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log52.ギルド・異界探検隊

 ―――だが、他に適任がいるかといえば、そんなわけもなく。

 ひとまず、リュージをギルドマスターに登録してギルドを立ち上げることとなった。

 システム上、一度ギルドを解散すると二十四時間の間、ギルドに入ることも立ち上げることも出来なくなるとのことだが、マスター権限の委譲であれば特定のアイテムがあれば可能らしいということで行われた措置だ。


「まあ、そのアイテムを入手するクエストが、確かプレイヤーソロでどっかのマルチボスを倒してこいって感じの奴だったから、実際に権限委譲が出来るようになるのはだいぶ先になると思うんだけれど」

「それは……仕方あるまい。で、名前なんだが」


 ソフィアはそこで一旦溜めをつくり、ゆっくりとリュージに問いかける。


「……お前は、どんな名前がいい?」

ソフィアと俺の愛の巣(ラブ・ケージ)

「はい、他に意見のある人ー」


 まったく予想を裏切ってくれないリュージを無視し、ソフィアは他のメンバーにも意見を募る。


「うーん……どうせだからなんとか探検隊、みたいな名前がいいなー。この世界のこと、隅々まで冒険してみたいよ!」


 開発者冥利につきそうなことを言いながら、コータが目を輝かせる。

 そんな彼に同意するように頷きながら、レミが小首を傾げた。


「でも、名前のかぶりとか大丈夫なのかな? プレイヤーネームだと、一応確認が入ったよね?」

「ギルド名も、プレイヤー名と同じように同名の登録は不可能であります。まあ、漢字で登録してしまえば同音異義語で登録できてしまうのでありますが……」

「世紀末的な命名が流行しそうね、それ」


 マコが一つため息をつき、それから自分の案を上げた。


「じゃあ、コータの案を入れて……異界探検隊、ってのはどうよ?」

「異界探検隊?」


 コータはマコの挙げた名前を繰り返し、それから嬉しそうに何度か頷き始めた。


「異界……探検……うん! いいよ、すごくいい!」

「マコちゃんマコちゃん、なにか意味があるの?」

「別に深い意味はないわよ。イノセント・ワールドを異界と捉え、そこを探検するメンバーって、それだけの意味よ」


 マコは軽く肩をすくめ、クルソルを弄り始める。


「軽く探検隊で、ギルド名の検索もしてみたけど……一応、異界の枕詞使ってるギルドはいないみたいだしね。短くて覚えやすいし、早い者勝ちだと思って」

「そっかー。私も、それで良いと思うよ!」

「良い名だと、自分も思うでありますよ」


 次々上がる賛成意見を聞き、ソフィアも満足げに頷く。


「私ももちろん賛成だ。……で? お前は?」

「ん? いんでないの? 気取った感じもしないし、わかりやすいし」


 リュージも同意するように頷きながら、後ろ頭に腕を組む。


「このゲームやってりゃ、その内他のギルドと同盟組むこともあるだろうしな。あんまりとんがった名前でなけりゃ、特に問題はねぇさ」

「だったら何故あんな名前をあげるんだお前は。……まあいい。とりあえず、ギルドの結成を頼む」

「ほいほーい」


 リュージはギルド開設書を取り出し、一番上に“異界探検隊”と記す。

 そしてそのすぐ下、ギルドマスターと書かれた部分に己の名前を記すとギルド開設書が淡く輝き始めた。


「……さて。後はこいつにみんなの名前を書いてもらうだけだな」

「……そういえば気になったんだけど。誰も名前を書かなかった場合ってどうなるの? そんときゃソロギルドが設立されるわけ?」

「一応、そうだったと思うぞ? まあ、ソロギルドとか、ソロプレイ以上にネタに溢れてんだけどな」

「まあ、どんだけ寂しい奴なのよって話よね……」


 マコはリュージから羊皮紙を受け取り、手早く自分の名前を記す。


「……ん。ところで、名前を書く順とか重要なのかしら?」

「んにゃ。前も話した気がするけど、システム上、ギルドの中の人員はギルドマスターかそうじゃないかでしかねぇからな。順番も位置も好きに書いても問題ねぇよ」

「あっそう? はい」

「ありがとう」


 次はコータが受け取り、マコの名前の下に自分の名前を書く。


「ゲームの中でとはいえ、こうして自分の名前を書いてなにかの組織に所属するって……なにかの血判状みたいだねー」

「もっと他に例えねぇのか……?」

「……私も同じこと考えちゃった」


 コータの例えに呆れるリュージであったが、レミも似たような思考回路の持ち主だったようだ。

 少し恥ずかしそうに縮こまりながら、自分の名前を書いているレミを見てサンシターは小さく微笑んだ。


「今の時代では、契約書類の類はほとんど電子書類でありますからなぁ。このような、紙媒体の契約書類は本当に貴重でありますよなぁ」


 サンシターも羊皮紙に自分の名前を記し、ソフィアへと手渡す。


「さあ、どうぞ」

「ありがとうございます」


 ソフィアは礼を言って羊皮紙を受け取り、手早く自分の名前を書いてしまう。


「……これでよし、と」


 リュージを筆頭に、その場にいる全員がこれで異界探検隊に所属したことになるはずだ。

 ソフィアはリュージに羊皮紙を返す。


「これでいいのだろう?」

「おう、ありがとうソフィたん。後は……」


 リュージは羊皮紙を受け取り、その末尾に一筆書き込む。


「……以上を定員としギルドを設立するものとする、と」

「そこまでしなければいけないのか……意外と面倒だな」


 リュージが最後に書き込んだ一文を見て、ソフィアが呟く。

 ゲーム的な話で言えば、こういう部分はスイッチ一つですませていい部分だろう。

 このゲーム、ワープのような機械的な部分は割りと徹底的にクルソル一つですませられるようになっている割には、こういう部分でアナクロな方法を取っていることが多い。

 そのことにソフィアが首をかしげていると、リュージは小さく苦笑して羊皮紙を懐へと仕舞いこんだ。


「まあ、これもいつものロールプレイの一環って奴なんだろうさ。ギルドの設立っていや、結構な大イベントだろ? 普通なら、一個か二個はクエストを消耗してもおかしくないくらいのさ」

