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log63.十日後、アルフヘイムにて

 ギア取得から、数えて十日ほど。

 異界探検隊の者たちは、レベリングとストーリーの消化もかねて、アルフヘイムのとあるダンジョンへとやって来ていた。

 その名を“森の入り口”。これから木々が増えていくと言わんばかりの雑木林が広がる、そのままと言えばそのままのダンジョンだ。

 ここにやってきたのは、アルフヘイムの長からの依頼で、敵対関係にあるゴブリンの盗賊団の壊滅させるためだ。シナリオクエストの一環であるため、レベル相応の難易度と言うのはリュージの談だ。


「それでも油断はしちゃ駄目だよね。それで、今まで痛い目を何度も見てきたわけだし……!」

「いい事やね。慢心は心の毒ってな。つっても、力みすぎもいかんがね」


 ふさふさのじゅうたんの様にも見える草むらの上を走り、まばらに生える木々の間を抜け、コータはまっすぐ敵に向かって駆けてゆく。


「あんまり先走んなよー」

「わかってるよ!」


 リュージもコータと同じ方向に向かって駆け抜ける。

 どちらも既に抜き身の武器を手に、その目には己の標的を見据えている。

 さして上等ではないものの、使い古された皮鎧を装着したゴブリン。手にしているのは歪んだ長剣。頭上に表示されている名前は“ゴブリン・セイバー”となっている。


「ギ、ギィ!」


 ゴブリン・セイバーのうち一匹が、手にした長剣を振るい、自身に向かってかけてくるコータを迎え撃つ。

 ミッドガルド周辺で出会ったゴブリンたちなど比較にもならないほど、鋭い剣撃がコータめがけて振り下ろされる。

 瞬間、コータは素早く手の長剣を翻し、剣の腹でゴブリン・セイバーの一撃を受け止める。

 甲高い金属音が響き渡り、両者の動きが一瞬止まる。


「パリィ!」


 だが、コータが一声叫んだ瞬間その手の中の長剣が一瞬輝き、ゴブリン・セイバーの長剣を弾き飛ばす。


「ッ!?」


 あらぬ方向にはじかれた己の武器を見て、ゴブリン・セイバーは目を見開く。

 そしてその目が閉じられる前に、コータの一撃がその首を容赦なく跳ね飛ばしていた。

 一方リュージは、湾曲した大刀を手にしたゴブリン・セイバーと鋭く斬り結んでいた。


「セイバーシリーズは色々武器が変わってるから、一種類で何度でもおいしいやね」

「ギギィ!!」


 幾度となく鳴り響く剣撃の音は、雑木林中とばかりに響き渡る。

 その音を聞きつけ、新たなゴブリン・セイバーやゴブリン・メイジ、ゴブリン・プリーストなどが姿を現し始めた。


「リュージ!」

「あいよ」


 鋭くコータがその名を呼べば、羽のように軽い返事をリュージは返す。

 だが、返す刀で打ち出した一撃は鉛のような重さを持ってゴブリン・セイバーの胴を打ち据える。


「パワー・スラッシュー」

「ッ!!」


 リュージの放った横薙ぎの一閃は、ゴブリン・セイバーの手の中の大刀と胴体のみならず、その背後に生えていた木までも一撃で両断せしめた。

 声も無く消滅するゴブリン・セイバー。リュージの両断した木は、そのまままっすぐに後ろへと倒れこんでゆく。

 その倒れる先には、先ほど現れた新しいゴブリンの群れがあった。


「ギッ!?」

「キキィ! キーィ!」


 目の前の倒木を前に、ゴブリンたちは慌てて散開して行く。

 ゆっくりと倒れてゆく木……だが、ここは雑木林であった。

 倒れかけた木は、他の木に枝が引っかかってしまい中途半端に斜めの状態で止まってしまう。

 メシメシと物々しい音を立て、葉を揺り落としながら、動きを止める倒木。

 半端に傾いだ倒木を見て、一匹のゴブリン・メイジが胸を撫で下ろした。


「ギ、キィ……」


 自身の無事を確かめるようにため息をつくゴブリン。

 だが、そのゴブリンの頭上に一瞬影が差す。


「ギ?」


 ふと、顔を上げたゴブリンが目にしたのは、己の眉間にまっすぐ突き立てられる一本のレイピア。


