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log68.風火に曝されながら

「――で、今回、四聖団の連中を呼んだのは、あたいが知る限りでトップレベルに属性開放を生かしたスキル構成をしてる連中だったからさ。威力やらなんやら見たいなら、こいつらの実演見るのが一番だからねぇ」

「へぇ、なるほどねぇ」


 しばしの歓談の後、ようやく本題に入るカレン。

 彼女によれば、彼らは普段四方に存在する街々でバラバラに活動しており、主な活動拠点と定めている場所に対応した種族・属性を使用しているのだという。


「属性解放も種族転生も、いささか開放条件がややこしいのでな。初心者への幸運(ビギナーズラック)のようにとはいかないが、初心者が躓かぬための手伝いをと普段は活動しているのだよ」

「最近じゃ、下の連中が慣れてきたおかげであたしらも暇なんだけどね。あんたたちも、属性解放のときは四聖団にいらっしゃいな」

「そのときは頼らせてもらいますね」

「それはいいんだけどさぁ」


 コータがラミ子に頭を下げるのを待ってから、リュージは憮然とした表情で腕を組みながら問いかける。


「この構図は極めて納得がいかない。何で俺一人で属性実演の的にならにゃならんのかと」

「えー? どうせ打つなら、動く的の方が楽しいでしょー?」

「そこらでモンスターのポップを待つのもよいのですがね。リアっちの言うとおり、即死しない程度によく動いてくれたほうが効率はよいでしょう」


 リアっちとマル太がなかなかにひどいことを言う。

 実演のための的扱いされたリュージは、軽く顔を引きつらせた。


「さり気にひでぇな。レベル60オーバーの連中が、レベル20ちょいのプレイヤーを集団でボコるとか」

「なに言ってんだい。レベル20もあったら、アンタなら余裕だろ?」

「無論手加減はする。だが、君にどれだけそれが必要かは疑問だな」


 ヴァル助の言葉を聞き、リュージは小さく苦笑した。


「買いかぶりもやめてくれ。全身かゆくなっちまうよ」

「世事のつもりはないさ。君の来歴の一端を知れば、私の言葉も大げさではないよ」


 ヴァル助も小さく微笑み、軽く戦闘体勢に入った。


「では、はじめようか……。第一陣は私が貰おう」

「お手柔らかに」


 ヴァル助の言葉を聞き、他の三人は一歩下がり、リュージも軽く構える。武器はまだ手にしていない。一応、的の役目は全うするつもりらしい。

 既に全員で決闘宣言(コール)は唱え終わっている。いつでも戦いを始めることはできるだろう。

 四聖団の面々に言われ、いささか離れた位置に立つソフィアたちは、前に出たヴァル助を見てカレンに問いかける。


「まずはヴァル…助……か。やつは何属性だ?」

「あいつがソフィアの目当ての風属性だよ。全身筋肉で出来たような、典型的な脳筋ステ振り。それが風属性をとるとどうなると思う?」


 カレンは逆に問いかけながら、ヴァル助の方を指差してみせる。


「その答えの最たる例が、ヴァル助さ」

「ゆくぞリュージ! ソニックボディ!」


 カレンの呟きに答えたわけではないだろうが、ヴァル助が一つのスキルを発動する。

 スキルの名を唱えると同時にヴァル助の全身に緑色のエフェクトが現れる。

 渦巻く風のようにヴァル助の体をエフェクトが覆うと同時に、分厚い筋肉の覆われた巨大な人狼の姿がかすむ様に消えうせ、リュージの背後に現れていた。


「えっ!?」

「オオオォォォォ!!!」


 コータが驚く暇もあればこそ、ヴァル助はリュージの体に五本の爪を振り下ろす。

 袈裟懸けに振り下ろされた爪を回避しながら、リュージはヴァル助から距離をとろうとする。

 だがそれはさせぬとヴァル助は距離を詰める。


「逃さぬぞ!」

「逃さぬって言うか、もうちょっと風っぽいスキルを使おうぜ?」


 リュージの顔から飛んだ一粒の汗すら斬り裂くヴァル助の猛攻。

 爪の軌跡が無限に弧を描き、リュージの体をバラバラに引き裂かんとする。


「ぬおぉぉぉぉぉ!!」

「手加減ってなんだよ、もー!!」


 網目かなにかのような斬撃の間を、リュージは何とか回避して動く。

 ヴァル助の宣言どおり、距離をとることが出来ず四苦八苦しながらも、リュージは上半身の体捌きで何とかヴァル助の斬撃をいなしてゆく。

 瞬く間に展開される攻防、それを見てソフィアが固唾を呑んだ。


「……ヴァル助のステータスは脳筋だったか? あれだけの素早さで動けるものなのか?」

「まあ、普通は無理だね。STR特化だと、一撃の速度はともかく、ああした連撃……言い換えれば切り返すだけの反射は得られない。風属性の速度強化スキル、ソニックボディあってことさ」


 ヴァル助の全身を覆う緑色のエフェクト、ソニックボディ。風属性スキルの中でも代表的なものの一つであるそれを纏ったヴァル助は、さながら竜巻のようであった。


「熟達したスキル使用者が使えば、それこそ風のように動くことさえ出来る。風属性を取得するなら、これ一本でもいいとさえ言われるほど有用なスキルさ」

「あの速さであれば納得……だが、それだけで本当に戦い抜けるものか?」


 いまだリュージを捉えきれないヴァル助を見て、ソフィアが首をかしげる。

 ヴァル助が手を抜いている……のかもしれないが、やはり純粋強化だけでは対処しきれない敵もいるだろう。そうした手合いに遭遇した場合はどうするのか?


