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log58.激闘! コカトリス幼生

「話に聞いてたのとだいぶ違うわね!?」

「どういうこと……!? リュージが何か間違えてたとか!?」


 いきなりのリュージの離脱を前に、マコとコータはコカトリス幼生をにらみつけながら油断なく構える。

 彼の話を鵜呑みにすれば、例え相手がマルチ仕様のボスであったとしても、現在の異界探検隊のメンバーであれば特に問題もなく下せるはずだった。

 だが、現実には一発の攻撃も通らず、なおかつ優れた反射神経で反撃され、今しがた最大戦力が蹴り飛ばされて彼方に消えた。

 戦況は圧倒的不利に傾いてしまっている。しかも、問題となるはずであった石化攻撃を放たれる前にこれである。

 挙句誰かが石化して、この戦場からロストし始めたら目も当てられない。

 初めてディノレックスと相対した時のような緊張感を味わいながら、マコはグロックの照準をコカトリスへと向ける。


「あのバカが何を勘違いしていたか知らないけれど、気を抜けないならできることするしかないでしょ! アイス・バレット!!」


 凍結狙いのアイス・バレットが、一気にコカトリスの足元を狙って飛ぶ。

 汚らしい鳴き声を上げながら回避行動を取るコカトリスの足に何発かアイス・バレットが炸裂するが、凍結効果は発生しなかった。


「チッ!」

「皆に守りの力を……バリア!」


 レミの詠唱と共に、コータとソフィアの体を、光の膜が包み込む。

 ある程度敵の攻撃を受け止めてくれる特殊なフィールドを見方に発生させる防御系の初歩魔法である、バリアだ。バリアには受け止められるダメージの総量が定められており、単純にHPが増えるものと捉えてよい。

 バリアの防御力はプレイヤーの防御力にそのまま依存するため、敵の火力があまりにも高すぎる場合はバリアのHPの少なさも相まってさした効果を上げない魔法だが、他のバリア系の魔法と異なりあらゆる全ての攻撃に対して効果を発揮するため、高レベルプレイヤーたちにも愛用されることの多い万能タイプの魔法の一つだ。


「よし、これで……!」

「バリアがどれほど効果を上げるかは疑問だがな……!」


 武器を構えなおしながらコータとソフィアはコカトリスへと向かって駆け出す。

 一応、バリアは自身のHPを上回る攻撃に関しては効果の消滅という形で全てを受け止めてくれるため、許容範囲以上の攻撃も一発だけなら効果を発揮する。

 だが、コカトリスの動きを見るに連続攻撃が飛んでくる可能性があるのを考えると、あまりバリアに頼り切りはよくないだろう。

 レイピアを握り締め、ソフィアは跳躍に備えて足に力を込める。


「リュージの一撃でダメージの通らなかった足では駄目だ! 上半身を狙っていくぞ!」

「わかった!」


 コータは叫びながら、コカトリスの気を引くべく、その足元へ駆けてゆく。

 ソフィアが飛び上がるのと同時に、コータはコカトリスの足へ向けて長剣を振るう。


「ハァッ!!」

―ンギィ!―


 鋼鉄を叩いたのとなんら変わらない硬質な音を響かせながら、斬撃と共にコータはコカトリスの足元を走り抜ける。

 コカトリスは煩わしそうな鳴き声を上げ、足元をちょろちょろ動き回るコータを踏み潰そうと足を振り上げようとするが、それをさせぬとソフィアがレイピアを振るう。


「こちらだぁ!」

―ゴゲェ!?―


 振るわれた剣閃は、コカトリスの顔を浅く薙ぐ。

 感じた手応えは、ゴムタイヤか何かを引っかいているような感じだ。とても肉を切り裂いたとは言えない。


「くそ! これでも駄目か……!?」

―ギィー!!―


 コカトリスは攻撃の目標をソフィアへと変え、勢い良く嘴を叩き付けた。

 ツルハシのごとく硬い嘴を、ソフィアは何とか足で受け止めようとするが、それは叶わず胴体にモロに食らってしまう。


「おぐっ!?」


 バリアのおかげでHPへのダメージはないが、バリアがパリンと音を立てて砕けると共に、臓腑を貫く衝撃が彼女の体を駆け抜ける。

 ダメージは防げても、衝撃は守れないらしい。

 あえなくそのまま落下するソフィア。


「ソフィア!」

「コータ君!」


 マコとレミの声を聞き、コータは素早くコカトリスの足元への攻撃を再開する。


「ヤァッ!!」


 コカトリスの注意を引くために、その足元を何度も斬りつけるコータであったが、装甲に攻撃を弾かれるむなしい音が響くばかり。

 コカトリスのヘイトを集めることは出来ず、追撃のついばみがソフィアへと迫る。


―ギィー!―

「クッソ!」

「―――!!


