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log38.ブラック・スミスの頼みごと

「……にしても、よくわかったねマコちゃん」

「ん? なにがよ?」

「キーワード。ブラックさんの研究題材である黒色火薬だなんて、どうやって気が付いたの?」


 ブラックの研究施設となる地下階へと案内されている途中、レミはマコに近づき小さく問いかける。

 前を行くブラックの背中を見つめながら、レミは小さく首をかしげた。


「私、ぜんぜんわからなかったよ。何か、ヒントがあったの?」

「ヒントはさっき言ったとおり。黒色火薬の原料になるものが、部屋の中にごろごろしてたしね」


 マコは軽く、なんと言うこともないように肩をすくめて見せる。


「考えてみれば露骨よね。硫黄のにおいも、木炭を焼く窯も、土の中に混ざる硝石も……ゲームであるなら再現する必要はないもの。知識として知っていれば、答えとして導き出せる……言ってみれば、運営側の用意したルートってわけよ。特に硫黄のにおいは、一番のヒントね。火山の近くで卵の腐敗臭って言えば、まず硫黄だし」

「な、なるほど……!」


 マコの解説にレミは感心したように頷く。

 私ももっと細かく気付けるようにならないと!などと呟く彼女の背中を見つめながら、リュージはコソリと呟いた。


「……つってもまあ、現代に黒色火薬の作り方知ってる奴がどれだけいるって話だよな……」

「原料があり、知識を知っていても正答を導き出すのにはひらめきがいるだろうな……そこはマコの手腕か」

「だね」


 呆れるリュージの隣では、ソフィアが感心したように頷いている。

 コータも同意するように頷き、それから一つ悔しそうにため息をついた。


「うらやましいよ……リュージもだけど。僕にはそういうところ一個もないからなぁ」

「いや、お前はそのままでいいよ。むしろそのままでいろ」


 思い悩むコータに、とんでもないというようにリュージは首を横に振ってみせる。


「器用万能型のお前がこれ以上何か身につけてみろ。天地がひっくり返る騒ぎになるわ」

「いや、リュージ。それは言いすぎじゃ……」


 リュージの言葉に、コータは困惑したようだ。

 だが、それ以上の抗弁はどちらにも許されなかった。


「さて、ここが僕の研究室だ」

「ここが……」


 ブラックの研究室に、いつの間にか到着していたからだ。

 表の廃屋に似つかわしくない、分厚い金属扉。開きっぱなしのそれの向こう側には火薬を精錬するための器具が所狭しと並んでいる。マコが指摘した、硫黄のにおいを噴出す謎の機械も存在している。地面に無造作に突き刺さっているところを見るに、どうもここが硫黄の匂いが噴出す特殊な場所であるようだが。

 ……そして七色に染め上げられた火薬と思しき物がつまった試験管が壁一面に並べられていた。


「うわぁ……!」

「……なにあれ?」


 中に入り、カラフルな火薬に歓声を上げるレミと、胡乱げな眼差しをするマコ。

 装置から吹き上がっている硫黄のにおいを止めながら、ブラックはマコの質問に答えた。


「見ての通り、僕の研究の一環である“七色火薬”だよ。火薬に魔法を載せて、引火した時に固有の効果が発揮されるようにしているのさ。青なら氷、緑なら風といった感じにね」

