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log49.抜き差しならず、鞘も通り過ぎ

 ――二人の少女が、それぞれに抱く想いをよそに日はまためぐり、翌日。


「ッシャァー!! 黄金硫黄三個、コンプリートォー!!」

「「「イィエーイ!!」」」


 たった三個の黄金硫黄をスルト火山の天にも届けといわんばかりに掲げたマコと、彼女を囲って万歳したり飛び上がったりとそれぞれに喜びを表現する三人のコンパチ騎士の姿があった。

 被ってるヘルメットも鎧も、装備している剣まで皆一緒と極めて紛らわしいことこの上ない三人組が、カレンの言っていた心当たりであるのは言うまでもないことだろう。


「たった一時間! たった一時間で残り二つの黄金硫黄が集まるだなんて……! これを奇跡と言わずになんという!?」

「まさにミラクル! 今日のマコさんのドロップ運は急上昇ですな!」

「いつだってクエストの達成感というのはビクトリーですな!」

「オゥイエー! 黄金硫黄イェーイ!」

「後半もはやテンションが意味不明じゃねぇか」


 感激のあまり滂沱の涙を流すマコの周りで踊り狂う三人組みを見ながら、リュージは一つため息をついた。


「……お前らも相変わらずでなによりだよ、ABC」

「ハッ! リュージさんも相変わらずお元気なようで!」

「突然の引退とレベルリセットは何事かと思いましたが、まさか二次元じゃない嫁を連れてのご帰還とは!」

「憎いねぇ、コノコノ! 美男美女のお友達も一緒とかもはや勝ち組ですかコンチクショウが!」

「祝うか妬むかどっちかにしろよ」

「なんていうか、その、濃い人たちだね……」


 ハハハ、とコータは乾いた笑みを浮かべる。

 まあ、いかにも量産型騎士ですといわんばかりの三人組の騎士が、異様なテンションで踊り狂っていれば苦笑か失笑しか出てこないだろう。

 三人を連れて来たカレンも人選を誤ったと感じているのか、頭痛を抑えるように額を押さえる。


「あー……すまないね。頭数だけは揃うし、暇してるから連れて来たんだけど、初対面の人間にゃちときついよねこいつら……」

「そ、そんなことないよ!? ねぇ、ソフィアちゃん!」

「うむ。人数の必要な状況で、これ以上なくありがたい者たちだったと思うぞ。まあ、いささか騒がしいのは否定できないが」


 フォローしてくれるレミとソフィアの優しさに感謝しつつ、カレンはマコの肩をポンと軽く叩いた。


「なんにしろ、良かったねマコ。結構早く目的のアイテムが集まってさ」

「う、うう……! こんな騒がしい連中が三人やってきてもゴーレムの出現率があんまり上がらなかったときはどうしてくれようかと思ったけれど、よかったよぉ……!」

「なんと辛辣な……!」

「とはいえ、我々が戦力として有用かといわれると確かに!」

「正直、現在のレベルのリュージさんにすら勝てる気がしませんからなぁ」

「そこは胸を張れよレベル40オーバー。お前さんら、十分に玄人の領域だろうが」


 何故か自信なさげな騎士ABCに軽くツッコミを入れつつ、リュージはマコの方を窺った。


「んじゃ、後はそいつをブラック・スミスの所まで持っていけばクエスト完了なわけだ。今すぐいくか?」

「もちろん! ……といいたいけれど、何の御礼の約束もなしって言うのは、さすがにねぇ」


 正気に戻ったマコは黄金硫黄をインベントリに仕舞いつつ、腕を組んで小さく唸る。


「まあ、初心者脱出してないあたしらに出来ることなんざないけどさ……。こうも頼りっぱなしじゃさすがに居心地が悪いしね」

「そんなお気になさらず!」

「我々は我々による我々のための事柄によりお助けしているだけですからね!」

「美少女たちとのアドレス交換チャンス……! こうして明日を生きる希望を手に入れるのです……!」

「あんたたちはもう少し現実を見な」


 ゲスいといえばゲスいABCの願いをばっさり斬り捨てながら、カレンも悩むような表情で頭を搔いた。


「……んー、確かにマコの言うとおりだね。ここで貸しにしとくのもありかも知んないけど、そんなの覚えてられる自信ないしねぇ」

「やっぱ化石武器じゃね? 使わなくても金になるべ?」


 リュージがそういいながら化石武器を取り出して見せると、カレンは難しい顔で首を横に振った。


「いやぁー……。化石武器って案外売値がつかないからねぇ……。うちのギルドで使う奴もいないし、売れそうな商人にも心当たりないし……」

「あ、化石武器って売り物にならないんですか?」

「ああ、そうなんだよね、実は……。使ってみると案外強いって意見は聞くけどさ。それが装備できるくらいのレベルって、時期的には先を見据えた育成が必要になってくるんだよね」


