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log91.逆鱗




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「「「「「おおおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 マンイーターを構成するギルド構成員たちが、まったく同じデザインの剣を携え、リュージの周囲を一斉に囲う。

 さらにその外周にはボーガンを構えたマンイーターたちの姿が、前衛の三倍は見える。そして、リュージを中心に正五角形の頂点に立つようにGM・マンイーターが五人、護衛と共にリュージの姿を眺めている。

 ここにいるマンイーターの構成員たちのレベルは、全員が50を超えている。このままではリュージは為すすべもなく蹂躙されてしまうだろう。


「チッ! この鎖……なにでできている……!?」


 ガオウは自身の周囲を囲う謎の鎖を破壊すべく果敢に攻撃を繰り返すが、ひびの入る気配すらない。マナの符術魔法による身体強化込みでこれである。何らかの特殊なスキルの組み合わせによって構成されていると見るべきか。

 叶わぬ努力を繰り返すガオウを見かねてか、GM・マンイーターの一人が彼に声をかける。


「無駄だよ。その鎖は建築(クラフト)スキルを使って強化してあるからね。障害物判定じゃないんだ。プレイヤーの力では破壊できないよ」

建築(クラフト)スキル!? こんな使い方があるんですか……!」


 GM・マンイーターの言葉に、マナは感心したような声をあげ、自身の回りを囲う鎖を見回す。

 元来、建築(クラフト)スキルは言葉の通り建築に使用するスキル。使用用途はギルドハウスの増築や、街の中の修復など、戦闘以外に用いるスキル。マンイーターの口ぶりから察するに、鎖に用いられているのは柱などの構造物が破損しないように強化する永続化(セーブ)というスキルが使用されている可能性がある。建築(クラフト)スキルの中でも最もレベルの高いものの一つのはずだ。


