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log56.ギアクエスト・コカトリス

 そして三日の間、各々どのようなステータスの振り分けにするか悩んだり、ひたすら嫁を愛でたり、ゴブリンに一人で叩き伏せられたりしながら過ごした。

 成果としては、やはりサンシターは戦闘には酷く不向きだということがハッキリしたのが一つだろうか。


「いや、まさかゴブリン一匹まともに仕留められないとは、俺も思わんかった……。どんだけ戦うのへたくそなんだサンシター……」

「いやはや面目ない……」


 ギアクエストを無事に受領し終え、異界探検隊のメンバーは各拠点となる町やクエストの発生ポイントへ一瞬で移動できるゲートへと赴く。

 町への移動にはクルソルを使うのが一般的であるが、受領したクエストの発生する場所へ移動するのはこのゲートを使うのが一般的だ。

 無論、オープンワールドであるこのゲームはクエストの発生した場所へ歩いて移動することも出来るが、あまり推奨されていない。単純に途方もない道のりであることが多いからである。

 今回の場合で言えば、ギアクエストの討伐対象モンスターは、四方に点在する町からさらに奥へと進んだダンジョンに存在する。そんなところにいける実力があるなら、そもそもギアは必要ないだろう。

 そんなゲートを眺めながら、リュージは一つため息をつく。


「この際だから、サンシターも一緒にギアクエストを……って考えてたんだが、モンスターは倒せないと経験値入らねぇからなぁ」

「あ、そうなの? でもこの間のゾルフォとか、皆で倒したら皆に経験値入ったよね?」

「どれだけ戦闘に貢献したかで経験値が分配される方式だからな。サンシターみたいに、一発もいれられないうちに勝手にこけて、さらにゴブリンに瀕死にさせられたりすると、すずめの涙しか経験値はいらねぇんだよ……」

「この辺り容赦ないでありますからな、このゲーム……。どれだけ高レベルのモンスター討伐に連れて行ってもらっても、一桁しか経験値が入らなかったときは目が点になったでありますよ……」

「……それでは、戦って経験値を手に入れるのは厳しいですね」


 まったく見当外れの方向にナイフを振るうサンシターの姿を思い出しながら、ソフィアが遠い目になった。

 彼の初期選択職業は盗賊であるが、サンシターの戦い方を考えるとこれ以外の選択肢はないだろう。ボウガン持たせると、何故か跳ね返った矢で自らの眉間を打ち抜く奇天烈な腕前の持ち主なので、魔法なんか撃たせた日には自爆ダメージで死に戻りかねない。


「このゲームだと経験値の譲渡概念があるんだけど、あれはレベル30超えてからだからなぁ。ひたすら料理作ってもらうしか、現状としちゃ対処法がないんだよなぁ」

「面目ない……。せめて、おいしい料理で皆の労を労わせてもらうでありますよ……」

「サンシターの場合、ログイン頻度も問題だと思うけどね……。この後、大学のゼミのなんかあるんでしょ?」


 やや険のある声を上げるマコ。

 先日の女性との電話が、このゼミに関連のあることだと判明したため一応サンシターに対する疑惑は晴れているが、それでもまだ疑いを完全に晴らせずにいるらしい。

 そんなマコの様子に苦笑しながら、サンシターは申し訳なさそうに頭を下げる。


「重ね重ね申し訳ないでありますよ。自分も、そろそろ院試験などを考えないといけないので、教授の覚えを悪くするわけにもいかんのでありますよ」

「世知辛い話だな。っていうか、大学院に進むんだ」

「はいであります。自分、正直どこへ行ってもまともな職に就ける気がしないでありますから……。このまま大学の助教授にでもなろうかと……」


 やや影を背負いながら呟くサンシター。なんというか、若くして人生の重みに潰されそうな雰囲気である。

 そんなサンシターを気遣うように、努めて明るい声を上げるコータとレミ。


「だ、大丈夫ですよ! サンシターさんなら、立派な教授になれますって!」

「そうです! 私、サンシターさんのいる大学にマコちゃんと一緒に通いますから!」

「フフフ……ありがとうでありますよ」


 二人の優しさに一粒涙をこぼしながらも、サンシターは笑顔を取り戻す。


「さて、自分のことはさておき……。今回のギアクエスト、勝算はあるでありますか?」

「あるも何も、俺ら今10レベル超えだしなぁ。余裕っちゃ余裕だべ」


 リュージは腕を組みながら、鷹揚に頷く。

 現在のサンシターを除く異界探検隊のレベルは、リュージが14で、レミ以外が13、レミが12となっている。モンスターへの止めをさせるかどうかで経験値量に差が出た形だろう。現時点で最もキルカウンターを回しているリュージは軽く首を鳴らす。


