表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/193

log90.リュージを追って

 その後の行軍も、決して楽なものではなかった。

 まるで餌に群がる蟻のごとく、次から次へと白組の者たちがソフィアたちの下へと現れた。


「うおぉぉぉぉ!!」

「えぇい、しつこいんだよっ!!」


 不意打ち気味に現れた白組のプレイヤーを、カレンの鋭矢が貫く。

 幾度となく響く鳴弦の音共に、白組のプレイヤーの体を無数の矢が襲いかかる。


「「「うわぁぁぁぁぁ!!??」」」

「はっはっはっ! 見事!!」

「軍曹、撃ち漏らし!」

「ぬぉぉぉ!?」


 軍曹の放つ弾幕を抜けてきた白組プレイヤーの頭に穴が一つ開く。


「見事だ! はっはっはっ!」

「ありがとう。撃ち漏らしの処理ってのは気に喰わないけど……」


 マコは小さく呟きながら、グロックのリロードを行う。

 その脇から現れる白組たちには、ソフィアとコータが対応する。


「ハッ!」

「シィ!!」

「うお!?」

「こいつら……!」


 幾度となく交差する剣閃を前に、レベル50前後のプレイヤーたちが怯む。

 よそから襲い掛かってくる白組たちを牽制しながら、カレンが二人にエールを送った。


「純粋技量はなんてことない! イメージを形にする力だ! あんたたちのレベルなら、もう十分想像を形に出来るはずだよ! リュウの通った道だ、やってみせな!」

「リュージの……! 通った道か……!」


 相手から繰り出される槍撃を回避しながら、ソフィアは目の前の敵を見据える。


(イメージを、形にする……!)


 目の前で大きく槍を振りかぶる敵の体を、一矢のごとく貫くイメージ。


「おおぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」


 槍が振り下ろされる、その一瞬の間。

 刹那の間隙に、ソフィアの一撃が滑り込む。


「ハァァァッ!!」

「っぐぉ!?」


 密着できるほどの至近距離。惜しくもレイピアの一撃は硬い鎧によって阻まれたが、ソフィアの突進の勢いはレベル50のプレイヤーたちの体を弾き飛ばすのに十分な威力を持っていた。

