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log67.呼ばれて被って

 誰かと連絡を取り、クルソルの向こう側の者たちに承諾を得たらしいカレンに連れられリュージたちがやってきたのは、アルフヘイムの郊外。

 森の入り口や、どこまでも続いてゆく草原と、アルフヘイムの町並みが見える程よい広場。多少暴れても問題にならない場所へ向かうとカレンは説明する。


「やっぱ実演を見たほうが理解が早いと思ってねぇ。知り合いにちょうど暇してそうな連中がいるから、そいつらを呼んだんだよ」

「へー」


 カレンの言葉に、コータが興味深そうに頷く。

 このゲームを始めてそこそこ時間が経つが、今までリュージたちとの接点をほとんど持たずにいた。それに不満を覚えたことはないが、やはり他人のプレイスタイルと言うのも気になるものだ。


「それって、カレンさんのフレンド?」

「ああ。つっても、団長の紹介でフレンドになってもらったんだけどさ。意外と気さくで、こういうときも気軽に話にのってくれるから、いい奴らだよ」

「へぇー、そうなんですか。楽しみですね!」


 カレンの説明を聞き、レミも瞳を輝かせ始める。

 リュージの知り合いであるカレンがどんなプレイヤーを紹介してくれるか、今から期待に胸を膨らませている様子だ。

 そんなレミを少し後ろのほうから眺めるリュージの顔は、何というか微妙な顔つきだ。

 例えて言うなら、見え見えの驚かしポイントを前にどんな表情をしたらよいのだろうか、といったところか。


「……なに変な顔してんのよ、アンタ」

「んにゃ、なんでも。カレンが誰を呼んだのか大体察しただけだから」


 マコの質問に、リュージは軽く首を振りながら答える。

 そのまま口の中で「知らないふりすべきだよな……?」などと呟くリュージに不審げな視線を送るが、追求する必要もないかと気を取り直し、ソフィアのほうへと視線を向ける。


「アンタも気になる? 属性の実演に関しちゃ」

「それはな。風と一応は決めているが、他の属性も気になるさ」


 ソフィアは照れたように答え、それから真剣な顔で前をまっすぐに見つめる。


「このゲームを本腰入れて攻略するのであれば、必要不可欠であり、重要な選択の一つでもあるんだ。たとえ後から変更が効くのだとしても、ここで選択を誤るわけにはいくまい」

「そうねぇ。選んだ属性がしょんぼり、って言うのも悲しい話よね」


 既に水……と言うより氷属性に狙いを定めているマコはしたり顔で頷く。


「まあ、このゲームは基本になる四属性から、氷を始めとする副属性ってのに分化していくことが出来るみたいだから、一見だけで決め付けるのもよくないわね。始めの選択で躓いても、とことんまで突き詰めてみるのも、面白いんじゃない?」

「そうだな。風であれば、陽炎なんてのもあるらしいしな」


 ソフィアは掲示板で得られた情報を思い出しながら、小さく微笑む。

 ギアにウェポンギアというシステムがあるように、属性開放にも副属性と言うシステムが存在する。基本四属性から分化してゆく、細かな属性スキル。ギアと属性の二つにあって、木々の枝葉のように広がる無限の選択肢。それもまた、このゲームの魅力の一つと言えるのだろう。


「お、いたいた! おーい!」


 きたる属性開放に胸を躍らせながら先を進む一行の前に、何人かの人影が見える。

 それが目的のプレイヤーだったらしく、カレンが手を振りながら先を行くように駆け出した。

 彼女の声に気が付き、佇んでいた人影たちはリュージたちにもその姿がよく見えるように振り返る。


「おーい! 待たせちゃった……かぁ……?」


 振り返ってくれた彼らの姿を見て、カレンの手は止まり、声が自身なさげにしぼんでゆく。

 そして、後ろを歩いていたリュージたちも思わず足を止めてしまう。

 なんというか、振り返ってくれた人影たちは奇妙な姿をしていたのだ。

 動きを止めたリュージたちへと近づいてきた四人は、カレンを追い越しリュージたちの前に立つと一人ひとり丁寧に自己紹介を始めてくれた。


「どうも、ヴァル助です」

「あたしはラミ子。よろしくね」

「リアっちだよー!」

「そしてマル太と申します。以後お見知りおきを」


 マル太と名乗る青年?が丁寧にお辞儀をするのを見届けてから、怪訝そうな顔をしたマコがズバリと尋ねる。


「……あんたたちの顔のそれは、新手のコスプレ? それとも趣味なのかしら?」

「はっはっはっ。これは手厳しいですな」


 冷淡ともいえるマコの言葉に、ヴァル助が朗らかに笑い声を上げる。

 マコがまず指摘したのは、四人の顔だ。

 ヴァル助の顔はそのまま狼。これはまだ、体全体が毛深いあたりからファンタジー世界によくいる人狼と言うことで納得できる。

 だがその隣に立つラミ子の頭にかぶせられているのはタコツボで、リアっちは小さなドラム缶、とどめのマル太は紙袋ときている。ご丁寧に、瞳の位置に丸い穴が開いているあたり、仮装の一種として用意したものだろう。

