01
自由な時間の大切さを最近実感するなぁ~。
意識が覚醒する。閉じた瞼を透かして陽の光が目覚めを促す。閉じた瞼を開ければ陽射しが眩しい。今だ眠いのを我慢して緩慢に辺りを見回せば、今の自分と同じ存在が何体かいる。
すぐ隣にいる奴が何か話しかけてきたが何をいっているのか良く聞こえない。寝不足のせいだろう。やはりもう少し寝よう。
「もう少し寝る」
一応隣の奴に一言かけて起き上がる。隣の奴が何か言ってきたがこれ以上相手をする気はないから無視して翼を広げる、飛びかたは本能が知っている。
かつての記憶が邪魔をして違和感が多少あるが問題無しと判断して飛び上がる。
二度寝なら同じ場所ですればいいと思うのだが、あの場に長居するのはよくないと本能が訴えかけてくるので場所を変えることにしたのだ。
といってもそこまで遠くに行くつもりもなかったので近くの森にちょうど良く、陽当たりが気持ち良さそうで昼寝にもってこいの場所があったのでそこで寝ることにした。
まだ今の器に馴染んでいないせいで飛びにくく着地にも少し失敗したが、目的地に無事到着した。
さっそく横になって目を閉じてもう一度寝ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
四頭立ての大型馬車が限界ギリギリの速度で森の中を突っ切る。その周囲には全員が同じ装備を身につけ馬に乗った護衛が追走する。
馬車には御者台に少々太り気味の中年が一人。彼は馬車の前、この集団の先頭を走る護衛についていくのに必死だった。何せ彼等が進んでいる森は通称迷いの森、または帰らずの森と呼ばれる特殊な森なので、仮に離れてしまえば死ぬまでこの森から出れなくなりかねない。
さて、そんな危険な森を迂回せずに突き進む理由は単純で彼等は急いでいたからだ。その理由は馬車の荷台にあった。
馬車の荷台は家畜等の運搬用で全体的に檻のような形状をしている。その上から幌が被されていて中が見えないようにされていて、その中には十人ほどの少女が捕らえられていた。
少女達は全員両手足を後ろに縛られて、口には猿轡を噛まされ目隠しまでされている。おまけに全員に首輪が付けられその首輪は他の首輪に鎖で繋げられていて万が一でも一人も逃がさない、と感じさせる徹底ぶりだ。彼女達が馬車に自分の意思で乗っていないのは明白だった。
つまり彼等は誘拐犯で彼女達は被害者で彼等が急ぐのは追手から逃げるためだった。
更に彼等がこの森を選んだ理由はもう一つあり、森から出てしまえば後はその理由から彼等は自分達の計画が上手くいくと思っていた。
しかし何事にも例外はあり、全てが予定通りに進むとは限らない。
木々が途切れ開けた場所に出た瞬間、急に先頭を走っていた護衛の騎馬が急停止した。更には他の馬達も習うように停止する。
先頭の急停止を見たおかげで馬車や先頭の騎馬以外の騎馬の乗り手達は馬の急停止に対応したが、先頭の者は咄嗟のことに反応できず馬の前方に放り出された。
しかし幸い彼は受け身をとれたので大きな怪我もなく肩を怒らせながら戻ってきた。
「くそ!いったいなんだってんだ!」
「無事か!?」
「ええ、何とか!」
「よし、ドルテンは積み荷の確認、他は自分の馬の様子と周囲の確認をしろ」
護衛達のリーダー格の男がすぐさま現状を確認しつつ指示を出す。
「積み荷の方問題ありません」
「周囲に魔物の気配無しです」
「追手が近づいてくる気配もありません」
「よし、全員馬はどうだ?」
「駄目ですね、落ち着きはしましたけどこれ以上前に進もうとしません」
「こっちもです。まるで何かに怯えてるみたいです。隊長は?」
「俺のも駄目だ。しかし馬をおいて徒歩でいくわけにもいかんしな」
隊長の言葉に全員が嫌そうな顔をする。
「それは、勘弁願いたいですね。いっそ横にそれてみますか?」
「ヘッジお前はこの森で迷いたいのか?」
「ですよね。くそっ!あと少しなのに!」
先程先頭を走っていた護衛が隊長に意見するがあっさり否定される。本人も本気ではなかったのかすぐさま引き下がり悪態つく。
「しかし、何かこの辺り妙じゃありませんか?」
「妙?」
「はい。魔物の気配や動物や昆虫といった生き物の気配が全くしないんですよ。何かやばくないですか?」