 キャラの育成方針が概ね固まれば、必要な武器というのも見えてくるもの。

 そうなった段階においては、ほぼ完成された武器であるらしい化石武器よりは、もっと育成の自由度の高い武器が好まれるのだという。

 もちろん化石武器自体にも成長の余地はあるが、そのあたりはもはや趣味の領域なのだとか。


「あたしも持ってるっちゃ持ってるけどさ。今じゃ、装備飾り棚の肥やしにしかなってないよ」

「そうなんですか……。どうしようか、リュージ?」

「いらねえといわれたものを押し付けるのもどうかって話だわなぁ」


 残念そうに化石武器を仕舞うリュージ。

 だが、これではマコの言う御礼の当てがなくなってしまう。

 現状、カレンが満足できそうなものをリュージたちが持っているわけでもない。


「んー……」


 何かを考えるように唸っていたマコであるが、何かいたずらを思いついた子供のような表情でリュージの方を指差した。


「……じゃあ、一回。好きな時にリュージを貸し出せるサービスとかいかがかしら?」

「「っ!?」」


 マコの提案にカレンとソフィアはどきりと驚く。

 二人とも、表情こそ崩さなかったが明らかに驚いているのが見て取れた。

 リュージはそんな二人を横目に見つつ、マコにツッコミを入れる。


「人身売買するんじゃねぇよ。今の俺じゃ、カレンの狩りにだってついて行けねぇんだぞ?」

「あらー? レベルをリセットする前はそれなりの有名人じゃなかったのかしらー? ねえ?」


 マコがわざとらしく言いながらABCのほうへと水を向けると、彼らはノリノリで答えはじめた。


「そーりゃもう! リュージさんといえば傭兵業界にその人ありと言われたほどの逸材!」

「ひとたびイベントに参加すれば勢力図を一変し、ひとたびデュエル大会に飛び入り参加すれば上位陣をガタピシに崩す!」

「イノセント・ワールドの異端児といえばこの人! 人呼んでアサ――」

「ぬぅん!!」


 Cが何かを言い切る前に、リュージは取り出した化石武器で地面が凹むほどの勢いで彼の頭を叩き伏せる。

 スルト火山鉱山に岩の砕け散る轟音が響き、バラバラと小さな石が砕けた勢いで宙を舞う。

 深い沈黙がその場を支配する中、化石武器をドスンと地面に叩きつけたリュージは静かにABCへと告げた。


「しゃべりすぎは命に関わる。OK?」

「「「サーイエッサー!!!」」」

「復活早いね、相変わらず……」


 叩きつけられた次の瞬間には立ち上がっているCを見て呆れたようなため息をつきつつ、カレンはマコに笑顔を向けて応える。


「気持ちは嬉しいけれどね。リュウも言ってたけれど、レベルが低い内はあたいが連れまわしたってリュウは楽しくないだろうし……」

「あら。いつでもどこでもデートできる権利は不要かしら?」


 マコの露骨な一言にカレンは顔を引きつらせる。


「マコ……あまりいい加減なことを言うものじゃないだろう? リュージだって、いつでも都合がいいわけじゃないんだから……」

「いつもあんたのそばにいるわけじゃないしねぇ。このゲームだと、誰と会ってるんだかわからないわけだし」


 ソフィアが仲介に入るが、マコの余計な一言に凍りつき黙り込んでしまう。

 何ともいえない微妙な空気が流れる中、騎士ABCが口を開いた。


「まあ、実際問題、後で決めるってのもありでしょう?」

「後日菓子折りでも包んで持ってくれば、現実なら大抵許されますしな」

「今早計に謝礼を求めたり決めたりして、後でぎこちなくなるケースはよくある話。ここは一回別れまして、双方落ち着いて考えるべきでは?」

「む……案外冷静ね、あんたら」


 てっきり更なる混乱を招くかと思いきや、意外と大人な意見が飛び出してきた。

 マコはABCの言葉に一つ頷くと、カレンの方へと向き直った。


「……じゃあ、散々あれこれ言って申し訳ないんだけど、一端クエスト完了に行くことにするわね。今日のお礼に関してはまた後日ってことで」

「あ、ああ……。あたいは、それで構わないよ」


 カレンはぎこちなく頷きを返す。

 マコはカレンの瞳を見て、一つ頭を下げる。

 そうしてから皆のほうへ振り返って声を張り上げた。


「んじゃ、全速で戻るわよ! とっとと銃を手に入れて、こんな暑苦しいところからはおさらばよー!」

「「お、おー」」


 気の入らない声を返すコータとレミ。そして無言でついていくソフィアに欠伸を搔くリュージ。

 仲間たちを引き連れて、マコはスルト火山から去っていった。

