良い。それで、明は部屋か?」

 慣れた様子で和大は家に上がり、廊下を進む。

「はい、明さんは自室にいらっしゃいます。すぐにお茶をお持ちしますね」

「俺にそこまで気を使わなくて良いぞ。俺は別に客ってわけじゃねえしな」

 和大はアリサにそれだけ伝えると、階段を登って目的の部屋に向かった。

「入るぞ」

 ノックもすることなく開かれる扉。その中は明かりが灯っており、広い部屋の中で一人の男がモニターと向かい合っていた。

「部屋に入るときはノックしろといつも言ってるだろう」

「俺もいつも言ってんだろ、深夜に呼び出すのはやめろってな」

 和大は応接室のような椅子に腰かけ、モニターから覗かせる銀髪の少年に声をかけた。

「机の上の紙に目を通してくれ」

「あ? なんだこれ?」

「今、僕たちが調べている内容に酷似している点がいくつかある。和大、君の見解が聞きたい」

 和大はガラステーブルの上に無造作に置かれた紙の束に目を通し始めた。その紙には掲示板の書き込みが印刷されており、最後まで読み終えた和大は、驚愕の表情を浮かべていた。

「おい、これって・・・・・・」

「あぁ、僕たちが掴んでいる神落としの研究情報。そして国会議員に紛れ込んだ陽鮮王国のスパイの動き・・・・・・」

「この内容、俄かに信じがたいが・・・・・・ビンゴだな。それで、もうこの書き込みをしている奴は調べてるんだろ?」

 和大は手に持つ紙の束を机の上に戻し、明に問いかけた。

「もちろんだ。もうすぐ作業が終わるから待っていてくれ」

 明がそう答えると同時に、閉まっているドアからノックの音が響いた。

「入ってくれ」

 明が短くノックの答えると、銀色のトレイを持ったアリサが入ってきた。

「失礼します。紅茶をお持ちしました」

「わざわざ悪ぃなアリサ。気にしなくて良いって言ったのによ」

「いえいえ、朝月家に仕える者として当然のことです。それより、お二人は何の悪巧みをしてらしたのですか?」

 アリサはカップに紅茶を注ぎながら、揶揄うように和大に問いかけた。

「お、相変わらず俺達は信用がねーな。おい明、俺達がまた何か仕出かすんじゃないかって、お前の嫁が疑ってるぞ」

「アリサ、君は知らなくて良いことだ。夜遅くまで仕事をさせてすまない。今日はもう部屋に戻って眠るんだ。良いね?」

「むぅ、せっかく私の分も用意しましたのに・・・・・・分かりました。では、失礼致します」

 アリサは、少し剥れていたものの、明の言葉に素直に従って部屋を後にした。

「せっかく準備してくれたんだ。もう少し優しくしてやっても良いんじゃないか?」

「これで良いんだよ。あれは僕のものだ。どう接するかは僕が決める。それに、そういう君はどうなんだい? 春休み中はずっと向こうに行っていたようだけど」

 唐突にぶつけられる明の問いに、和大は頬は真っ赤に染まっていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、そのなんだ・・・・・・いつも通りだったよ」

「ふっ、君は相変わらず嘘が下手だな」

 和大の言葉に鼻で笑った明は、変わらない声のトーンで感想を述べてきた。

「うるせえよ! さっさとその作業を終わらせやがれ!」

「あぁ、丁度終わったところだ。今、判明した事を簡単にまとめて印刷してところだよ」

 プリンターが紙を吐き出す音が止み、明は軽く伸びをして椅子から立ち上がると、印刷された紙をバインダーに挟み、和大の向かい側の椅子に座った。

「まぁ、こんな所だ。見てみてくれ」

 明は、その手に持つバインダーを和大に手渡し、中身を読むように促す。

「簡単に説明しよう。その書き込み元をサーバーに入り込んで調べてみたら、西新井のマンションの一室からだった。そのマンションを借りていたのは、蛭子 商児。うちの学校の理事長と同じ名前だ。だが、理事長は六本木住まいで、西新井にわざわざ住む理由はない。そこで、学校の生徒の中にこの住所で登録された者が居ないか、学校のサーバーをハッキングして名簿を調べてみた」 

「・・・・・・げっ・・・・・・やっぱりあいつが関わってくるのか」

 和大はその紙に書かれた名前を目にして、面倒くさそうに肩の力を抜いた。

「知り合いか?」

「知り合いも何も・・・・・・こいつ、天照だ」

「僕と同じクラスだから顔は知っているよ。君も隅に置けない奴だね」

「うるせえよ。さっさと話しを進めろ」

 表情一つ変えずに茶化してくる明を、和大は一蹴して続きを話すように促す。

「それともう一つ、君にとって気の毒な話になるが、もう一人、黒木 大和という男子生徒も同じ住所で登録されていた。この二人は、昨日揃って僕のクラスに転入してきている」

