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log42.スルト鉱山の採掘事情

なお、クエストに必要なアイテムはクエスト専用である場合と、通常のアイテムとして使える場合の二通りある模様。

「いきなりフレンドリファイアで殺されかけた俺に対して、何か一言」

「死ねばいいのに」

「いまだに殺意が消えておりませんがこれは何故?」

「本気で言っているのか、それ……?」


 何とか全員降り立つことの出来た鉱山入り口にて休憩を取ることしばし。

 洞窟の中は入り口の時点でかなり涼しく、冷たい飲み物を補給することですっかり熱にやられていたレミもすぐに元気を取り戻すことが出来た。


「んぐ……はぁ。ごめんね、皆……なんだか、足を引っ張っちゃったみたいで……」

「いや、気にするなレミ。さっきのは私が迂闊だったのもある」


 危うくマグマダイブしかけたレミに向かって、ソフィアは頭を下げた。


「意識が朦朧とした者が、あんな不安定な足場に着地できるわけがなかったな……。ロープを切るタイミングで、君の体を掴んでいるべきだった」

「ソフィアちゃんのせいじゃないよ……。こんなに熱いの駄目なんて私、自分でも知らなかったもん……」

「気温でいや、四十度オーバーだろうしなぁ。あいにくダメージがないんで、この熱を遮断する方法は……断熱性の高い素材で防具でも作るか?」

「それ密閉型じゃなきゃ意味がないでしょう。逆に暑苦しいわそんなもん」


 ズゴッと密閉コップの中の水を飲み干し、マコは一息ついて鉱山の奥の報を睨み付ける。


「さて、いよいよ鉱山なわけなんだけど……地下に行くのよね?」

「一応。地下を潜って、スルト火山に向かう感じだな。何で、結構な深度に潜ることになる」


 干し肉を噛み千切りながら、リュージは鉱山の奥の方を指差した。


「勾配は比較的緩やかで、途中に分岐路なんかはほとんどない。けどそいつは逆に言えば、モンスターと遭遇した際の逃げ道もないってことでもある」

「確かレベル30くらいだったっけ? 問題になるモンスターはいる?」

「いや、実はそんなに脅威でもなかったり。出てくるのはゴーレム系のモンスター。足は遅いんで、振り切るのは難しくない。鉱山全体のポップ率も悪いんで、一回の探索で二体目に遭遇するかどうかってとこだな」