「ああ……言われて見れば、確かにな」


 リュージの言葉に同意するソフィア。

 他のゲームで考えれば、確かにギルドの設立に関わるシステムをクエストの形でプレイヤーに教授するところだろう。

 だが、今回はリュージは何か特殊なクエストを消化したような気配はない。少なくとも、ゲームプレイ中はずっと皆と……もっと言えばソフィアと一緒にいた。


「こいつがもらえるのはフェンリルだけど、窓口にいってギルドを作りたいって言えば簡単に出てくるしな。そのあたりの手間を省いてるんだから、これくらいはしなさいよってことなのかもな」

「そこまですんなら、最後の部分も手間を省きなさいよ……」


 リュージの説明に呆れたような表情になりながらも、マコは腰に手を当てて周りを見る。


「さて、これであたしたちは晴れて、ギルド・異界探検隊になったわけなんだけど……」

「うん! そうだね!」

「さっそくあたしは別行動させてもらうわね」

「えっ」


 勢い良く頷いたコータは、その勢いを一息で削がれてしまった。

 突然の別行動宣言をしたマコは、悪びれる様子もなく後ろ頭を搔きながら理由を話す。


「いや、あたしまだ熟練度が心配で。もうちょっと郊外のゴブリン狩り続けたいのよ」

「あ……ああ、そういうことか。びっくりした」


 コータは驚きながらも納得し、何度か頷きながらリュージの方を窺う。


「そういうことなら、別に良いよねリュージ?」

「別に俺に窺いたてんでも、好きにすりゃ良いんじゃね? どうせしばらくはギアクエストに挑戦する予定はねぇし」

「……うん? なんでだ?」


 リュージの言葉に、ソフィアが怪訝な顔をする。

 もう既にレベル10になれるだけの経験値が溜まっていても、ギアクエストの挑戦しなかったのはマコが銃を入手するためであったはずだ。

 そうであれば、別にギルドハウス自体は後回しにして、マコの熟練度上げが終わったらすぐにギアクエストに取り掛かるべきだと思うのだが、リュージの口ぶりから察するにそうではないようだ。

 ソフィアの不審を受け、リュージは眉根を寄せながら、クルソルの掲示板を呼び出す。


「いやぁ、うっかりしてたんだけど……今やってるギアクエスト、ヒドラ幼生の討伐なんだよなぁ……。難易度がバカ高いので有名だから、できればこいつが流れた後に挑みたいんだよねぇ……」

「? それがギアクエストなら変更はないんじゃ……」

「んにゃ。ギアクエストは一定周期で内容が変わるんだよ。要するに、シーカーへの認定試験的なものだから、その時その時で現れる驚異的な魔物を討伐するって名目だったかね……? このギアクエストが、いわゆるマルチプレイの登竜門的なクエストもかねてっから、難易度も相応なんだけど、出てくるモンスターによって難易度に割とバラつきがあるんだよ」

「そうなんだ……それで、ヒドラ幼生ってそんなに強いの?」


 レミの疑問に答えたのはサンシターであった。


「話に聞いただけでありますが、ヒドラの首は九つあるため、九体のモンスターを同時に相手にするような労力を要するのだとか」

「え……ヒドラって、一匹のモンスターなんですよね?」

「ええ、その通りなのでありますが……この世界のヒドラの首は、一つ一つが別の特性を持っているため、対処法も別個に取らねばならないのでありますよ」

「ちなみに本家ヒドラはレアエネミーなんだけど、ヒドラ幼生は結構レベルの高いダンジョンでよく発見できます。幼生だけあって九つの首の特性は皆一緒なんだけど、結局ボスモンスター九体同時に相手にする労力に変わりはないんで、非常に厄介なモンスターなのです」

「それは確かに相手にしたくないな……」


 リュージの説明を聞き、ソフィアが軽く体を震わせる。

 多少はこのゲームに慣れてきたが、さすがに九体のボスモンスターを同時に相手にするのはごめんこうむりたい。勝てるビジョンがまったく思い浮かばない。


「では、いつごろ挑む? ギアを入手せねば、この先に進むことも叶わないのだろう?」

「調べた限りじゃ、あと二、三日でクエストが入れ替わるッぽいから、その間にギルドハウスその他を買っちまおう。目星もついてるしな」


 リュージはそう言い、顔を上げる。


「んじゃ、マコよ。また後でな」

「OK。変な場所じゃなきゃ、ギルドハウスに文句はないわ。適当に選んどいてね」


 マコはリュージの言葉を受け、そう言い残すとそのまま狩りへと出かけていった。

 その背中を見送り、リュージは一つ頷いて皆を導き始める。


「んじゃ、ギルドハウス候補に行きますかね。いくつかあるからなー」

「うむ。楽しみだな」

「だねー」

「どんな場所があるのかなー?」


 ソフィアたちは一つ頷き、リュージの背中を追いかける。

 どんなギルドハウスに巡り合えるのか、そのことに期待しながら。




なお、ヒドラの亜種にオロチというのがいて、そちらはキリ大陸のほうで見つかるらしい。

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