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log66.スキル選択の自由

「――で、なんであたしらはあんたらのラブコメ劇場を眺めさせられてるわけ? 死ぬ? 死んでみる?」

「そこで俺に殺気ぶつけにくるなよ、おっかねぇな……」


 そんなリュージたちの姿を正面から見せ付けられたマコが、苛立たしげにプチトマトを噛み潰す。手の中にあったトマトを握りつぶさなかったのは、一抹の理性がそうさせたのだろう。

 鬼気迫る雰囲気のマコに怯えつつ、シャクシャクとオニオンスライスを頂くレミ。


「ま、まあまあマコちゃん……。別にリュージ君に悪気があったわけじゃないんだし……」

「悪意があったら絞め殺すわ。即ログアウトからの暗殺かましてくれるわ」

「一応、イノセント・ワールドのVRメットにも防犯用の接触センサーはあるけど、お前にかかったらそれも形無しっぽいからやめてね?」


 冗談だと思いたいマコの一言に、リュージは冷や汗をたらしながら呟く。

 コータもリュージの言葉に一つ頷きながらも、彼に対してささやかな助言を送ることとする。


「マコちゃんには自制してもらうとして……リュージも、そういう時はハッキリしないと駄目だよ? 中途半端が皆傷つくんだから」

「むやみやたらに無自覚モーションかけた挙句に、人知れぬ場所で修羅場を生み出した奴が何を言うやら……。そんな思い出したくもないクソみたいな思い出はともかく、俺はいつだってハッキリしてるからな」


 コータの言葉に心外だといわんばかりに、リュージはきゅうりを噛み切りながらはっきりと宣言する。


「俺はいつだって嫁一筋! 俺のオンリーワンはソフィたんだけだからな!!」

「…………」

「…………」


 リュージの宣言を受け、目に見えて落ち込むカレン。見えない刃に問答無用で切り裂かれたかのようだ。

 またとない勝利宣言といえるリュージの言葉であったが、あまりのまっすぐさにソフィアも申し訳なさそうに彼女の方を見やるほどであった。

 真摯な言葉は、時として容赦なく人を傷つけるものである。


「……まあ、これに関しては自業自得かしら」


 告白せずに好感度を上げるのは恋愛においては常道であるが、この男に関して言えばまったく無意味だろう。先に告白なり何なりして関係性をハッキリさせたほうが精神衛生上大変よろしい。