「ソード・ピアス!!」


 雑木林の間の枝を飛び移るように移動してきたソフィアが発動したスキルは、まっすぐ狙い違わずゴブリン・メイジの眉間を穿ち、上半身ごと頭を消し飛ばした。

 クリティカルの快音を背中に背負いながら、ソフィアは草むらの上に着地する。


「ソフィたんイエーイ!!」

「はしゃぐな馬鹿者! まだ敵は残っているだろう!!」


 ソフィアの雄姿を目にしたリュージが興奮気味に叫ぶ。

 それを叱責しながら、ソフィアはレイピアの血振りを行い、周囲を素早く警戒する。

 ゴブリンたちの同様は一瞬。散開したまま、リュージたちを囲うように素早く動き回っているのがわかる。


「はやい……! さすがに、このあたりを根城にするだけはあるね!」

「まったくだ……。森では一日の長があるエルフたちが苦戦すると言うのも頷ける」


 互いに背中合わせの体勢を取りながら、コータとソフィアは油断無く構える。

 リュージは泰然自若としながら、ゆるりと周りを見回す。


「まあ、スカウトやらアーチャーやらの数が少なめだから、そんなに手ごわくはないかね」

「いや、それが言えるのはお前だけだと思うが……」


 リュージの呟きに、ソフィアが呆れたような声を返す。

 確かに彼の言うとおり、遠距離攻撃を旨とするアーチャーやセイバーよりも動きの早いスカウトの姿はまばらと言った感じに広がっており、そこまで数は多くない。

 ただ、火力に長けるメイジの数は無視できない程度には多いし、セイバーの数は言うまでもない。

 この後の増援とて一切無いとは言い切れない以上、決して油断できる相手ではない。


「そもそも、包囲されている時点で不利は決まってしまっているのだぞ」

「まあ、わかってんよ」


 ソフィアの言葉にリュージは一つ頷き。

 それから、雑木林の向こう側に向かって見えるように手にしたバスタードソードを真上に放り投げてみせる。


「――だからこそ、いつの最大火力を置いてきたんでしょうよ」

「サンダーボルト!!」


 瞬間、リュージたちの包囲を確認したマコが、チャージしていた魔法、サンダーボルトを解き放つ。

 まっすぐ一直線に電流を流すサンダーボルトは、チャージの恩恵を受け一本の巨大な稲光となってゴブリンの内一体の体を打ち据える。


「ギ――!?」


 だが、それに留まらない。

 チャージによって蓄えられた魔力を、稲妻と言う形で解き放つサンダーボルト。その性質は雷そのもの。

 最初に魔法を喰らったゴブリンの両隣。さらにそのゴブリンの隣に、そのゴブリンの隣の隣。


「ギ、キ――!?」


 稲光の速度、光速のそのままに伝播してゆくサンダーボルトは、一瞬でゴブリンたちの間を駆け抜け。


「「「「「ゴギャァー!!??」」」」」


 稲妻の輪となり、ゴブリンたちの体を激しく焼き払う。


「おぉ……! うまくいったね!」

「電流の性質上、こちらへの被弾が怖いところだが……」

「まあ、魔法だし? その辺は気にしなくて良いんじゃない?」


 そういいながら、リュージは稲妻が収まったタイミングでゴブリンの輪を切り崩しに走る。

 先のサンダーボルトの一撃、チャージを持ってしてもゴブリンたちを全滅させるには至らなかった。稲妻が伝播してゆくことにより、結果として一匹に対してダメージを与える電力が小さくなってしまったのが原因だろうか。

 ソフィアとコータもそれに続くように。ゴブリンたちの包囲網を崩してゆく。


「っしゃおらー」

「ソード・ピアス!」

「パワー・スラッシュ!」


 次々と数を減らしてゆくゴブリンたち。

 さらに、視界外からのマコによる援護射撃により、瞬く間にゴブリン包囲網は壊滅状態となった。


「ギ、ギ……!」


 己の仲間たちが次々と倒されてゆく光景に、半死半生のゴブリン・プリーストは焦ったように呻き声を上げる。

 そして素早く懐から笛を取り出すと、全力で息を吹き込んだ。


 ピイイィィィィー……!!