「そういやNGの奴、火薬を暗器代わりに仕込んでる割に、多様な属性を扱ってたような」

「……色で効果がわかるなら、この場合の黒はどうなる?」

「黒も正規の黒色火薬ではないからね。この場合は、闇を辺りに撒き散らすよ」

「なるほど。では、赤が通常の火薬のように炎をばら撒く感じか」


 生成方法がリアルな割りに、研究内容はファンタジーであった。

 まあ、そこはゲームであるが故だろう。とりあえず自分を納得させると、マコはブラックへと向き直った。


「改めて自己紹介しておくわね。私はマコ。で、後ろの連中が愉快な仲間たちよ」

「雑多な纏め方だな、オイ」

「ご丁寧にどうも。僕はブラック・スミス。火薬研究者の一人だよ」


 リュージの抗議は無視してブラックはマコと握手を交わし、一つ頷いた。


「さて、君の要望は聞いている。確か銃が欲しいんだったね?」

「ええ。それでNGにあなたを紹介されたわけだけれど……あなた、火薬研究者よね? 銃も取り扱っているのかしら?」

「あいにく専門ではないね。簡単な整備ならできるけれど」


 ブラックはそう答え、首を横に振る。

 なら何故紹介した、と露骨に顔に出るマコを見てブラックは苦笑した。


「……NGがここを紹介したのは、僕の使わない銃が目当てだろう。上で言ったように、ここで取り扱う品の中には銃も含まれている」

「そういえば……でも、専門ではないのよね?」

「ああ、そうだよ。専門ではないが、銃は手に入る。僕の火薬を求めてやってきたガンスミスが、試供品を代金代わりにおいていくのさ」


 ブラックはそう言いながら、呆れたようなため息を突く。


「呆れた話だけどね。自分が作る銃が値千金だと思い込んでいるらしい。実費を求めない僕も悪いといえば悪いが、それにしても自惚れた話だと思わないかい?」

「確かに。物々交換ほど割に合わない話もないわよね」


 マコはわらしべ長者の話を思い出しながら、ブラックに同意する。

 あの話はわら一本から億万長者になりあがるという理不尽の極みのような話だが、ならば火薬と銃が釣り合うのかといわれれば疑問は残る。

 まあ、話の本題はそこではない。マコは素早く話を切り上げるため、口を開いた。


「……でまあ、あなたはその銃に適当な値をつけて販売してるというわけね」

「ああ。場所が場所だけになかなか売れないけれどね」


 ブラックはぼやきつつ、机の上に置かれた銃を一丁取り上げてみせる。


「これがそのうちの一丁だ。見てみるかい?」

「……失礼するわね」


 マコはごくりと唾を飲み込みながら、ブラックの手から銃を受け取る。

 ブラックが差し出した銃は、いわゆる拳銃と呼ばれる形のものだ。

 マコが握るといささか大きいが、成人男性が握るとちょうどいいくらいの大きさか。オートマチックタイプの、特徴的なスライドが上部についている。映画や漫画なんかでも、割とよく見る形をしていた。


