第十話【知らない世界】
はい、過去へとタイムスリップしましたよっと!
荒廃した世界しか知らない大和はどういった反応をい見せるのかを描いた話になります。
どうか読んでくださると幸いです(/・ω・)/
題十話【知らない世界】
いつもと変わらない、石と砂に覆われた荒野が視界全体に広がっている。
生気を失い、立ち枯れしている木々がまばらに残る周囲より高く盛り上がった地帯は昔、山林と呼ばれ、今見えている地面が緑色の木々や植物に隙間なく包み隠されていたとは、俄かに信じがたいものがあった。
先人が言うには、コロニーの電力供給のために、火力発電所の燃料となる木材の回収ノルマというものがあったらしい。・・・・・・いや、そんなことなど、どうでも良かった。なぜ俺がかつて山だったものを眺めているのかというと、その山の向こう側に、見たことも無いはずの月が燦然と輝いていたからだ。
その優しい輝きに目を奪われていると、不意に背後から声を掛けられた。
「大和にぃ・・・・・・お月様綺麗だね」
「あぁ、そうだな○○○・・・・・・」
俺はその名を口にした瞬間、自分自身に驚き、口元を手の甲で抑えた。
その様子を見ていた○○○は優しく微笑み、口を押える手を両手で包み込んだ。
「もう、頑張らなくても大丈夫だよ・・・・・・大和にぃは、もう誰かを必死に守ったり、秘密を隠し通そうとしなくて良いんだよ?」
「何を言って・・・・・・?」
俺の頭は霞が掛かったかのように思考が停止し、その言葉の真意を見つけ出すことができないでいた。
「私を本当の名前を読んでくれて、ありがとう。すごく嬉しかった。でも―――」
突然吹き荒れる突風に、○○○の白銀の髪は激しく弄ばれ、白磁のような白い肌には細かな亀裂が入り、全身へと広がっていく。そして、その身体は徐々に砕け始めた。
吹き荒れる風はその強さを増し、バラバラに崩壊していく細い身体に容赦なく吹き付ける。
あまりの惨劇に、俺は身動き一つ取ることができずに、変わり果てていく○○○の姿を見つめることしか出来なかった。
最後の一欠片が風に飛ばされたその時、その風は突然と止んだ。
残っていたのは、白い骨だけだった。しかし、俺の手は依然として優しく握られ続けている。
俺はその頭骨の虚ろになった眼窩の闇に吸い込まれそうになっていた。
そして、白骨となった○○○は、口を動かすことなくこう言った。
「私が死んでしまう前に、名前を呼んで欲しかったなぁ・・・・・・」
その言葉に我に返った俺は周囲を見渡した。するとそこには、顔を知る全ての隊員達が、石化した状態で倒れ、大地は大量の血を吸い込み、赤黒く染め上げられていた。
「永遠にさようなら、大和にぃ―――」
「う、あ・・・・・・うわあぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!」
耐え切れなくなった俺は、喉が千切れる感覚を覚える程に発狂した。
次の瞬間、大和は勢いよく起き上がり、今のが夢であったことを知った。
「はぁ、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・夢・・・・・・なのか?」
あまりにも衝撃的だったため、しばらく放心状態となったが、呼吸と心拍数が落ち着いたことで、自分の周囲に目を向けることができるようになった。
「どこだ・・・・・・ここ・・・・・・?」
そこには、見たことも無い光景が広がっていた。触ったことも無いような上質なシーツに毛布、一番上にだけ本の入った本棚。大きな二枚の布の切れ目から漏れ出る光。
大和は周囲を警戒しながら、ふらつく脚で光へと歩みより、二枚の布を両手で掴んだ。
『シャァァァッ―――』
布に付けられていたと思われる滑車の音が反響すると同時に、目が潰れてしまいそうな光がこの部屋に入り込んだ。
「何なんだよ・・・・・・これ・・・・・・」