 人間の可聴領域ぎりぎりの甲高い笛の音。

 その音が響いた途端、重量感溢れる金属音を響かせながら二匹のゴブリンが姿を現した。


「ゴブゥー……!」

「ングフゥー……!」


 通常のゴブリンの倍はある身長。ホブゴブリンの一種だろう。

 他の者たちと比較しても豪華絢爛と言うべき鎧を見につけ、その手に巨大な馬上槍とグレートソードを携えたゴブリンたちの名前は、ホブゴブリン・ナイト。

 恐らく、リュージたちが倒していたゴブリンの一団のボスだろう。実際、彼らの視界にもボスの出現を示すマークが現れていた。


「おっしゃ、ボス出現!」

「まだ雑魚が残っているぞ! こちらを片付けてからだ!」


 息むリュージを諌めるソフィア。

 彼女の言うとおり、ゴブリンたちの数が減ったと言ってもまだ半数程度は残っている。

 後方に座していたマコも、レミと共にこちらに向かってきているが、彼女たちがこちらに到着するまでの間、ゴブリンとホブゴブリンに挟み撃ちの形になってしまう可能性がある。

 なるべくそれは避けねばなるまい。


「僕に任せて!」


 その状況を支えるべく、ゴブリンたちを二人に任せてコータが一歩前に出る。

 ホブゴブリンたちは、前に出てきたコータを見て、各々の武器を構える。

 コータ程度であれば一撃で粉砕しかねないほどに圧迫感のある武器を前に、彼は怯むことなく長剣を握り締め、ホブゴブリンの前に立ち塞がる。

 そして、大きき息を吸い込み、緩やかに剣を回す。


「スゥー……!」


 一度頭上に掲げた剣を、時計回りにゆっくりと。

 地面を一度示したあと、再び頭上に掲げるように巡らせる。

 ホブゴブリンたちは咆哮を上げながら、コータへ向かって斬りかかって行き――。


「――カウンターソード!!」


 コータが頭上にかかった剣を振り下ろした瞬間、ホブゴブリンたちの攻撃の進路を遮るように魔法の剣が現れる。

 魔力の塊で出来た二本の剣は、ホブゴブリンの武器にぶつかり、その一撃を受け止めた。


「グゴッ!?」


 唐突に現れた魔法の剣に驚き、さらに己の一撃を受け止められたことに慄くホブゴブリンたち。

 だが、その驚きも一瞬のこと。ホブゴブリンたちはすぐに顔を怒りに染め、小生意気な魔法の剣を打ち砕こうとその両腕に力を込める。

 果たして魔法の剣がホブゴブリンの膂力に耐えたのは一瞬のこと。ひびが入ったと見えた次の瞬間には、ガラスのような音を立てて魔法の剣は砕け散り――。


「ゴギィ!?」


 剣を形為していた魔力を衝撃波という形で周囲に撒き散らし、ホブゴブリンの体を強かに打ち据えた。

 押し固めた魔力を剣の形で作り、相手に対する防御として使用するカウンターソード。本物の剣のようには振るえず、盾ほどの頑強さを持たないものの、攻防の隙間に差し込む即席の防壁としての役割は十全に果たせるスキルといえる。前衛が使うにしてはややMPの消費が重いのが欠点か。

 しかし、ホブゴブリンを怯ませた一瞬の内に残っていたゴブリンたちはマコの援護もあり全滅し、リュージとソフィアがホブゴブリンとの戦いに参加できるようになった。


「よし、コータ待たせた!」

「っしゃぁ! このまま瞬殺してさっさと終わらせるぞ!」

「油断はしない! けど同意! とっとと終わらせるわよ!」

「回復は任せて!」

「よぉーし!!」


 コータが息巻き、MP回復ポーションを呷りながらスキルを発動する。


「一気に片付けるよ! パワー・スラッシュ」

「ゴガァァ!!」


 叫んで斬りかかるコータに向かい、馬上槍を振るうホブゴブリン。

 両者が斬り結んだ瞬間、残った者たちもお互いの敵に向かって武器を振りかざしていった。




なお、ホブゴブリン・ナイトはレアドロップで質の良い武器防具を落とす模様。

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