「それなら、大丈夫かな……? 皆の武器は、攻撃が通るかな?」

「ゴーレムの種類によるけど、この辺のゴーレムに金属系はいなかったはずだから、大丈夫だったと思うぞ? 土岩系なら割合軽減装甲だったはずだし」

「そうでなくとも、足が遅いならさっさと通り抜けるべきか。さすがにレベル差が三倍では、倒すのも一苦労だろ」

「……ついでに適当な鉱石も掘っていくべきかしらね。ここまで来たんだし、ついでに」

「そうだねー。お金はどれだけあっても困らないしねー」


 一通り予定を定め、リュージたちは立ち上がる。

 コハクから購入しておいたランプとつるはしを取り出し、全員が手に持つ。

 右手につるはし、左手にランプを手に持ち、鉱山の奥を照らしながらマコがリュージへと問いかけた。


「……で、鉱石ってのは具体的にどうやって手に入れるのかしら?」

「道中に掘れる場所があったら説明するつもりだったんだけどなー……」


 マコに問われ、リュージは頭を掻きつつ付近の壁へと近づいてゆく。

 彼の手にしたランプが照らした壁の一部は、他のものと比べて色が異なっている。

 具体的に言えば、黒塗りの壁のど真ん中に灰色の岩がくっついているように見える。


「こんな入り口付近でも掘れる部分が出るもんなんだなぁー……」

「ああ、それが鉱石の取れる部分? それをつるはしで叩けばいいのかしら?」

「おう。つるはしか、ドリルだな。一応、アイテムの説明に鉱石取得可能って出る奴でなきゃ鉱石は出ないから、そこだけは注意な」


 言うと同時に、リュージはつるはしを横なぎに振るう。

 先端が灰色の岩石にぶつかった瞬間、カーンと甲高い音が響き岩石が砕けて鉱石が分離する。

 ころりと地面に転がった丸い鉱石をコータが手にとって見てみると“鉄鉱石”と視界の中に表示された。


「……鉄鉱石だって。これを鍛冶屋さんのところに持っていけば、品質がわかるんだよね?」

「おう。良質の鉱石が取れれば、なんか防具を作ってみるのもいいけど、ちょっと量が足りないかね」

「まだ灰色の部分が残っている、ということは何度か鉱石が掘れるということか?」


 一度砕いてもまだ残っている採掘ポイントを見て呟くソフィア。

 彼女の言葉に頷きながら、リュージはもう一度ツルハシを振るう。


「おう。大体一箇所で五回くらいまで、鉱石を掘る事ができるんだ。この採掘ポイントは、日によって場所が変わるんで、採掘効率も日によってまちまちなんだよな」

「色々とランダム要素が強すぎるでしょうこのゲーム……。今度は銅鉱石だし。何で鉄と銅が同じ場所から取れんのよ」

「知らねぇよ、運営に言え」


 渋面を作るマコにリュージも渋面で答える。

 まあ、この辺りはゲームであるゆえだろう。特定の場所でしか特定の鉱石が取れないとなると、悪質なプレイヤーによる居座り行為が発生してしまいそうであるし。

 と、今度はコータがツルハシを振り上げ、採掘ポイントの傍に近づく。


「ねえ、リュージ! 僕もやってみていいかな?」

「あ? 別にいいけど、変なもん掘り当てるなよ?」

「僕にそれ言われても困るよ……」


 コータは両手でツルハシを握り締め、勢いよく採掘ポイントに向かって振るう。


「ッセイ!!」


 カーンと甲高い音が鳴り響くと同時に、採掘ポイントが一気に砕け散る。


「は?」

「えっ」


 突然のことに硬直するコータとマコ。

 砕け散った採掘ポイントは消滅し、代わりに採掘ポイントがあった場所に何かが埋まっているのが見える。


「……あー」


 それに近づき、なにが埋まっているのか検分し終えたリュージは、いわく言いがたい表情で首を横に振った。


「……おめでとう。コータ君は化石兵器を掘り当てました」

「とてもおめでとうってテンションじゃないんだけれど……化石兵器って、なに?」


 硬直する二人に代わりレミが問いかけると、どんよりとした眼差しでリュージが化石兵器の説明を始める。


「簡単に言えば、大昔に作られた超強い武器。話によりゃ、世界を一変するだの、魔王を瞬殺するだのって言われてるんだが、当然化石になってるわけだから本来の性能の1%も出せないんだと。まあ、それでも相当強力で遺物兵装(アーティファクト)を手に入れるまでのつなぎにゃ十分なんだけど」

遺物兵装(アーティファクト)? まあ、それはともかく、強い武器なのか、それは」

「そりゃもちろん。こうした採掘ポイントを掘った時に、小数点以下の確率で出現する程度には強いぜ。装備するにゃ、今の俺たちじゃレベルもステも足りないんだが」

「まあ……そうだろうな」


 超低確率で手に入る強力な武器となれば、当然重さも相応のものになるだろう。

 現状の使い道としては、コハクを通じて売却し、資金にするくらいだろうか。


「形は剣っぽいからそう高値は付きそうにゃ見えねぇが、今の俺たちにゃ過ぎた武器だしな」

「いささかもったいない気もするが、持て余すのもあれだろうからな」

「二人も、それでいいよね」

「あ……うん。わかった」

「……ホントなんでこう、ぼろぼろおっかないものを引き当てるのかしらね、こいつらは……」


 ひとまず名称不明の化石武器を回収し、気を取り直したリュージたちは鉱山の奥へと足を進め始める。


「さーて、今日一日でどこまで潜れるかねぇ」

「二時間……いや、そろそろ一時間半か? それでどの程度いけるか、だな」

「……出現位置がランダムの鉱山の場合、ログイン地点固定のフラッグは意味がないのかしら?」

「あー、どうだったっけ? 俺は一日ごとに入りなおしたけど……」

「……普通に考えると、リセットじゃないかなぁ? 不思議のダンジョンシリーズでも、外に出ちゃうと基本入り直しだし」

「よねぇ。黄金硫黄がどの程度の深度で出てくるかわからないから、できればログアウトしても位置記憶して、同じ場所からスタートさせてもらえないかしら……」

「硫黄が出る位置までいけないと、困るよね……」


 ゆっくりとした勾配の坂を下る一行。今回の行軍での一番の懸念はやはり硫黄がどこで取れるかだろう。


「リュージ。硫黄みたいな、現実でも特殊な環境で取れるような鉱石も、やっぱり採掘ポイントから入手できるの?」

「いや、どうだったっけな。俺も適当に採掘ポイント掘ってただけだからその辺がよくわからねぇんだよな。硫黄ってのは、ブラック・スミスの家みてぇな場所で取れんのか?」

「さすがにあんな特殊すぎる場所では取れないわよ……。硫黄の元になる成分は硫化水素だから、毒性が強いの。普通なら、ガスマスクなしじゃいられないような場所で取れるものだから……」

「黄金硫黄とやらが、そうした環境で取れるのであれば、そんな感じの場所まで潜るしかないか……」

「場合によっては、お休みの日に四時間全部使って潜らないと駄目かもね……」

「一番いいのは、採掘ポイントでも黄金硫黄が取れることだけど……」


 レミの一言を最後に、全員が黙り込んでしまう。肝心の、黄金硫黄の入手法に関しては完全に手探りの状態だ。

 やはり、ここに来るまでに黄金硫黄の情報が手に入らなかったのが痛い。不精せずに、きっちり情報を集めてくるべきであったか。


「最悪、ジャッキーさん辺り頼れば黄金硫黄に関しても何かわかったかも知れねぇなぁ」

「かもね……。でも、なるべく頼りたくないってのが本音よね。やっぱりあの人は他人なわけだし……」

「そんな他人行儀になるべきじゃないのかもしれないけど、線引きは大事だよね」


 マコの言葉に、コータは一つ頷く。

 同じギルドでもなく、懇意にしているわけでもない。ジャッキー自身は気にしないかもしれないが、やはりあまり頼りきりになるべきではないだろう。

 これはゲームだ。別に楽をしたところで誰も怒らないが、楽をして楽しいわけでもない。

 やはりこういうクエストの類は、自分で苦労を重ねたほうが喜びもひとしおと言うものだ。


「……っし。うだうだ言っても始まらないし、こうなりゃこの鉱山掘りつくすつもりで、じゃんじゃん掘りまくってやろうじゃないの!」

「その意気だよ、マコちゃん!」

「それじゃあ、頑張ろうね!」


 気勢を上げるマコに答えるように、コータとレミも拳を握る。

 二人のオーという掛け声は、鉱山の奥へとゆっくり消えていった。




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