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log96.リュージ確保へ!

「――で、軍曹? お仲間からの連絡はまだ?」

「あれを見てその反応か。うむ、まあ……連絡はまだだな」


 人一人轢き殺したソフィアを見て冷淡な反応を返すマコを見て軍曹は頭を振りながらも、ガトリングガンで適当な位置の敵を蹴散らしていく。


「アマテルの言うとおり、RGSのバッツがリュージの捜索しているらしい。居場所は程なく知れるだろう」

「そのバッツさんは、そんなに速いんですか?」

「噂じゃ、その走りの技術をして“縮地”と呼ぶんだそうよ? ヴァル大陸の端から端を一時間で駆け抜けるそうだから、この程度の市街で人一人探す程度はお茶の子さいさいじゃ――」

「賞賛ありがとぅっ! ご期待に添え、RGSのバッツがただいま参上ッ!」


 マコの言葉に反応したかのように、その場に現れたのは長身痩躯の優男であった。

 やや頬はこけているが、人懐っこい笑みを顔に浮かべておりとっつきやすい印象がある。

 一瞬遅れて吹き荒れる砂埃と共に現れたバッツは、笑顔のままマコの手を握って上下に握手する。


「いやぁー、最近じゃ俺の評判もあまり話題に上がらなくなっちゃってねぇ! どっちかといえばアマテルの方が有名になってるっていうべきなんだろうけど一抹の寂しさは覚えちゃうんだよねぇ……」

