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log93.シナイとタイヨウ

 NGが吹き飛ばしてくれたアスガルド市街の一角はどうも遠くからでも良く見えるらしく、ソフィアたちが逃走を開始し始めた途端に白組のギルドが殺到し始めた。


「いたぞ、いたぞぉー!」

「長く足を止めて、マンイーターとの同盟権ゲットだ!」

「ぶち殺せばそれだけ長くいなくなる……! 手っ取り早くいくぜぇー!!」


 己の欲望を隠すことなく叫びながらこちらに駆け寄ってくる白組の群れを見てコータは珍しく苛立たしげに舌打ちをする。


「ッチ! 今はあんなのに構ってる暇はないのに……!」

「あんたが舌打ちとか珍しいわね……気持ちはわかるけど」


 コータに同意しながら、マコは後方に魔法か何かを放つ準備を始める。

 遮蔽物もなく、一塊に追ってくるだけなら蹴散らすのは容易いだろう。

 だが、こちらの攻撃の気配を察してか、走りながら白組も遠距離攻撃を放ち始めた。

 魔法に弓矢、ボーガンのボルトなど種々様々な飛び道具が異界探検隊の者たちの元へと殺到する。銃弾がその中に含まれていないのは、不幸中の幸いか。


「ってぇーい、めんどうな!」

「対空防御ォ!」


 カレンと軍曹が手分けして飛来する飛び道具を撃ち落そうとするが、さすがに二人では殺到する雨のような飛び道具の群れ全てを叩き落すことは不可能だった。

 ソフィアたちも自衛のために己の道具を使って飛び道具を叩き落すが、その内の一発がレミのスカートの裾を、偶然射抜いてしまう。

 そのまま地面に縫いとめられてしまったローブのスカートが足に纏わりつき、転んでしまうレミ。


「きゃあっ!?」

「レミちゃん!?」


 倒れたレミの方にコータも向き直り、彼の足も止まる。


「ちょ!?」

「く、レミ……!」


 前を行くマコとレミも反射的に振り返るが、レミの元に戻るか否か一瞬判断に迷ってしまった。

 異界探検隊の思考に空白が生まれ、その行軍が止まった瞬間瞬く間に距離を詰める白組たち。


「まずは一人目だぁぁぁ!!」

「うぅっ!?」


 倒れたレミに向かって、白組のプレイヤーの凶刃が迫る。


「レミッ!!」


 カレンは素早く弓に矢を番え、レミに斬りかかろうとする輩を射抜こうとするが、殺到するプレイヤーたち全てに攻撃するのは不可能であった。


「くそ……!」


 カレンは悔しげに呻き、それでも抵抗するように鋭矢を解き放つ。

 それは数人の白組の者たちを打ち倒すことに成功した。

 だが、それでも迫る白組の波を押しとどめるだけの力はない。


「うらぁぁぁぁぁ!!」

「………!」


 自身の頭に向かって振り下ろされる斧を前に、レミは反射的に目を閉じた。


「レミちゃんッッッ!!」


 彼女が暗闇の中で聞いたのは、後ろから聞こえてくるコータの声。


「うごぇあっ!?」


 そして、今まさに自身を攻撃しようとしていたプレイヤーの苦しそうな呻き声であった。


「っだぁ! あぶなかったぁ!? 少年! 彼女を早く連れて行くんだ!!」

「は、はい! ありがとうございます!!」

「……!」


 聞こえてきた聞いた事のない男の声に促されるように、自分の肩を抱くように引き寄せてくれるコータ。

 耳元にその声が聞こえてきた時、ようやく勇気が湧き、レミは瞳を開いた。


「レミちゃん! 大丈夫!?」

「コータ君……!」


 そして、目の前にいてくれたコータの安心したような笑顔に、レミもまた安堵の笑みを零す。


「二人とも熱いねぇ! けど、できればせっかくの離脱のチャンスは逃してほしくはないかなぁー!?」


 だが、そんな二人の空気を無視するかのように、焦った男の声が聞こえてくる。


「あ、す、すいません!?」


 コータも慌てたように今の状況を思い出し、必死に白組の侵攻を押し止めてくれている男に向かって頭を下げる。


「謝罪はいいから早く早く離れて早くぅー!?」

「どけぇぇぇぇぇぇ!!」


 猪かなにかのように猛然と襲い掛かってくる白組の者たちを一人で押しとどめている男。江戸時代にいる浪人が着るような着物を身に纏った軽装の男は、たった一人で五人以上の敵を相手に防戦を繰り広げていた。