光に慣れ、ようやく開いた瞳が映し出す風景はあまりにも眩しく、窓ガラスを開けてベランダへと出た大和は、眼下を埋め尽くす建物群を目の当たりにする。
美しいとすら思える景色。だが、状況を掴めない今の大和にとって、それはあまりにも恐ろしい光景に過ぎなかった。
「何なんだよここは!」
大和は衝動的にベランダから飛び降り、アスファルトの上に着地すると、その場から逃げるように走り去った。
人々が行き交う建物の前にある広場には、一匹の大きな黒犬が傍らにある木にリードを繋がれた状態で眠っていた。
『ガサ・・・・・・ガサ』
ビニール袋の擦れる音に、黒い犬は耳を耳を軽く反応させると、大きなあくびを一度して、ゆっくりと立ち上がる。
「待たせたのう。ほれ、焼きたてじゃぞ?」
その黒い犬に近づく声の主は、大型犬の飼い主にはとても見えない華奢な少女だった。
少女の手には【金ダコ】のロゴが入った袋が握られており、中身はパック入ったタコ焼きのようだった。
「ほれ、何をしておる?」
少女は犬の正面で膝を付き、ビニールの手持ち部分を広げて、犬の口元に突き出していた。
犬は困惑と非難の表情で、微笑む少女の顔を見つめて動かなかった。
「遠慮するでない。れでぃには、気を遣うものなのだぞ?」
犬相手に悪びれることなくそう言ってのける少女に、無言を通すことを諦めた犬は、渋々口を開いた。
『天照よ・・・・・・我は、芸を覚える家畜になり下がった覚えは無いぞ?』
「仕方なかろう? 近隣の目もあるし、なによりそなたの図体は大きすぎるのだ。怖れられるより、忠犬のイメージがある方が何かと便利じゃからのう・・・・・・そもそも、人に化けることを拒んだそなたに責があるのだ。大人しく言うことを聞いておいたほうが懸命じゃぞ?」
大きな黒犬はこれ以上の反論は無駄だと判断し、ビニールの持ち手に下顎を通して、咥えることにした。
「うむ、それで良いのだ! 落とすでないぞ?」
天照は満足そうに笑い、木に結んであるリードを解いた。
「さて、もう帰るとしよう。今日か明日頃には、大和も目を覚ますであろうからな」
天照は軽くリードを引き、黒い犬に歩くことを促す。不服そうな顔を浮かべる犬ではあるが、抵抗する様子もなく、首に繋がれたリードが張らない程度に歩調を合わせて、前を歩く天照に付いて行った。
『・・・・・・むっ』
『ガシャ―――』
袋の落ちる音に天照は、焦った表情で振り向いた。
「な、何やっとるっじゃ! 落とすでないと申したではないか!」
天照は犬のことなどそっちのけで、落としたビニール袋の中身を確認し、無事であったことに安堵する。
『目を覚ました・・・・・・』
「ん・・・・・・なんじゃ?」
黒犬はどこを見つめているのか分からぬ表情で、そう呟いた。
『主が目覚を覚ました・・・・・・混乱している・・・・・・不味い、窓から飛び降りた』
「な、何じゃと! うちは八階じゃぞ、大和は生きておるのか?」
天照は黒犬の首輪に天照は掴み掛かって問いただす。
『おい、落ち着け。主なら無事だ。呪いが解けて、自由に神威を使えるはずだからな』
「そうか・・・・・・良かった」
『いや、そうでもない。酷く怯えてるな・・・・・・ちっ、かなりの勢いで走り出した』
「どこへ向かっておる?」
『この太い道を真っ直ぐ・・・・・・川の方角だ』
「暗くなる前に追いつかねば、行くぞフェンリル!」
『あぁ・・・・・・!』
フェンリルと呼ばれた黒犬は、リードを持つ天照の手を強く引っ張りながら疾走した。
降り注ぐ日の光、色鮮やかな服を身に纏う人々、立ち並ぶ建物、行き交う自動車、騒がしいクラクション、そして至る所ですれ違う人々の視線。それらは全て未知の物であり、俺はそれらから逃げ惑うしかなかった。
「何なんだよここは!」
何度も何度も、そう叫びながら走り続けていた。すると、見たことも無いほど太い川が目の前に現れた。そしてようやくそれらから隠れる場所を、俺は見つけた。川の両端を結ぶ橋の下は周囲を見渡すことができ、日の光も当たらない。そして何より、そこには人が居なかった。