「はぁ。割とどうでもいいんだけれど」


 ヨヨヨと泣き崩れるようなポーズをとるバッツを見上げ、マコは心底どうでもよさそうな表情になる。

 その顔のままバッツから手を離すマコを押しのけ、コータがバッツの前に出る。


「そ、それで、リュージは今どこに!? あいつは、無事なんですか!?」

「ん? ああ、もちろん無事だよ! リュージの居場所は、ここから見えるあのドームだ!」


 コータの疑問に対し、バッツはテキパキと答え、一方を指差す。

 その方向にあるドームは周りにあるものと比べて一回り大きなドームに見える。先ほどまでどうして見なかったのか疑問に想うレベルの大きさだ。


「あそこにマンイーターの戦力がほとんど集中してる。リュージもあん中だけど……まあ、大丈夫だわな」

「戦力のほとんどって……! そんなの、本当に大丈夫なんですか!?」


 バッツのどこか投げやりな言い方に、思わずレミが噛み付くように吼える。


「ま!? マママ、落ち着いて! リュージなら、マンイーターの連中をばっさり薙ぎ払ってるから大丈夫!」


 バッツは慌てた様子で彼女を手で制した。

 マコはバッツの言葉に眉根を寄せて首を傾げた。


「なにそれ。マンイーターって、そこまで弱いギルドなの? レベル30未満の属性開放してないプレイヤーに圧倒されてるってことでしょ?」

「圧倒というか……おい、軍曹?」


 マコたちの反応が腑に落ちないのか、バッツは軍曹の方を窺う。

 軍曹は近づこうとしている遠方の白組たちに威嚇射撃を繰り返しながら、呵呵大笑した。


「まあ、ここでのリュージのことを知らねばそういう評価だろう? 彼を知っているのと、実際に彼を見るのとでは違うさ。はっはっはっ!」

「そらそうだが……まあ、いいか」


 軍曹の言葉を聞き、バッツは少し顔をしかめていたが、気を取り直すように肩をすくめた。


「――リュージの評価に関してはたびたび耳にしているが、真に迫った話は一度もしたことがない。自分の手柄を語るタイプではないしな」

「まあ、リュウはそうだよねぇ」


 レイピアを鞘に収めながら近づいたソフィアを見てバッツは軽く口笛を吹く。


「ヒュゥ♪ この子が噂の?」

「ソフィアだよ。噂ってのには触れないほうがいいよ? そこはリュージと同じさ」

「おおっと……似た者同士ってことね、おkおk」

「――今しがた、不愉快な認識がなされた気がするな?」


 カレンとバッツの言外のやり取りを敏感に察したソフィアが、据わった目でレイピアの鯉口を切る。

 同時に揺らめき始める殺気を感じ取ったバッツは、誤魔化すように笑い声を上げながら白組の迎撃に向かった。


「ハ、ハハハ! じゃあ、場所は教えたし、護衛は軍曹たちがいれば十分だよな!? 俺はこれから遊撃に入るんで後よろしくー!」

「あいよー! ……あいつがついてきてくれたらもちっと楽なんだろうけどねぇ」

「追っ払うんじゃないわよ、ソフィア」

「私か? 今の、私が悪いのか?」


 目が据わったままのソフィアの背中を軽く叩きながら、マコが目的地のドームへ向かって走り出す。


「ともあれ、急ぐわよ! あのバカがどんな無双やらかしてるか、この目で見てみようじゃないのよ」

「大きなドーム……! どのくらいでいけるかな!?」

「体力の概念がないから、全力で走ろう!」


 コータとレミがマコの先導に従い、全速力で駆け出し――そのまま先導していたマコを追い抜いていく。


「今いくよリュージ!」

「待っててね! 今助けるからぁ!」


 そのまま猛進するコータとレミの前に、またしても白組の者たちが立ち塞がろうとする。


「これ以上先には――」

「「邪魔ァ!!!」」


 だが、白組の妨害が耐えたのはほんの数瞬だった。

 走る速度を一切落とさぬまま二人の振るった武器が、その体を強かに打ちすえ容赦なく地面に転がしていったのだ。


「「「ぶあぁぁぁぁぁ!?」」」

「げ!? やっぱ、こいつらも純粋技量系!?」


 そのまま自分たちを無視して突っ走る二人を見て、白組の内一人が慄くように呟く。

 それに対する返答というわけではないだろうが、彼の頭をカレンは素早く射抜いて黙らせてやった。


「ッパッ!?」

「いっちょあがりぃ。……あの二人も大概おかしいね?」

「まあ、リアルじゃ超のつく優良生徒よ。文武両道、容姿端麗、人格菩薩を地でいくわ」


 突っ走るコータたちから突き放されないようにその背中を追いかけながら、マコは軽く飛んでガードレールモドキを乗り越えていく。

 アスガルド市街を丸ごと横断するような行程。その道々にはマコの飛び越えたガードレールモドキばかりではなく、砕けたビルの破片やら、折れ曲がった標識のようなものが大量に散乱している。足場は不安定で、平地ばかりが続いているわけではない。

 だが、そんな悪路すらものともせず、コータとレミは一直線に目的地のドームに向かって駆け抜けようとしていた。

 戦士風味の格好のコータはともかく、敬虔な僧侶を模したレミが長いローブの裾をバタバタはしたなくなびかせながら飛び回る光景のシュールさに、カレンは思わず痛み出す額を押さえる。


「まあ、リュウのダチだし……って言いたいけど、レミはなんなんだい、あのバイタリティ? あの子もリュウに懸想してんのかい?」

「いや、レミはコータと付き合っている。……ああいう風になってるのは、コータと同じで義憤に燃えているのだろうさ」

「正義感は並以上だからね、あの子。コータと二人でたまに世直しして回ってるわよ」

「へぇ……」


 だいぶ控えめなマコの表現にカレンは軽く体を震わせながらも、軽く笑いながら自身も飛んでビルの破片をかわす。


「まあ、あの調子なら先導は大丈夫かな? そうやすやすやられたりゃしないだろうし」

「戦闘力はともかく、回避力は並み以上だしね」

「この調子なら、すぐにドームにもつくだろう。問題は、軍曹だが……」


 ソフィアは呟きながら、ちらりと後方の軍曹の方へ振り返る。

 どうやら軍曹、徒競走の類は苦手らしくガトリングガンを白組のいるほうにばら撒きながらノッタノッタとソフィアたちを追いかけようとしているのだが、もうその表情も判断できないほどに距離が離されてしまっている。

