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log39.良い石を求めて

 ブラック・スミスからの依頼を受領し終え、翌日。

 リュージたちはニダベリルにある軽食屋で食事を取りながら、今日の予定を立てていた。


「ムグッ。……で、今日はどうするよ?」

「決まってるでしょ。黄金硫黄を掘りに行くのよ」


 固焼きパンにトカゲの肉を挟んだサンドイッチを頬張りながら、マコは力強く言い切った。


「少なくとも今日中には掘り当ててやる……! つるはしは人数分あるわよね!?」

「いや、あるにはあるが。金鉱を掘り当てるんじゃないから、いきなりつるはしも何もないだろう……」


 ここまで来れば後は目標まで目の前。……ではあるのだが、マコの興奮度合いが高すぎて、ソフィアは若干引いている。

 何故にここまで、とソフィアはレミの方を窺うが、レミも詳しいことがわからないのか困惑した様子で首を横に振っている。

 まあ、調子が悪いわけではなさそうなので問題はないのだが。


「硫黄って、金を掘るみたいに掘れたっけ?」

「日本じゃ、火山の表面で取れるとか聞いたことあっけど、この世界じゃどうだろうなー」


 リュージとコータはマコのテンションの高さは気にならないのか、のんびりサンドイッチを頬張っている。


「一応、昨日ソフィたんが言ったみたいな装備はいらないみたいだ。火山に入る分にゃ、今ある装備で十分みたいだ」

「ああ、やっぱり? 僕も掲示板は覗いてたんだけど、いまいち黄金硫黄に関して情報が集まらないんだよねー。やっぱり皆興味ないのかな?」

「今はマンスリーイベントやってるしな。どこ覗いても王冠の話題で持ちきりだ」

「掲示板……そういえば、そんなものもあったな」


 リュージの言葉に、ソフィアは今思い出したかのように、クルソルを弄り始める。

 イノセント・ワールドで覗ける掲示板は、現実のそれと遜色はない。この辺りは、クルソルという形で現実のスマートフォンなどをインターフェイスとして導入できていることでの恩恵だろうか。

 今発生しているマンスリーイベントで話題持ちきりの掲示板を見てため息をつきつつ、ソフィアはクルソルから顔を上げる。


「……情報がつかまらないと、意味はないか。黄金硫黄についてリュージは何かわかるか?」

「黄金ってくらいだから金ぴかなんじゃね? レア度は多分星5くらいだろ」

「大雑把だな……。マコは何か掴んでいるか?」

「とりあえず蒸気っぽいのが吹き上げている辺りにあるんじゃない? きっと腐乱卵くさい場所が怪しいわよ」

「……マコもノープランか。まあ、適当に山に入ってまずは私たちがどの程度歩けるか確認するのが先決だろうなぁ」


 何も考えていない仲間たちの頼もしい言葉を前に、ソフィアは遠い眼差しをしながら草剣竜のレイピアを撫でる。

 新しい武器の試し斬りと、本当にこの武器がニダベリルのモンスターたちに通用するのかどうか。

 最低Lv15のニダベリルのモンスターたちに、Lv10になっていない自分たちがどれだけ通用するのか。

 ソフィアは知らぬうちににやりと笑っていた。新しい武器を振るうことを考えていると、自然と気分が高揚しているのに気が付く。


「……いずれにせよ、山に行ってみようじゃないか。案外、石掘りのNPCがいて、硫黄に関する情報も得られるかもしれないぞ?」

「そ、ソフィアちゃん……ちょっと怖いよ?」

「レイピア撫でながら笑うんじゃないわよ」

「ちょっとしたホラーだね……」

「フライニングなソフィたんもステキ!」

「……やかましい」


 仲間たちからの指摘を受け、ソフィアは仏頂面になってしまう。

 やや頬が赤いのは、無自覚な部分を指摘されたせいで照れているからだろう。


「ふふふ、黒歴史っぽい何かを指摘される羞恥心もまた……明日は我が身かも。まあ、それはそれとしてソフィたんの言うとおりだべや。おなか一杯になったら試しにニダベリルの入り口辺りにいくべ」

