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log9.己のメインウェポン

「……で、散々迷った挙句、結局いつもの武器?」

「あ、あはは……」

「むぅ……」


 店に入って三十分ほど。

 あれでもないこれでもないといろんな武器を手に取り迷い、コータとソフィアが最終的に辿りついた武器は、一番最初に手に取っていたロングソードとレイピアであった。


「いや、ほら……。やっぱり使い慣れない武器は危ないって言うか……。使い心地はこっちのほうがいいって言うか、その……」


 腰にぶら下げたロングソードの柄を撫でながら、コータは所在なさげに視線を巡らせる。

 刃渡りは90cmほど、刃の厚さは5cmほどか。ごくごく一般的な両刃のロングソードだ。過剰な飾りも特徴的な刃紋もない。癖がないゆえ万人に愛される、戦士系剣士愛用の一品である。


「直剣系だと、ブロードソードとかどうよ? 肉厚で、火力で言うならロングより上だったと思ったけど」

「私は刀を選ぶと思ってたんだけど、このお店にはなかった?」

「いや……ブロードソードは振ってみた時の重心がなんだか違和感があって……刀は、そもそも装備できないんだ、今……」

「ふむ……そういえば、ブロードソードは斧に近い重心を持っていると聞く。普通のロングソードより、叩きつけるような形で運用するらしいな。ちなみに刀はDEX系武器だな。最初期に運用が難しいため、敬遠されがちな武器だ」

「そうなんだー……」


 ジャッキーの補足説明に、レミが納得したように頷く。

 武器の重心による違和感以外にも、普段コータが振り回している竹刀にロングソードが比較的よく似ているというのも理由の一つだろう。竹刀ほどしなる訳ではないが、形は比較的よく似ている。これであれば、操るのに苦労しないとコータは感じたのだ。


「いつかは刀とか装備してみたいけど、そうなると剣術とか齧っておいたほうがいいのかな?」

「剣道と剣術は別物だが……気にする必要はないのではないか? これはゲームであるし、剣道も元々は剣術を基にしたスポーツだ。逆転の発想で、剣道を元に剣術を開発するのもよいだろう?」

「サラッと新しい剣術生み出せっていってるわよ、アンタの嫁さん」

「フフフ、ソフィたんは器の大きな子だからね! 剣術の一つや二つ創始するくらいは朝飯前よ!」

「勝手にハードル上げるんじゃない。一応、私は刺剣を使用する剣術を学んでいるんだぞ?」


 好き勝手のたまうマコとリュージに、ソフィアはレイピアの先端を突きつける。

 いわゆる刺突剣といわれるジャンル、その中で最もポピュラーなものの一つ。刀身の長さは60cmほど。大きな針……というよりはかなり細身の直剣と呼ぶべきだろうか? 恐らく刺す以外にも、斬りつける形での運用も想定されているはずだ。

 細身の刃からDEX系の武器と思われがちだが、ソフィアが手に取ったレイピアにはまだDEXは必要ない。刃が多少頑丈だからだろうか。

 レイピアを突きつけてくるソフィアの台詞を聞いて、マコが軽く首をかしげた。


「あれ。アンタ、フェンシング部所属だからそれ選んだんじゃないの?」

「いや。そもそもフェンシング部に所属するようになった切欠が、ヴァル……うちの執事に学んだ剣術でな。私の友人の一人が美容と健康のために八極拳とやらを嗜んでいると聞いて、数年前から始めたんだ」

「美容と健康のために八極拳……?」

「まあ、運動は体にいいんじゃね?」


 大爆発を意味する“八極”拳がどのように美容と健康に作用するかは謎であるが。

 まあ、それはともかく、ソフィアも多少は腕に自信があるということだろう。軽くレイピアを振り回す彼女の動きに澱みは見受けられない。手馴れた所作だ。

 腰の鞘にレイピアを収めつつ、ソフィアはレミとマコに視線を向ける。


「そういう二人は何か武器を買ったのか? さすがに初期武器のままではまずいのではないか?」

「あ、うん。ジャッキーさんにも言われて、私は持ってたメイスを売って、杖を買ったよ! 樫の木で出来た杖なんだってー」


 そういってレミが手にして見せたのは、1.5メートルほどはあろうかという長めの杖。先端辺りがモコリとこぶのように膨れ上がっているのを見るに打撃武器のようであるが、さすがに攻撃を想定した造りにはなっていないだろう。


「樫の杖……そういえば、魔法を使うプレイヤーに武器は恩恵があるのか? 接近戦はご法度だと思うのだが」

「その辺りはプレイヤーの技量次第だが、杖にはきちんと魔法を使う恩恵がある。具体的には魔法の威力上昇と、MP消費の軽減だな」

「あ、消費の軽減もなんですか?」

「うむ。MPは100で固定だが、魔法の中には消費MPが100を超えるものもある。ステータスのPOWを上げれば使用魔法の消費MPを下げられるが、それよりもレア素材の杖を使ったほうが、軽減率が高いんだ」


 なので、高火力魔法を使う場合はどんな杖を使うかが重要になってくるのだという。

 ちなみにINTを上げればMPの自然回復量が上昇するのだが、ここでもステートヘキサゴンの作用により、INTとPOWのどちらが高いかによってよりどちらのほうが高い効果を得られるかが変わってくる。