ドルテンと呼ばれた馬車の乗り手の意見に全員が顔を見合わせる。
「確かに、この森には魔物がわんさかいるはずなのにこの辺りだけいないってのは」
「ああ、異常だ。そしてその理由は」
全員の視線が前方、木々が途切れている広場に向かう。
「どうします?最悪引き返すって手もありますが」
「・・・・とりあえず、前方の確認だ」
「マジっすか?」
「仕方なかろう。ここにいる脅威がいずれ俺達の国の害にならんともかぎらないんだ。ある程度の情報収集はしておくべきだろう」
隊長の言葉に全員が覚悟を決めた顔をする。
「ドルテン、お前は馬車と共にここで待っていろ。いざという時は引き返せ」
「わかりえっ!お、おい!この!」
ドルテンの声が急に焦ったものになったのを聞いて全員が馬車に視線を向ければ今まで頑なに前に進もうとしなかった馬が走り出した。
「なんだと!」
馬車は驚く護衛達を置き去りに広場に向かって走り出す。
(何故!?先程まで頑なに前に進もうとしなかったのに何故急に走り出す!?まさか、積み荷の仕業か!?)
「っ隊長!」
部下の焦った声に我を取り戻す隊長彼はすぐさま対応する。
「くそ!追いかけるぞ!常に警戒は怠るな!」
「「「「「了解!」」」」」
馬車を追いかけ走り出す護衛達、馬車についで広場に出た彼等の目前には止まっている馬車とその前に強大な
「岩?」
「っ!違うぞ馬鹿者!こいつは!」
部下の疑問を隊長が訂正しようとした瞬間、その物体が動き出した。
その場にいた全員がその存在に驚愕する。
だがそれはその存在が全くの未知の存在ではなく、むしろ彼等にとってよく知る存在だったからだ。
「ド、ドラゴン!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
周りが急に騒がしくなったせいで起きてしまった。全く人が安眠しているのを邪魔するなんて、何て奴等だ!
ん?いや、今は人じゃななかったな。まぁ、気にしても仕方ない。とりあえず周囲を確認しよう。
「ん~?」
馬車が一台に人がえーと、十人か。にしても馬車の近くにいる奴等は護衛か?でも、馬車の護衛なら馬ぐらい乗ってるもんじゃないのか?それともこの世界の人は馬より速く走れるのか?
今の自分の姿を考えるとありえなくなさそうだな。
あと可能性としては馬車を襲う盗賊か?にしては身なりは整っているしな。
うん、わからんな。聞いてみた方が早そうだが。
「■■■■■?」「■■■■■■■」「■■■■■■?」「■■■■■■!」
うん、何言ってるのか一切わからん!
翻訳機能とかないのか!不親切にも程があるぞ!
とか思っていたら
ヂリッ!
「ん?」
何だ?今何か起きた?でも、周りを見ても何も変わっていな
「聞こえないのですか!?私は神龍帝国の者です!この先に進みたいので道を譲っていただきたい!」
おお!わかるようになった!翻訳か?翻訳機能なのか!?何かスイッチを切り替えた感じがしたけどあれのおかげか?おかげなのか!?
はっ!落ち着け落ち着け、今はそれより目の前の事だ。確かしんりゅうていこく言ってたな。
しんりゅうていこく、しんりゅうていこく、んー神龍帝国か?
何かすごい名前の国だなぁ
「聞こえていないのか?いや、言葉理解していないのか?」
「隊長、どうもこいつ言葉を理解出来ない程度の幼龍みたいですよ?」
むかっ!何か三下みたいな奴に嘲るように言われると腹が立つな。少し驚かしてやる!
「言葉くらい理解している」
ほんとはついさっき理解したんだがそこまで言ってやることはないだろう。
案の定こちらが言葉を急に話したことで少し驚いてるな。
「そ、そうでしたか。部下が失礼しました。ではその場からどいてくださいますね?」
「何故?」
「えっ?」
「?」
揃って首をかしげる私と隊長さん。
いい歳した(予想だが)おっさん(見た目)がそんな仕草をしてもキモいだけだが。
まぁ、龍の私が言えたことじゃないだろうけど。
「いや、私は神龍帝国の者と言いましたが?」
「だから?」
「なっ!まさか、神龍帝国のことを知らないのですか!?」
ふむ、そう言われても知らんなぁ~。
こいつの態度からして知らない方がおかしいみたいだけど、こちとら産まれてまだ・・・・そういえば私どれくらい寝てたんだ?