「はぁ、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
全くもって事態が理解できなかった。
「そうだ、優希・・・・・・あいつはどこに・・・・・・? ・・・・・・うぅ―――!」
そう呟いた時、突然激しい頭痛が襲い、俺の中にある記憶がバケツの水を浴びせられるかのように、一気にフラッシュバックを起こした。
「あいつは・・・・・・死んだ? 俺のために・・・・・・あいつは!」
何もできなかった自分の姿。救うべき人間に助けられた自分の姿。それらが頭の中で何度も回転し、耐え切れなくなった俺は呼吸を乱しながら頭を掻きむしった。
「何でだ・・・・・・何で俺は生きてるんだよ・・・・・・?」
流され続ける記憶は終着点へと差し掛かり、腕の中で眠る優希は、光の粒となって消滅した。
それと同時に襲い来る猛烈な吐き気。
「ウ、ウオォォォエェ!」
だが、空っぽの胃から吐き出せるものなどなにもなく、ただ透明な胃液だけが逆流し、吐き出される。
もう、あの笑顔も、声も、匂いも、温もりも、何一つ感じることができないという事実が付きつけられる。
「うぐ、オエェェ・・・・・・はぁ、はぁ」
もう居の中には何も入っておらず、ただ腹筋が胃を締め付けるだけとなっていた。
『タッ、タッ、タッ!』
『タタッ、タタッ!』
背後から走りくる誰かの足音。明らかにその音はこちらへと迫ってきていた。
「誰だっ!」
俺は口元を袖で拭い、振り返りながら叫んだ。
「見つけた・・・・・・はぁ、はぁ。無事であって何よりじゃ・・・・・・!」
『はっ・・・・・・はっ・・・・・・』
そこに居たのは、狼とも犬とも見れる大きな黒犬と、息を切らした少女だった。
「あんたは・・・・・・誰・・・・・・だ?」
服装は大きく異なってはいたが、俺はその少女を知っていた。
「ぐ・・・・・・あぁ・・・・・・っ!」
襲い来る頭痛。優希の記憶の裏に隠されていた記憶が脳裏に映される。
差し伸べられた掌。俺の腕は腕を伸ばし、その掌を確かに掴み取ったんだ。
「天・・・・・・照?」
「あぁ、妾だ! どうじゃ? 落ち着いたか?」
天照は俺に歩み寄り、心底心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「あ、あぁ・・・・・・もう大丈夫だ」
「これは妾の落ち度だ。そなたを一人にするべきではなかった。さぞ恐ろしかったであろう? 本当に済まない・・・・・・」
俺の肩を掴んで詰め寄る天照は、頭を垂れて謝罪を述べた。
「いや、俺も心配かけて悪かった。記憶が混乱していたんだ・・・・・・」
その細い腕を掴み、俺の肩から手を外させる。そして腕を離して、頭を上げるように促した。
「そんなことより・・・・・・ここはどこなんだ?」
「なんじゃ、言っておったであろう? 我らが居た時代より遡ること七五年前、西暦二〇二〇年の東京じゃ」
「ここが・・・・・・?」
「恐れることはない。さぁ、周りを良く見てみよ」
紅く染まっていく空。川の向こう側にならぶ高い建物。子供たちの笑い声。川の水面に反射するオレンジ色の光。
「どうじゃ、いと美しいであろう?」
「あぁ・・・・・・そうだな」
あれほど恐ろしいと感じていた景色は、どれも美しいものばかりだった。
「そうじゃ、景色だけではなんだからのう。これを食べてみよ」
天照は手に持つ袋の中から、透明の容器に入った茶色くて丸い食べ物を差し出した。
「・・・・・・何だこれ?」
「これはタコ焼きという食べ物じゃ。さぁ、楊枝で刺して食べてみよ?」
俺の質問は即答され、さらにそのタコ焼きという食い物は、さらに前へと突きつけられる。
「う・・・・・・本当に食えるのか?」
茶色い球体は湯気を放ち、その上には半透明な黒い液体がかかり、その上ではヒラヒラと虫のような物が蠢いていた。
「怖気づくでない! 冷めてしまうであろう!」
「ええい、わかったよ!」
俺はその球体に楊枝を刺し、意を決して口の中に放り込んだ。