 どう見てもふざけているようにしか見えない四人組みを前に、マコが腕を組み睥睨を始める。


「もしマジなんだとしたら、ちょっとセンスを疑うわね。狼はまだしも、ツボにドラム缶に紙袋ってなに? ふざけてるの?」

「そんなお怒りでないよ~。ちょっと急ぎで、これしか用意でき……ゲフンゲフン」


 ラミ子が何かを誤魔化すように咳払いをする。どうでも良いが、彼女は下半身が蛸足になっている。まさかタコツボはこれに合わせたものなのだろうか。

 リアっちはやや憤慨したように、マル太はなにかを諦めるようにマコへ説明を始める。


「なにをー! ドラム缶はいつだって時代の最先端をゆくモストアイテム! 逆さにすれば水も入れられる優れものなのよ! 馬鹿にするのは許さないんだから!」

「センスのなさをお許しいただければと思います。なにぶん、仮面のような飾り物はいまいち肌に合いませんで」

「紙袋が肌に合う理屈の方がわからないわ」


 仮面が駄目で紙袋がOKの理屈はどこから来るのだろうか。

 マコはリュージの方を振り返り、四人を指差し問いかける。


「で、この新手の変態どももアンタの知り合い?」

「うんまあ。あと、変態呼ばわりはやめてやってくれ真面目な人たちだから」


 リュージは何かに安堵するように頷きつつ、マコの言葉に答える。

 リュージの言葉に、ヴァル助が少し嬉しそうに口元を綻ばせた。


「フフ……すまないな、リュージ。べたなフォローをさせてしまった」

「まあ色々世話になってるし……後、ヴァル助たちの面白いカッコも見れたし。誰の発案よこれ」

「あたしだよ。イケてるだろ?」


 ラミ子が言いながら、くねりと腰をなまめかしく揺らしてみせる。目を引くのは、ほっそりとした腰よりも、大量の蛸足というのは黙っていたほうがいいか。

 ……と、それまで押し黙っていたソフィアが曰く言いがたい顔で四人にこう尋ねる。


「………………すまないが、どこかで会ったことがないか?」

「「「「いいえ全然?」」」」


 それに対し、四人は一糸乱れぬ動きで一斉に否定する。示し合わせたかのように、パタパタと手を振る動作まで一緒だ。

 もう怪しいを通り越して呆れるレベルであったが、それでも四人は弁解を重ね始める。


「会ったことがあるも何も、これが初対面でしょう?」

「いやだねぇ。有名人はこれだからつらいねぇ」

「なに言ってんの! お嬢のことなんて知らないわよ! ――いた!? いたーい!?」

「ええ、それはもう。完全無欠に初対面ですともはい。故あって紙袋を外す訳にはまいりませんが、それはもう初対面」

「………………………………まあ、いいが」


 三人から叩きまわされるドラム缶ヘッドを胡乱げな眼で見つめつつ、ソフィアが一歩下がる。

 これ以上追求しても白を切り通される気がする。そもそも、イノセント・ワールドでリアルに関する追及はマナー違反だ。これ以上は置いておこう。

 そう決心し、キュッと固く口を引き結ぶソフィア。口を開こうものなら、疑問か追及が飛び出しかねないのだろう。

 ひとまず、ヴァル助たちの登場の驚きは過ぎ去っていった。そろそろ別の話をしよう。


「……えーっと、そういえばヴァル助さんの頭って、それは自前なんですか?」

「はっはっはっ。呼び捨てでも構わないよ。皆は違うが、私のこれは自前だな」


 ヴァル助は鷹揚にコータの質問に答えながら、自ら姿に関して語り始める。


「私はニア・ヴォルフという種族に転生していてね。その為、体の八割方が狼なのさ」

「ニア・ヴォルフ……ですか? そういえば、コハクちゃんも耳尻尾生えてたよね?」

「ああ、コハク? あいつはハーフ・フォクシィだよ。アラシがハーフ・ベア。ヴァル助も含めて、みんな獣人種族への転生者だな」

「ハーフとニアで異なるのは獣の割合だな。ハーフだとおおよそ四割程度、ニアで八割程度獣化する」

「そうなんですか……ところで、転生って?」

「転生は言葉の通り、人族以外の種族へプレイヤーのアバターを変化させることだ。一定以上のレベルで、クエストを発生させることが出来る」


 ヴァル助の説明を補足するように、にょろりと蛸足を蠢かせながラミ子が続ける。


「この世界で一番ベーシックなのは人間だけど、ステータスに偏りがなくてつまんないって奴もいるからねぇ。転生すると、人間にはない特徴を備えたキャラが作れるんだよ」

「そうなんだ……ヴァル助さんの場合は、どうなるんですか?」

