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log95.その想い、天照のごとく





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「くそ……! 早くリュージを追わねばならんというのに!!」


 もはや苛立ちを隠すことなく声を荒げ、ソフィアは己の体の上に載っている岩石片を力任せに投げ飛ばす。

 先の超新星のごとき爆発は辺りに衝撃と光を撒き散らし、ある程度の破壊をもたらしたがNGの放った原始之一撃(グラウンド・ゼロ)のように更地には変えていない。周りにはまだアスガルド市街を構成する建造物が立ち並んでいる。

 たが、それだけにどれほどの規模でもって先のスキルが放たれたのかはわからない。先ほどまであたりに蔓延していた戦いの気配や、自分たちを追うものの気配はすっかり消え去っていた。


「う、うぅー……」

「目が痛いよー!」

「皆は無事……だな、一応」


 周りを見回せば白色の光に目をやられた仲間たちがうめき声をあげている。そのことに安堵を覚えながら、ソフィアは下手人の姿を探し上空を見回す。

 先のスキルで起きた爆発はかなり遠方で起こった。発動からさほど時間も経っていない筈だ。目を凝らせば、下手人の行く先を知ることが出来るかもしれない。

 敵か味方かはわからないが、その動向に注意を払うべきだろう。辺りを巻き込むようなスキルを使える相手を放置はまずい。


「へー。貴女がソフィアさん、なんだ」

「っ! 誰だ!」


 その時、ソフィアに声をかける者が現れる。

 彼女の誰何の声に対して、鈴のなるような透き通った笑い声が返ってきた。


「アハハ。彼の言っていた通りのイメージだね。羨ましいなぁ」

「彼……? リュージのことか!?」

「そうだよ、っと」

「!?」


 ソフィアの叫び声に軽く返しながら、真上から一人の少女が降ってきた。

 驚き、慌てて飛び退くソフィアを見てまた笑いながら、その少女はぺこりと一つ頭を下げた。


「始めまして、ソフィアさん。私はアマテル。ギルド・RGSに所属するプレイヤーで、リュージ君のフレの一人だよ」

「リュージの……」


 リュージのフレ、と聞き思わずソフィアは彼女のことを見つめてしまう。

 上はチューブトップブラに下は短パンと、身に着けた衣装の面積が極端に狭いことに気が付くが、それよりも目を引くのは彼女の手の平さえ覆いつくす巨大な袖と、その姿を完全に隠してしまえそうなほど大きな羽衣だ。

 イメージとしては……天女、だろうか。ちょうど昔話に出てくるような羽衣の天女のようなイメージを抱かせる。

 自らをまじまじと観察してくるソフィアを前に、アマテルはニパッと楽しそうな笑みを浮かべて彼女に声をかける。


「見られるのはなれてるけど、そうマジマジと見られると恥ずかしいかなぁ」

「あ……す、すまない」


 アマテルの指摘を受け、ソフィアは自らの無遠慮な視線を改めるように頭を振った。


「リュージのフレ、というのにあまり、その……」

「慣れてない? うん、だと思うよ。彼、有名は有名だけどフレはそこまで多くないと思うしね」


 気恥ずかしそうなソフィアを見てまた笑いながら、アマテルは軽く浮かび上がる。


「けど、それは私も同じだよ。リュージ君のギルドのメンバー、っていうのは慣れない言葉だなぁ。いくら誘っても、ギルドには招かれてくれなかったもの」

「……生来の気質が一匹狼的なところがあるからな、あいつは」


 アマテルが浮かび上がったことに微かな驚きを感じつつ、ソフィアは自身のイメージを語った。


「ただ、孤高や孤独とは無縁だな。どちらかといえば……走りすぎているのかもしれん。奴の足についていけるだけの者がいないが故の、群れ持たずかもしれん」

「アハハ。的確だねー。さすがはリュージ君のお嫁さん?」

「嫁ではない。断じて嫁などではない」


 アマテルの言葉にむっとした様子になりながら、ソフィアは苛立たしげにため息を突く。


「あいつはどうして人のことをそういう風に触れ回るのか……」

「アハハ。愛されてる証拠じゃない? 皆に自慢して回りたいんだよ。自分のお嫁さんを」

「それで見ず知らずの相手に“リュージの嫁”呼ばわりされるのもな……」


 困惑した様子のソフィアを前に、アマテルは軽く微笑む。


「じゃあ、辞退してもいいんだよ? そうしたら、あとは私が請け負うから」

「っ!」


 なんでもない軽い微笑から放たれた言葉の衝撃に、ソフィアは目を見開く。

 アマテルはソフィアの顔を見つめ、変わらぬ様子で微笑みながら言葉を……ソフィアに対する挑戦状を投げつける。


「人は唯一絶対に強く惹かれ、憧れるもの。私は唯一つを目指してRGSに入り、速さを極め、光を求めた。……けれど、彼は違う。極みを目指したわけじゃない。その道の途上にいるわけじゃない。ただ頼まれた依頼を果たすという、ただそれだけで私たちに並び立った」