「あっつ! みずっ! みずぅぅ!」
カリッとした外皮を噛み締めると、中からは内液が噴き出し、口内を灼熱の地獄へと変化させる。
「馬鹿め、その熱さもタコ焼きの醍醐味であるぞ?」
天照は苦悶する俺の姿を見てケタケタと笑う。そして、俺がタコ焼きを飲み下したのを見計らって問いかけた。
「どうじゃった、美味であろう?」
「ふっ、ふぅ・・・・・・何だこれ!? めちゃくちゃ旨え!」
「そうであろう! そうであろう!」
「あぁ、こんなの食ったことねえ。優希にも食わせて・・・・・・やり・・・・・・てぇ・・・・・・な・・・・・・」
その時、俺は違和感を感じた。
「えっ・・・・・・あれ・・・・・・?」
頬に走る熱い感触。
「どうしてだ・・・・・・何で今なんだよ・・・・・・あの時だって・・・・・・」
止めどなく溢れる涙に、大和は何度も手の甲で拭い続けた。
「止まれよ! ・・・・・・何で、止まらねえんだよ・・・・・・」
訳も分からず戸惑う俺を、天照は微笑みながら優しく抱きしめた。
「恥じなくとも良い。それは、あの娘の死を受け入れた証じゃ。そなたが、現実と向き合う覚悟ができたという証なのじゃ」
「俺が優希の死を・・・・・・受け入れた?」
「そうじゃ、そなたは受け入のだ。人間は涙を流すことで悲しみを乗り越え、前を向くことができる。だからこそ、そなたの瞳から零れ落ちるその雫の熱さを、決して否定するでないぞ?」
天照が掛ける言葉に堪えることができなくなった俺は、その細い身体に縋りつき、子供のように泣きじゃくった。
「俺っ・・・・・・あいつに何もしてやることができなかった・・・・・・名前一つ呼んでやることができなかった・・・・・・あいつは呪いで名前を奪われていたんだ・・・・・・俺には、あいつの本当の名前が分からない・・・・・・昔の夢を見ても、あいつの名を呼ぶ声だけは霧が掛かったように聞こえねえ。どんなに思い出そうと頑張っても無理だったんだ・・・・・・それでもあいつは俺に言うんだ・・・・・・名前を呼んでくれって。涙目になって俺にせがむんだよ・・・・・・俺、言えなかった。あいつの名前を俺が忘れているってバレるのが恐ろしかった・・・・・・だから俺は誓いを盾にして、知っているふりを続けていたんだ・・・・・・」
「・・・・・・」
天照は俺の背中を摩り、無言で吐き出される言葉を受け止めてくれた。
「俺が不機嫌な時でも、いつも優希は笑顔だった・・・・・・俺が飯を不味いと言っても、いつも旨いと言って食ってた・・・・・・ゆっくり風呂に入れって言っても、あいつは俺に気を遣って、いつも早風呂だった・・・・・・俺はずっと、あいつに支えられていたんだ・・・・・・」
「・・・・・・」
「何でだよ・・・・・・あいつは今まで文句一つ言わずに我慢してたのに・・・・・・それなのに俺は、綺麗な景色を見て、旨い物を独りで食べてるんだよ・・・・・・これじゃ、あいつが報われねえじゃねえ! 俺はあいつと一緒に旨い物を食いたかった! あいつと一緒に、この光り輝く川を見たかった・・・・・・なのにどうして、肝心の優希がここに居ねえんだよ・・・・・・俺は、あいつの事を守るべき妹だと思っていた・・・・・・だけど違ったんだ・・・・・・俺はあいつのことが、ずっと好きだったんだ」
「・・・・・・」
天照は苦しそうな表情を浮かべ、沈黙したまま俺の言葉を傾聴していた。
「牛肉・・・・・・食わせるって、あいつら全員に約束したんだ・・・・・・皆、楽しみにしてたんだよ。あと少しで食えたんだ・・・・・・だけどあいつら、肉を食う前に死にやがった・・・・・・こんなのってあるかよ!」
その言葉に表情を曇らせた天照は抱擁を解き、意を決したように口を開いた。
「妾はそなたに謝らねばならぬことがある・・・・・・すまぬ、牛鬼と荒神達を呼び寄せたのは妾のせいなのじゃ・・・・・・!」
天照の告白に、大和は眉間に皺を寄せて天照に聞き返した。
「・・・・・・どういうことだ?」
