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log40.スルト火山

 岩石で覆われた岩山の群れから少し離れた場所に忽然と現れた活火山は、絶え間なく溶岩を吹き上げている。

 山頂から吹き上げた溶岩は、岩肌を滑り溶岩の川を作り出している。流れ落ちた溶岩の川は、麓に深く刻まれた渓谷の底にたまり、溶岩の湖が出来上がっていた。

 その、溶岩の湖のほとりに立ち熱気に晒されながら、マコは呆然とした表情で呟いた。


「……このゲーム始めて、こんな馬鹿げた光景始めてみたわ」

「初見だとびびるよなぁ。何しろ岩山を超えたらいきなり溶岩が溜まってる訳だし」


 しみじみと呟きながら、リュージは仲間たちの様子を窺う。

 コータとレミも、マコと似たり寄ったりの表情で溶岩の湖を見つめている。


「これは……」

「うわぁ……」

「ふむ……」


 対して、ソフィアは静かに溶岩の湖を観察していたかと思うと、視線を上げ活火山を見上げる。

 そしてぐるりと辺りを見回し、それからリュージへと問いかけた。


「……で、リュージよ。この火山、一体どこから侵入するんだ?」

「「「え?」」」


 ソフィアの指摘に、マコたちは慌てて火山の周りを確認する。

 火山の周囲を抉るように刻まれた渓谷は全て溶岩で覆われており、完全に火山を囲ってしまっているように見える。

 そして熱気の漂う溶岩の湖の上には、橋がかかっている様子はなかった。


「……ちょっとリュージ?」

「ちなみに見えない位置にも橋はかかっておりません」

「ちょ!? どうするのさ、リュージ!?」

「この火山に入るんじゃなかったの、リュージ君!?」


 大慌てでリュージの肩を掴み、がくがくと左右に揺さぶり始めるコータとレミ。

 二人にされるがままになりながら、リュージはこの火山について説明を始める。


「今から説明するから揺らすんじゃねぃ。この火山はスルト火山とか呼ばれてる山でな。山頂を目指して上る場合、空中を渡っていく方法が必須になるんだよ。ちなみにラスボスに挑む場合に選択肢の一つとして上がる攻略場所でもあるぞ」

「何故だ? 確かラスボスの魔王は別次元とやらにいるのだろう?」

「その別次元に、この火山の火口が繋がってんのよ。山頂付近のザコモンスターのレベルアベレージは80ちょい。ああ、ただ単に上っても次元の扉はひらかねぇよ? ここじゃない別の場所で特殊なアイテムが必要になるんで、実際にラスボスに会えるようになるのはもっと後だな」

「そんな豆知識どうでもいいよ! っていうかほぼラストダンジョンじゃん、どうしてここにきたの!?」


 珍しく荒っぽい口調のコータである。まあ、無為にラストダンジョンに連れて来られたとなれば、こうもなるだろうか。

 と、大荒れに荒れるコータの横で考え込んでいたマコが何かに気が付き顔を上げる。


「……ちょっと待って。あんた、山頂を目指す場合、って言ったわね?」

「おう」

「じゃあ逆に。地下を目指す場合はどうなんのよ」

「「え?」」

「さすがやね、マコ。序盤に来る場合は、地下を目指すのが正解なのだ」


 リュージはそういうと、溶岩湖の淵を指差した。

 湖、と何度か形容したが実際には逆さすり鉢状の渓谷の底のほうに溶岩が溜まっているので、溶岩の表面はリュージたちが立っている場所からそれなりに深い場所にある。

 そんな溶岩のたまった渓谷の内壁側に、よく見ると歩いていけそうな天然自然の足場が出来ているのが見える。


「あんな感じの足場がいくつかあって、それがスルト火山の地下鉱山に通じる洞窟に繋がってんのよ。どこに入るかで採取できる鉱石が変わるらしいんだけど、俺も当りにかんしちゃ詳しくないんだよなぁ」

「足場って……」


 コータはリュージから手を離し、溶岩湖に落下しないように慎重に渓谷の内壁を覗き込んでみる。

 コータが覗き込んだ場所から見える足場は、大体幅三十センチ程度。岩が削れてせり出しているかのような形で、なだらかな勾配と曲線を描きながら溶岩湖へと繋がっているように見える。

 ……ロッククライミングのように、手まで使わないで済むのが僥倖というべきなのだろうか。


「……落ちたら死ぬんじゃないの、これ」

「容赦なく死ぬな。なんで、ちゃんと死に旗(リスポンフラッグ)は持ってきてるぞ」

「ワージュンビイイネー」


 シーカー御用達の復帰ポインターを取り出して設置するリュージに、コータは棒読みで答える。

 つまり、何度か死ぬのが前提の行程というわけだ。

 鉱石一つ掘るのに命がけの職人もいるとリュージは言ったが、それとこれとは意味が違う気がする。


「ただまあ、危険冒すだけあってリターンはなかなかなんだぜ? モンスターのレベルは大体30前後だけど、ポップ率が低いんか、洞窟内じゃそんなに見かけないし。序盤の金稼ぎに通ってた時期もあるんだぞ。傭兵稼業より、石売るほうが儲かってなぁ……」


