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第十一話【初めての友達】

旧時代編が本格的にスタート!

新しいキャラクターが出てくるので読んでくださると幸いです!

第十一話【初めての友達】


 落ち着きを取り戻した俺たちは、家へと帰り着いた。

 家までの経路には、様々な施設や多くの人々が溢れて、改めてこの時代は豊なのだと思い知らされた。

 時間の制約のない温かい風呂。清潔な衣服。そして何より飯が旨かった。生活の基本は俺の居た時代とそう変わることは無かった。

 一通りやるべきことを終えたところで、天照は俺にこの時代と今後の事を教えてくれた。

 今居る時代は、二〇二〇年の三月末日。当面の間の目標は、協力者である天照の知り合いが運営する学校施設に通い、周囲に不信感を与えずにこの時代の生活に慣れることから始めるそうだ。学校は四月三日の新学期初日に転入し、最上級生である三年から始めるとのことだった。

 質問はあるかと聞かれ、真っ先に聞いたことは、なぜフェンリルが外に出ているのかということだった。天照が言うには、依り代である俺の身体以外に、仮代と呼ばれる憑依できる物を用意することさえできれば、別々に行動することが可能になるとの事だった。危険は無いのかと何度聞いても天照は、俺が寝ている間にフェンリルを説得した。しばらくの間は心配いらないの一点張りだった。

 他に色々聞こうと思っていたが、聞きたいことが分からないことに気が付き、俺は最初に目覚めた部屋に戻った。

 それから学校が始まる数日間は、お店での商品の購入方法、周辺の施設、電車に乗るためのパスカの使い方を学んだ後、学校までの経路と、天照に連れられて転校に伴う教員への挨拶を済ませた。

 家ではテレビを見たり、買い与えられた携帯を触ってみたり、ソファで昼寝したりしていた過ごした。眠りから覚めると、フェンリルが俺の部屋で寝ていたりしたが、俺が起きるとすぐに離れて行ってしまった。

 そして四月三日。初めて学校に通学する日は訪れた。

「大和、準備はできておるのか?」

 朝食を済ませた天照は、食器を洗い終えるとテレビを眺めていた俺に声を掛けた。

「あぁ、昨日のうちに済ませておいた」

「では、そろそろ行くぞ」

「わかった」

 俺は見ていたテレビを消し、部屋に戻って掛けておいた学ランを羽織り、鞄を肩に掛けて玄関に向かった。

 西新井駅から東武スカイツリーラインという路線に乗って北千住駅まで移動し、私立足立学院の高等部学舎へと向かった。

 天照と共に、職員室への二度目の挨拶を済ませ、教室に案内されるまで視聴覚室で待機することになった。

「分かっておるであろうな?」

「何度も聞いたさ。ここでの俺の名前は、黒木 大和だろ? ちゃんと分かってるさ」

「そなたが未来に戻る時に困るからな。絶対にその名を明かすで無いぞ?」

「了解だ。気を付けるよ」

 それから十数分が過ぎた頃、朝礼の時間が始まるらしく、担任の教師が迎えに来た。

「待たせて済まないね。もうすぐホームルームが始まるから、教室に行くとしようか?」

「はい、よろしくお願い致しますわ」

 俺がこの口調の天照を見るのは、転入前の挨拶と今日の二回目だった。あの独特な口調になれてしまったせいか、学校に来ている時の天照はまるで別人だった。

 俺も天照に習い、担任に頭を下げて教室へと向かうことにした。

 教室までの道中は、他愛もない話が続き天照が相槌を打っていた。この学校は元々男子校で、二年前に男女共学になったこと、女子生徒が少ないこと、多少の不良生徒という存在のことなどを話終えた頃、教室に到着した。

「ここだ。呼び入れるのも面倒だから、一緒に入ってきたまえ」

 その言葉に天照は可憐な声で短く返事をし、俺も小さく頷いたのを確認した担任は、その白い引戸を開けた。

 慣れた足取りで教壇に立つ担任は、手に持ってきたバインダーを開き、口を開いた。

「えー、見ての通り、今日から共に勉学に励む転入生だ。さぁ、一人ずつ自己紹介を頼む」

 担任は、突然現れた俺達に興味津々の生徒たちにそう前置きして、長いチョークを俺達に差し出した。天照は俺が戸惑うのを理解してか、先にチョークに手を伸ばした。

 チョークを受け取った天照は早速、黒板に白色のチョークを滑らせ、綺麗な文字で名前を書き上げた。

「初めまして、天野 照美と申します。両親の仕事の都合で、三重県から引っ越してきました。新しい学校なのですごく緊張してますが、皆さんと学校生活を頑張りたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します」

 深々と頭を下げる天照。再びその折れ曲がった背中が伸ばされる。数瞬の無音に近い静寂の後、塞き止められていた配管が破裂するかのように、歓声が沸き起こる。

「「「「「「うおぉぉおぉぉおぉおぉぉおぉ!」」」」」」

「可愛いぃぃぃよぉぉ照美ちゃーん!」

「いやマジで?完全にキタコレ!」

「清純派であるな・・・・・・やっと、俺のヒロインが現れたか・・・・・・」

「うおぉぉぉ! リアル女神降臨じゃん!」

「コラ、お前ら! うるさいぞ静かにしないか!」

 担任が騒ぐ生徒達を沈めている最中に、天照は生徒達に向けて一度だけ優しく微笑み、火に油・・・・・・火にガソリンを流し込むように歓声を再燃させた。俺はそのあまりにも強烈な光景に唖然としてしまった。