「コカトリスも石化攻撃だけに注意すりゃ、あとはHPが多いだけの鶏だしな。勝つだけならラクショーラクショー」

「ずいぶん大見得切るが、本当に大丈夫なんだろうな……」


 リュージの大言に、不安そうな表情を見せるソフィア。

 腰に帯びた草剣竜のレイピアの柄を撫でながら、懸念を口にする。


「その石化攻撃……要するに、全身まひのようなものなのだろう? 回復手段がない現状では、即死に等しいんじゃないか?」

「一応、コカトリス幼生の石化は短時間で解けるものらしいけど……攻撃喰らったら、結局は即死するんだよね?」

「らしいわね。その代り、並みの雑魚モンスターの攻撃程度じゃ砕けないらしいけど……ボス戦じゃ、気休めにもならないわね」


 石化の効能を述べながら、マコは一つため息をつく。


「石化を解くための薬も、今のあたしらじゃ手が届かないし、石化防御のためのアクセサリーなんかもっと無理だしね……。気合で避けるしかないでしょ」

「避けられるかな……。注意する攻撃って、目からビームと、羽ばたきなんだよね?」

「おう。ビームは直撃で即、羽ばたきは一定時間受け続けると石化する。どっちもできれば受けたくねぇな」


 リュージは一つ頷きながら、バスタードソードを背負い直す。


「まあ、クエストへのチャレンジは何度でも可能だし、死に戻って失うものもない。死にながら覚えるってのも、悪くないんじゃないかね?」

「あたしは嫌よ。とっとと終わらせたいわ」


 グロックのスライドを動かし、弾を装填しながらマコが剣呑な眼差しでゲートを睨む。


「面倒事はさっさと終わらせるに限るんだから……。ビビってないで、行くわよ」

「ああ、待ってよマコちゃん!」


 ずんずん進むマコの背中を、レミが慌てて追いかける。

 サンシターの早退が気に入らないのかもしれない。まあ、どちらにせよギアクエストにサンシターは参加できないのでここで一度別れる必要はあるのだが。


「マコも落ち着かないねぇ」

「……まあ、仕方ないだろうさ。では、サンシターさん。また後日」

「ええ。ギアクエストの完了、無事に祈っているでありますよ」

「ありがとうございます。それじゃ!」


 申し訳なさそうな笑みを浮かべながらも、ログアウトするサンシター。

 イノセント・ワールドから一旦去った彼を見送った三人は、先にゲートの中へと進んでしまっているマコとレミを追いかける。


「そんじゃ、いきますかね」

「ああ。……しかし、本当に私たちだけでコカトリスを倒せるのか?」

「そうだよ、リュージ。せっかくのマルチなんだから、他の人とも協力しないの?」

「してもいいけど、できるだけ自分らで何とかしてみようぜ? せっかくの機会なんだしさ」


 リュージは笑いながら、ゲートの中へとさっさと入ってしまう。


「あ……」

「まったく……」


 彼の言葉にため息をつきながら、ソフィアは苦笑する。


「……まあ、私たちの今の実力がどこまで通じるのか試すのは……悪くないがな」

「……そうだね。どこまで行けるか、試してみたくはあるよね」


 コータも小さく笑いながら、リュージの後を追いかける。


「負けちゃったら、リュージに文句を言うということで」

「ああ、そうしよう。全部あいつのせいだとな」


 ソフィアはコータの言葉に同意しながら、ゲートの中に飛び込んでゆく。

 まばゆい光に視界を塞がれたのは一瞬。気が付けば、彼女の体はミッドガルドではない別のどこかへと飛ばされていた。




なお、大学でもおさんどん扱いの模様のサンシターであった。

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