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log32.草剣竜ディノレックス

「条件ドロップ!?」

「なんだそれはっ!」


 剣のように尖りに尖った己の体を、まるで剣舞かなにかのように振り回すディノレックス。

 コータとソフィアもその一撃から逃れながら、リュージへと問いかける。

 ディノレックスへの仕掛け時を窺いながら、リュージは二人の疑問へとこう答えた。


「モンスター……特にボスモンスターの中に、一定の条件を満たすことでドロップを確定させられるレアアイテムをもってる連中がいるのさ……! 条件はモンスターによって様々だが、そのうちの一つに“特定部位の破壊”ってのがあんのさ!」

「なるほど……先ほどまでディノレックスは爪と牙を破壊された。それが条件で、より凶悪な姿に変じる代わりに、レアアイテムのドロップが確定するというわけか!?」

「そういうことだ! この調子でディノレックスぶっ倒して、お宝頂戴といこうかぁー!」


 リュージは一声叫び、目の前を薙ぎ払う鋸のような尻尾を乗り越える。

 そのままグレートハンマーを振り上げ、尻尾の付け根を叩き潰すように振り下ろした。


「おっしゃぁぁぁぁ!!」


 攻撃後に生まれる隙を突いたその一撃は、確かにディノレックスの尻尾を打ち据えた。


―GIiiGAaaaa!?―


 尻尾に生まれた苦痛にディノレックスは苦悶の咆哮を上げ、思わずといったように天を仰ぐ。

 同時にディノレックスのHPが見える程度に減るのが分かった。


「あ! ディノレックスのHP……!」

「防御が下がったか? つまり現状の火力でも十全に通る……!」


 HPの減り具合から装甲が下がったと判断したソフィアは、両手に持ったメイスを握り締め、一気にディノレックスへと駆け寄る。


「このまま畳み掛ける! これ以上なにかする前に――!」

「うぉ!? 何だこれ!?」


 だが、そんなソフィアの耳に、驚いたようなリュージの声が聞こえてくる。

 ディノレックスに駆け寄る間にそちらへ視線を向けると、リュージはいつの間にかぼろぼろになったグレートハンマーを手にしていた。


「一発でこれ……!? まさか、こいつの装甲……! ソフィア!」

「―――!」


 リュージがなにかに気が付き、そしてディノレックスに最接近しているソフィアに向かって声を飛ばす。

 その中に含まれる警戒の色にソフィアは気が付いたが、体は止まらない。

 大きく体ごと回すように振り上げた二振りのメイスは、狙い違わずディノレックスの棘のような両足へと叩きつけられる。

 ……そして、痛快な打撃音が響き渡ると同時にソフィアの持っていたメイスがディノレックスの棘のようなうろこに持っていかれ、ボキリとへし折れた。


「……!?」

「えっ!?」


 ソフィアに続いて駆けつけようとしていたコータは遠めに見えた恐ろしい光景に思わず足を止める。

 ソフィアは折れたメイスを叩きつけたような姿勢のまま、体を硬直させてしまう。

 再三の攻撃で、劣鋼のメイスも磨耗はしていたかもしれない。だが、半貫通属性と言うこともあり、はじめに挑んだときよりはずっと耐久力が残っていたはずだ。

 目の前で起きた不可解な現象に固まるソフィアの頭上に、振り上げられたディノレックスの巨大な足が迫る。


「―――ッ!?」

「ソフィア!!」

「ファイアボール!!」


 その体が、巨大な恐竜に踏み潰されかけた寸前、胴体を引っさらうようにリュージが体を抱きかかえ、ディノレックスの頭部に炎の塊が叩きつけられる。

 破裂した爆炎の衝撃で、ディノレックスは大きく仰け反り、その足もソフィアから遠くに振り下ろされる。

 体当たりするような勢いでソフィアの体を掻っ攫ったリュージは、そのまま草原を転がりながらソフィアの体から手を離し、単独で態勢を立て直す。

 地面に叩きつけられたときの衝撃で我に返ったソフィアは、リュージが手を離してくれたタイミングで、慌てて自分も態勢を立て直した。


「す、すまない、リュージ! だが、今……!」

「わかってる! さすがレアエネミー、一筋縄じゃいかねぇか……!」


 先ほどと異なり、ファイアボールもさして効いていないようだ。ディノレックスは軽く頭を振ると、怒りに燃える瞳でマコの方を睨みつけた。

 真っ向からそれを睨み返しながら、マコはリュージへと問いかける。


「で? あのディノレックスはどう変わったのよ?」

「装甲特性だろうな。今のディノレックスの装甲は鋸だのやすりだのって言われてる装甲だ」

「鋸に……やすり? っていうと、まさか……」

「正確には“対武器用耐久度減少装甲”……言葉の通り、武器を叩きつけると耐久力をごりっと持っていかれる装甲だ。相手の武器を破壊することに長ける装甲だが、その反面装甲としての防御力は紙同然でな。武器の威力次第ならごり押しも出来るんだが――」