「まったく、ようやく静かになったな。じゃあ君も自己紹介をたのむ」

「あ、はい」

 呆気に取られたが、天照のおかげで自己紹介の流れは掴んだ。挨拶、名前、転入の理由と決意表明。これさえ言えれば大丈夫なはずだ。俺は天照から受け取った白いチョークで名前を黒板に書き上げる。

「俺の名前は、黒木 大和だ。ここへ来たのは・・・・・・何もかも壊されちまった世界に、平和を取り戻すためだ! この時代に来たばかりで何も解んねえけど、俺はこの世界を守りたい。だから力を貸してくれ! 頼む!」

 俺は頭を深々と下げて顔を上げた。静まり返る教室。隣に立つ天照は額に手を当てて俯いている。そしてそれは俺にも訪れた。

「ぎゃっはっははっは! 何だこいつ中二病かよ!」

「うわぁ、マジかよ・・・・・・」

「高校生になってこれは引くわ・・・・・・」

「黒木氏。それって拙者が読んでないラノベの設定か何かでござるか?」

「お、お前たち騒ぐな、可哀そうだろ!」

 爆笑する物、嘲笑する者、興味を持つ者。様々な反応を示す生徒たちに、担任は焦ったように声を荒げた。

 そうやら俺は可哀そうな生徒のようだ。

「黒木、転入早々あまりふざけるんじゃないぞ」

「は、はぁ・・・・・・」

 とりあえず解ったことは、俺の自己紹介は駄目だったということだった。

「席は窓際の一番裏に用意してある。どちらでも構わないから二人は着席しなさい。

「はい。ありがとうございます」

「・・・・・・はい」

 俺と天照は生徒たちの座る机の間を抜け、自らの席に着席した。俺が窓際で、天照が廊下側に腰を下ろした。

 着席をすると、俺達には二種類の目が向けられる。天照には好意の目が。もちろん俺には、好奇の目だった。

 ホームルームが終了し、始業式のために体育館へと移動した。その間、天照の周りには男子生徒と数の少ない女子生徒の人垣が形成され、俺の周りには誰一人寄り付かなかった。

 校長の長い挨拶を終え、理事長挨拶とスピーカーから声が発せられる。そして、黒いスーツに身を包んだ三十前半ほどに見える若い男が壇上に上がった。

 当たり障りの無い内容を手短に話終える。そして数秒間こちらの方を向いたかと思うと、特に何もなく壇上を後にした。

 式が終り、教室に戻った俺たちは教室に戻った。休み時間も当然、天照の元に生徒たちが群がって居たため、俺はこの十分間を学校内の散策に当てることにした。

「地上建てってことは、京都の基地と似た感じだな。おっ、食堂があるのか。後で天照を誘って行ってみるか・・・・・・」

 休み時間の終わりも近づいていたため、俺は教室へと戻った。

 クラス替え直後のため、自己紹介が行われ最初の一時間が潰れた。その次の時間は、俺達二人には関係の無い春休みに出されていた課題の回収が行われ、それが終る頃には昼休みになり、昼食の時間となった。

 休み時間毎に囲まれる天照は、号令が終ると同時に俺に声を掛けた。

「黒木くん・・・・・・黒木 大和君くん」

 偽名であるため、二度目に呼ばれるまで気が付くことができず、俺は慌てて返事をしようとした。

「どうしたアマテ・・・・・・天野?」

 その名を呼ぼうとした瞬間、俺に向けられていた天照の眼光が鋭く光り、思わず口を止めて訂正した。

「この学校には食堂があるらしいので、一緒に行きませんか?」

「あぁ、俺も丁度お前を誘おうと思ってたんだ」

「聞いた話なので場所が分からないのですが、黒木くんはご存知ですか?」

「さっき散歩して見つけたから分かるぞ」

「それはよかった。では、ご案内してくれませんか黒木くん?」

「おう、腹が空いたからさっさと行こうぜ」

 会話が一区切りしたのを見計らって、俺は廊下へと歩き出した。周囲では何が起きたのか分からずに固まったクラスメイトが引き攣った表情で俺を睨み、その後ろを歩く天照の背中を見送った。

 廊下に出て扉を閉めると、中からは阿鼻叫喚の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

「お前、そのわざとらしい話し方やめろよな」

「どうじゃ、気品の溢れる妾に良く似合っておるであろう?」

 心底面白そうな笑みを一瞬浮かべて天照はそう答えたのだった。

 後ろから無言の圧力をかけて付いてくるクラスメイト達。俺の隣を歩く天照を奪おうと接近して、声を掛けようとするも、タイミング良く天照が俺に話しかけてくるため、彼等は目的を達成することなく食堂に到着したのだった。

「確か、右に曲がって・・・・・・あぁ、ここだ。けっこう席は埋まってるみたいだな」

「あ、黒木くん見てください。あそこで食券を買うみたいですよ?」

 食堂の中に入り、空いている席を見渡していると、天照が袖を軽く引いて俺を機械の前で並ぶ列へと連れて行った。その一連の様子を見ていた背後のクラスメイト達の俺に対するヘイトは明らかに高まっている。