「どういうことだそれは!」

 明の言葉に、和大は激昂して叫んだ。

「さぁ、若い男女が同じ屋根で寝るんだ。そういう事なんじゃないのかい?」

 取り乱す和大に、明は冷静に油を注いだ。

「ふざけるな! あいつ、俺が居ながら何で!」

「まぁ、落ち着いてくれ和大」

「これが落ち着いていられるかってんだ!」

「まぁ、そうとは決まってない。話を聞いてからでも遅くはないだろう?」

「これ以上、何の話を聞けって言うんだよ?」

 完全に聞く耳を待たない雰囲気の和大に、明は溜息を吐き出して口を開いた。

「はぁ・・・・・・簡潔に言おう。今、この時間軸の世界には天照が二人いる」

「はぁ? 何言ってんだ?」

「あくまで推察だ。説明してやるから椅子に座れ」

 明は、紅茶を口に含みながら和大に椅子に戻るように促した。

「この黒木 大和という生徒は、この世界に存在した形跡が全く無い。戸籍どころか出生届、日本全国のありとあらゆる役所、銀行、などの管理サーバーをハッキングして洗い浚い調べたが、彼に該当する人物は皆無だった。ここっから得られた情報と、掲示板の書き込みから、僕はある推論にたどり着く・・・・・・彼らは本当にタイムトラベラーだ。おそらく天野 照美は君の知る天照大御神じゃない。未来の世界から、この時代に戻ってきた天照大御神だ」

あまりにも信憑性に欠ける話に、和大からは乾いた笑いが零れだした。

「タイムスリップ? 現実はSFじゃねえんだ。ありえねえだろそんなもん」

「だが、君はそのSF染みた世界を知っているはずだ。実際に神落としも、現実に起きていることを確認してきてくれたのは君だろ?」

「・・・・・・月曜日、こいつらに話を聞きに行くぞ」

 口元を手で覆い、目線をテーブルの上に置かれ紙に向ける和大はそう提案した。しかし明は平静をどうにか保っている状態の和大を鼻で笑い、口を開く。 

「ふっ、珍しく怖気づいたのかい? 今から行くんだよ、僕たちはこの住所にね」

 優希は立ち上がり、掛けてあった薄いコートに手を伸ばした。

「おい本気なのか?」

 だが、明はその質問には答えることなく、手に取ったコート羽織って口を開いた。

「まだ、春の夜は冷えるからね・・・・・・外にタクシーを待たせてある。座ってないで早く行くよ」

 明は、そう言い残して部屋を後にした。置いてけぼりになった和大は、歯ぎしりしながら机の上に乗った資料をかき集め、駆け足で先を歩く明を追いかけた。



 深夜三時をとうに過ぎ、時計の針は四時に差し掛かろうとしていた。

「ふわぁー・・・・・・」

 テレビが映す番組は既に、商品をひたすら紹介する番組だけになり始めていた。

「ふぅ・・・・・・これぐらいでどうでござるか天野氏?」

「うむ、オカ板に移ったタイミングが絶妙であったな。まぁ、良い出来じゃろう」

「ふー、OK頂きました! それじゃ早速、このスレをまとめサイトにUPするでござる!」

「そなたの糧になるのは癪に障るがまぁ良い・・・・・・アフィカス死ね」

「美女の言葉攻めは我々にとってご褒美(ry」

 天照は抱いていたクッションを岩本に投げつけ、手元に置いていたペットボトルのお茶を飲みほした。

『ピンポーン』

 突如鳴り響くベルの音。皆は一様に顔を合わせる。

「僕、デリバリーなんて頼んでないでござるよ?」

「酔っ払いか何かじゃろ。大和、見てきておくれ」

「何で俺が・・・・・・わかったよ」

 口答えすると同時に発せられる天照の強烈な視線。それを感じ取った俺は何かあるのだと察し、玄関に向かった。

「こんな深夜に誰だよ?」

 警戒を感じさせぬ声を発しながら玄関のカギを開け、その扉が開くのを臨戦態勢で待ち構えた。ゆっくりと回されるドアノブとは裏腹に、勢いよく開かれる扉。それと同時に入り込んでくるのは、短く切り揃えられた黒髪の少年。

「てめえ、やっぱりここに居やがったか!」

「お前はこの間の・・・・・・!」

 対面と同時に放たれる拳を腕でいなして回避する。目の前に居るには、転入初日に高架下で拳を交えた和大その人だった。

「何でてめえが、天照と暮らしてやがる?」

「お前、どこで天照の事を?」

「質問を質問で返すんじゃ―――いぎぃっ!」

 数回瞬いた閃光と同時に、和大は短い奇声を上げて倒れ込み、銀髪の眼鏡をかけた少年が倒れた和大の陰から姿を現した。

「夜分遅くにすまない。はぁ・・・・・・この馬鹿が僕の話を聞かずに、突っ走ってしまったんだ。僕たちは君たちに聞きたいことがある。上げてもらえるかな?」

「朝月 明か・・・・・・丁度良い。俺もあんたに聞きたいことがある。入れよ、茶ぐらい出すぜ」

「丁寧な対応、痛み入るよ」

 明は手に持つスタンガンをポケットに仕舞うと、遠慮することなく部屋に上がった。

「おい明、どういうつもりだ?」

「もう起きたのか? 相変わらず君はタフだな。それはこっちのセリフだよ和大。僕達は情報を仕入れに来たんだ。君の感情に振り回されている、時間は無いんだ。少し頭を冷やすんだな」