 咆哮と共に駆け抜けてきたディノレックスの体当たりを回避しながらリュージは叫ぶ。


「劣鋼じゃ、そうもいかねぇ!」

「じゃあ、どうするのだ! こちらが持っている装備は皆、劣鋼製だぞ! 早晩破壊しつくされ、後は素手で殴るくらいしかなくなるぞ!?」


 手の中に残っていたメイスの残骸を放り投げながら叫ぶソフィアに返すように、リュージはバスタードソードを取り出した。


「そうでない限りの対処法は一つ! 線でも面でもなく、点で穿つ! 要するに、刺突攻撃で、向こうの装甲を貫いてやるのさ!」

「……そっか、やすりなら、線で引っかいても面で擦っても駄目だけど、点で打てば!」

「こっちの武器の消耗も押さえられるって理屈? さっきよりは分かりやすくていいわね」


 リュージの言葉を理解したコータとマコは、それぞれの獲物を取り出す。

 ソフィアも、レイピアを取り出し構えた。


「理屈は分かった……! だが、下手に付けばこちらの武器も壊れないか!?」

「そのとおり! まっすぐ突いたら、まっすぐ引く! ちょっとでも横にぶれると、ぼっきり折れるぜ!?」


 つまり、突入角が少しでもずれると武器にダメージが入ってしまうのだろう。

 まだ不動のモンスターなら問題ないかもしれないが、相手がディノレックス。うまくいく保障は0に等しいが――。


「……やるしかないか。ヤァァァァ!!」


 ソフィアは気勢と共にディノレックスの傍に駆け寄り、レイピアで足のウロコを貫いた。

 先ごろ戦った時とは比べ物にならないほど柔らかな装甲は容易くレイピアの刃を受け入れ、その下にあるディノレックスのHPにダメージを与えるが。


―GIiiii!!―

「くっ!?」


 ディノレックスの反撃に、慌ててレイピアから手を離すソフィア。

 少しでも手を離すのが遅れていれば、そのままレイピアの刃が持っていかれていたかもしれない。

 暴れるように尻尾を振り回すディノレックスから飛び退くソフィアと入れ替わるように、コータとリュージが己の刃を一閃する。


「どぅりゃぁぁぁぁ!!」

「つきぃぃぃぃぃ!!」


 二振りのバスタードソードと、ロングソードの一突きがディノレックスの柔肌を射抜く。

 腹に二本、喉付近に一本剣を増やしたディノレックスは、さらに勢いよく暴れ始める。

 両手に生えた鋭い爪を振るい、自らの足元を薙ぎ払うように動き始めた。


―GIGAaaaaa!!―

「っと!」

「わっ!?」


 コータとリュージも己の武器から手を離し、急いでディノレックスから離れる。

 ディノレックスは己の体に生えた武器が煩わしいのか、先ほどよりも苛烈にリュージたちを追い回そうとするが、その間隙に撃ち込まれるボルトによって動きを阻まれてしまう。


―GI!?―

「効いてるよ、マコちゃん!」

「効いてるっても、どうすんのよこれ」


 レミの報告にボルトを素早く装填しなおしながらも、マコは険しい表情でディノレックスのHPバーを睨み付ける。


「後一押し足りないわよ。武器を突き刺す攻撃は結構いい線いってんのに、クロスボウは文字通り削るようなダメージしか入らないし……。残弾じゃ、とても削りきれないわよ?」


 忌々しげにいいながら、マコは視界の端に浮かぶボルトのマークとその下の数字を睨み付ける。

 こうした弾を消耗するタイプの武器を使うと現れる、残弾表示だが、ボルトを撃ちこんだ瞬間、9に数が変わった。クロスボウのボルトの残弾九発に対し、ディノレックスの残り体力は後三割前後といったところか。