 まあその場合、カレンを待っているのは容赦のない玉砕だろうが。

 端から見ていてもかわいそうになるくらいの脈のなさに、マコが哀れみの視線をカレンに向ける。


「大丈夫? まだ立てる?」

「気遣わないでおくれよ……なんか惨めになってくる……」


 思わずテーブルに突っ伏しながら、カレンが震える声で呟く。

 まあ、彼に惚れ、そして告白できぬままにソフィアのイノセント・ワールドプレイ開始を許してしまった時点でわかっていたことだ。


「……ッ、ンン!」


 カレンは唇を食いしばりつつ起き上がり、フンスと荒々しく鼻を鳴らして姿勢を正した。

 天晴れな復活っぷりに、思わずマコたちが惜しみない拍手を送る。


「おおー、復活したわよ」

「すごいよカレンちゃん……!」

「まだ折れてないんだね!」

「称えるんじゃないよ!! っていうか、あんたらどっちの味方だい!?」


 自分に向けられる賞賛を前に、カレンは思わず問いかけてしまう。

 リュージと同じグループにいるなら、むしろソフィアに組する立場にあると思うのだが。

 そんなカレンの思考を読んだのか、頬杖をつきながらトマトを口に運ぶマコ。


「んー……まあ、普段のそいつら知ってるとね。ちょっとは刺激が欲しくなるのよ」

「? どういう意味だい?」


 マコの言葉の真意が読めず、カレンは首をかしげる。

 まるで、一波乱起きてくれるのを望んでいるような物言いだ。ギルド内の不和は、例えどのような火種でも歓迎すべきではないと思うのだが……。

 しかしマコはそれ以上語るつもりはないのか、天を仰ぎ見ながらパタパタと手を振った。


「それに関しちゃそのうち話してやるわよー。今日はうちのツッコミマスターがいないから、これ以上、薮を突くつもりもないし」

「ツッコミ……? 誰のことだい?」

「ああ、サンシターさんのこと? 割と酷いねマコちゃん……」


 コータはマコの物言いに苦笑しつつ、カレンへと説明する。


「そういえば、カレンさんは会ったことがないんだっけ? 僕たちのギルドにもう一人、サンシターさんって言う人がいてね。その人のことを言ってるんだ」

「……自分でつける名前にしちゃ自虐的だね。どんな人だい?」

「一言でいやぁ、一家に一人欲しくなる家庭的な主夫だな。男じゃなけりゃ、嫁の行き先に苦労はしないだろうに」


 リュージが肩をすくめると、マコが真顔で呟いた。


「そうなったらあたしが嫁に貰うわ。誰にもやったりするものか」

「……そういや、一応同姓でも子供は作れるんだっけか……?」

「確率は低いし、寿命に問題があったりするらしいけどね。それならそれで、あたしが男になればいいんでしょう?」

「え、そんな単純な話なのかな……?」

「……これ以上、その話に突っ込むのはやめよう。話せば話すほど、サンシターさんに酷いことしてる気がしてくる」


 ずっと黙り込んでいたソフィアが思わず止めに入る。

 何しろギラリと輝くマコの瞳が、どこまでも真剣だったからだ。恐らく、条件さえ適正であれば今からでも互いの性別を交換しに向かいかねない。実際、逆であるほうが性格的にもうまくいきそうだから困る。

 ともあれ、閑話休題だ。それ以上サンシターの性別問題の話題を避けるべく、部外者であるカレンが話題転換の口火を切った。


「……そういやぁ、さ。リュージたちは今何レベルになったんだい?」

「えーっと、俺は22。みんなが20だったっけか?」

「一応僕が21だね。相変わらずリュージが独走状態だよね……」

「相変わらずMVPの総取りかい? ちったぁわけてやんなよ、リュウ」

「しかたねぇだろ! 気が付くと経験値みんな貰っちまってんだから! 俺が一番火力あるんだから、調整も難しいし」

「それに、加減されるのも癪だ。どうせなら、自分の実力でMVPは奪いたい」


 ソフィアがキラリと瞳を輝かせ、フフフと不気味な笑い声を上げる。


「多少、スキルや体の動かし方のコツはつかめてきたんだ……。すぐに追いついて見せるぞ、リュージ……」

「おう、その意気だよソフィたん。レイピアなら、急所クリティカル一撃が狙いやすいからな!」

「その反面、通常火力は心ともないがな……。手数を増やすのが一番いいのか?」

「かもね。装備にDEXがいる武器は、大体手数武器って言われてるしね」


 ソフィアの呟きに頷きながら、カレンが自分の使っている短弓をを取り出す。


「あたいの弓なんかもそうだけど、STRがいらない分、一発の威力がないんだよね。武器の素材のグレードが上がれば火力も上がるっちゃ上がるんだけど、同じグレードのSTR系武器と比べちゃうとねぇ」