 勢いよく後方へとすっ飛んでいく相方の姿を見て、もう一人のプレイヤーが驚きの声を上げる。


「お、おい!?」

「――シッ!!」


 その瞬間、コータの斬撃がその首筋を襲う。

 刃が溶けて見えるような綺麗な斬撃の軌跡は、狙い違わずそのプレイヤーの首を打ち落とす。

 その相方は、彼の最期を見届けることなく、ソフィアの追撃によってそのまま昇天させられた。


「ソード・ピアス!!」

「っぐほ」


 至近距離からの一突きは、今度こそ敵の胸板を鎧ごと貫く。

 そのまま溶けるように消える敵の姿を、ソフィアは見送ることなく足を進める。

 次の相手が、また姿を現したからだ。


「いたぞー!」

「くそ、きりがない……!」


 毒づくソフィアに同意するように、カレンが頷く。


「まったくだね……! ソフィアらを人質に取ったって、リュウに勝てるわきゃないだろうに!」

「実際、あのバカにどんだけ通用するのかしらね、人質作戦って。なんか、人質取られておとなしく従う姿が想像できないわ」


 マコの言葉に同意するように、コータが何度か頷く。


「ああ、それはなんかわかるかも……。それよりも、ソフィアさんが人質に取られたことでぶち切れるほうが先だよね」

「怒ったら……どうなるんだろうね。皆殺し、になっちゃうのかな……?」

「……お前らの中で、リュージの印象はどうなってるんだ」


 レミまでへんなことを言い出したのを聞き、ソフィアがゲンナリとした表情になる。呆れる気力もないといった様子だ。

 軍曹などは、散々なリュージの身内評価を聞いて大爆笑だ。


「はっはっはっ!! 愛されているじゃないか、彼は!! 冗談を言える間柄というのは、貴重だぞ!!」

「いいこといってるつもりなんでしょうけど、敵を爆散させながらだとシュール極まりないわね」


 満面の笑みで敵を爆殺してゆく軍曹の背中に、マコは呆れたような声を投げかける。

 だが、軍曹は答えた様子もなくガトリングガンの弾丸をリロードする。


「はっはっはっ! 性分だよ、勘弁してくれ!」

「おかげで助かって――」

「こっちだー! こっちで戦闘音が!!」

「――るんだけど、これは確かにちょっとおかしいわね」


 また周囲から聞こえてくる敵らしい者たちの声を聞き、マコは顔をしかめる。

 いくらなんでも、敵が集まる頻度が高すぎる。先ほどから、息を吐く暇もないほどだ。

 三万賞金首のリュージを倒すためにとはいえ、さすがにこれはおかしいと思い始めた。

 かつてのリュージがどれだけの高名を馳せただろうとも、今現在はレベル30未満のプレイヤー。相応の熟練者であれば、討ち取るのは難しくないはずだ。

 だというのに、ソフィアたちの方に戦力を集中している理由がわからない。こちらにいちいち寄り道するより、リュージのほうにまっすぐ向かっていったほうが早いのではないか?


「うーむ。確かに。ジャッジメントブルースも、君たちが襲われるのは想定していただろうが、これほどの頻度とは思わなんだろうなぁ」

「だろうね……。これはもう、ソフィアたちにも賞金がかかってるんじゃないかってレベルだろうね」

「え!? 私たちにも、賞金が!?」


 カレンの一言に慄くレミ。自分も狙われる立場になるなどとは、まったく考えていなかった。

 だが、それを否定するようにカレンは首を横に振る。


「いや、リュウはともかく、ソフィアたちにまで賞金をかけたんじゃ、本気で村八分喰らうよ。リュウの場合は、まだギリギリ前の有名が通じるからいいけど、ソフィアたちは無名の新人。そんなのに賞金をかけたんじゃ、他のギルドから総すかん食らうよ」

「じゃあ、賞金をかけるってなによ? なんかの比喩?」


 逃げる方向を探しながら問うマコ。

 カレンも同じように集中して敵の気配を探りながら、その問いに答える。


「まあ、比喩っちゃ比喩かねぇ。イベントの賞金をかけるのはNGでも、それ以外の……無償トレードなら話は別ってことさね」

「……つまり、僕らを捕まえたりすれば、何かアイテムをもらえたり、ゲーム内通貨を支払ったりするってこと?」

「そういうことだね。マンイーターがそういう約束を白組内に内密に流し、なおかつあたいらの位置をリークしてるんであれば……このエンカウント頻度も納得なんだけどねッ!!」


 カレンは気配のしたほうに向かって、三発の矢を解き放つ。

 壁に突き刺さった矢は、曲がりかかっていた白組の者たちの進撃を足止めする。


「ばれてるっ!?」

「ファイアボール!!」

「ぎゃぁっ!?」


 そこに、追撃のファイアボール。ノンチャージであったため撃破は出来なかったが、それでも幾分か後退させる役には立った。


「よし……! 今の内に!」

「うりゃぁぁぁ!!」

「やぁぁぁぁ!!」


 前方に現れた白組の敵を斬り捨てながら、何とか前に進む異界探検隊。

 高レベルプレイヤーの援護があるとはいえ、初心者ギルドの行軍としてはかなり順調なほうだろう。これだけの数のギルドを押しのけ前に進めるだけマシというものだ。


「……けど、このままじゃどうしようもないよね」


 だが、このままではジリ貧だろう。目的地もなく、ただ逃げ惑っているばかりでは、いずれ追い詰められて終わりだろう。

 こうなると、他の紅組の者たちとほとんど交流を持たなかったのが痛い。これだけ群がられているのであれば、他の紅組の者たちにとっても絶好の狩場となったかもしれない。


「軍曹? アンタのほかのメンバーは今なにを?」

「こことは違う場所で遊撃に当たっているはずだ。今回の直衛は、私一人で申し訳ない」


 軍曹は一つ頭を下げ、それから難しい顔で異界探検隊のものに告げる。


「……申し訳ないついでなのだが、まだジャッジメントブルースからの連絡はない。いまだに、リュージ君の居場所は割れていないようだ」

「……リュウのことだから、ひたすらに逃げ回ってるのかもしれないね。ほら、結構動きがすばしっこいじゃない?」

「いや、何か目的があってここにいるはずだ。リュージは、意味のないことはしない……。意味のない事をしているように見えても、本人には何か重要なことをやっていることが多い」