「人を狩るためであれば、あらゆる技術を取得する、という噂は本当なんですね……」

「まあね。マンイーターは、人を喰う。その為なら、何でもするよ」


 GM・マンイーターはマナの言葉に一つ頷く。

 淡々としたその口調は、ただ事実を述べているだけだ。本当に、人を喰うために何でもするのだろう。

 そんなGM・マンイーターに噛み付くように、爪剣を振るいながらガオウが吼えた。


「抜かせ小悪党がッ!! 一人に対し、多勢で襲い掛かり一体なにを満たすというのだ!?」

「無論、腹を。何で満ちるは関係ないよ。マンイーターという怪物の腹を満たすんだ」


 GM・マンイーターは淡々と答えながら、しかし一箇所から……リュージの姿から視線を外さない。


「それに……多勢に無勢というのは、彼に適応していい言葉なのかな?」

「なにぃ!?」


 ガオウが爪剣を振るいながらリュージのほうへと視線を向けると、彼に向かって一斉にマンイーターたちが襲い掛かるところであった。


「「「「「うおおぉぉぉ!!」」」」」


 構えた剣で、リュージの体を一斉に叩く。囲んで棒で殴るのは、太古から使い古された戦術の一つ。戦場において最も有効な戦い方の一つでもある。

 リュージの周りを囲むのは五人。タイミングもよけられるものではない。この一撃でリュージの体をばらばらにして終わり……になるはずだった。

 だが、リュージは目にも留まらぬ速さでバスタードソードを二度振るう。

 響く剣戟の音は二回。音と共に鋼は弾かれ、マンイーターの間にかすかな隙間が生じる。


「うっ!?」

「くっ!」


 リュージの反撃に体を硬直させるマンイーターたち。その瞬間、リュージの体は円陣の外へと滑り出ていた。

 止める間もなく円陣の外に出たリュージを待っていたのは、外周部に控えていたボーガン隊の射撃であった。


「ってぇー!!」


 隊を指揮する指揮官の声と共に、一斉にボーガンからボルトが発射される。

 熟練の弓手に匹敵する速度で迫るボルトの雨を前にリュージはバスタードソードを幾度も振るう。

 必要最低限、致命的な場所に当たりそうなボルトだけを狙い、的確に切り払ってゆくリュージ。

 足を止めた彼に向けて、二振りの馬上槍(ランス)が向けられる。


「「おおおぉぉぉぉ!!」」


 雄たけびと共に、馬上槍(ランス)がリュージに向かって突撃する。

 自らに迫る馬上槍(ランス)の穂先に向かって、リュージは切り払いを行っていたバスタードソードをその勢いのままに叩きつける。


「ッ!!」


 瞬間響く硬い鋼の音。だが、馬上槍(ランス)はリュージの一撃ではピクリともせず、突進の勢いも死なず、まっすぐにリュージの体に向かう。

 敵の体を貫く確信を得たマンイーターの一人は笑みを浮かべるが、次の瞬間リュージの姿は彼の視線の先にはなかった。


「ッ!?」

「よーっと」


 驚き慄く彼の頭上から、リュージののんきな声が聞こえてくる。

 先の一撃、馬上槍(ランス)を捌くためのものではなかった。その一撃を支点に、マンイーターたちの頭上へと飛び上がるためのものだったのだ。

 だが、中空への飛び上がり回避は、同時にマンイーターたちにとっても狙い目となる。


「狙えッ! 構えッ!」


 指揮官の声に応じ、ボーガン隊が獲物を構え、さらに槍部隊が槍衾を敷く。

 中に飛び上がったリュージはそのままゆっくりと重力に従い下降してゆくが、着地地点に槍衾が到着するほうが早かった。


「ってぇー!!」


 再びの射撃命令。無数のボルトがリュージへと殺到し、さらに槍衾がリュージの体を貫かんと上を向く。

 リュージは大きく体を捻り、バスタードソードを一閃しボルトを叩き落す。

 いくらかのボルトがリュージの体に突き刺さるが、彼はそれに構わず自らの体を貫こうとする槍衾の一端を手で掴む。

 鋭い穂先はリュージの体を貫けず、槍衾の目の前でリュージの姿がぴたりと止まった。


「ぬっ!?」


 槍を掴まれたマンイーターの男が一つ声をあげ、リュージを睨む。

 そしてボーガンの第二射を待たず、槍の穂先からリュージの体を振り落とそうと、容赦なく穂先を地面に向かって叩きつける。


「ぬぅあぁ!!」

「おっと」


 リュージは振るわれる槍の勢いを利用し、槍衾の届かぬ位置まで体を飛ばす。

 それを追い、剣を構えたマンイーターたちが、一斉に駆け出してゆく。

 着地したリュージの周りを一瞬で囲い、再びリュージの体に刃を突きたてようとする。

 リュージはそれを睥睨しながら、素早く戦場の全体を確認する。

 マンイーターたちの配置は素早く動き、あっという間にリュージを中心とした円陣を組む。その外周、最も遠い場所にGM・マンイーターの五人が一定の間隔で立っていた。


「むぅ……やっぱり、そう簡単にゃいかねぇな」


 リュージは呻きながら、バスタードソードを構える。

 ――今、現在のリュージの目的はイベントにおける貢献度を十万ポイント稼ぐこと。皆でがんばったおかげで、現在の貢献度は五万ポイントと少し。あと五万ポイント稼げば、イベント期間中はもう無理に闘う必要がなくなる。

 そして、目の前にいるマンイーターたちの頭であるGM・マンイーターの賞金は八万ポイント。こいつを倒せれば、例えそのあとにリュージが撃破されようとも知ったことではない。三万ポイントも余裕が出来るのだ。自身の死亡分のポイントを支払う程度わけはない。

 だが、相打ち覚悟で仕留めに来る程度、GM・マンイーターも想定の内なのだろう。リュージを中心に戦力を広げ、自身はその戦力の外側、リュージにとって最も遠い位置に影武者と共に立っている。さすがにこれだけの距離が開いてしまっていると、一足飛びにマンイーターを倒すことも難しい。