「やはりそういうものか……。まあ、自分で選んだ武器だ。低火力に悩みはするが、そこは大して問題にはならないさ」

「だねぇ」


 堂々と言い切るソフィアに、同意するようにカレンは笑う。

 そんな二人の言葉に頷きながら、コータが渋い表情で呟く。


「それに引き換え、長剣ってなんと言うか特徴が出しづらいよね……。ソフィアさんみたいに、リュージからMVPを奪える気がしないよ」

「まあ、器用貧乏を絵に描いたような武器だからな。本番は属性開放して、スキルが出揃ってからだよ」

「スキルが増えることで一番恩恵を受けられる武器らしいからねぇ。大器晩成、って奴かしら?」

「ああ、いろんなスキルをバランスよく揃えられるから? そうなると、SPの振り方をどうしようか考えておかないと……」


 コータは呟きながら、スキルブックを取り出し、メインとして使用しているスキルボードを呼び出す。

 まだ生成されているスキルカードが少ないため、ボード上には結構な広さのスペースが開いてしまっている。

 スキルボードの空欄をゆっくり撫でながらコータはポツリと呟く。


「いつかはこれ全部埋めても、使い切れないくらいスキルが使えるようになるのかなぁ」

「いつかはな。まあ、そんなのはマコやレミみたいに魔法主体にスキルを覚えるか、レベル50以上超えてひたすらSP集めなきゃ気にするレベルじゃねぇよ。ひとまずお前は広く浅くスキルを覚えて、お気に入りのスキル系統を決めちまいな」


 ズズッとジュースを啜るリュージの言葉を聞き、コータは唸り声を上げる。


「うーん……とりあえず、カウンターソードが気になるかなぁ。あの魔法剣、自由に飛び回らせたり出来ないのかな、リュージ」

「どうだっけな……。カウンターソードと同系統のスキルはあったと思うが、あれって何属性だっけ?」

「属性と言えば、あんたらは何か属性決めてるのかい? 今が20レベルなら、もうすぐ属性開放も視野に入るんだろう?」


 カレンの問いかけを聞き、マコとリュージが口を開く。


「あたしは水ね。正確には氷を目指して、だけどね」

「俺は火だな。やっぱ火力上げてかにゃぁな」


 どちらもはっきりとした目的意識を持っているのか、その言葉に一切の迷うが見られない。

 対し、いまだ決めかねているのかソフィアが唸りながら一つの属性を口にする。


「一応風、と考えているのだがな……。DEX系を装備するのに、風というのは正しいか? 補正がかかると聞いたのだが」

「選択肢としちゃ王道だね。あたいだって風さね。DEXの補正のおかげで、手数が増えて火力も安定。大正義だよ」

「当然、火をとってSTR補正を属性から受けるってのもありだよ、ソフィたん。この場合は弱点を補う形になるわけだ。火力の乗った手数武器ってのもおっかないもんだ」

「水なら魔法で、土なら生存能力ってとこ? 武器次第では方向性が決まっちゃうギアと違って、属性は選択肢がみんなプラスだから気が楽だわね」

「でも、それが余計に迷うんだよねぇ」

「だよねぇ……。私、どうしようかなぁ……」


 他の三人と違い、まだ自分の属性を決めかねているらしいコータとレミが唸り声を上げる。

 選択肢の多いロングソード使いに、前衛からサポートオンリーまで選択肢を選べる回復役。どれを選んでも選択肢としては正解となる属性開放は贅沢な悩みどころだろう。


「まあ、属性開放まではまだまだレベルが足りないし、その間ゆっくり悩めばいいだろ?」

「まあ、わかってるんだけどね……」

「うーん」


 鷹揚なリュージの言葉に、唸り声を上げるコータとレミ。他のメンバーが既に属性を決めているおかげで、焦りに似た何かを感じているのだろう。

 そんな迷える初心者たちを見て、カレンが何かを閃いたような顔になる。


「……そんなら、一つ実演を見てみるかい?」

「え? 実演?」


 不思議そうに首をかしげるコータに、カレンはにやりと笑ってみせる。


「ああ。ここは一つ、ゲームの先達として教えてやろうかと思ってねぇ」


 猫を思わせる愉快げな笑みを浮かべながら、カレンはクルソルで誰かと連絡を取り始めるのであった。




なお、サンシターの頭の中には土による生存力の確保以外の選択肢はない模様。

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