 カレンの言っていたことを理解し、ソフィアは小さく舌打ちをした。


「これは確かにバッツがいたほうが良かったな」

「誰よ、追い払ったのは」

「逃げたのはあいつだろう」


 ジト目で睨むマコを、ソフィアは据わった眼差しで睨み返す。

 そのまま静かに火花を散らし始めるマコとソフィアを見て苦笑し、カレンは二人をなだめようとする。


「ま、まあまあ……ソフィアも悪気なかったんだし、バッツのヘタレが悪いんだし……」

「きゃぁぁぁ!?」

「「「ッ!!」」」


 だが、その瞬間耳朶に響いたレミの悲鳴に三人の表情が変わる。

 素早く視線を前に向けると、レミは既にドーム目前の広場らしいところに出ていた。だが、その体は弾き飛ばされたかのように倒れており、コータがレミを守るように剣を振るっているのが見える。


「レミちゃん! クソッ!」


 悪態を吐くコータが、刃を一閃し何か――ミサイルのようなものを切り払った。

 響く爆音を聞き、三人は大急ぎで二人のいる広場まで駆け抜ける。


「コータ、レミ! 無事かい!?」

「今度はなにが現れた!?」


 カレン、ソフィア、やや遅れてマコの順にコータたちの救援に現れると、彼が戦っているのが近代兵器で武装した二足歩行の逆間接足ゴーレムであると知れた。


「時代考証ォォォー!!!」

『やかましいわぁ! 古代文明の利器に頼ってなにが悪いかぁー!!』


 反射的にツッコミを叫ぶマコに向かって、ゴーレムの中に乗っているらしいプレイヤーの反論が響いた。


『既に滅んだ古代の超文明……! このゴーレムの存在こそ、彼らが残した証の一つ!』


 腕の変わりにバルカンとミサイルポッドを搭載したゴーレムを操りながら、パイロットは恍惚とした声で叫ぶ。


『ロマンの前に散るがいい! ターゲットインサイトォ!!!』

「ロマンも何もあるかい、この状況で!!」


 パイロットに悪態を吐きながら、カレンも応戦すべく弦を引く。

 ここを突破せねばドームにはたどり着けない。それを察したソフィアもレイピアを引き抜く。

 だが、ゴーレムが動き出すより早く、その背中がいきなり爆発する。


『ぎゃぁぁぁ!?』

「ん!?」

「あら、欠陥品?」


 爆発を見て若干冷静になったマコの言葉を否定するように、爆炎を突き破るように現れたのは小型の戦闘ヘリであった。

 紅い爆炎をローターに纏いながら自分たちの上空を旋回する戦闘ヘリを見て、マコは再び頭を抱える。


「だから……! ファンタジー……!」

『慣れたほうが無難だよ? こんなの序の口だ。しまいにゃUFOだって出て来るんだ』


 マコの声が聞こえているのか、戦闘ヘリのパイロットは涼やかな声でそう返しながら、逆間接足ゴーレムに向き直る。


『ともあれ、ここは銃火団(ファイアワークス)のガンシップが請け負うよ。先に行きなさい』

『ぬあぁぁぁぁ! 対空戦闘用意ぃぃぃぃぃ!!!』

「わかりました!!」

「ありがとうございます!!」


 突然の不意打ちにターゲットを切り替えたゴーレムのミサイルを、ガンシップは機銃にて迎撃。

 もはやエセSFに片足突っ込み始めた戦いを尻目に、ソフィアたちはドームへと何とかたどり着く。


「あたまいたい……」

「噂には聞いていたが、本当にあるんだな、戦闘ヘリ……」

「まあ、騎乗用装備としちゃキワモノの一つだけどね」


 世界観にそぐわぬこと著しいが、この場では助かった。鋼のゴーレムを倒しきれるだけの装備はソフィアたちにないのだ。あれをひきつけてくれるだけで、十分助かる。

 ともあれ、ようやくリュージのいるドームには到着した。あとはリュージの身柄を確保するだけだ。


「リュージ君を助ける!」

「待っててくれ、リュージ!」

「……離脱とマンイーター討伐、どっちが早いかしらね?」

「可能なら、討伐だな。リュージには説教だ。そうせねば、腹の虫が収まらん……!」

「ほどほどにしてやりなよ?」


 それぞれの思いを胸に、ソフィアたちはドームの中に一目散に駆け込んでいった。




なお、戦闘用ヘリはもとより、内装から装備まで完全再現された戦艦大和もあるとかないとか。

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