「なんであの中二病野郎が俺の照美ちゃんと・・・・・・!」

「嘘・・・・・・私の照美様が、変人にお触れあそばされた・・・・・・?」

「そこ変われよクソが!」

「なんで女神様があんな奴を・・・・・・」

 微かに聞こえる怨嗟の声。困る俺の顔を見てほくそ笑む日本の最高神。状況は最悪だった。しかし、天照の策略は終わらない。

「あ、黒木くん順番が回ってきましたよ」

 天照は千円札を機会に入れ、俺に選ぶように促した。

「この、うどんって奴は旨いのか?」

「はい、美味しいですよ。ですが黒木くんにはカレーの方がオススメかもしれませんね」

「カレー? なんだそれ? まぁ良いか、じゃあそれにするよ」

 俺は天照のオススメされた、カレーと書かれたボタンを押した。

「フフッ―――」

 俺は見逃さなかった。天照がボタンを押した瞬間に天照は俺にだけ見える角度で作られる悪魔のような笑みを。そして気が付いてしまった。まだこの時代の金を持たされていない俺は、他人から見ると天照に奢らせているようにしか見えないのだ。

「てめえ、嵌めやがったな・・・・・・」

 俺が吐き出した小さな抗議の声を天照は華麗に無視しを決め込み、うどんの食券を購入した。

「さ、行きましょ?」

「お、おう・・・・・・」

 出てきた食券を俺に差し出し、天照は俺の背を押して厨房前へと歩くように促した。

「おい、見たかよ。あいつ照美ちゃんに奢らせたぞ?」

「どうなってんだ! まさかあいつに脅されてるんじゃ・・・・・・」

「あいつ、人間のクズだな」

「空のプールに飛び込めよマジで・・・・・・」

 歩ている最中真横から発せられるのは殺意の視線と呪いじみた声。もはや暴動が起きるのは時間の問題に思えた。

 食券を渡し、素早く出てくる食事をスムーズに受け取るというシステムに感動を覚えつつも、込み合った食堂の中で、二人で座れる席を探していると、一番奥のテーブルだけ誰も座っていないことに気が付いた。