「ニア・ヴォルフの場合は人狼になるわけだが、武器を扱えなくなる代わりに専用のギアの解禁と、爪や牙が武器として使えるようになる」


 ヴァル助は説明しながら、ジャキリと爪を伸ばしてみせる。

 小ぶりなナイフほどもある長さの爪と、コータたちの指よりも太い牙は確かにそこらの武器よりも強力そうだ。


「ヴォルフギアと言ってな。ニア・ヴォルフだとこれにギアが固定されてしまうが、その分STRなどの物理攻撃力に関わるステータスもより多くポイントを触れるようになる。まあ、INTやPOWは逆に減るんだがね。全体の割合でバランスをとるらしいから」

「で、あたしがスキュレイ。見ての通り、蛸足の魚人に転生してるのさ」

「魚人ですか! そんなのにもなれるんですねー」


 にゅるりと伸びてきた蛸足と握手しながら、レミが嬉しそうに笑う。

 レミの笑顔につられたように笑いながら、ラミ子も笑顔になった。


「なりたきゃ、クエスト紹介してあげるよ。魚人系は、水中でのデメリットが一切なくなる変わり日常での活動に支障をきたす様になるけどねぇ」

「あ、やっぱり……具体的にはどうなるんですか?」

「一番でかいのはCONの成長限界の低下かねぇ。かなりえげつない減り方するから、HPが上がらない上がらない……。ま、その代わりにINTとPOWは結構上がるけどね。獣人の逆方向ってイメージだよ」

「ふーん……で、そっちのちびはドラム缶の精霊にでも転生してんの?」

「そんなのがあったら真っ先にしてるし! 私はドワーフだよ!」


 リアっちはマコの言い草に怒りの声を上げながらフンスとない胸を張る。


「CONとDEXに優れた、ウェポンマスターなんだから! ゴーレムもミサイルもどんとこいだ!」

「ドワーフとかエルフは亜人系だな。成長限界が人間と変わるくらいの変化ですむから、転生初心者によくオススメされる種族だわ」


 リュージの補足説明にマコはゲンナリと肩を落とす。


「ドラム缶被ってたらわかんねーわよ。……そっちの紙袋も、エルフとかそっち系?」

「いえ、私はリアっちたちとはいささか趣が異なりまして。転生種族・ヴァンパイア……いわゆるアンデットでございます」


 マル太は胸に手を当て小さく礼をしながら自らの特性を語る。


「最大の特徴は、MPが消滅することでしょう。アンデットは死者……生きた精神の証であるMPを持ちません。代わりに、HPを消費することで魔法やスキルを発動させます」

「……それって、かなり強力な種族じゃないの?」

「お察しの通り、スキルや魔法を連打してごり押しするスタイルですと、強力無比ですね。スキル類のMP……いえ、HP消費量は人間の頃と変わりませんので、HPが増えるたびに使用限界が大幅に跳ね上がります」


 このゲームはMP値が100で固定される。自動回復はするが、自ずと一度に使用できるスキルの回数が定められてしまうわけだが、アンデットへの転生でその回数制限の上限を取り払うことができるわけだ。現在のマコたちですら、HPの量は1000を超えている。もっとレベルが上がれば、スキルなんて使いたい放題になるだろう。


「もちろん、欠点はあります。全体的に見た、成長限界の割合が人と比べて一回りほど低いのです。死んでますゆえ、成長しないのは納得ですがね」

「なるほど……ステータスが低いわけね。それはアンデット全体の共通かしら?」

「ええ。あとは、アンデットの種類で特徴が追加されますね。吸血鬼ですと、モンスターのHP吸収で、ゾンビですと欠損ダメージの自動修復といった具合です」

「その辺は人外ならではねぇ」


 アンデットの強力さにマコがうらやましそうな顔つきになる。

 その分、転生条件は厳しいとのことだが、それを乗り越える価値はある種族だろう。

 一通りの説明が終わった後、ゆっくり歩み寄ってきたカレンが最後の説明を入れる。


「そうした転生者のみで構成されたプレイヤーたちのギルド……四聖団。大ギルドにも並び称されるギルドのトップがこの四人なのさ」

「へぇー……四聖団」

「かっこいい名前ですね……!」

「いや、なに。それほどでもないさ」


 きらきらと瞳を輝かせるコータの視線を、照れながら受け止めるヴァル助。

 ラミ子はヴァル助を見て小さく苦笑し、リアっちはふふんと得意げに胸を張り、マル太は静かに佇んでいるのであった。




なお、四聖団のトップたちはとある富豪の家で働いたり暮らしたりしている、リアルでの知り合い同士らしい。

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