 言い訳ではないだろうが、リュージはそう言って渋面を作る。

 昔を懐かしんでいるのか、下に下りるのを渋っているコータに呆れているのかは窺えない。

 コータは泣き出しそうな表情でリュージを見上げ、懇願するような声色を上げる。


「ホントにここしかないの……? 正直、足滑らせて落ちそうでおっかないんだけど……」

「お前高いとこ駄目だっけ?」

「駄目って言うか、これは合わせ技的な……?」

「わかるような、わからんような。少なくとも、俺の知ってる火山はここだけだからなぁ。ああ、知ってるっていっても、石の分布をある程度って意味な?」

「他にも火山はあるけど、どんな石があるかはわからない、と」

「ああ。それでもよけりゃ、案内するが」


 リュージの言葉にマコは一つため息をつくと、乱暴に頭を掻き毟る。


「……だったらそっちは後でいいじゃない。今は目の前の火山から攻略していきましょう」

「うう……やっぱり、ここを降りるんだね……」

「致し方あるまい。レミも、いいな?」

「………うん」


 すっかり口数の減ってしまったレミが、ソフィアの言葉に小さく頷いた。

 悲壮感を漂わせた表情を浮かべている。彼女も、この断崖絶壁を降りていくのはいやなのだろう。最も、好き好んでこんなところを降りたがる人間もいないだろうが。

 マコは大きく深呼吸し、覚悟を完了させ咆哮を上げる。


「よっしゃぁ! 行くわよ、あんたたち! 今日中に黄金硫黄の一個くらいは拝んでくれるわよ!」

「「お、おー……」」

「何とも意気の上がらん……」

「紹介しといてなんだけど、こんなんで洞窟まで行けんのか不安だわ」


 リュージはため息一つ突きながら、まずは自分が手本を示すように近くにあった足場に足をかける。


「そんじゃ、いくぞー。しっかり着いてこいよー」

「ああ。マコたちは、ゆっくり着いてきてくれ」

「お、おう。わかったわよ」


 するすると降りていくリュージの後を、何ともなさそうについてゆくソフィア。

 どちらの足取りにも迷いはない。ソフィアは壁に手をついているが、リュージは手ぶらで先に進んでいる。慣れているとしても、驚くべき胆力だ。

 幅三十センチしかない足場に、一歩間違えば溶岩の中にまっさかさまのロケーション。本当に死ぬことはないと分かってはいても、高さと熱さのダブルパンチで精神的に参ってしまっているマコたちは恐ろしいものを見る目でリュージの背中を見つめた。


「……相変わらず、心臓に毛が生えたような男ね……」

「だね……」


 そんな二人の呟きが聞こえたわけではないだろうが、先を進んでいたリュージがくるりと背後へと振り返った。


「おーい。いつまでもそんなとこでヘタってないで、さっさと降りてこーい」

「わかってるわよ!」

「さらに振り向くんだ……」


 大きく行動が制限されているはずなのだが、リュージはなんということもなくこちらに振り返って見せている。どういうバランス感覚をしているのだろうか。

 だが、このままだと置いていかれてしまうのも事実。マコはもう一度深呼吸すると足場へと足を下ろし始める。


「スゥー、ハァー……! よ、し……! 行くわよ!」

「マコちゃん……!」

「……!」


 慎重に壁に両手をつきながら、狭い足場を進み始めるマコ。

 ゆっくりと、慎重に。足を上げないよう、すり足のような歩行の仕方で下へと降りてゆくマコ。

 そんなマコの後を追うように、コータとレミも足場へと進み始める。


「よ、よし……! レミちゃん、僕の背中を……!」

「う、うん……!」


 マコと同じように、壁に両手をつきながら進むコータ。マコと比べ、しっかりとした足取りで彼は足場を進み始める。

 レミは前に立つコータの背中に己の体を預け、ぴったりとくっつくような形で彼の後を追う。ギュッと目を閉じたまま足場を進む彼女の姿は、酷く危なっかしく見える。

 そろりそろりと言った様子で足場を進む仲間たちを下のほうから見上げるリュージは、唸りながら呟いた。


「うーむ。あいつらにゃ、さすがにここはきつかったかね? 俺は割りと平気なんだけど」

「お前だけだろうそれは……とはいえ、ここ以外に今から行くのも時間がかかるのだろう?」


 片手を壁について体を支えるソフィアの言葉に、リュージは一つ頷く。


「ああ。位置がわかるのだと、山を二つ三つ越えるだの、ここの反対側の場所にあるだのだからなぁ。黄金硫黄とやらがどういうのかわからないから、なるべく戦闘は避けたいしねぇ」

「それは同意だな。ここにあると決まったわけでもないが」

「そこが痛いとこやね」


 リュージは進路へと向き直り、先を進み始める。

 顔にかすかに浮かぶ表情は、笑顔だ。


「まあ、そういうのを探すのも楽しいもんだよ。おっかなびっくり前に進んでみるのだって、結局んところは楽しいからだろうし」

「皆が皆、お前のように楽観的というわけではないだろう」


 呆れたような呟きをリュージの背中に投げかけながらも、ソフィアは小さな微笑を浮かべる。


「……だが、悪くはないな。こういうのも」

「でしょー?」

「前を向かんか、前を」


 得意げに振り返るリュージの額に、ソフィアはぺちんと平手を食らわせてやった。




なお、火に対する耐性を上げられれば、溶岩の中も泳げるようになる模様。

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