ん~寝る前の怠さが完全に無くなっていることを考えると案外二日ぐらい寝てた?
おっと、何か思考が余計な方にとんどしまうな、答えを待ってるみたいだし答えてやろう。
「知らん!」
「・・・・・・はっ!なら私を視ていただきたい!それでわかってもらえるはず!」
何か呆然自失していたおっさんが我にかえった瞬間更に訳のわからないことを言い出した。
見ろと言われても、何なのこのおっさん露出狂なの?
まぁ、話が進まないので仕方なく見てみるけどそれでどうなるんだ?
鑑定。成功。鑑定結果を告げます。
名 コトルド・ホン
Lv 35
所属 神龍帝国騎士団
HP 465
わぁ!鑑定か!?鑑定なのか!?というかちょっと待った!待った!そんな一度に告げられてもわからん!口頭での説明じゃなくて文章!こう、目の前に何か表示して!
と、無茶振りしてみればあら不思議、目の前にSFチックなウィンドウが出てきた。
名 コトルド・ホン
Lv 35
所属 神龍帝国騎士団
HP 4620/4650
MP 1080/1080
スキル 【剣術】【馬術】【剣技】【身体強化】
加護 神龍の加護
ふむ、なるほど。おっさんが自分を見てみろと言った理由は分かったが正直、だから何?みたいな感じなんだが。
てか何でおっさんは私がこんなことをできるって知ってたんだ?この世界だとデフォルトなのか?それとも龍に限定された物なのか?
「どうでしょう?ご理解いただけましたか?」
おっと、またも思考が別の方にいってしまった。おかげで私が何も言わないのに痺れを切らしたおっさんが話し掛けてきた。
しかし理解したかと言われてもなぁ~。
ん~。ん!もしかしてこの神龍の加護っやつか?てかこれしかないな。神龍って言うぐらいだし私より上の存在かなぁ。その加護を受けてるって事を言いたいんだろうか?
まぁ、だから何?なわけだが。
「隊長、こいつはどうも話し合う価値はなさそうですよ?」
「ヘッジ」
「だってこいつ神龍様の気配を感じることも出来ない程度の幼龍みたいですよ?」
「確かに、ヘッジの言い分も一理あります。ここでこれ以上時間をかけるのは不味いですし、神龍様ならその程度の龍を殺したところで怒ることはないでしょう」
「・・・・・・」
おや?何か私が何も言わないことに痺れを切らした他の連中が何やら物騒な事を話し出した。てか、やっぱり見てほしかった所は神龍の加護って所か。
にしても、殺す?
ーユルサナイー
私を殺すとかぬかしたか連中は?
ーユルサナイー
ああ、それは!
『許サナイ』
「「「「「「っ!」」」」」」
私が言葉を発した瞬間武器を身構える護衛達。
「ちっ!こうなっては仕方ない!幼龍とはいえ油断するなよ!相手はドラゴン!この世で最も危険な存在だ!」
「「「「「「応!」」」」」」
ーソッチガ殺ルキナラー
『容赦ハシナイ!』
「来る
ドシュ!
・・・ぇ?ぁガハ!」
「えっ?」「なっ!」「見え
グシャリ!
ぎゃ!」
「ひっ!」「ぁ、ああ!」「テメ
ブン!
ドオォォォォォン!
『ガァァァア!』
・
・
・
・
最初から最後まで一方的な戦闘いや、虐殺だった。
最初に連中の隊長を右手で貫き殺し、二人目は近くにいた奴を尻尾で叩き潰して殺し、三人目は怒り向かってきた奴を文字通り殴り飛ばして殺した。
それ以降も一撃必殺で、始めてから一分もせずに皆殺しにした。
「ふぅ、よし静かになった」
そうやってもう一眠りしようと踵を返した先には幾つもの怯えの視線。
その視線の主達は檻のような馬車に囚われている少女達。その意味するところは
「寝るのはもう少し先だな」