「………」


 微かな笑みを浮かべてかつてのリュージとの邂逅を語るアマテルの言葉に、ソフィアは複雑な表情を浮かべる。

 彼は、何かを極めようとして頑張っている人間には勝てないなどと普段から嘯いているが、時としてあっさりとその道を邁進する人間を追い抜くことがある。

 彼女も、またその部類ということだろう。


「眩しかったなぁ……あの時の彼。どこまでも自然体で、力強くて」


 アマテルは手の平を合わせ、はにかむように笑った。


「正直、一目惚れだったんだ。私の憧れが凝縮したような、そんな人だったから」

「……」

「だからすぐに告白したよ。けれど結果は玉砕。アハハ」


 アマテルは軽く笑う。だが、ソフィアにはその笑みがずっしりと両肩に重く圧し掛かった。


「貴女がいるから、私は彼の隣に立てなかった。なんてことないけど、結構ショックだったな」

「……私は」


 ソフィアが返答につまっていると、いつの間にか立ち上がっていた仲間たちが先に進み始めていた。


「ソフィア君! 話しこんでいるところ悪いが、他の白組の者たちがまた動き出したらしい!」

「っ! 軍曹!?」

「ああ、もう? 一応、アスガルド市街全域に撃ち込んだつもりだったんだけど、やっぱり結界破りだと威力低いなぁ」


 アマテルは一つため息をつくと、そのままふわりと浮き上がる。


「それじゃあ、先に行ってソフィアさん。リュージ君の居場所は、うちのギルドマスターが探してるから、すぐにわかるよ」

「アマテル……! 私は!」


 ソフィアは彼女の姿を追いかけ、思わず叫ぶ。

 だが、アマテルは振り返り、唇に人差し指を当てながらソフィアを制した。


「駄目だよ、ソフィアさん? 貴女は胸を張らないと。誰も並び立てなかった、彼の隣に立ってるんだからね?」

「私は……私に、そんな……!」

「それが本当にいやなら、私が請け負うから。けど、逃げるのは許さないよ? じゃあね」


 アマテルはそれだけいい終えると、そのまま一気に上空へと飛び上がる。

 そのまま、辺りに向かってレーザーのようなものを乱射し始める彼女の姿を見上げるソフィアの肩を、カレンが叩いた。


「ソフィア」

「っ! ……カレン、か」

「今は、先に進もう。アマテルが、足止め買ってくれてる間にさ」

「……ああ」


 カレンに促され、ソフィアも仲間たちの背中を追いかける。

 だが、アマテルの言葉が頭の中から離れてくれず、ソフィアの視線は俯き加減になってしまう。


「……私は……」

「ソフィア」


 カレンはソフィアの隣を走りながら少し考え、前を向きながら口を開く。


「アマテルの言ったこと、気にするなってのは無理だろうけどさ。あんたがどう思ってるのかは、ハッキリしなきゃだめだよ。リュージが真剣なのは、わかってんだろ? あんなんだけどさ」

「………」


 ソフィアの無言に、カレンは言葉を重ねる。


「なら、アンタだって真剣にならなきゃ駄目だ。普段がどうであれ、本気でリュージに向き合わなきゃ。でなきゃ……あんたその内潰れちまうよ」

「……ああ」


 かすれた声で返答するソフィアに、カレンはにやりと意地悪そうな笑みを浮かべながらこんなことを言い出す。


「まあ、それがいやならあたいが請け負うよ? アマテルよりゃ。気安いだろう?」

「……ハハ。お前まで、変なことを言うなよ」


 カレンの言葉にソフィアは思わず苦笑いをする。

 彼女なりの気遣いか、或いはアマテルに便乗しているのか。

 いずれにせよ、少し気が楽になったのは確かだ。笑えるのであれば、まだ上等だ。


(……リュージの嫁、か)


 その言葉に、どれだけの人間が涙を飲んでいるのかソフィアにはわからない。そもそも、リュージが他人から想いを寄せられているという発想すら浮かばなかった。

 彼はあまりにもまっすぐに、ソフィアに向かって走ってきていたから。周りの全てを置き去りにして、何よりもソフィアに向かって。

 それがどれだけ大変なことなのか、ソフィアにはわからない。だが、彼が本気で真剣にソフィアを想ってくれているのだけは、間違いないのだろう。


(私も、いずれ……)

「ソフィア、来るよ!」


 ソフィアが小さく胸の内でつぶやいている間に、いつの間にか白組の者たちが追いついていたようだ。

 前に回りこんだ剣士が数人、カレンとソフィアの前に立ち塞がっていた。その向こう側では、軍曹に守られたコータたちの姿が見える。


「うおぉぉぉ!!」

「しつっこい! ソフィア、あたしが――!!」


 カレンは素早く弓に矢を番え、ソフィアに先を促そうとする。

 だがそれはソフィアの耳には届かず、彼女は叫ぶ。


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 裂帛の気迫と共に放たれた突きは目の前のプレイヤーの胴体に穴を開けるどころか、突進の勢いでそのまま体を真っ二つにしかねないほどの勢いであった。

 体の全身の骨が折れるような壮絶な音を立てながら真上に吹き飛ばされるプレイヤーを尻目に、ソフィアは小さく唸る。


「おちおち考える間もないな……! さっさとリュージを連れてここを離脱せねば……!」


 自らが轢き殺したプレイヤーのことなど目もくれず、仲間との合流を急ぐソフィア。

 彼女の背中に修羅の気配を察したプレイヤーたちは思わず足を止め、そのままソフィアに頭を撃ち抜かれて退場していく。


「たばっ!」

「ばわっ!」

「……さっきもそうだったけど、ソフィアは切れるとリュージ並みだね。いやマジで」


 遺憾なく、現在のステータスを数字どおりに発揮するソフィアを前に、カレンは軽く首を振りながら彼女を追いかける。

 アマテルのおかげで、いくつものドームが姿を現している。あとは、リュージの姿を見つけるだけだ。




「……胸も大きくて顔もよくて……性格もかわいらしいなんて。ずるいよ、ソフィアさん。魅力じゃ、絶対勝てないじゃない……」

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