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log23.ガン・ドリーム

「銃、ねぇ」


 マコの希望を聞き、リュージは珍しく難しい顔つきになった。

 弱気なマコと難しい顔のリュージ。めったに見ない二人の表情を見比べながら、コータは不思議そうに問いかける。


「前も少しは話があったけど、本当に銃が使えるのかい、リュージ?」

「ああ。しかも一口に銃といっても、火縄銃や燧発式(フリントロック)、リボルバーにオートマ、ガトリングはもちろん、未来に生きる光線銃(レーザーライフル)と何でもござれだ」

「え、そんなに色々あるの!?」

「おう。イノセント・ワールドは設定上、高度な科学力を持っていた先史文明が滅んだ後の世界……ってことになってるんでな。その上、異世界からの侵略者のおかげで世界が不安定とかで、この世界にないものまで流れ込んで来るんだと」

「確か、不安定な昼夜の時間も世界そのものの安定性を欠いているため……という設定だったか」


 ソフィアも一つ頷きながら、リュージの説明の補足をする。

 この手の異世界もののMMOだと、割と頻出の設定だろう。世界が不安定という設定一つあれば、それだけでいろんな作品とのコラボレーションが可能となるのだ。

 だがイノセント・ワールドは基本的にそうしたコラボイベントを行ったことがない。このゲームの場合は、純粋にロールプレイを行うための設定なのだろう。


「プレイヤーがその気になれば、改造人間だって巨大ロボットだって何でもござれだ」

「改造人間はともかく、巨大ロボットって……?」

「何でもゴーレム系の魔法スキルを応用すると使えるようになるんだと。まあ、それはともかくだ、マコよ」

「……なによ」


 少しずれた話を修正しつつ、リュージはマコを真剣な表情で見つめる。


「銃が使いたいんか?」

「……ええ、そうよ」

「クロスボウじゃ駄目なんか? もうちっと言うと、銃を入手するためのつなぎには使えんのか?」

「……ええ」


 リュージの質問に二度頷き、マコは机の上に一丁のクロスボウを置いた。

 一番初めのログインの時、ジャッキーに連れられて皆で入った武器屋で購入した一品だ。それを見つめながら、マコはポツリポツリと語り始めた。


「クロスボウだって、悪い武器じゃないのは分かるの……。弾道は素直だし、ボルトが大きいおかげでモンスターのノックバックだって強い……。弾の種類の切り替えも、きっと銃より簡単にできるんだと思う」

「……けど?」

「……やっぱり、一度に弾が一発しか撃てないのが不安だし、再装填のときに仕掛けをしっかり引かないといけないのは無防備だし、ちょっとあたしの手には大きいし……」


 ばつが悪そうに視線を逸らしながら、マコはもう一言付け加えた。


「……馴染まないの。手の中に。それなりに、使い込んだつもりなのに」

「あー……」


 マコのその一言を受け、納得したようにリュージは何度か頷いた。


「手に馴染まないのはなー。それは確かに痛いわ」

「……それって、そんなに重要なことなのかなぁ?」

「レミ。武器を扱うものにとって、己の手に武器が馴染む馴染まないは重要なことだ」


 現在のパーティの中で唯一武器による攻撃を行わないレミに、ソフィアは真面目な顔で語り始める。


「私もいろんな武器を試してみたが……やはり、違和感があると調子が狂う。私自身、レイピアを中心とした戦闘術を身に着けているせいもあるだろうが、それでも違和感が元でモンスターを仕留めそこなったり、逆にモンスターから無用なダメージを受けてしまったりすることもある」

「僕なんかは、そんなに違和感感じないほうだけど……やっぱり、武器ごとの使用感覚の違いってバラつきがあるんだ」

「どんな武器でも使える主人公適性持ちにゃ分からん悩みだろうな……。こう見えて俺だって武器選びは結構時間がかかったんだからな? 最終的に大剣に落ち着くまで紆余曲折あったんだからな……」