「太陽と月が重なったあの日は、旧暦の神有月・・・・・・最後の日じゃった。ゆえに、あの者達は信仰の力を得た妾の微かな神威を感じ取り、救いを求めて妾の下に押し寄せたのじゃ・・・・・・本当にすまぬ。そなたの大切な者達を奪ったのは他ならぬ妾なのだ・・・・・・!」
握り締められる拳。喉の奥からあふれ出そうになる言葉を飲み下し、目の前に居る天照を責めても無駄なのだと、何度も頭の中で繰り返す。
そして、その力んで震える掌で天照の肩を掴んだ。
「・・・・・・それは違う、俺達はずっと戦いの中で生きてきた。それも、いつ死んでもおかしくない世界でな・・・・・・お前を基地に運んだのは俺だ。その責任も全ては俺にある」
「じゃが!」
涙目になりながら己を責める天照の言葉を大和は遮った。
「確かにあいつを失ったのは辛いさ・・・・・・だけど、お前のおかげで、あの悲しい世界を変えることができるかもしれないんだろ?・・・・・・だったら俺は取り戻したい・・・・・・! 例え、俺の事を忘れたとしても、優希とあいつらが・・・・・・笑って生きられるこの美しい世界を! そして・・・・・・俺はもう一度呼んでやりたい・・・・・・あいつの本当の名前を・・・・・・!」
傾いていた太陽は地平線へと飲み込まれ、辺りは徐々に闇に飲み込まれていく。その昼と夜の狭間で、俺と天照は真正面から向かい合った。
「手伝ってくれるか・・・・・・?」
俺は天照に掌を差し出して問いかける。
「・・・・・・できるとも・・・・・・そなたと妾が力を合わせれば必ず・・・・・・!」
暗くなっていく中でも解るほど輝く、紫色の瞳で俺を見つめて掌を握り返してきた。
「取り乱して悪かったな・・・・・・」
「なに、それは妾とて同じだ・・・・・・」
天照はクスリと笑い、固く握っていた掌を離して口を開いた。
「さぁ、我らの家に帰るとしようぞ?」
天照はそう言って振り向くと、その背後に座っていた犬と対峙する。
「ほれ、お主も帰ろうぞ・・・・・・あ、あぁぁぁぁあぁぁぁ!」
突然大声を上げる天照。その表情は明らかに激怒している。
「そ、そなた、妾のタコ焼きを、よ、よくも平らげおったなぁ!」
黒犬の首輪を掴み、大きく前後に揺さぶる天照。その足元には空になったタコ焼きの容器が散らばっていた。
『・・・・・・』
「楽しみにしておいたのによくも、よくもぉおぉぉぉぉぉおぉ!」
悪びれた様子のない黒犬は、主人と目も合わせずに、そっぽ向いた状態で揺さぶられ続けている。
「お、おい、その犬は何なんだよ?」
「何だとはなんだ! 元はと言えば、飼い主のそなたがしつけをしておらぬから、こうなっておるのであろう!」
突然身に覚えのない言いがかりをつけられ、怒りの矛先がこちらへと向けられる。
「はぁ? どういう意味だよ?」
「どういう意味だとは何じゃ! 此奴は、そなたが身に宿すフェンリル狼ではないか!」
怒りが収まらない天照は俺の胸倉を掴み、さらに言葉を付け加える。
「此奴がおったから、そなたを見つけることができたのじゃ。そもそも、そなたが家で大人しくしておれば、家でゆっくりと、タコ焼きを食べることができたんじゃぞ!」
「は・・・・・・?」
その言葉に俺は、黒犬の顔を見つめる。一瞬だけ黒犬はこちらを向いたが、不機嫌な素振りですぐにそっぽ向いてしまった。
あまりにも衝撃的な事実が唐突に告げられ、事態を理解するのに数秒の時間を要した。
「はぁぁあぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!?」
不貞腐れて眠り始めるフェンリル。喚きながら俺の襟首を力強く揺さぶる最高神。そして事態を理解した俺の絶叫が、橋の下では響いていた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次の回からは、一気にメンバーが増えます!!
どいつもこいつも、濃いキャラが多いので胃もたれ注意です!!