「ぬぉぉぉぉ!? 破らせない、破らせないぞぉぉぉぉぉ!!」


 目にも留まらぬ速さで両手の獲物を振り回す和装の男。

 二刀流の使い手なのかとレミは驚いたが、一瞬見えた男の手の中の武器の正体に気がついて、さらに目を丸くした。


「……え、竹刀?」


 そう。男が今両手に持って懸命に振り回している武器は、剣道に用いられる竹刀であった。

 非常に良くしなる大小二振りの竹刀。贔屓目に見ても決して頑丈そうには見えないそれを振り回しながらも、男は卓越した技能で持って防戦状態を維持し続けているのだ。


「ちくしょぉぉぉぉぉ!!」

「しつこいんだよ、倒れろぉぉぉぉぉ!!」


 目の前に立ち塞がる男を倒さんと、必死に斬りかかる白組のプレイヤーたちであったが、防戦に徹した男の攻撃によりその足は彼の背後には一歩も進めないでいる。

 ならばとその両脇から迂回しようとする者たちもいたが、そちらのほうは軍曹やカレンがそれぞれ撃ち倒していた。


「はっはっはっ! 護衛対象が近くなければなぁぁぁぁぁ!!」

「今度は逃さない……! とおしゃしないよ!!」


 両名の射撃の腕はいうまでもない。竹刀を操る男の両脇を蟻一匹すら通さぬ勢いでカバーし続けた。


「レミ!」

「まったく……冷や冷やさせないでよね」

「ごめんね、二人とも……!」


 レミが何とか無事に戻ってきてくれたことを安堵するソフィアとマコ。

 コータたちが無事に離脱したのを確認したのか、竹刀の男は防戦を自ら崩し始める。


「っと! いくよぉ!」

「うぉ!?」


 先ほどまで守り続けた男は、今度は攻勢に転じた。

 誰がどう見ても鋼の鎧に有効打など与えようがない武器、竹刀。

 折れそうなほどに大きくしなる竹刀を振るい、男は白組の者たちの間を駆け抜けていく。


「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁ!!」


 一振り。二振り。三振り。

 両手の竹刀が振るわれるたび。その切っ先が敵に触れるたび。

 空気の弾ける轟音と共に、周囲に立ち並ぶ白組の者たちは大きく吹き飛んでいった。


「っぐあぁぁぁぁぁぁ!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「な、なぁ!?」

「なんだ!? 敵が……ひぃ!?」


 信じ難い光景に、あとに立ち並ぶ白組の者たちは顔面蒼白となり、竹刀を振るう男の顔を見て悲鳴を上げる。


「ぎゃあぁぁぁぁ!? 新撰×維新のバンブーブレード!?」

「うそだろぎゃぁぁぁぁぁぁほんとだぁぁぁぁぁぁ!?」

「人の顔見て悲鳴上げないでくれるかなぁ!?」


 男は憤慨した様子で声を上げながらも、続けざまの一振りでさらに白組を吹き飛ばしてゆく。

 さながらその様は台風の如し。白組が悲鳴を上げるのも無理からぬことだろう。

 男の大暴れを見て一つ頷き、カレンは素早くソフィアたちを先導する。


「今の内だよ!」

「彼が暴れてくれているうちだ! はっはっはっ!」

「あ、ああ……そうだな……」


 バンブーブレードと呼ばれた男が白組の者たちを相手に大暴れてしている間に、異界探検隊はその場を速やかに離脱していった。


「先ほどの彼……凄まじい腕前の持ち主だな……」

「コータ君、同じことできる……?」

「いや、無理だよ……。どんなイメージしてたら、あんなことできるかわかんないよ……」

「新撰×維新のバンブーブレード・タケウチっつったら、竹刀剣術の第一人者だからねぇ。いわゆる新興武術の類だよ」

「興味があれば、訪ねてみると良いぞ! 弟子をいつでも募集してるという話だからな!」

「あ、そう……」


 興味なさそうにマコは呟き、アスガルド市街の中を見回す。

 今いる場所は広めの道路が交差する市街の中心部といったところか。

 大小様々なビルの姿を見ることの出来る大通りに立ち、辺りを見回してみると……確かにかすかな違和感を覚える。

 あるべき場所に何もない……不要な空間の空きのような物。