「リュージも異常だが、所詮手の数は二本。足も加えても四本だ。それ以上の数の敵に一度に対処するのは厳しいのではないか?」

「心配しなくても大丈夫さ。風属性にも範囲攻撃はあるよ」

「オオオォォォォォ!!!」


 ソフィアが疑問を口にするのと同時に、ヴァル助が勢い良く空へと跳び上がる。

 もちろん、空を飛ぶためではない。ソニックボディは切れる寸前……スキルを唱えなおす前に最後の一撃を放つのだ。


「受けろリュージィ!! 怒涛旋風刃(ドランク・タイフーン)!!」

「げっ」


 リュージの顔がいやそうに歪むのと同時に、空高く跳び上がったヴァル助の体が高速回転を始める。

 その姿が霞み一つの竜巻となった瞬間、リュージの立っている場所に向かって大量の鎌鼬が降り注ぐ。


「怒涛の斬撃の雨!! 捌ききれるかぁ!?」

「ぬぉぉぉぉ!?」


 リュージは素早くバスタードソードを抜き払い、頭上から降り注ぐ無数の鎌鼬を何とか捌く。

 だが、ヴァル助の回転は止まらず、鎌鼬は次々と降り注ぐ。

 リュージの逃げ場を塞ぐように降り注ぐ鎌鼬が地面を斬り裂き、土煙がリュージの姿を覆い隠してしまう。


「オオオオォォォォォォ!!」


 ヴァル助の咆哮は止まず、鎌鼬も止まらない。

 無数の鎌鼬の雨が生んだ土煙が、天を突かんばかりに伸び上がっていった。


「……あんな感じでね。スキル一発のMPが軽めだから無数の攻撃を叩きこめるのさ。一発は軽めだけど、あれだけぶちこみゃ大抵のモンスターはお陀仏だよ」

「その理屈だと、あのバカもお陀仏じゃないの?」


 ヴァル助の容赦のなさを見て、さすがにマコも顔を僅かに青ざめさせながらリュージのいた場所を指差す。

 もうもうと上がる土煙の向こうにリュージがいるはずだが……あの斬撃の雨を食らって原型が残っているとは思えない。

 まあ、ゲームなので無事は無事だろうが、さすがにリスポン待ったなしだろう。


「手加減するって言う割には、容赦なかったわね……」

「……じゃあ、次は僕らの番?」

「えっ!? そんな、自信ないよ!?」


 コータがポツリと呟いた懸念を聞いて、レミの顔から血の気が引く。

 手を抜くと言ったヴァル助ですらあれだ。他の三人も同格と考えると、とてもではないがコータたちの手に負える相手ではない。

 しかし、そんな彼らの懸念を、ソニックボディが切れ地面に着地したヴァル助が吹き飛ばす。


「リアっち! 次を頼むぞ!」

「はぁーい!! とっておき一号! いっけぇー!!」


 ヴァル助の声を聞き、リアっちが背負ったカバンの中からにょきにょき生えてきたミサイルを解き放つ。

 メカニカルなアームの先端に取り付けられたミサイルはぷつりと自切するとジェット噴射を噴出しながら、土煙の中へと突き進む。


「止めとか容赦ないわね……」


 マコは絶句するが、土煙を突き破って出てきたリュージがその言葉を否定する。

 手にしたバスタードソードでミサイルを一閃し斬り払いながらリュージはまっすぐにリアっちへと突き進んで行く。


「的になるのは諦めるが、相手を倒してはいけないなんてルールはなかったな、そういや!!」

「ぬあー!? そんな簡単にやられてたまるかー!?」


 まっすぐ駆け寄ってくるリュージを見て、リアっちは慌ててかばんの中から二丁のラッパ銃を取り出す。


「近づくなぁー! バレットバレットバレットォー!!」


 叫びながら引き金を引くと、ラッパ銃の中から炎の塊が次々と飛び出す。

 狙いは正確ではないのかリュージの体にこそ命中しなかったが、地面に着弾した瞬間に爆音を上げながら炸裂する炎の塊。

 その爆風に呷られ、リュージの前進はあっという間に遮られてしまった。


「っだぁ、くそが! 相変わらず使い方ってのを知ってやがるなぁ!?」

「とーぜん! 頭と道具は使いようだよ! ほらほらー!」


 リアっちはふんぞり返りながら、さらに炎の塊を連射する。

 カレンがリアっちの豪快な牽制射撃を見て苦笑しながら次の属性の説明を始める。


「火属性は見たままだねぇ。火力大正義主義。ステ補正のSTRも相まって、一番瞬間火力が出る属性だよ」

「そりゃ見たらわかるけど、そんだけじゃなさそうね?」

「そうだね。火属性って言葉で勘違いしがちだけど、後方からの支援攻撃に一番向く属性でもあるんだよね。スキルにしろ、魔法にしろ、技そのものの火力と副次効果の爆風の衝撃波のおかげで、敵の動きを制限できる」

「んにゃろー!!」


 リュージを前進させまいと、ラッパ銃を連射しながらじりじりと後退するリアっち。

 炎の塊がリュージに直撃はしなかったが、幾たびも巻き起こる爆風によりリュージが攻めあぐねているのが遠くから見ていてもよく分かった。


「前に出るにしろ、後ろから支援するにしろ、意外と柔軟な運用が出来る属性が火属性なのさ。防御はおろそかになりがちだけどね」

「なるほどねぇ……」


 カレンの言葉に感心したようにマコが頷く。

 メイン火力ばかりだと思っていたが、やはりどんな属性も運用次第なようだ。

 だが、やはり攻撃は当てなければ意味がないようだ。爆風に呷られていたリュージが、攻勢を試み始めた。




なお、直撃さえしなければとりあえず死なない模様。

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