 カレンの言葉を否定しながら、ソフィアはまっすぐに前を見つめる。


「……あいつのことだ。自身に賞金をかけた相手の元に行き、その首を刈り取るつもりなのかもしれん。軍曹。マンイーターとやら、相応の賞金がかかっているのでしょう?」

「ああ、八万だな。まあ、容易に狩れるとは思えない相手だが」


 軍曹は難しい顔のまま、マンイーターに対する所感を述べる。


「あれだけ統率の取れたギルドも珍しい。こと、人を狩るということに関しては右に出るものはいないだろう。だが、賞金首のマンイーターを狩るのに一番難しいのはそこではない」

「? どういう意味です?」


 軍曹の言っている言葉の意味が理解できずに首を傾げるレミ。

 統率が取れているならそれが一番脅威だと思うのだが違うのだろうか。


「いかに統率が取れようとも結局リーダーは一人だろう? ならば、その一人を狙撃すれば済む話だ。GMマンイーターの撃破が難しいのは、常に複数人出てくるからだ」

「……はい?」


 一瞬理解が追いつかずに首を傾げるマコ。

 だが、すぐに軍曹の言葉の意味を理解し、一つ頷く。


「ああ、影武者? 表に出てくるときは必ず影武者とでてくるわけ?」

「そのとおりだ。最低でも三人。通常は五人組みで現れる。もちろん、顔まで似ているわけではないが、マンイーターは目深にフードを被った姿がデフォルトだ。五人全員が同じ格好をし、その上で同じような行動をされると目標の混同が発生する」


 軍曹が取り出したマンイーターの手配書に映された顔写真は、目深にフードを被っており確認が出来るのは顔のした半分程度。全体の輪郭も微妙にわかりづらく、個人の特定が困難な姿をしていた。


「しかもこのフード、プレイヤーの名前を隠す“隠蔽”という特殊効果を有しているので、フォーカスしても名前がわからないときている。しかも誰か一人を撃破しても、マンイーターの構成員がまた新たなマンイーターに扮するせいで、数も減らん。個人としてみた場合、非常に厄介なプレイヤーの一人だよ、マンイーターは」

「狙いを絞らせないとはな……。確かに厄介だ」


 軍曹の言葉を聞き、ソフィアは静かに頷く。

 ……リュージが相対しているかもしれない相手が厄介なのはわかった。だが、そいつらの居場所もわからないのでは、先手を打つことも――。


《――そう。軍曹! 聞こえるか!!》

「む? これは……ワンウェイチャットか?」


 相手側からの一方的な音声チャット。軍曹のクルソルからもれ聞こえる声は、慌てた様子でひたすら叫ぶ。


《リュージ君の居場所が判明した! 今すぐこちらまで来てくれ!》

「リュージの居場所が!?」

「軍曹さん! この、チャットのお相手はどこに!?」


 リュージの居場所が判明した。その言葉に反応したコータとレミが、必死の形相で軍曹に縋りつく。

 だが、軍曹がその問いに答えることは出来なかった。


《それから、気をつけてくれ! 今、そちらのほうに白組の――!!》

元始之一撃(グラウンド・ゼロ)

「―――――ッ!!??」


 軍曹の言葉より先に、真っ白な輝きが辺り一面を多い尽くしてしまったからだ。

 声なき悲鳴を上げながら、異界探検隊の者たちは真っ白な爆光に吹き飛ばされた。




なお、同じ名前の魔法でも、複数種類の効果を持つものもイノセント・ワールド内にはある模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