 どちらも上げればどちらの効果も上がるが、最も効果が高いのはどちらかに特化した時らしいので、二個上げは推奨されていない。

 さらに余談となるが、スキルのMP消費を軽減する方法は存在しないが、魔法よりも瞬間火力に優れたものが多いとのことだ。

 閑話休題。


「じゃあ、樫の木なのはなんでなんですか? ここは劣鋼装備のお店じゃ?」

「ふむ。武器としての性能が高いのは劣鋼だが、杖としての性能が高いのは樫になる。いわゆる魔法の触媒に使うような武器は、基本的に木や骨といった、生物を元にしたものの方が性能は高くなるのだ」

「生きてた素材のほうが、魔力の通りやら効率やらがいいって理屈らしいぜ? もちろん、鉱石系にも魔法の使用効率がいい素材はあるけどな」

「そうなのだな。ちなみに、マコはどんな杖を買ったんだ?」

「あたし? あたしはこれ買ったんだけど」


 そういってマコが取り出したのは、小型のクロスボウであった。


「……なんでクロスボウなんだ……?」

「いや、あたしが使いたかったからだけど。別にいいのよね?」

「うむ、もちろんだ。魔法を使う時に杖の使用は推奨されているが、なければ使えないわけじゃない。魔術師としてINTを上げるのであれば、むしろ省エネ魔法を連発していったほうが、結果的に火力が出るらしいしな」


 嬉々としてクロスボウを振り回すマコ。ソフィアは胡乱げな眼差しでそれを見つめていたが、レミがマコの武器チョイスの理由を説明する。


「……そういえば、ソフィアちゃんは知ってたっけ? マコちゃんの趣味」

「ん? マコの趣味?」

「うん。マコちゃんはね、週末とかになるとサバゲーっていうのをやってるんだって」

「……うん? さば、サバゲー?」


 サバゲー。いわゆるサバイバルゲームという、エアガンを初めとした模造銃を使用して行なう、擬似戦争ゲームのようなものだ。

 VRが発達し、ゲーム内でリアルな戦争ごっこが出来るようになった現代であるが、やはり現実で遊びたいという人はまだまだいるため、一定数のプレイヤーは残っており、アメリカなどでは正式な競技としてプレイされているなどとも聞く。

 そんな脳内知識を閲覧しているソフィアに、レミとマコはお互いに頷き合う。


「うん。だから、本当は銃が使いたいんだよね?」

「そうなのよー。でも、この店には銃がないっていうから……ものはあるのよね?」

「あることはあるが、別の街で専門の商人から特別なクエストを受けないと購入することもできないからな。しばらくは無理だろう」


 ジャッキーの返事に渋い顔をしながら、マコはクロスボウで狙いをつけてみせる。


「だから、代わりにクロスボウなのよ。連射できないのがむかつくけど、まあ何とかするわ」

「そうなのか……」


 パシュン、と正確な狙いで試し撃ちするマコ。放たれたボルトは的のど真ん中を正確に射抜いてみせた。

 どうやら、サバゲーが趣味というのはハッタリではないらしい。勤勉家のマコに意外な趣味が合ったものだ。

 各々が武器を片手に会計を済ませたところで、ジャッキーは注意を集めるように軽く手を叩いた。


「さて。それでは各自、ひとまずの持ち武器が決まったわけだが……結構時間がかかってしまったな。もう一時間経っているか……」


 ジャッキーはクルソル……この世界のメニュー画面の一種を睨みつけながら無念そうに呟く。

 ジャッキーの呟きを聞き、ソフィアは何の気なしに外を見てみる。店に入ったときには煌々と太陽の照る晴天であったが、いつの間にかとっくりと日は暮れ宵闇の帳が辺りに下りていた。


「……昼夜の境が不規則と聞いていたが、これほどとは」

「……なんか気分が変だなぁ。さっきまで外はお昼だったのに」

「さらに一時間程度で夜が明けるときがあるからな? イノセント・ワールドの不規則昼夜はこれからだぜ」

「それはマジなの?」

「うう、夜更かしがくせになっちゃいそうだよぅ」


 明らかに現実離れした光景を前に、それぞれの感想を口にする一行。

 ジャッキーは彼らを見つめながら、リュージへと問いかける。


「リュージ。今日はどれだけログインする予定なのだ?」

「ひとまず二時間? 初めてだし、VR酔いとかも気をつけないとだし」

「だな。では、あと一時間か」


 リュージの予定を聞き、ジャッキーはしばし瞑目する。


「……よし、ではあそこにいくか」


 そして一言呟き、目を開いて一同に告げる。


「では、せっかく手に入れた武器だ。試し斬りもかね、ダンジョンに挑んでみようじゃないか」

「ダンジョンに、ですか?」

「うむ。初心者向けの、簡単なダンジョンにな。もちろん、私は手を出さない。パーティ登録をせず、隠行指輪などでモンスターのターゲットを取らないようにするので、先頭の際に邪魔になるということはないと思う。どうだろう?」


 ジャッキーの提案に、一同は顔を見合わせる。

 ……もちろん、否があるわけがない。ここまで来て、モンスターの一匹も倒さずに帰れるわけもない。

 無言のままにリュージたちは意見を一致させ、ジャッキーに頭を下げる。


「それでは、よろしくお願いします。ジャッキーさん」

「ああ、任せてくれたまえ」


 皆を代表するコータの言葉に、ジャッキーはおおらかに請け負った。




なお、この時代のサバゲーはBB弾ではなく、レーザー弾(無害)を発射するものが主流の模様。

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