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log70.戦い終わり、しかし悩みは深く

 その後、実に十数分もの間ヴァル助との激闘を繰り広げたリュージであったが、最終的には細かいHPダメージが致命的となり、ヴァル助に敗北することとなってしまった。

 だが、ヴァル助も多少手加減していたとはいえ、レベル20程度のステータスでレベル60オーバーのプレイヤーに対し食い下がって見せたのは健闘どころか、殊勲賞ものだろう。

 ヴァル助の肩に担がれて戻ってきたリュージを、仲間たちは拍手を持って出迎えた。


「ナイスファイト、リュージ!」

「すごかったよ、リュージ君!」

「何でその実力で、学校の今のポジションに甘んじてるのか不思議で仕方がないわ」

「余裕で全国クラスだろうな、本気になれば……。私も不思議でしょうがない」

「あんたらもう少し素直に褒めてやったらどうだい?」


 ソフィアとマコのひねくれた物言いにカレンは苦笑しながら、荷物のように地面に降ろされたリュージに水筒を手渡した。


「お疲れ、リュウ」

「ぐぬぬ……! レベルが下がっていなければ勝てたであろうに……!」

「レベル80オーバーのプレイヤーにはさすがに勝てんな……」


 リュージの負け惜しみに、今度はヴァル助が苦笑する。

 ともあれ、属性演舞の一連の流れは終わった。ヴァル助を中心に、四聖団の面々が異界探検隊の者たちと向き合う。


「さて、属性の実演と言うことであったが、多少参考になればと思う」

「最後の辺りは、もう属性の実演関係なかったわよね?」

「あれはねぇ? まあ、男同士の一騎打ちってなればああなるわさ」


 ヴァル助の体にしなだれかかりながら、ラミ子がクツクツと笑い声を上げる。


「柄にもなく熱くなってたねぇ、しかし?」

「フフ……正面から向かってくるものなど、久しくいなかったからな」

「まあ、アンタに正面からぶつかっていくなんて、本来なら自殺行為だしなぁ」


 ごろりと草原の上に横になりながら、ポツリとリュージが呟く。

 そんな彼を見下ろしながら、マコが呆れたように呟いた。


「その自殺行為で、十分くらい拮抗してたのアンタじゃなくて?」

「バカいえよ。ヴァル助の本来の戦い方は、スキル連打による中距離戦闘だぜ? ソニックボディで一定距離を保ちながら、射程の長いスキルで相手を牽制&必殺するのが四聖団、東方の長の本当の戦い方よ」

「中距離?」

「うむ。スキル構成にもよるが、風属性はスキルによる攻撃範囲が広めなのでな。それを活かすとなると、必然的に中距離での戦闘が主になる」

「ちなみにこいつは追加情報だけれど、基本四属性は概ね近距離から中距離くらいの間合いで戦うのを想定されたスキルを覚えるよ。シナリオで戦う敵が、でかくなっていくからかね?」

「へぇー」


 コータがラミ子の言葉に一つ頷くと、何か気になったらしいレミが首を傾げて問いかける。


「……あれ? じゃあ、遠距離攻撃を想定したスキルとかっていうのはないんですか?」

「そういうのは魔法とか、遠距離攻撃武器の仕事だからねぇ。スキル単体でいうと、あんまりそういうのはないかな」


 ラミ子はそういうが、マル太は目元を軽く指先で擦りながらレミの疑問に答えてくれる。……動作的に、眼鏡を押し上げたのだろうか。


「いえ、ないことはありません。ですが、基本四属性ではない別属性ですので、実質的にはないと考えられます」

「基本じゃない……ということは、副属性ですか?」

「いえ。副属性も、基本四属性のツリー内に含まれます。私が申し上げましたのは、特殊な方法で開放する特異三属性のことです」

「特異三属性ぃ? なんか、けったいな名前ね……」


 マコの言葉を聞いて、リアっちが一つ頷いた。


「だねー。ランダム開放でないと基本的に入手できないって変態性もさることながら、副属性がなくてスキルツリーも割りと一直線。さらに属性ごとの個性がメッチャ強くてそこんところ理解してないと、意外と火力も伸びないって言う変な属性だよ」

「まためったくそに言ったね……。あってるっちゃあってるけどさ」

「俺も顔は広いほうだと思うけど、特異属性の知り合いなんて二人しかいねぇぞ……」

「四聖団にもおらんな……。というより、ゲーム全体を通しても極めて少数の人間しか取得していない属性だな」


 ヴァル助は難しい顔をして唸り始める。特異属性に関してどう説明すべきか、なんといえば正しいのか、といったところか。

 多少考えがまとまったのか、ヴァル助が顔を上げる。


「……特異属性は光、闇、無の三属性で構成される属性郡で、いずれも基本四属性に属さない特殊な属性だ。話によると、光が遠距離、闇が近距離、無が範囲攻撃にそれぞれ特化した属性とのことだが……そのあたりはどうなのだ、リュージ?」

「えーっと、俺の知り合いにいるのは無と光だったっけか……。まあ、知ってるっつっても光は知り合いに知り合い程度のレベルなんでほとんどわかんね。無のほうは、前に一回共闘した時はほとんど一人で全部のモンスターを吹っ飛ばしてたから、広範囲爆撃系って考え方であってると思うぜ?」