「おい天野、あそこが空いてるから座ろうぜ」

「そうですわね。料理が冷めてしまう前に頂きましょう」

 俺と天照は、見つけた奥の席に座り、食事を開始する。

「受け取った時に思ったんだが、実際に食べるとなると・・・・・・これ駄目な奴だろ。食物じゃなくて排泄物の間違いじゃないのか?」

「騙されたと思って食べてみよ。頬っぺたが落ちるほど美味であるぞ?」

 まだ誰も、この席に来てないことを良いことに、天照は口調を戻して俺に早く食べるように促した。

「散々、俺を嵌めたお前の言葉を信じろっていうのか?」

「ならば、妾がその皿を平らげても良いのだぞ?」

「誰がやるか、これは俺のだ!」

 怪しい笑みを浮かべる天照に警戒し、素早く匙で容器の中身を掬って口の中へ運んだ。

「何これ、マジで旨え!」

「ほれ、だから言ったであろう」

 あまりの旨さに、俺は無我夢中に匙でカレーを掬っては口へと運ぶ作業を繰り返した。

 氷水で一度落ち着きを取り戻した時、俺は天照の取り巻きが全くこの席に近寄ってこないことに気が付いた。

「なあ、ちょっと聞いて良いか?」

 そう考えていた矢先に背後から声をかけられたため、俺は快く了承の返事をした。

「あぁ、席なら空いてるだろ? 俺達だけの席じゃねえんだ。一々了承なんて要らねえだろ?」

 俺の返答に、周囲がざわめくのが見て取ることができた。

「そうじゃねえ、ここが誰の席だか知ってんのかって聞いてんだよ!」

 突然怒鳴りだす背後の生徒。今までの喧騒が嘘のように静まり返る食堂内。天照は気にする様子もなく、うどんと呼ばれている白い麺をお上品に食べている。

 助け船は無いと判断した俺は、掬っていたカレーを口に運び飲み込んでから答えた。 

「知るかよ。生憎、俺たちは今日この学校に来たばかりなんでね。席が決まってるんなら立札でも立てとけよ」

 身体を捻って振り返ると、そこには青筋を立てた茶髪の男子生徒が立っていた。

「良い度胸じゃねえか・・・・・・!」

 茶髪の男子は拳を振り上げ、俺に目がけて一気に振り下ろした。

『バチィッ!』

 革の弾けるような乾いた音が食堂に響き渡る。

「なっ・・・・・・」

 掴まれた拳に驚く男子は、数秒間固まった後、俺の掌から拳を離そうと腕を引っ張り始めた。

「腕っぷしは良いんだけどなぁ、如何せんモーションが大き過ぎだ。コンパクトにしねえと軌道を読まれて掴まれるぜ? こんな風にな」

 早くカレーを食べたかった俺は、食事に戻るために手を離そうとしたその時だった。

「おい木村、何やってんだ!」

「あ、兄貴! 丁度良いところっす! こいつが兄貴と俺達の席に・・・・・・え、ちょっ、グフッ!」

 兄貴と呼ばれた男は、その背後に多くの取り巻きを連れて現れ、茶髪男子の胸倉を掴み、鳩尾に一発入れて延びさせた。

「通りでいつも混んでるはずの食堂で席が空いてるはずだ・・・・・・悪い、俺のダチが迷惑かけたな。怪我は無いか?」

「いや、どうもねえよ」

「こいつには良く言い聞かせとくから、どうか許してやってくれねえか。虫の良い話だってことは理解してる」

「別にこれぐらい普通の事だろ。一々、こんなの気にしてたら切りがねえしな」

「すまん、本当に恩に着る・・・・・・」

 黒髪の男子生徒は俺に頭を下げて謝った。

「もうすぐ食い終わるから、飯持ってくる頃には座れるぜ?」

「気まで遣わせてしまって悪いな。だが、今日は飯抜きだ。俺に隠れてこんなことしてやがった、あいつらに焼きを入れてやらねえと」

 黒髪の男は、親指で後方で待ってる取り巻きを指さしてそう答えると、まだ腹を抑えている茶髪男子の後襟を掴んで去っていった。

 俺は正面に向き直して、残りのカレーを口いっぱいに頬張って皿を空し、天照に声を掛けようとしたが、その姿は既に消え去っていた。

「何だあいつ、勝手に帰ったのか?」

 天照の行動が読めるはず無く、深く考えるのは無意味だと判断した俺は、食器を返却口に置いて食堂を後にした。

 天照が戻ってきたのは五時間目に入る寸前だった。クラスの取り巻きに出迎えられながら自分の席に着席した。

「大和、大和よ・・・・・・さっきは急に消えて済まなかったのぅ」

「別に、なんとも思ってねえから気にすんな」

 小声で話しかけてきた天照に返答し、俺は鞄の中から五時間目の教科である国語の教科書を取り出した。

 教壇側の扉が開き、教員が入ると同時に鐘が鳴り始めた。日直が号令を掛け、授業前の一連の儀式を終えると同時に全ての生徒は着席する。

 教壇に立っている教員は、自分に視線が集まったのを確認すると口を開いた。

「今日から新学期だ。君たちもこれが今年度最初の授業になると思う、気を引き締め―――」

『ガラッ―――』

 突然開かれるロッカー側の扉。そこから無言で入ってきたのは、美しい光沢を放つ銀髪の男子生徒だった。

「おい朝月、遅刻だぞ!」

「・・・・・・」

 朝月と呼ばれた銀髪の生徒は何も答えず席に座り、鞄を開けて取り出したのは教科書の類ではなくノートパソコンだった。それを見てすぐさま教員は激怒する。

「おい、授業中にどういうつもりだ!」

「見てお分かりになりませんか? 出席日数稼ぎですよ。どうせ、ここに居る皆よりテストの点数は良いんです。受ける意味もありませんし、時間は有効に使わないと―――」

「ふざけるな! そのパソコンは即没収だ、今すぐ持って来い!」

 完全に激昂している教員に、朝月は溜息をついた。そして鞄の中から薄いファイルを開き、中から髪を一枚取り出すと、紙飛行機を作って教壇の上に立つ教員に向かって飛翔させた。

「貴様ぁああぁぁぁ!」

 飛んでくる紙飛行機を掴み取り、クシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てられそうになったその時、朝月は口を開いた。

