log62.ギアスキル
各々の注文を終え、ドワーフの少女が立ち去るのを見送ってからリュージはクルソルを取り出した。
「さて、ギアシステムに関する詳しい説明だな。各々、クルソルを使って自分のギアスキルを確認してみましょう」
「ん、わかった」
リュージの言葉に、皆が自身のクルソルを取り出してギアスキルを確認する。……サンシターを除いて。
自身のギアスキルを眺めながら、ソフィアは軽く首をかしげる。
「開いたが……私たち三人に関してはまったく同じじゃないか?」
「んにゃ、確か微妙に違うはずなんよ」
リュージは言いながら、一つのスキルにポイントを振り、それから皆に見えるように示してみせる。
「さて、俺は今一つのスキルにポイントを振りました。こんなスキルです」
リュージが提示して見せたスキルの名前は大剣熟練。スキルレベルに応じ、装備している武器の威力とSTRに補正がかかるようになるというスキルだ。
そのスキルを見て、同じソードギアを持つコータとソフィアが驚いたような顔になる。
「あれ、僕のと違うスキルだ……」
「私もだ。私は細剣熟練となっているぞ」
「僕は長剣熟練になってる」
二人が驚きと共に示したスキルは、確かにリュージの持っているそれとは微妙に異なっていた。
「どういうことだ、リュージ?」
「今回俺たちが取得したギアは“カテゴリーギア”って言うんだけど、要するにこのカテゴリーギアがメインウェポンに当たるわけ。こいつは基本的に武器の種類が選択されるので、剣とか杖とか、かなり大枠な感じで名前が決定されます」
「で、確かこのギアを成長だかなんだかさせると種類が細分化して、使えるスキルとかもだんだん専門的になっていくんだっけ?」
「その通り。その細分化したギアを“ウェポンズギア”と言って、こいつも一定レベル以上上げた状態でフェンリルに行けばクエストが受領できるようになるわけ」
「それがギアの成長要素と言うわけか? だが、それでは私たちのギアのスキルが微妙に異なる理由にはならないのではないか?」
「焦らない焦らない。前に、マコのギア取得の時に熟練度ってステータスがあるって言ったろ? その熟練度が反映された結果がこの熟練ってスキルなのよ」
そういいながら、リュージはまた大剣熟練にポイントを割り振る。
「カテゴリーギアは大枠って言うだけあって、広く浅くって感じで、結構幅広いスキル選択が出来るのよ。……俺の言いたい事、伝わってる?」
「……大体は」
ソフィアは一つ頷き、コータは少し考えてからリュージに答える。
「……例えば、レイピアで使うようなスキルも、僕やリュージが使えるようになるって感じでいいのかな?」
「大体その通り。レイピアみたいに斬るのに適さないような武器でも、カテゴリーギアなら斬撃系のスキルが取得できるようになってるわけ。もちろん、成長させたらそういったスキルが一切取得できなくなるってわけじゃなくて、より威力の高いスキルは解禁されないってだけの話ね?」
「こんなとこでも熟練度が関係してくんのね……。良く見れば、あたしのギアも拳銃熟練ってなってるし」
自身のギアスキルを睨みつけていたマコがポツリと呟く。
最初に手に入れた銃がハンドガンであったため、その熟練度が取得できるスキルに影響を及ぼしていると言うことか。
レミが自分のスキルを確認しながら、小首を傾げて問いかける。
「じゃあ、そのウェポンズギアって言うのは、熟練度が高いのしか取れないのかな?」
「そんなこたぁねぇよ? ウェポンズギアからは自分で選択して取得できるようになるんだよ。複数取得できるんで、俺がレイピア取ったり、或いはコータが槍を取ったりってのも出来るのよ?」
「じゃあ、熟練度はここで無用の長物になるの?」
