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log44.念願のドロップ

「セヤァァァァ!!」

―ウ゛ゥ゛ゥ゛……!?―


 鋭い刺穿が閃光のように、ゾルフォの胸を貫く。

 壁を蹴り、加速したソフィアはそのままゾルフォの背後に着地し血振りの動作をする。

 コータとリュージは次撃に備え武器を構えるが、それ以上刃を振るう必要はなくなった。

 ソフィアの一撃を喰らったゾルフォのHPは0となり、その瞳から光が失われたのだ。


―………―


 無言のまま、ゾルフォは岩と土の塊へと変貌してゆく。

 ガラガラと音を立てながら崩れてゆくゾルフォ。

 崩れ落ちたその体を見下ろして、コータがつまらなさそうに呟いた。


「レベル30だったからもっと手ごわいと思ってたのに……案外、あっけなかったね」

「レベル30っつっても通常モンスターだからな? 決してボスモンスターじゃないからな?」


 コータの物言いを聞き、さすがに顔を引きつらせるリュージ。恐れを知らぬというかなんというか。


「これがお前ボスだったら、こっちの攻撃が通るかどうかすら怪しいからな? 俺たちまだレベル9なんだからな?」

「しかもギアシステム解禁前のね。スキルすらない現状で、どうやってレベル30のボス倒せってのよ」

「いや、それはそうだけどさ。そのスキルすら持たないプレイヤーに、レベル30のモンスターが倒されるって、あっけなさ過ぎると思ってさ」

「今、私たちが手にしているのが分不相応な業物なのだろうさ」


 ゾルフォのあっけなさに不満をたれるコータに、ソフィアがうっとりとした表情でレイピアをなでる。


「偶然とはいえ、レアエネミーの素材を用いた武器を使っているんだ。しばらくは、そのあたりの雑魚など相手にもなるまいよ」

「そうかなー……」

「いやまあ、割とレベルがこけおどし的ってのには同意するけどな」


 なおも不満そうなコータに、リュージはため息を突きつつ同意してやる。


「モンスターとかがスキルを頻繁に使ってくるようなのは、レベルでいえば50超えたあたりからだからな。もちろん、一部モンスターやボスモンスターみたいな例外はいるがそうでない限りは体が動いて的確に攻撃を当てられりゃ、大体何とかなるのさ」

「んー……」

「まだ不満かね。この際、運営にも申し伝えるか?」

「いやそういう類の不満じゃないんだけど……しっくりこない、って感じ? やっぱりレベルが高いモンスターには強くあって欲しいっていうか……」


 コータは言いながら、少し寂しそうな眼差しをしてゾルフォの残骸に目をやる。


「レベル30程度は経験者の人たちからすれば雑魚かもしれないけどさ。僕たちにくらいは、脅威であってもいいと思うんだよね」

「相手するがわからすりゃそんなのごめんこうむるけどな。……まあ、言いたいことはわかる」


 ガリガリと頭を搔くリュージ。

 バスタードソードを仕舞い、彼はコータの隣に立つ。


「ぶっちゃけた話、イノセント・ワールドがどんだけよく出来たゲームだからっつってもキャラを動かしてんのは所詮AIだ。人工知能に生きた人間のようなアドリブが利かせられるわけがない以上、どうしたところで限界点は存在する。昨今のMMOじゃその限界点も見えねぇくらい高くなってるなんて聞くが、俺にゃそうは思えねぇな。優れたAIほど想定外の事態に弱い。本当の意味で機械が人間に勝利するにゃまだまだ時間が必要だろうさ」


 遠い目をしてゾルフォの残骸を見つめるリュージ。

 AIが機械制御である以上、どうしても存在する限界点。与えられたものを与えられた手段でしか行使できないモンスターたちとの戦いは、どうしてもルーチンワーク的になってしまいがちだ。