「本当にそれを捨てて、大丈夫なんですか?」

 朝月のその言葉に教員は理解できないという表情を浮かべる。そして数秒考えた後、再度クシャクシャになった紙は広げられ、その内面をみた教員は驚愕の表情を浮かべる。

「お前、これをどこで・・・・・・」

「そんなことはどうでも良いでしょう。それよりも先生、早く授業を始めたら如何ですか? まともに授業を受けない僕よりも、ここに居る彼らが良い成績を取るためにもね」

 教員は青ざめた表情で広げた紙をポケットに押し込み、たどたどしく授業を開始した。このやり取りの最中、俺以外の誰一人として朝月の方を見る生徒は居なかった。

 だが、俺は目を離せなかった。何故なら朝月と呼ばれた男子生徒は、あの兄妹にあまりにも良く似ていたからだ。

 苗字だけではない、その白銀の髪も、灰色の瞳も、白い肌も何もかもが酷似していた。早くなる鼓動と呼吸。見つかった未来の断片に拳を握り締める。

「駄目じゃぞ。あの者に接触するにはまだ早すぎる」

 俺の様子を察してか、天照は微かに聞き取れる程度の声で俺に釘を刺してきた。

「何でだよ?」

「奴は此度の件の一つの鍵になるやもしれん。下手な接触はまだ避けておくべきじゃな」

「ちっ・・・・・・」

 天照の言葉に自己紹介時のクラスメイトの反応を思い出し、その忠告を素直に受け入れることにした。

 五限目が終り、掃除の時間が始まる前にトイレに行くことにした。用を済ませて廊下に出ようとしたところで、食堂で絡んできた生徒が他数名を引き攣れて出口をふさいでいた。

「よう、さっきはよくも兄貴の前で恥をかかせてくれたな!」

「つまんねえ前置きは良いから要件だけを言ってくれ。もうすぐ掃除が始まるんだ」

「調子乗ってんじゃねえぞ! 放課後、この近くにある荒川の高架下まで来い! 逃げるんじゃねえぞ!」

 茶髪の生徒はそう吐き捨てて、トイレから出て行ってしまった。 

「やべぇな・・・・・・荒川ってどこだよ」

 後ろを振り返ると、出て行くタイミングを失った怯えた表情の男子生徒を発見した。よく見ると同じクラスの、たしか岩本という奴だった。

「たしかお前、同じクラスの岩本だよな? 放課後に声かけるから案内してくれ」

「な、なんで拙者が!」

「あぁ? 嫌なのか?」

「い、いえ、嫌じゃ・・・・・・ないでござる」

 あまり本意ではないが、敢て俺はその生徒を威圧して黙らせ従わせることにした。

「じゃあ、放課後は頼んだぜ!」

 男子生徒にその一言だけ残して、俺はトイレを出て足早に掃除に向かった。

 教室に戻り、割り振られた掃除場所を確認する。どうやら天照と同じく教室の掃除をすれば良いみたいだった。

 机を運ぶ者、遊ぶ者、天照に話しかけ続ける者。同じ掃除班のメンバーは皆バラバラに行動していた。

 もし俺の預かる部隊でこんなことをしていたら、罰として基地外周を五周は固かっただろう。そう考えつつも、俺は黙々と掃除に励んだ。

「ふぅ、こんなもんか・・・・・・」

 拭き終えた床を眺め、俺は黒く汚れた水が入っているバケツを水場へ運ぶと。

「ずっと、書類仕事ばかりだったからな・・・・・・掃除なんて何年ぶりだよ」

 冷たい水、痺れる手の感触。どれもこれも懐かしい記憶を呼び覚ますには十分な刺激だった。 

「やっと抜け出すことができた。今も昔も人気者は辛いのう・・・・・・」

 そう自虐風自慢を溢しつつ、一度も床を拭いていない雑巾を洗いに来た天照は、俺の隣の蛇口を捻り、水を出した。

「大和よ妾は、この後に少し用があるのだが、小一時間ほど教室か図書室で待っておいてはくれぬか?」

 その提案を丁度良いと思った俺は快く了承した。

「わかった。図書室で本でも読んで待ってるぜ」

「すまぬな、手短に済ませて来ようぞ」

 天照は疑うそぶりもなく、雑巾を仕舞い去っていった。俺も片づけを済ませて、終礼が始まる間近の教室に戻った。

 放課後になり、そそくさと教室からエスケープを謀るトイレで出会った男子生徒の肩を、笑顔で掴み声を掛ける。

「あ、黒木氏・・・・・・」

「よう、待たせて悪かったな。帰り支度に手間取っちまってよ、さぁ行こうぜ!」

「う・・・・・・うん・・・・・・」

 岩本は今にも泣きそうな表情で俯き、消えそうな声で答えるのだった。

 道中はずっとだんまりを決め込むと思っていた岩本は、俺が危害を加えないと分かったのか、思いの他早く口を開いた。

「ところで、黒木氏は何をしでかしたんだい? 転入早々あいつらに目を付けられるなんて普通じゃないですぞ?」

「いや、食堂の一番奥の席で飯食っただけだぞ?」

「えぇぇえぇえぇ! あんな所でご飯を食べるだなんて絡まれて当然ですぞ! やっぱり行くべきではないでござる! 拙者たち半殺しにされちゃうでござるよ!」

「大丈夫だからあまり喚くな。恥ずかしいだろ・・・・・・」

「あんな恥ずかしい自己紹介してた黒木氏に言われたくないでござる!」

「どこが恥ずかしいんだよ! 俺は、本当の事しか言ってねえ!」

「で、でたー! 中二病全開設定の黒木氏!」

 全く信じようとせずに、俺は知らない言葉で罵る岩本。そんな会話を続けていたら、何だかんだで目的地に到着した。

「うわぁ・・・・・・皆さん勢ぞろいでお待ちかねみたいでござるし、僕はここで離脱させ―――」

「なに言ってんだ。ここまで連れてきてくれた礼がまだだろ?」

「そんな、僕まで巻き込むなんて聞いてないですぞ黒木氏!」

「だから心配すんなって。面白いもん見してやるから俺についてこい!」

 逃げようとする岩本の腕を引っ張り、強制的に高架下まで引きずって行く。