「そうだね。もうすぐレベルも10だし……。ついでにギアクエストも受けられるようにしちゃおうか」

「このクエスト終わったら、そのままギアクエストだね!」

「あたしは銃がメインで欲しいから、もう少し時間がかかるけどね」

「むー……」


 サンドイッチを食べ終わった一行は、立ち上がってニダベリルの後方に座す山のほうへと向かって歩き出す。

 一人むくれるソフィアはレイピアを腰に納めなおしながら、頬を膨らませながらリュージたちの背中を追いかけた。






 そして山の中での初エンカウント。


「セイヤァー!!」


 満面の笑みのソフィアは、全力でリザードマンの首をレイピアで跳ね飛ばしていた。

 エンカウントしたのは、ネイキッド・リザードマン。その名の通り、トカゲがただ直立しただけの、トカゲ人間モドキだ。

 しかしレベルは15。装甲の値も劣鋼装備程度であれば容易くはじき返す数字だが、草剣竜装備は難なくリザードマンの鱗を斬り裂き、骨まで断ち切っていた。


「モンスター斬り倒して満面の笑みよ、アンタのハニー」

「今日のソフィたんはバイオレンスでステキー!」

「ぶれないわね」


 変わらぬ様子のリュージを前にため息をつきながら、マコは最近手に入れた魔法であるアイス・バレットを試していた。

 小さな氷の塊を弾丸のように発射する魔法で、ミッドガルドの本屋でも手に入る基本的な魔道書で取得したものだ。ファイアボールと比べると威力と範囲で劣るものの、消費魔力と攻撃サイクルで圧倒的に勝り、道中のザコに対する牽制と援護攻撃に有用な感じである。

 接近するリザードマンをこいつでちくちくいじめながら、ソフィアは恨めしげにニダベリルの山々を睨み上げる。


「にしても、憎らしいくらいに高いわね……。接近してみると、その大きさがよく分かるわ……」

「これでも一応見た目だけで、上るだけなら十五分くらいらしいぞ? メリットがほとんどないんで、物好きだけらしいけどな。そういうのは」

「登山家の皆さんも大満足……なのかな?」

「どうだろ。あまり早く着きすぎるのも考え物じゃないかな?」


 リュージたちもリザードマンを倒しつつ、ニダベリルの山々を見上げる。

 ニダベリルの山々……単に火山とか、霊峰などと呼ばれ、固有の名前を持たないこの場所の、ふもとにリュージたちは立っている。

 彼らが見上げるその頂は、雲を貫き天井遥かに聳え立っている。当然の話であるが、山頂の様子をここから窺うことはできない。

 上を見上げることに疲れたコータとレミは、視線を下へと下ろしてゆく。


「……でも、僕たちの目的は硫黄だからねー」

「上を目指す必要はないよね」


 視線を下ろし、岩肌を剥き出しにしている山々の斜面を見てゆく。

 草木も生えない岩肌には、道のようなものが形成されておりその上をリザードマンや巨大な芋虫のようなモンスターたちが闊歩し、その道のいくつかにはぽっかりと洞窟のような穴が開いている。

 ここに来る途中で出会った穴掘りドワーフに軽く話を聞いたのだが、ニダベリルの山々は元々は鉱山でありたくさんの鉱石や宝石、貴金属の原石などを掘り起こしていたのだが魔王による侵攻が始まって以来鉱山の中からモンスターが湧き出すようになってしまい、現在はほとんどの鉱山穴が閉まってしまい、街に程近い鉱山穴で何とか掘削作業を行っている、というような状況らしい。

 最も、魔王の侵攻が始まってから急速に魔法技術が発達したり、キリ大陸との交易などが活性化したため資材そのものに不自由はしていないらしい。リュージたちのようなプレイヤー(シーカー)たちが、希少な鉱石を代わりに持ってきてくれることもあるという。

 今回リュージたちが目的とするのは、この鉱山のほうだ。


「硫黄……なら当然活火山の中に入る必要があるよね?」

「ニダベリルの山ってのは、単なる岩山も活火山も休火山もあるからなー。見分け方は街の中から煙が吹いてるかどうかで判断すんだけど、今回は前に俺が行ったことのある活火山に行きますかね」