 ヴァル助の質問にリュージも答えるが、あまり自信はなさそうだ。

 ゲームに熟達しているであろう両者の反応からも、特異属性はかなり特殊な属性であることが窺える。

 ……この三属性は、あまり考慮に入れる必要はなさそうだ。


「まあ、特異属性は置いておこう。ともあれ、君たちの属性選択の一慮になればよかったが……どうだね?」

「まあ、あたしははじめっから氷狙いだったからね。でも、水そのものにもちょっと興味がわいたかな。寄り道もいいかなって思う程度には」

「やはり風にしようかと思う。お前……もとい、ヴァル助の戦い方を見て、やはりこれが私の戦い方だろうと確信を得られたよ」

「ならばよかった」


 マコとソフィアの言葉にヴァル助は嬉しそうに一つ頷き。

 それから、まだ返答のない二人のほうへと視線を向ける。


「君たちは、どうかね?」

「あ、はい」

「……うーん」


 ヴァル助の言葉に、コータとレミは難しい顔つきになる。

 どうやらまだどの属性にするか迷っているようだ。ラミ子が、やや不機嫌そうな声色を上げた。


「なぁんだい? 実演までして見せたのに、まだなににするか決められないのかい?」

「……すいません。その……いまいち、これだ!っていうイメージが湧かなくて」


 ラミ子に申し訳なさそうに頭を下げながらも、コータは悩みを隠さず打ち明ける。


「こう……炎で戦ったり風で戦ったりするのもすごく楽しそうだし、水も土も魅力的なんですけど……自分的にはこうじゃないっていうか……」

「支援なら水、っていうのは前から聞いてたんですけれど……マコちゃんとかぶっちゃうのが、ちょっと。気になっちゃって……」

「気にするところじゃないと思うけれどねぇ? うちなんて、あたしの配下の連中はみんな水属性だよ」

「それは被ってるんじゃなくて、ラミ子の団に属す条件って言わないかい?」


 一団が一色の属性で統一されているのであれば、それはかぶりとは言わないだろう、さすがに。

 ともあれ、コータもレミも属性に関していまいち決めかねているのはわかった。ヴァル助が一つ頷き、彼らの助言を送る。


「まあ、今すぐに決めねばならないものではないさ。君の言う、自分の戦い方というのに沿う属性を探す手伝いも出来るかもしれん」

「ありがとうございます、ヴァル助さん」

「レミ君もだ。属性のかぶりが気になるのは、少数のギルドの宿命だな。属性は、ギアと比べてより役割分担を明確にすることもできる。火が前衛、水が後衛、といった具合でな。そのあたりをみなと話し合った上で、自分に最適な属性を決めるべきだろう」

「はい、頑張ってみます」


 自らの言葉に素直に頷いてくれる二人に笑みを浮かべて見せながら、ヴァル助は言葉を続ける。


「いささか手前味噌な言葉になるが……一度悩み始めたら、とことんまで悩むべきだろう。これが現実で期限のあるものであればそうもいかないかもしれないが、これは仮想現実で期限のないゲーム……ようはお遊びだ。いくらでも悩み、その上で答えを出すべきだろう」

「趣味にこそ真剣になれとも言います。お二人様が満足されない結果では、この先を楽しく遊ぶのも難しくなりますでしょう。属性自体を取得しないと言うのも選択肢であります」


 マル太もヴァル助に続き、コータたちの背中を押してくれる。

 二人の先達の言葉に励まされ、コータとレミは少しだけ笑顔を取り戻す。


「はい……ありがとうございます」

「もう少し、きちんと考えてみますね」


 皆と足並みを揃えなければならない、と多少の気負いもあったのかもしれない。悩むことに迷っていたらしい二人は、安堵のため息をつく。

 そんな二人を眺めながら、リュージは空を見上げて一息ついた。


「贅沢な悩みだよな。選択肢が四つもあるなんてな」

「特異属性も入れたら七つじゃなくて?」

「あれは選択肢なんて言わんわ」


 マコの言葉にリュージはため息をつき、それからうんと伸びをしながら立ち上がる。


「さて……! さすがに俺も疲れたし、今日は上がっちまっていいかな?」

「む……そうだな。我々は何もしていないが……」

「時間もいい感じだし、上がっちゃいますか」

「あ……そうだね」

「うん、わかったよ」


 リュージたちの言葉を聞き、カレンと四聖団の面々もログアウトするようなことを言い始めた。


「では我々も、上がらせていただこうか」

「だねぇ。ご飯もいい加減出来上がるだろうしね」

「今日はなんだっけ?」

「さて、なんでしたか……。後で料理長に確認いたしましょうか」

「料理長とはご機嫌だねぇ。あたいもあがろっかなぁ」


 そのままバラバラと解散し始める一同。

 異界探検隊の者たちが一人上がり、二人上がってゆく中、ソフィアはヴァル助の方を見てぼそりと呟いた。


「……ではまたな、ヴァルト」

「……ええ、また」


 ソフィアの言葉が聞こえたのかどうか、ヴァル助は小さな苦笑と共に返事を返す。

 ソフィアは己の父の忠臣たちの愉快すぎる姿に深いため息をつきながら、イノセント・ワールドからログアウトしていくのであった。




リアラ「……バレた?」

ラミレス「みたいだねぇ。まあ、こんな仮装じゃねぇ」

マルコ「お嬢様たちに隠れて色々遊んでいたことが……! これが旦那様にまで広まってしまったら私はもう腹を切るしか……!」

ヴァルト「そこまで悩むこともあるまい。旦那様も奥方様も、笑って許してくださるだろう。……まあ、お嬢様はそうもいかなさそうだが」

カレン「あいつの知らないところで、リュウと繋がってた訳だしねぇ? 小言の二つ三つは覚悟しとけば?」

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