「ちょっ! ほんとに洒落になってないですぞ! やめて黒木氏、あ、あっー!」

 高架下に着くと、大勢の男子生徒が待ち構えていた。

「ちゃんと謝って許してもらうでござる、黒木氏は何も知らなかったんでござるよ?」

 岩本は橋の下に居る集団を目の前にして、あいた口が閉じられることはなかった。

「逃げずに来るとは偉いじゃねえか! だが、なんで豚の岩本がここに来てんだ? お前も歯向かう気か? あぁん?」

「ぼ、僕は黒木氏に無理や―――」

「ここまで連れてきてくれた礼をしてやりたくてな、こいつは観客だ。俺が倒れるまで手を出すんじゃねえぞ? おい岩本、端に座って見てな」

 弁解しようとする岩本に遮り、俺は岩本を高架下の壁の方に行くよう指示を出した。

「時間もねえし、相手してやるからさっさと来い」

「上等だ! 舐めてんじゃねえぞ!」

 安い挑発に乗った茶髪男子は一直線に俺の方へ駆け出す。

「あ、ちょっと待った」

「何だ! 怖気づいたのか!?」

「いや、全員一斉に掛かってこい・・・・・・皆で遊んだほうが楽しいだろ?」

「ふざけんじゃ・・・・・・ねえ!」

 茶髪男子は遠慮なく俺に拳を振るい、俺は再びその腕を掴んだ。

「だから言ったのによ・・・・・・」

 掴んだ腕の勢いを殺さず、一本背負いの要領で投げ飛ばす。

「安心しろよお前ら。一人じゃ勝てねえ相手だなんだ、大勢で襲って何が悪い?」

 凍り付いていた茶髪男子の仲間達は、俺の挑発によって硬直が解除され、一斉に襲い掛かり始めた。

 部隊を預かるに当たって、暴動が起きた場合に殺傷せず制圧できるよう、多対一の訓練を受けていたものの、これまで実践で使う機会に巡り合えなかった俺は、この状況に興奮した。氣を遣わずに行う戦闘。刀剣を振るわない戦闘。俺にとって遊びでしかないこの状況は、遊びだからこそ楽しむことができた。

「なんだお前ら! これぐらいでへばってんじゃねえ! さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ!」

 一人残らず倒れ込む男子生徒たち。あまりの歯ごたえの無さに、俺は声を荒げて挑発する。

「この程度じゃ、お前らの頭を張ってるあいつも雑魚なんだろ?」

「んなわけあるか!」

 最初に叫んだのは、意外にも最初に倒れた茶髪男子だった。よろよろと立ち上がり、それが合図のように周りの仲間たちも起き上がる。

「うおぉぉぉおぉぉおぉぉ!」

 茶髪男子を筆頭に、再び俺に襲い掛かり始めた。だが、それはすぐに終わりを告げる。

「何やってんだお前ら!」

 雷鳴の如く轟く声。それと同時に硬直する男子生徒達。その声の主は土手の上からダッシュでこちらへと向かってくる。

「あ、和大の兄貴! もしかして俺達を加勢しに、ゲフゥッ!」

 和大と呼ばれた、食堂で謝罪してきた黒髪の生徒はこちらへと猛スピードで接近し、助走を殺すことなく見事な跳躍と角度で跳び蹴りを茶髪男子に食らわせて吹き飛ばした。

「まったく、姿が見えねえと思ったらよぉ・・・・・・お前らもだ! 喧嘩は売るな、買うな、といつも言ってんだろうが!」

「「「「「「「はい! すみません!」」」」」」」

その怒鳴り声に、男子生徒たちは背筋を伸ばして返事をする。

「ったく・・・・・・またあんたにはこいつらが世話になっちまったな」

 舎弟達を人睨みした和大は、分が悪そうに声を掛けてきた。

「いや、身体が鈍ってたからな。丁度良い運動になったさ」

 俺はズボンに付いた土埃を手で叩きながら答えた。

「怪我はしていないか?」

「あぁ、そもそも当たってねえからな」

「へぇ、あんた強いんだな。どうりでこいつらが痛めつけられてる訳だぜ・・・・・・どうだあんた、俺と一戦拳を交えないか? こういうの好きなんだろ?」

「良いねえ、嫌いじゃないぜ荒っぽいのはな!」

 俺は返答を終えると同時に拳を放った。だが、和大は素早く俺の奇襲に反応し、カウンターを放った。だが、それを見越していた俺はギリギリのところでそれを回避し、後方へ跳んだ。

「人を試すなんて良い趣味してるじゃねえか」

「まさか、奇襲に反応するとは思って無かったぜ?」

 短い会話が終ると同時に、再び交錯する拳と拳。そこから先の攻防はほぼ互角だった。多少大振りではあるが、そこを持ち前の筋力とセンスでカバーしたスタイルは中々崩すことができなかった。

 拳を交え始めてから、二十分以上が経過するも状況は一向に変わらず、お互いに実力が拮抗していることを証明していた。

「はぁ、はぁ・・・・・・案外やるじゃねえか。あいつらが倒れてたのも頷けるぜ」

「お前も・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・良い拳してるじゃねえか。奴らの頭をやってるわけが分かったぜ」

 俺と和大は同時に走り出し、同時に踏み込み、同時に拳を放とうとしたその時、視界の端に黒い人影が走った。

「いい加減にせぬか!」

 顎に走る衝撃。膝は力なく折れ、俺は成す術無く地面に倒れた。

「何で・・・・・・お前がここに」

 死んだ虫のような声が俺の鼓膜を微かに振るわせた。俺は目を開いて状況を確かめる。そこには仁王立ちしている天照と、俺と同じく危害が加えられたと思われる、腹を抑えてうずくまった和大の姿がそこにあった。

「喧嘩は仕舞じゃ。そなたらもこのように成りたくなければ、此奴を連れて立ち去るが良い。それと妾の事は他言しても構わぬ。じゃが、妾に足蹴にされておるこの者がどうなっても知らんがのう」