 そこに一抹の寂しさを覚えるのは、ゲームを楽しむ者にとっては憂鬱なのだろうか。或いは、希望なのだろうか。

 だがマコにとってはそんなことはどうでもいいのか、丸めた紙でリュージとコータの頭を引っぱたきながら、ゾルフォがドロップしたアイテムへと近づいてゆく。


「なに哲学語ってんだ男ども。あんたらのこだわりなんざ一ミリも興味ねーから、アイテム拾ってさっさと進むわよ」

「マコちゃん、バッサリだね……」


 あけすけな物言いをするマコに苦笑しつつ、レミもゾルフォの落としたアイテムを拾いに行く。

 しょんぼりと肩を落とす男たちを横目に眺めながらも、ソフィアもクルソルを取り出して時間を確認した。


「先のゾルフォとの戦いも、そう時間がかからなかったからな。この調子であれば、もっと深い場所までいけるだろう」

「……リュージの感じる寂しさが少しわかったよ」

「そうか。出来れば共感したくない類の寂しさだな」


 コータの言葉にリュージは一つ頷きながら、マコたちの方へと視線を向ける。


「んで、さっきのゴーレムはなに落としたよ? 岩石系ゴーレムだと、鉱石ドロップがおいしいんだが」

「残念ながら鉱石じゃないわね。こいつは……ゴーレム核とか言うアイテムよ。なにこれ」


 マコが手にした丸い水晶球のようなアイテムを見て、リュージは手の平を叩いて喜ぶ。


「拾いもんじゃねぇか! 文字通り、ゴーレム作成の際に必要なアイテムだぜそいつは。とりあえず持っとけ持っとけ。後で役に立つかも知れねぇからな」

「ああ、文字通りのアイテムなのね……。確かにゴーレムなら騎乗ペットとして作成するのもありだし、持ってて損は――」

「マ……マコちゃん!?」

「ごべっ!?」


 そういいながらゴーレム核をインベントリにしまいこんだマコに、レミが勢いよく体当たりをかました。

 いや、正確には両手を広げて飛びついただけだが、結果としてマコが頭を打つほどに倒れこんだのだから同じことだろう。

 目の中から星が飛び出すほどに頭を打ってしまったマコは、後頭部を撫でながら体を起こす。


「っだ、だだ……! レミ、アンタなにすんのよ!?」

「こ、これ! これぇ!!」


 マコはレミに噛み付くように吼えるが、レミはそれには構わず一つのアイテムを差し出す。

 おとなしいレミにしては珍しいことだ。彼女の様子に不審を覚えながら、マコは差し出されたアイテムを受け取った。


「一体何なのよ? ったくもぉ……」


 ため息を突きつつ、マコはゆっくりと手にしたアイテムの名前を読み上げる。


「………おうごん、いおう」

「あ、あー。なるほどなー」


 マコが読み上げた名前を聞いて、リュージが何故か手の平を打つ。


「例の黄金硫黄、モンスターからのドロップアイテムかー。言われて見りゃ、なんかさっきのゴーレム硫黄色だったな!」

「ゾルフォ……まさか、これって硫黄の外国語読みだったりして……?」

「それは知らないが、そうなると採掘ポイントは一切無視してモンスターだけ狩り続けるべきなのか?」

「そういうことだろうけど……」

「……っだぁー!!」


 マコは大声で叫びながら両手を振り上げ、何故かそのまま勢いよく仰向けにぶっ倒れた。


「ま、マコちゃん!?」

「さいっあく!! まさかのモンスタードロップとかぁー!!」

「え、え? 最悪、って……」

「むしろこれはいい結果じゃないの? だって、これ以上無理に鉱石を掘る必要はないわけだし……」


 ようやく手に入った黄金硫黄一個。これは大いなる前進である。

 そう考えているらしいレミとコータに、マコは起き上がりながら叫び返す。


「あんたたち、ここまで出てきたモンスターの数言って御覧なさいよ!!」

「え? さっきのゾルフォ一匹?」

「そうよ! 三十分は暗い鉱山を歩き続けてようやくゴーレムが一匹! そんなエンカ率の場所で、確実に出るかどうかわからないモンスター一匹をひたすら追っかけて後二つ黄金硫黄を手に入れろとかどうしろってのよぉー!!」


 そのまま頭を抱えて七転八倒し始めるマコを見て、二人はことの次第に気が付く。

 このスルト火山地下鉱山、鉱石を掘りやすいようにかモンスターのエンカウント率が異様なほどに低く設定されている。鉱石目当てであればこの上ない良物件であるが、そこに出現するモンスターを狙って狩るとなると、これはもう完全にアウトとしか言いようがない。

 コータはゆっくりと振り返り、顔を引きつらせながらリュージへと問う。


「リュ、リュージ? この鉱山に出てくるモンスターって……」

「俺は五匹くらい見たかなぁ、種類で言えば。種類が他のダンジョンとダブることはあると思うが、それでも十種類くらいは覚悟したほうがいいんじゃねぇの?」


 つまり低エンカウント率から十分の一を引き当てる必要があるわけだ。

 だが諦めるにはまだ早い。レミが縋るように別案を出した。


「じゃ、じゃあ、他のダンジョンは!? ゾルフォって、他にも見れたりは、しないかな!?」

「……私見だが可能性は低いんじゃないか? あのゾルフォ、明らかに戦闘に向くモンスターには見えない。でかい体も長い手足も、こちらの邪魔をするために用意されたんじゃないか? ここと同じような条件の、採掘場所に出現するならわかるんだが……」


 残念そうなソフィアの言葉に、リュージは無言で頷く。

 先ほどのコータの言葉ではないが、レベル30にしてはやや弱く感じたゾルフォも単なるお邪魔エネミーであるとするのであればその強さに納得であるわけで……一般ダンジョンでは出現しない可能性が高い。

 つまりブラック・スミスから銃を入手するクエストの攻略条件とは、採掘場所限定で出現すると思われるモンスター「ゾルフォ」から入手できるアイテム「黄金硫黄」を計3個入手すること、というわけだ。


「完全に運任せだなぁ、これ」

「ラッキーを期待するなら回数をこなすのが基本だが、今回はそれすらさせてもらえないぞ……」

「うぐぁー! ちくしょー!!」


 追い討ちをかけるようなリュージとソフィアの言葉に、マコは頭を掻き毟りながら立ち上がる。

 そのまま髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで掻き毟り、ひとまず気を落ち着けてから、鉱山の奥へとまっすぐに進み始める。

 ……荒い鼻息とガニマタを見るに、まだまだ落ち着けてはいないようだが。


「じゃあいいわよ、やったろうじゃないのよ! ようは三回連続でゾルフォを引きゃいいんでしょ!? こっちにゃ幸運の招き猫が二人もいるんだから楽勝よね!?」

「ま、マコちゃん待ってよぉ!」

「お、落ち着いてってマコちゃん! 招き猫って誰のことさ!?」


 慌ててマコを追いかけるコータとレミ。招き猫はあの二人のことだろう。

 リュージとソフィアもそれに倣いながら、難しい表情を作る。


「……っても、あいつらの幸運は基本的にあいつら向けのもんだしなぁ……」

「オカルトを完全に信じているほど、マコも耄碌していないだろう。いずれにせよ選択肢はないんだ。試行回数を増やすしかあるまい」

「だなぁ。これだけで一週間が消えたりしなきゃいいけど」


 肩をすくめるリュージの言葉に、ソフィアも無言で眉をひそめるが何か言うのは差し控える。

 変わりに小さなため息を突き、荒れる友人をなだめるべく少し駆け足でマコの背中を追いかけた。




なお、黄金硫黄は確定ドロップの模様。ヤッタネ。

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