「グロッグ、とか呼んでいたかな、製作者は。品としては悪くないと思うけど、いささか重い気がするよ」

「……そうね。まあ、このくらいは範疇の内でしょう」


 スライドの具合や照準が合うかどうかを軽く確認しながら、マコは小さくため息をつく。

 こっそり近づいたレミが、銃の具合を聞いてみた。


「ど、どうマコちゃん……?」

「……サバゲ用のレーザーガンと比べらんないわね」


 レミに返しながら、マコは微笑んだ。


「……想像していた以上にいいわ。素敵」

「そ、そうなんだ……」


 マコの意外な一面に遭遇し、レミは目を白黒させながら頷いた。

 どうやらマコはガンマニアな面をお持ちのようだ。

 うっとりとグロッグを撫でるマコを見て肩をすくめながら、ブラックは口を開いた。


「……どうやら気に入ったようだね」

「ええ……けれど」

「その通り。ギアを取得していない君に、それを譲るわけにはいかない」


 ブラックはあっさりそう言って、マコに手を差し伸ばす。

 その意味を察し、マコは後ろ髪を引かれながらも手の中にあるグロッグをブラックに返した。

 グロッグは受け取ったグロッグを机の上に無造作に投げ置きながら、マコへと向き直る。


「あ、ちょ……危ないわね」

「弾丸は入っていないから問題ないよ。それに、おなじものなら腐るほどある。一丁くらいなら譲ってもいいが……さすがにただというのは虫が良すぎる話だね」

「そうね。私としても気が引けるわ」

「うそつけよおい。ただだったら根こそぎ毟る気だろ」

「黙っておけリュージ。後のお仕置きが減るぞ」

「お仕置きは決定なんだ……」

「………」


 外野の茶々を聞き流しながら、マコはブラックの次の言葉を待つ。

 ブラックはブラックで、リュージたちの発言が聞こえていないかのように次の言葉を口にする。


「物々交換で得たものだからというわけではないけれど……そうだね。君には僕の研究に必要な材料を持ってきてもらいたいね」

「材料……ね。必要なのは何かしら?」


 マコの言葉にやる気を感じたのか、ブラックは嬉しそうに笑う。


「そうだね……硝石のストックは十分だし、木炭も余っているくらいだ。ここはやはり、硫黄を取ってきてもらおうか」

「硫黄ね。ちょうど傍に火山もある。そう手間取りそうでなくて助かるわ」


 ブラックが出した御題に、満足そうに頷くマコ。

 だが、そこでリュージが首を突っ込んできた。

 いつの間にかマコのそばまでやって来ていた彼は、ブラックを見下ろしながら問いかける。


「硫黄とは言うが、ニダベリル付近の火山にゃ、それこそごまんと眠っちゃいねぇか? どれを採ってきたらいいんだ?」

「え? ちょっと?」

「おや。君は硫黄に詳しいのかい?」

「いんや。元々の職業柄、そういうのを小耳に挟んだことがあるだけだ」


 リュージの問いに目を丸くしながら、ブラックは考え出す。


「ふむ……まあ、指定させてもらえるのならありがたいね。では“黄金硫黄”というのを取ってきてくれないか? 数は三つほど。これなら、今の君たちでも採取可能なはずだ」

「黄金硫黄、ね。まかされた」

「……リュージ?」


 勝手に隣からクエストを進められ、マコは不機嫌そうにリュージを睨み付ける。

 リュージはマコの視線を受け流しながら、コソリと呟いた。


「……ここでしっかり対象アイテムを指定しておかないと、延々お使いさせられる可能性もあるんだよ」

「……え、そうなの?」

「ああ。持ってきてほしいのは一つだけとは言ってない理論でな。だから、こういうときはNPC相手でも対象は確定させておくべきなんだ」

「ふーん……」


 マコは感心したように頷き、ブラックへと向き直る。


「黄金硫黄を三つね。それでさっきの銃を一丁、と」

「そうだね。それが適切だろう」

「了解したわ。日数に余裕はあるかしら?」

「急いではいないよ。気が向いたときにでも、持ってきてくれたまえ」

「OK。それじゃあ、今日のところはお暇するわ。こっちには来たばかりだし、黄金硫黄とやらに関しても、調べないとだしね」

「そうかい。それじゃあ、黄金硫黄を楽しみにしておくよ」


 ブラックはそう言って微笑み、マコに背中を向ける。

 マコもブラックに背中を向けると、ソフィアたちの下へとリュージと共に戻った。


「クエスト受領完了ね。相変わらず音も光もなく、視界の端にログが映るだけだけど」

「うむ、それはなによりだ。それで、どうする?」

「どうするも何も、今日はお開きにしましょ。そろそろ二時間超えそうだし」


 マコはクルソルを確認しながら、残念そうにため息をつく。


「クエスト受領までこぎつけたはいいけど、黄金硫黄ね……どんな硫黄よ、まったく」

「名前の通り、黄金に輝く硫黄だろ? 見たことはねぇが」

「じゃあ、明日からニダベリルで採掘だね!」

「つるはし使えばとれるかな?」

「どうだろうな……場合によっては防毒マスクの類がいるぞ?」


 明日取り掛かるクエストに関して話し合いながら、リュージたちは廃屋の外に出る。

 先ほどまで明るかったはずの天上は、いつの間にかカーテンをかけてしまったかのように真っ暗になっていた。




 ちなみに、マコの家にはサバゲ用のものとモデルガン、双方合わせて五十丁近い拳銃が飾られている模様。

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