「こういうと基本と便利よね、経験者って」

「あまり便利屋扱いしちゃ駄目だよマコちゃん?」

「慣れてっから大丈夫だよ。傭兵稼業なんざ、便利屋となんも変わらんし」


 リュージは呟きながら、いつものように仲間たちの指針を取る。

 ふもとにある整備された道を歩きながら、リュージはニダベリルの山々と街との間に横たわる渓谷に視線をやる。


「しかしまあ、ニダベリルの山ん中に入るなんざいつ以来かねぇ。序盤に何度か来て……それで終わりだったかね」

「あれ? そうなんだ。てっきりリュージのことだからひたすら武器を使い潰してしょっちゅうエンジさんのお世話になってるものかと」

「相変わらずさらりと毒を含むねお前」


 さらりと失礼なことを口走るコータに渋面を見せながら、リュージは一つため息をつく。


「……武器にこだわりは持たなかったからなぁ。いろんな武器を長い間試していたのもあるし、大体はCNカンパニーみたいな商業ギルドから買ってたんだよ、収入が安定してからはな。自分で鉱石掘って集めるよりずっと早いってのもあったしな」

「やっぱり時間かかるんだ?」

「ああ。鉱石につるはし突き立てりゃいろんな鉱石は取れるんだけど、その選別がなぁ。一応鉱石にも質があって、良質な鉱石であるほど出来上がるアイテムの質が高くなるんだが、掘った時点じゃ鉱石の質はわからねぇんだよ。鑑定眼(エキスパ・アイ)ってスキルがあれば、その場で判断可能なんだけど基本スキルで結構なSPが必要になるからなー」

「なるほど。良質な鉱石の選定にかかる時間と、良質な武器を入手する手間。その天秤をかけて、お前の場合は鉱石の方が面倒だと考えたわけか」

「そゆこと。良質な鉱石が出る確率自体は悪くないらしいんだけど、傭兵稼業の儲けもそこそこ安定するようになったしな」


 イノセント・ワールドを股にかける傭兵として活動していた時代を思い出したのか、リュージは懐かしそうに目を細めた。


「ここで掘れる通常鉱石より、倒したモンスターから入手できるレア素材の方が、基本攻撃力に高い倍率がかかるって知ってから、モンスター討伐系の依頼ばっかり率先して受けたっけかなぁ。なかなか思うような素材は手に入らなかったけど、あれはあれで楽しかったなぁ」

「む? モンスターのレア素材には基本攻撃力に高い倍率がかかるようになってるのか?」

「その通り。ソフィたんも気づいてるっしょ? 草剣竜装備、重さの割にゃ攻撃力高いってこと」

「言われてみれば確かに」


 ソフィアは納得したように頷き、レイピアの柄尻を撫でる。このレイピアの重さの程度は“Lv5程度”となっている。初期も初期、最序盤から装備可能な割に攻撃力はLv15リザードマンの鱗を紙のように斬り裂くレベル。おそらく、ディノレックスとも容易に戦えるようになっているはずだ。

 鋼より軽いのに、鋼を上回る攻撃力を有する草剣竜装備。武器の“重さ”は攻撃力の基準となるべき数字。八つ星素材を使ったからと言って、この軽さでこの攻撃力はおかしいはずだ。


「レアモンスターの素材ってのは、そのレア度とモンスターの種類に応じて、完成した武器の基本攻撃力に倍率で補正がかかるようになってるのさ。基本攻撃力の値は“重さ”で決まり、武器にかかる補正は“素材のレア度”で決まる。往々にして高いレア度の素材の倍率は狂った数字と言われてるから、重い素材より希少な素材が求められるのさ。もちろん、レア鉱石ってのもあるけどね」

「なるほど……それなら、鉱石を掘るよりはモンスターを狩り倒した方が、効率がよさそうだな」


 納得したようにソフィアは頷く。淡々と鉱石を掘り続けるより、モンスターを追いかけた方が楽しいというのもあるだろう。

 随分昔に、モンスターの素材を集めて武器を作ってゆくアクションゲームがあったと聞くが、丁度そんな感じなのだろうか。

 そんな益体もないことを考えていると、リュージが足を止める。


「だから、こうした山の中に入って鉱石を集めるってのは……大抵クエストのアイテム集めだったりするんだよねぇ」

「ん? ……なんだあれは」


 そうしてリュージが見つめる方にそびえる火山は、先ほどまでの岩山とは様相が一変していた。

 だいぶニダベリルの街から離れた場所に立っている火山からは、絶えず溶岩が噴き出し、川を為し、湖を作っている。


「だもんで、石ころ一つに命がけなんだと。知り合いの刀鍛冶はそう言ってたぜ?」


 見たまま、まさに活火山。地獄のような熱気を放つあの火山こそ、リュージが目指す場所であった。




なお、高レベルになればなるほど、武器の攻撃力よりも成長したスキルによる補正倍率の方が重要になってくる模様。

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