 うずくまっていた和大を、その足で踏みつけながら発せられる言葉に、周りに居た男子生徒達は皆一様に震えあがった。

「どういうつもりだ。質問に答え―――」

「時が来れば話してやる。だから、今は下がっておれ」

「ちっ・・・・・・」

 言葉を遮られた和大は、それ以上追及することは無かった。痛みに堪え、どうにか立ち上がると仲間を引き連れて、この場から立ち去っていった。 

「おい、そこの小太りのわっぱよ」

「ひっ! ぼ、ぼ、僕でござるか!?」

「そなた以外に誰がおると言うのじゃ? まぁ良い、この事は他言無用ぞ? もし、その口が軽ければ・・・・・・わかっておるな?」

「ひ、ひぃぃ! 誰にも言いませんので命だけは!」

「分かれば良いのじゃ。脅かしてすまなかったな、もう立ち去っても構わぬぞ?」

「は、はいぃぃぃい!」

 その言葉に、岩本は怯えた表情で走り去っていった。

「少しは考えて行動するということができぬのか? と言っても、まぁ無理であろうな。生まれた時代も、生きてきた環境も違い過ぎる・・・・・・ほれ立てるか?」

「・・・・・・あいつのこと知ってたのか?」

「ふふっ、案外耳ざとい奴じゃなそなたは。妾は超人気者の転入生じゃぞ? このような荒っぽい仲裁に入ったのが驚きだったのじゃろう」

 俺は天照の手を掴み、身体を起こした。

「全くそなたという奴は、初日から制服を砂埃だらけにする者があるか」

「いや、これはお前のせいだろ!」

「はは、そうであったな。さぁ、帰って飯にしようぞ。妾は腹がすいてたまらぬ」

「あぁ、そうだな」

 俺は立ち上がり、先に行く天照の背中を追って帰路についた。



 学校二日目。昼休みの食堂は相変わらず昼食を求める生徒達でごった返していた。俺は一人で購買に行こうとしていた岩本を捕まえ、昨日と変わる事なく一番奥の誰も座らないテーブルに陣取りって席に着いた。

「ほ、ほ、本当に座っちゃって大丈夫なのここ?」

「別に大丈夫だろ。さっさと飯にありつくとしようぜ」

「う、うん・・・・・・」

 俺は昨日と同じカレーを注文し、岩本はラーメンという料理を注文していた。

「へぇ、それがラーメンって言うのか。旨そうだな」

「黒木氏、また中二病設定でござるか? そういう異世界転生ラノベ主人公の設定は人前でやらない方が良いですぞ?」

「だから、その中二病ってなんだよ?」

「分かってることを聞くところがまた白々しいですぞ。ところで黒木氏、カレー好きなんでござるか?」

「あぁ、昨日初めて食ったんだが、酷い見た目の割に旨くてな」

「まーた始まった。それって何のラノベ設定でござるか?」

「だからラノベってなんだよ?」

「あー面倒くさいなぁ、ライトノベル。略してラノベでござるよ」

「ライトノベル?」

「あぁーまた設定以下略。黒木氏は喧嘩に超強い癖に、オタクで重度の中二病とは、スペックの振り方がおかし過ぎでござるよ・・・・・・」

 岩本はラーメンの麺を啜りながらブツブツと呟いていた。

「だから、俺は嘘ついてねえって」

「はいはい、中二乙。でも、拙者の知らないラノベのようでござるし、面白そうだから僕に黒木氏の設定を聞かせてみるでござるよ」

「なんだ? 設定? つまり、俺の過去を話せば信じてくれるのか?」

「信じるかは別として、興味はあるでござるな」

「わかったよ・・・・・・ったく、どこから話したもんか・・・・・・」

 俺は岩本に、生い立ちから、ここへ来た経緯、目的をなるべく事細かに話すことにした。

「―――てな感じで、俺はここへ来たんだよ」

 十分程度に話をまとめ、空になった皿から目を離し、岩本の方を見た。

「・・・・・・ぐすっ、ぐす・・・・・・」

「お、おい、お前いきなりどうしたんだよ?」

「な、泣いてないでござる! これはラーメンの汁が目に入っただけでござるよ!」

「いや、もうお前の器は空じゃねえか!」

「いやだって、黒木氏と優希氏があまりにも可哀想過ぎて・・・・・・でも、黒木氏の話を元に検索してもラノベどころか漫画、アニメ、一般小説のタイトル一つ出てこないでござるな・・・・・・これはもしや・・・・・・」

 岩本は手に持つスマホを弄りながらそんな感想を述べていた。

「お、信じてくれるのか?」

「それはまだ早計ですぞ。今の話を聞いてもパクリ設定が、オリジナル設定に格上げされただけに過ぎないでござるし・・・・・・うーん、今の話で一番面白い設定だった、絶という権能を見せてくれたら信じてあげても構わないですぞ?」