 彼らの背中を見送った後、しばらく間をおいてからABCが口を開いた。


「……あれはレベル高いですねぇ」

「リュージさんの嫁って言うからそれなりを覚悟していましたが、正直予想をあっさり上回られましたよ」

「美人さんでスタイルよくて性格もよい。あんな宝石みたいな女の子が本当にいるなんて!」

「………」


 まるで茶化すようなABCの言葉に、カレンは何も返さずじっとしている。


「「「おや?」」」


 不審に思ったABCがそっと彼女の顔を覗き込んでみると、ちょっと紅くなっており何かを考えこんでいるのが窺える。

 先ほどマコが言っていた、いつでもデートのできる権利に心が揺れている……のかもしれない。

 ABCは悩む乙女のそばからそっとはなれ、顔を寄せ合う。


「カレンさんも意外と乗り気ですな。リュージさんとのデート権」

「一回デートした程度で揺らぐとも思えませんが、まあ大事ですよね」

「問題はあのリュージさんが今更カレンさんに揺らぐとも思えないってことですかねー」

「……っさいんだよ、あんたらは」


 外野の立場で好き勝手のたまうABCの頭に向かって、カレンは容赦なく弓を引く。


「「「アバーッ!?」」」


 三より遥かに多い鳴弦の数と共に、ABCの悲鳴がスルト火山の中に木霊した。






「確かに黄金硫黄、三個だね。じゃあ、約束の銃だよ」

「っしゃぁぁぁ!! ありがとう!」


 ブラック・スミスが差し出したグロックを受け取り、歓声を上げるマコ。

 黒々とした鉄の塊をなでてうっとりする彼女の喜びように、ブラック・スミスも悪い気はしないのか微笑を浮かべる。


「何か銃弾が入用になったら僕のところに来るといい。君は早くに黄金硫黄を持ってきてくれたし、何かしら融通を利かせてあげるよ」

「ホント!? やったー!」


 さらに銃弾の確保先まで手に入れたマコは、飛び上がりながら大喜びだ。

 普段の彼女からは想像もできない子供らしい喜び方を見て、リュージは苦笑する。


「あんな喜んじゃってまあ……。あとは、マコが銃のカテギアを取れるようにしてからギアクエストかね」

「いよいよだねー」

「うん。頑張ろうね、ソフィアちゃん!」


 レミが声をかけるが、ソフィアからの返事はない。

 そのことに首をかしげながらレミが振り返ると、ソフィアは上の空といった様子でリュージを見つめていた。


「……ソフィアちゃん?」

「………。……、ん!? な、なんだ?」


 再び声をかけられたソフィアは、数瞬の間の後ようやく返事を返す。

 レミは少しだけ考え、ソフィアに問いかけた。


「……さっきのマコちゃんが言ってたことが気になるの?」

「ん!? いや、その……!」


 レミの指摘にソフィアは慌てるが、すぐにため息を一つ吐いて正直に答えた。


「その……その通りで……。恥ずかしい話なんだが、どうしても気になって……」

「ふーん……」


 恥ずかしげに告白するソフィアにレミは一つ頷き。


「ねえ、リュージ君。カレンさん以外のフレンドとは、連絡取ったりしてるの?」

「ちょ!?」


 あっけらかんとした様子で、リュージに問いかける。

 ソフィアは慌てた様子でレミを止めようとするが、出てしまった声を止める方法はない。

 リュージは振り返り、不思議そうに首をかしげた。


「へ? いや、してねぇけど?」

「あ、そうなの? カレンさんとは結構仲がよさそうだから、良くメールとかしてるのかと思ったよ?」

「んにゃー。俺、身内以外とはあんまり連絡しなくてなぁー。フレとかしても、メール貰ってばっかりだわ」

「あ、そうなんだ」

「ああ。まあ、会ったら挨拶と世間話位するけどな」

「ふーん」


 レミは曖昧に頷くと、ソフィアのほうへと向き直りにっこり笑った。


「……だって、ソフィアちゃん」

「う、うむ……」


 レミってこんな強引な子だっただろうか、という言葉をかみ殺しながらも、ソフィアは彼女に感謝する。

 自身の不安が杞憂であったことを知ったソフィアの顔は、本人も知らぬ内に緩んでしまい。


「おろ? ソフィたんなんかご機嫌だね?」

「そ、そんなことあるかぁ!?」

「あべしっ!?」


 それを指摘してきたリュージを、思わず反射的に叩いてしまった。




なお、リュージはそんな性分であったため、フレでも仲がよいのとそうでもないのの落差が激しかった模様。

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