 そしてこれだけの数を一人ひとり倒して対処していくのも時間がかかりすぎる。倒したところで、これがマンイーター側の全容とも限らない。場合によってはわんこそばの要領で無尽蔵に戦力を追加されるかもしれない。


「難しいもんだなぁー。大将首を討ち取るってのも」

「首置いてけー、っていう奴かな? 猪突猛進なのは、君にぴったりじゃないかな?」


 リュージの呟きに反応するように、GM・マンイーターの声が聞こえてくる。伝声空間(テレボイス)と呼ばれる、簡易チャット魔法だ。クルソルを解さず相手に声を伝えられる魔法だが、一方的な通信にしかならないため相手側も伝声空間(テレボイス)を持っていないと通信が成立しないのが難点だ。

 もちろんリュージは伝声空間(テレボイス)を覚えていない。恐らく、聞き耳に類する魔法でこちらの声を聞いているのだろう。

 それを察し、リュージはへらりと笑いながらGM・マンイーターに声をかける。


「聞いてんならちょうどいいや。お互いの首を交換しねぇか? 仕留めさせてくれたら、後はみじん切りでも摩り下ろしでも好きにしていいからよ」

「それじゃあ、駄目だよ。面白くない」

「マンイーターは、腹を満たしたい」

「でもそれは嬲り殺しにしたいんじゃないんだ」

「君の全力を叩き潰したい」

「そうしなければ、満たされないよ」


 五方向からGM・マンイーターたちの声が聞こえてくる。五人の声は、よく似ていた。影武者を務めるだけある。


「ちっ、駄目か。いいじゃねぇか、八万くらい」

「三万とじゃぁ、釣り合いが取れないよ」

「まあ、そう言わず」

「駄目駄目。それじゃあ、満たされないんだから」

「君も本気を出さないと」

「そうだよ。このままじゃ、やられちゃうよ?」


 リュージを刺激するつもりか、マンイーターは笑みを含んだ声色でこう呟いた。


「君の大事な仲間も」

「―――」


 瞬間、リュージの顔から笑みが消え、その身に纏う気配が一変する。

 ざわり、とリュージの周りにいるマンイーターたちから動揺の気配が生じる。

 全身の産毛が総毛立つような、おぞましい感覚。一瞬ではあるが、心臓をそのまま握られたかのように感じた、マンイーターの一人が思わず上ずった声を上げる。


「ッーー!?」

「………」


 リュージは、明らかに隙の生じたその一角には目をくれず、まっすぐにGM・マンイーターの一人を見据える。

 氷のように凍てついた眼差しを放つその顔に満ちている感情は……殺意にも似た激しい赫怒であった。


「―――俺の仲間が、なんだって?」

「……う、うわぁぁぁぁ!!」

「あ、おい!」


 リュージが口を開いた瞬間、何かに耐え切れなくなった前衛の一人が叫び声を上げながらリュージに斬りかかる。

 迂闊に動いた仲間をフォローするべく、他に二人の前衛が動きリュージへと襲い掛かる。

 三人同時に襲い掛かることで、リュージに防御か回避をとらせる。そのつもりだった。

 だが、リュージはその場から動かない。

 それどころか、襲い掛かってきた前衛たちに目もくれない。

 彼は無造作に、目の前の羽虫を払うかのような気安さでバスタードソードを振るった。






 ぞんっ、と空間ごと削り取るような重たい斬撃音が響いたあと、リュージに襲い掛かった前衛たちの体が上下に断裂した。






「―――!?」

「―――なあ? マンイーター?」


 広がる動揺の輪。レベル30の一撃で、軽装とはいえレベル50のプレイヤーが三人纏めて消されてしまったのだ。当然だろう。

 リュージはマンイーターたちの動揺すら意に介さず、一歩前に踏み出してゆく。


「誰の、何が、どうなるって? なぁ……マンイーター?」


 静かな問いを繰り返すリュージの顔には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。

 静かな、本当に静かな……殺意を湛えた笑みを。




なお、ステータスを数字どおりに発揮できればこの程度は児戯に等しい模様。

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