 NGのいうとおりの隠蔽なのだろう。恐らく、何もない場所に何かが隠されている可能性がある。


「……NGのいうとおり、マンイーターは隠蔽工作してるっぽいわね。リュージの居場所を」

「本当に!? で、それはどっちに……!」

「それがわかれば苦労しないわよ」


 今にも掴みかかってきそうなコータをかわしながら、マコは苛立たしげにため息をつく。


「不自然な空間の空きが、ここからでも三箇所は確認できるわ。結構間も空いてるし、一つ一つ確認していくのは無駄よ」

「そんなぁ……」


 マコの言葉にコータはがっくりと肩を落とす。

 結局ここまででリュージに繋がるまともな情報が一つも出てこない。

 コータでなくとも項垂れてしまう状況だが、それで相手が待ってくれる訳でもない。


「こっちにいたぞー!」

「……また敵か」


 ソフィアが薄暗い声で呟きながら、すらりとレイピアを抜く。

 微かな怒気と殺気を放ち始める彼女を見て、レミが軽く震えながら彼女を制止しようとする。


「ま、まってソフィアちゃん! 落ち着いて! 無理に戦わなくても、逃げればいいでしょ!? リュージ君に会う前に倒れちゃ駄目だよ!?」

「ああ、大丈夫さレミ。危なくなったら逃げるさ……」


 ソフィアは呟きながらレイピアを振るい、深い斬撃痕を地面に穿つ。


「それに、敵を避けて通ることは出来ないだろう? フフフ……」

「マコちゃん大変! ソフィアちゃんが壊れそう!」

「もう壊れてない? まあ大丈夫でしょ、ソフィアなら」


 切れかけているソフィアを見て、マコは呆れたようにため息をつく。


「そろそろ太陽でも何でもいいけど、現状打破の一撃が欲しいわね……。景気付け代わりに、でかいの一発」

「どうやって撃つんだいそんなの……」


 ソフィアの襟首を掴んで遠くに行かないようにしながらカレンはマコの言葉にそう返す。

 だが、確かに逃げ回るばかりではどうしようもない。何か、きっかけのようなものがほしいのは確かだ。

 そんな風にカレンが思い始めたとき、軍曹のクルソルに再び一方通行の通信が入る。


《軍曹! 聞こえているな!?》

「む、またワンウェイか」

《これからマンイーターの隠蔽を剥がす! 太陽が見えたら、すぐに隠れろ! いいな!》


 通信相手は一方的にそういい捨てると、そのまま通信を切った。

 軍曹はその通信の意味が理解できずに首を傾げた。


「太陽? 一体全体、それを見てどうしろというのだ?」

「さあ? NGも言ってたけど、どういう意味なのよ――」


 マコも不思議そうに呟きながら、とりあえず空を見上げてみる。

 イノセント・ワールドは現在お昼ごろといったところか。不安定な日照時間を持つこの世界にしては珍しいことに、長く太陽は天頂付近に留まっており――。


「……え? なにあれ」


 その下辺り……というよりはアスガルド市街の上空付近にも、同じような太陽の姿を認めることが出来た。

 太陽に見えるそれは、どうもかなり大きな光の塊のようで、アスガルド市街の上空にてギラギラと稲光を発しながら滞空していた。


「太陽……って、あれのこと?」

「だと思うが……あれを見て隠れろとは……?」


 軍曹もマコと同じものを見つけ、首を傾げる。

 あの太陽を見てかくれろとはどういう意味か? というよりはこれから一体何が起きるのか?

 ……それを知るものはいなかったが、それ以上考える必要はなかった。


「――ビィィィィィック、バァァァァァァンンンンン!!!!!」


 甲高い少女の声と共に、その太陽が勢いよく炸裂したのだ。


「なっ!?」

「ちょ、またなの――!?」


 超新星の爆発は瞬く間にアスガルド市街を飲み込み、その中にあるものを吹き飛ばさんとする。

 再びこんな爆発に巻き込まれる不運を呪いながら、異界探検隊もまた爆発の中へと消えていった。




なお、超新星の爆発は、イノセント・ワールドの一部地方では稀によく見る模様。

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