「んにゃ。熟練スキルとあわせて、同じ武器の熟練度上げておくと、そのウェポンズギアを取った時にスキルポイントの消費量が抑えられるんだよ。何で、早い内に威力の高いスキルを解禁できるようになる」
「そこは熟練度っぽいわね」
マコは納得したように頷く。熟練度を上げれば上げるほど、早くその武器を極められると言うわけだろうか。
リュージはそのまま大剣熟練に触れるだけスキルポイントを振り、それから始めから解禁されていたスキルに残ったポイントを割り振った。
「さて、熟練度とギアシステムの解説がある程度終わったところで、スキルの振り方について。まず振るべきは熟練スキル。これは鉄板」
「熟練スキルが前提になっているスキルがかなり多いようだしな……。それ以外のスキルに関しては?」
「解禁されるスキルによるけど、自分が有用だと思うパッシブスキルにスキルポイントを費やしていく感じかな。ウェポンズギアが解禁されるまでは、攻撃系スキルは一つか二つもあれば十分だし」
「それでいいの? 長剣熟練に振れるだけポイント振ったら、結構色々使えるようになったみたいだけど」
コータの言うとおり、彼のスキルツリーではそれなりの数のスキルが解禁されたようだ。
ソード・ピアスにパワー・スラッシュ。パリィにカウンターブレイドなど防御系のスキルも解禁されているようだ。
コータのスキルの数を見て、リュージは口笛を吹きながらも軽く首を横に振った。
「汎用性の高い長剣の熟練だけあって、たくさん出たなぁ。ただまあ、お勧めはしないな。これは個人的な感想なんだけど、スキル使用後に硬直が発生するタイプのスキルはいまいち使いづらいんだよな」
「そうなの? そういうスキルって、威力が高かったりするんじゃないの?」
「威力は高いんだけどなー。でも、火力が欲しいだけならステータス分の力を引き出せるようにしたほうが楽だし。硬直もないし」
「それができんのアンタだけよ。普通の人間は、スキルまで込みで火力を叩き出すもんよ」
割と脳筋な発言をかますリュージを横目で睨み付けるマコ。
確かに、コカトリスの首を跳ね飛ばすような真似は彼にしか出来ないだろう。
ソフィアは小さく苦笑しながら、熟練スキルにポイントを振ってゆく。
「まあ、そこは慣れていけば何とかなるだろう。やって出来ないことはないはずだし……リュージがオススメする攻撃系のスキルはどんなものだ?」
「コータのギアにも出てるけど、パワー・スラッシュはオススメのスキルの一つだな。俺の大剣熟練でも解禁できるスキルで、次に攻撃する一撃の威力が二倍になるってスキルだ。いわゆるエンチャント系って奴だな」
「次の一撃の威力が二倍になる……私の細剣熟練だと、そういう系列のスキルは解禁されていないようだな……」
「それならなるべく攻撃動作の短めの奴かなぁ。そういうスキルは体が勝手に動くから、楽っちゃ楽だけど、違和感も感じたりするから……」
「なら、このソード・ピアスかな……。一定距離を突進するとある。突進するだけなら、そんなに体に違和感も覚えんだろうし……」
「僕はどうしようかなぁ。いっそ、防御系のスキルとって盾役になるのもありかな?」
「ならせめてヘイト稼げる魔法か何か覚えた方が良いわねぇ。守りっぱなしじゃ、敵は寄ってこないだろうし」
「私は魔法関係のスキルが出てきたから、これ覚えれば良いよね……。回復力が上がるようなスキルはないかな?」
あれでもないこれでもない、とようやく取得できるようになったスキルのどれをつけるべきか話し合うリュージたち。
そんな彼らの姿を微笑ましそうに眺めながら、サンシターはポツリと呟いた。
「……こういう話になると、自分は何も出来ないでありますなぁ……」
結局、料理が運ばれてくるまでの間、サンシターは会話の輪に入ることが出来ずに、一人寂しく過ごすのであった。
なお、武器の種類によっては、ギアとして解禁されるのにある程度特殊な手順を用いるものもある模様。