「もうあと少しってとこまで来てるのに……リュージ! アンタ手持ちの武器は!?」

「後一本だな。そっちは?」

「僕も一本!」

「私もだ。これでは足りないぞ……」


 リュージたちはサブで持ち歩いているそれぞれの武器を取り出すが、後一押し足りない。

 まだ壊れていないコータのウォーハンマーも叩き込めば多少足しになるかもしれないが、削りきれるかどうか。


「……えぇい、仕方ない。とりあえずぶち込んどきなさい! 後のことは、後で考える!」

「大雑把だよ、マコちゃん!?」

「しかねぇよな」


 目前にある勝利に向かい、考えることを放棄したマコが叫びながらクロスボウの残弾をぶっ放す。

 狙い違わずディノレックスに叩き込まれるボルトを目にしながら、リュージたちは一気にディノレックスに駆け寄っていった。


「……だが、実際これらを失うと私たちは戦えないだろう?」

「ですなー。なら出来ることを、出来るだけやる。コータ!」

「分かってる!」


 コータはウォーハンマーとロングソードを両手に持つ。


「剣だけじゃなくて、こっちも打ち込む!」

「よっしゃ! じゃあ、俺も頑張りますかね! あ、ソフィたんは何もしなくていいのよ?」

「なにをする気だ!? まあ、私に出来ることはなさそうだが……」


 ソフィアは悔しそうに呟きながら、ボルトを回避しようと地団太を踏んでいるディノレックスの足にレイピアを突きたてる。


「シッ! 後は頼んだ!」


 そのまま退避するソフィアの背中から抜けるようにコータがディノレックスに近づき、まずロングソードを腹に突きたてる。


「ハッ!」

―GIGIiiii!?―


 さらにウォーハンマーを振り回し、巨大な金槌のような頭部分をディノレックスの足元に叩き込む。

 金属のひがむ嫌な音を最後に、ウォーハンマーのヘッドはボキリとへし折れてしまった。

 そうして下がろうとするコータの背中を踏みながら、リュージが一気に跳び上がった。


「ッ! よろしく、リュージ!」

「おう、まかされて」

―GIAaaaaa!!!―


 眼前に現れたリュージの姿を目にしたディノレックスは、神速の動きで口蓋を開き、リュージを飲み込もうとする。


「リュージ!」


 次に移るであろう惨劇を前に、ソフィアが思わず彼の名を叫ぶ。

 だが、それに答えることなくリュージは腕を動かす。

 刃を動かすのではなく、まるでつっかえ棒を動かすように。


―ッ!?―


 大きく開いた口の中に、縦に突っ込まれたバスタードソード。

 大型の肉食恐竜らしく、規格外の大きさに開かれた口の中に納まったバスタードソードはディノレックスの口を封じてしまった。

 だがリュージはそれで終わらせない。ディノレックスの動きが止まった一瞬、開いた口の中を足場に真上へと飛び。


「っらぁ!!」


 開きっぱなしの上口に向かって、踵落としを叩き込む。

 薄い鉄板を貫くような凄まじい音と共にディノレックスの口は勢いよく開かれ、下向きに向けられていたバスタードソードがその下顎をぶち抜く。


―!?!?!?!?―


 リュージの一撃を喰らい、ディノレックスが白目をむく。

 その一撃を持ってディノレックスのHPは0になる……ことなく、僅かに一欠けら残る。


「あー!? 残っちゃった! マコちゃん!」

「あたしも看板」

「くそ!? MPもか!?」

「じゃあ、追いかけっこかな……」


 レミの叫び声に、マコはボルトの収納ケースを逆さに振って答える。

 MPの回復もまだだ。後一撃はもうしばらく後になるか。

 そう、パーティのほとんどが考えた時。


「――ッシ!!」


 落下中のリュージが体を捻る。

 大きく足を回し、靴底をディノレックスの体に突き刺さっていたバスタードソードのうちの一本……喉辺りに突き刺さっていたものに叩き込む。

 そして響き渡るのは、武器が壊れる音。

 そして。


―GIGAaaaaa!!??―


 ディノレックスのHPが削られる音。

 ヒット音を響かせながら、ディノレックスの体の中に叩き込まれたバスタードソードの切っ先は、確かにそのHPの残りを削りきる。

 リュージが着地するのと同時に、ディノレックスの巨体はゆっくりとミッドガルドの草原へと倒れ付した。


「―――ッシ」


 リュージは倒れたディノレックスが動かないのを確認すると、小さくガッツポーズを作る。

 そんな彼の背中を、残りの四人は唖然と見つめることしかできなかった。




なお、アラーキーVSジャッキーの勝負は、僅差でアラーキーの勝利となった模様。

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