「はぁ? さっき言っただろ。あれは神威を解放しないと・・・・・・」

「いやなら構わないでござるよ? 僕の中の黒木氏が痛い妄想に取りつかれた重症中二病患者という格付けができるだけでござるしな」

「何言ってるのか、さっぱり理解できんが貶されてるのは分るな・・・・・・まぁ、呪いは解けてるし、案外できるかもな・・・・・・」

 俺は岩本の安い挑発に乗ることにし、皿の上に置かれたスプーンを手に取った。

「纏え、黒狼炎・・・・・・」

 意識を集中させ、スプーンの先端に黒炎を纏わせるイメージをした。

「お、できたな・・・・・・」

「あ、あ、あぁ、すす、す、スプーンが・・・・・・」

 消滅したスプーンの先端を震える手で指さし、岩本は驚愕の表情で俺とスプーンの先端に視線を行き来させていた。

「ほら、これで信じてくれたか?」

「え、え? えぇぇぇ―――」

「ばっか! 静かにしろ!」

 目の前で起きた現象に、ようやく脳みそが追いついた岩本は、悲鳴を上げそうになったため、俺は慌ててその口を抑え込んだ。

「ひぃ、けふぁないれくらふぁい!」

「お前を消したりなんかするかよ。だから落ち着けって! ・・・・・・落ち着いたか?」

 俺の言葉に必死に頷く岩本は、解放されると同時に息を吐き出し、大きく吸い込むと、輝いた瞳をこちらに向けて、早口で口を開いた!

「黒木氏すごいですぞ! まさかリアルラノベ主人公だったとは思わなかったでござる!」

「おい、声がでかい!」

 興奮した様子の岩本声は大きく、周囲の生徒たちは明らかに俺達の方を見つめていた。

「す、すみません・・・・・・」

「いや、怒ってねえからそう落ち込むなよ。まぁ、この世界の奴に絶の力を見せたことが無かったからな・・・・・・いきなり見せたら、お前みたいな反応するのは理解できたよ」

「お役に立てたようで良かったでござる・・・・・・で、ここまでの話を総括すると、黒木氏の活動は最終的にその二月に落ちてくる核兵器を止めることが目的なんでござるか?」

 岩本は先端の消えたスプーンを手に取り、その断面図を観察しながら口を開いた。

「天照とはまだ話し合いをしてねえから分らねえけど・・・・・・まぁ、多分そうなるだろうな?」

「なら、拙者も世界を救う協力をするでござる」

「なに、本当か!」

「もちろんでござるよ。薄幸ヒロインのバッドエンドルートなんて絶対に阻止するべきでござる。それに、来年の冬アニメは期待してるアニメの二期の噂が流れていますからな。簡単には死ねないですぞ!」

 熱く語る岩本が何を言っているのか半分以上理解することができなかったが、協力してくれるということは分かった。

「なら、まずは協力者を探さないとまずいでござるな。国家間の争いとなると、流石に学生だけではどうにもならないでござる」

「そうなのか? 悪い奴を片っ端から消せば良いだけじゃないのか?」

「むむっ、元軍人の黒木氏は脳筋でござるな? ですが、消したところで次が現れるだけでござるよ。それにミサイルは陽鮮王国から飛んでくるんだったら、それはあまりにも現実的ではないでござる」

 俺の考えに、岩本は呆れた様子でそう答えた。

「じゃあ、どうれば良いんだよ?」

「それは簡単でござる。世論を利用すれば良いんでござるよ」

「世論? なんだそれ?」

「おうふ、独裁政治の闇キタコレ・・・・・・この時代の日本は、民主主義といって、国のリーダーである政治家を国民の皆で決めるんでござるよ。政治家は国民からの賛同と支持が必要でござる。つまり、ミサイル防衛システムを強化すると政治家に確約させる大多数の国民の声を作れば良いんでござるよ」

「つまり、国民の声が世論という訳か?」

「まぁ、その認識で間違いないですぞ」

「で、その世論を動かすにはどうすれば良いんだ?」

「それは・・・・・・ネットを使うと良いでござるよ?」

「ネット?」

「もう、面倒くさいでござるな。昼休みが終ってしまうでござるから、説明する暇は無いですぞ? とりあえず、黒木氏の家にはパソコンはあるでござるか?」

 投げやりになってきた岩本の問いに、俺は家の中を思い浮かべ、天照が優希が使っていた物と同じようなノートPCを使っていたのを思い出した。

「あぁ、確かあったと思うぞ。俺は使ったことはないがな」

「なら、放課後や黒木氏の家に行くでござるよ」

「あぁ、わかった。話は決まったからな、教室に戻るか?」

 俺はそこで一度、話の腰を折って椅子から立ち上がった。

「面白くなってきたでござる。だが、次は柳沢の英語でござるからな、黒木氏も眠らないよう注意するんですぞ?」

 俺に続いて立ち上がった岩本は、次の授業が心底嫌な物だと言わんばかりに警告すると、先に返却口へと歩き出した。

「なぁ岩本、次から俺を呼ぶときは、大和って呼べよ。あっちじゃ皆にそう呼ばれてたからさ」

「と、友だちが居ない僕には、いきなりハードルが高すぎますぞ!」

「何言ってんだ。お前は俺の友達だろ?」

「なっ・・・・・・勝手に友達認定だとっ・・・・・・これがリア充気質って奴でござるか・・・・・・」

 岩本は俺の発言に驚いた後、何やらブツブツと呟き始めた。

「なにやってんだ。授業始まるから行くぞー」

 俺はその状態で動こうとしない岩本に一声かけ、返却口に向かうことにした。

「あ、ちょっ、待ってよ大和氏!」 

 置いて行かれていることに気が付いた岩本は、すぐさま俺の背を追いかけ、その口から呼ばれる名前はしっかりと変わっていた。


次回から本格的に未来を変えるために行動が開始されます!

ぜひまた来てください!(*´ω`*)

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