 和大が立ち上がるのを待ち、俺は二人をリビングへと案内した。

「ひ、ひぃ! 何でスーパーハッカーと番長がここに!」

「ほう、もう嗅ぎ付けて来よったか。流石じゃな、一週間は掛かると踏んでたんじゃのう」

「天照! お前どういうつもりだ!」

 和大はすぐさま天照の下に駆け寄ろうとしたが、すぐさま明に後ろ襟を掴まれ、脚を滑らせて転倒した。

「何しやがる!」

「邪魔だ。今の君では話にならない」

 明は、ズレた眼鏡の位置を修正し、天照と対峙する。

「信頼を置く友人が動揺する姿はあまりにも見るに堪えないんでね。君の前置きは要らない。率直に聞くから素直に答えてくれ」

「ここまで来た褒美じゃ。何なりと聞くが良い」

「お前は、未来から来た天照大御神だ。今この時代、日本の最高神は二柱存在している。これは僕が立てた推論だ。間違いは無いか?」

「正解じゃが、五十点といったところか。確かに妾は未来から来た天照大御神じゃ。だが、この時代の浮世の最高神ではない。妾はそこのわっぱと共に己の世界を捨てて来たからのぅ。民の信仰の力は全て、この時代の天照が独占しておる」

「補足をありがとう。それと、君たちが立てたスレッドに書かれていたことは全て事実か?」

「多少のフェイクは含まれておるが、大まかな事実を記しておる」

「これで質問は最後だ。君達はこの世界をどうするつもりだ?」

「・・・・・・そなたの子、孫、子々孫々が今と同じように安らかに暮らせる世界といったところか」

 重苦しく緊迫した空気がこの空間を包み込む。天照は余裕の笑みを浮かべ、沈黙する明の反応を待ちわびていた。

「・・・・・・良いだろう。僕はあなたに協力する。和大、君はどうするんだい?」

「勝手に決めるな! こいつらが居なくても、俺達だけの力でどうにかできるはずだ!」

「・・・・・・君も分かっているはずだ。彼らがここに来たということは、僕たちは戦争も封神石の破壊もできなかったということだ」

 明の口から告げられる二人を待つ未来の結末。額を掌で力なく押さえている和大の口からは、自分を責める言葉が零れ落ちた。

「・・・・・・くそ、俺は・・・・・・何もしてやれなかったっていうのかよ・・・・・・」

 今にも泣き崩れそうなその様子を、天照は悲しげな表情で見つめていた。

「Xデーは二月二八日と判明した。残り十ヶ月を切った今、僕たちには時間がない。僕たちの目的、プラン、得ている情報を話す。だから、君たちのプランを聞かせてくれないか?」

 隣で打ちひしがれている和大をそのままに、明は話を切り出した。それに答えたのは俺ではなく岩本だった。一通りの実行中だったプランの概要を話を終え、緊張感がほぐれてきたのか、岩本はこのプランについての評価を明に求めた。

「悪くないと思う。だが、少し不用心だったと言わざる終えない。そもそも、僕たちがここに来れたのは、日本政府が秘密裡に研究していた神落としについて調べていたからだ。これは最重要国家機密の一つ。消されていてもおかしくはなかった」

「ひ、ひぃ! そんなにやばい情報だったでござるか?」

 岩本の質問に、明は黙って頷き返した。

「さっきも口走ってしまったが、僕と和大は戦争を止めるのが目的でね、日本政府が手に入れた強大な力、神落としという技術を兵器転用を阻止する必要があったんだ」

「神を兵器に・・・・・・?」

「君が掲示板に書き込みをしていたんだろ? 全てを消し去る能力を持ってるとね」

 明のその言葉に、岩本は目を見開いて俺の方へと目を向けた。

「察しが良い人は好きだよ。君の考えている通りだ。そこに居る彼のような、神と人間を融合させた人間兵器はすでに完成している。もし、これが量産体制に入れば、日本政府は避けていた戦争を始めるだろう。・・・・・・僕はウクライナの出身でね。六年前の戦争で両親を亡くして、母方の実家がある日本に渡ってきたんだ。これ以上、ようやく手に入れた平穏を乱させる訳にはいかないんだよ。それに、神落とし技術を全て無に帰すことで、日本から始める戦争は無くなり、僕の口から話すつもりは無いが、和大の目的も果たされる」

 表情の曇っていた明は、己が話し過ぎていると気が付き、一度咳ばらいをした後、再び口を開いた。

「僕たちと君たちの目的は一致している。だから黒木 大和、僕に力を貸してくれないか?」

 差し出される白い掌。それは握り返されるのをただ待望んでいる、俺に迷う余地など無かった。すぐさまその掌を握り返し、はっきりと俺はこう答えた。

「それはこっちのセリフだ。俺と一緒にこの世界を救ってくれ」

 交わされる固い握手。窓の外からは微かな光が差し込み、それはまるで様々な思惑が立ち込めるこの世界に、夜明けが近いことを静かに告げているかのようだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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