 悪態をつくと同時に、マコはコカトリスの顔面に向かって何度も射撃をするが、鋼鉄の嘴がソフィアに迫るのを止めるには威力が足りない。

 落下しながらも何とか反撃を試みるソフィアであるが、レイピア一本でコカトリスの嘴をはじくことなど出来るはずも―――。


「おい」


 瞬間、コカトリスの嘴が高速でぶれる。

 遅れて聞こえて来たのは鈍い打撃音。空間を衝撃が貫く輪のようなエフェクトさえ見えそうなほど激しい一撃が、コカトリスの横っ面を弾き飛ばした。

 そのまま横倒しに倒れてゆくコカトリスを睨み付け、振りぬいた拳を軽く振りながらリュージは静かに呟いた。


「人の嫁に何してやがるんだ、くそが」


 そのまま中空でソフィアの体を受け止めると、リュージは難なく地面に着地した。


「っと……大丈夫? ソフィたん」

「あ、ああ……」


 あまりにも唐突なリュージの出現に呆然となりながらも、ソフィアは何とか地面に降り立つ。


「いやぁ、急いでこっちに向かってる時にソフィたんが攻撃喰らった時にはいても立ってもいられなくなってなぁ。無理しちゃ駄目よ?」

「いや、無理なく倒せる相手か、これは……?」


 横倒しになり、顔を殴られた激痛に身を捩っているコカトリスを見ながら、ソフィアはポツリと呟く。

 先ほどまでまともに攻撃が通じなかった相手がこうして一撃でぶっ飛ばされているのを見ると、なんともいたたまれない気持ちになってしまう。

 と、危うくコカトリスの横倒しに巻き込まれかけたコータが、リュージに多少怒りの表情を向けながら駆け寄ってきた。


「危ないじゃないか、リュージ! 攻撃するなら、僕にもちゃんとわかるように言ってよ!」

「おう、わりぃ。嫁の危機にそんな余裕はなかったわ」


 悪びれた様子もなく応えながら、リュージは手持ちの回復ポーションを一息に呷る。

 先の一撃でか、ぎりぎりまで減っていたHPが何とか半分程度まで持ち直る。

 口元のポーションを袖で乱暴に拭いながら、リュージは不可解そうに呟いた。


「しっかし……なんか妙に強いなこいつ? 確かにマルチ向けのボスモンスターだが、10レベルのキャラに、レア剣の攻撃がはじかれる装甲持ちのボスモンスターぶつけるか?」

「その妙に強いボスモンスターを殴り飛ばしながら何言ってんのアンタ」

「愛の力ってそんなもんだ」

―ギギィー!!―


 起き上がり、怒りの鳴き声を上げるコカトリス。

 空を仰ぎ、翼を打ち振るいながら、その瞳を不自然にぎらつかせ始める。


「散れっ! 来るぞ!」


 不自然な瞳の発光を見て、リュージが叫ぶ。

 そのまま一気に散らばる異界探検隊たちを無視し、コカトリスは先ほどまでリュージの立っていた地点に向かって、瞳の輝きを開放した。


―ゴァー!!―


 眩い閃光と共に解き放たれた石化光線は、もう誰もいない場所を空しく通り過ぎてゆく。


「……予兆がある分、石化光線の方が対処簡単ってどういうことよ」

「普通に攻撃するより簡単だね……」


 問題の石化攻撃がまったく問題にならないことに拍子抜けになりながら、マコはグロックのリロードを行う。


「まあ、懸念がどうでもいいならそれに越したことはないわよ。問題は、リュージから見てもこの状況が明らかに異常ってことでしょ」

「リュージ君! 具体的にどれくらいおかしいの!?」

「想定の一回りか二周りは強くなってんな。どうなってんだこれ」


 訝しげに呟きながら、リュージはしまっていたバスタードソードを取り出す。


「手応えから察するに、別に打撃有効装甲って感じでもねぇし……。純粋に能力が強化されてる感じだ。バグでも突然変異系でもなさそうだし、どうなってんだ本当に」

「バグなんてあるの、このゲーム……?」

「おう。基本オンメンテで、随時更新を繰り返してるらしいからな。結構バグは有名だぜ? 元々バグだったのが正式使用になったりもしてるし」

「大丈夫なのか、それは……?」


 意識をダウンロードするタイプのVRMMOで、バグとか恐ろしくてやってられないと思うのだが。

 そんな言外のソフィアの言葉を読み取り、リュージは力強く頷いてみせる。


「だいじょぶだいじょぶ。昔の小説みたいなデスゲームなんざ御伽噺だよ。その辺はVRMMOにおける死亡率実験ってデータが大手研究施設から公開されてっから、調べてみるといいよ」

「ならいいが……」


 リュージの言葉に一応頷きつつも、不安そうなソフィア。

 今この場でコカトリスが急激に強くなった要因がバグとかであれば、こちらもモロに被害をこうむりかねない。

 とはいえ、そればかり気にしていても仕方がない。震える心を押さえつけ、ソフィアはレイピアを構えた。


「だが、現実として問題が目の前で発生しているのだ。それをどうにかせねば、先にも進めんぞ」

「そうなんだけど、うーん」


 ソフィアの言葉に、リュージは首を傾げて考える。

 一体何が原因なのか。それをはっきりさせねば、コカトリスを倒すことすらままならない。

 ……と、その時。何かに気がついたコータが、コカトリスの頭上を指差す。


「……ところでさ、リュージ」

「ん? なんだよ」

「コカトリスの名前だけど、なんで+ってついてるの?」

「ん? +?」


 コータが指差す先に表示されているコカトリスの名前であるが、彼の言うとおり「コカトリスの幼生:+」と表示されていた。

 コロンで仕切られているということは、そこまで含めて正式名称というわけではなさそうだ。恐らく何かを示す表示なのだと思われる。

 その指摘を受け、リュージは眉根を寄せ、それから何かを思い出したように手の平を打った。


「……あ、そうか。このコカトリス、俺らのレベルに合わせて強化されてんのか」

「……どういうことかしら? リュージ……?」

「ドードー、マコ。時に落ち着け」


 あっけらかんとしたリュージの呟きに、マコが剣呑な声を上げる。

 今にも引き金を引きかねない様子のマコを前に、リュージがゆっくりと事の次第を説明し始めた。




なお、公開されている研究内容は「現行のVRシステムを起動している際に、ハッキング等で生命を脅かされた場合」等の模様。

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