 ドヤ顔ダブルバトルアックスからトリプルレイピアの変遷は今でも意味不明だったわ、などとのたまいながら、リュージは腕を組んで唸り始める。


「……入手経路は、買うか作るか。どっちかになるわけだが、現時点ではどっちもつらい」

「と、いうと?」

「まず、イノセント・ワールドにおける一般的な銃の入手経路は買うになるな」


 コータの疑問に答えるようにクルソルからマーケットの画面を呼び出すリュージ。

 空間投影式のモニターにはたくさんの商品が並び、それぞれの価格が千差万別に表示されている。


「こんな風にクルソルマーケット“クルゾン”を利用したり、商業ギルドに買い付けにいったり、或いは専門のガンスミスに依頼したり。これがメインになる銃の入手方法だな」

「じゃあ、今すぐ買えばいいのかな?」

「ところがそうもいかねぇ。クルゾンだと一定以上のレア度のアイテムはやり取りできない。イノセント・ワールドのレア度の法則は覚えてるな?」

「えーっと……」


 リュージの言葉にコータは少し悩みつつも、答える。


「確か星の数で計測されて、最大数は十個まで。星四つまでがコモン、星六つまでがアンコモン、そこから星が一つ増えるごとにレア・アンレア・レジェンド・アンノウン……だったかな?」

「大変結構。ちなみこいつは余談だが、レア度の計測数アンノウンってのは文字通りの意味で、正確には「星九個以上のレア度を持つ」って意味らしいので、星十一個レアとかたまに星二十レアなんて言葉が掲示板では飛び出すぞ。さて、脱線した話を元通りにするけど、クルゾンでやり取りできるアイテムのレア度は星三つまでとなる」

「む? 思っていた以上に低い……どういうわけだ?」

「単純に荒稼ぎとアイテム価値暴落の防止かなぁ。クルゾンはクルソルを使うわけだから、ダンジョンからでもアイテムの売買が出来る。単純な話、レアアイテムの入手が簡単なダンジョンに篭り続けてクルソル使ってアイテム売り続ければ、一気に儲けられるわけだよ」

「なるほど。さらに言えばレアアイテムがクルゾンを介して簡単に入手できるとなると、そのアイテムの価値が暴落してしまうわけか」

「そゆこと。お手軽で便利ではあるけれども、決して利便性が極まってるわけじゃないのがクルゾンのいいところなわけなんだけど……ここで問題点が一つ」


 リュージは一つ指を立て、その指でクルゾンの検索を開始する。


「実はこのクルゾンでは、ほとんど銃が手に入りません」

「え!?」


 リュージはそういうと共に、皆に検索結果を表示してみる。

 空間モニターに示された検索項目は“銃”。先の話であれば当然の検索項目だが、その銃によって表示されているらしいアイテムは全て同一のものであった。

 検索結果が表示されているアイテムの名前は“銀玉鉄砲”。レア度は星二つで、価格もそれ相応に抑えられた武器である。


「これこの通り。クルゾンで表示される銃は、星2の銀玉鉄砲だけ。これ以外の銃は星4からのスタートなんで、クルゾンじゃ銃は入手できないわけだ」

「この銀玉鉄砲は使えないの?」

「産廃とさげすさむほどじゃないけど、使えると言い張れる武器でもないかなぁ」

「なんだその珍妙な評価は」


 矛盾するリュージの発言にソフィアがツッコミを入れると、彼は実際に銀玉鉄砲を買って見せた。

 リュージの手の平の中にもすっぽり納まりそうな小型の拳銃だ。ディティールが簡略化されている部分はあるが、名前の通り銀色に輝く小型拳銃が、リュージの言うような評価だとはソフィアたちには思えなかった。

 リュージは手に入れた銀玉鉄砲をテーブルの上に置くと、周りの仲間たちに注視するように促した。


「はい、今クルゾンで銀玉鉄砲を買いました。実際に皆で見てみましょう」

「どれどれ……」


 リュージの言うとおりに、皆で銀玉鉄砲を注視してみる。すると、リュージの言わんとすることが直ぐにわかった。


「………」

「……これは……」


 火力、射程はクロスボウよりも僅かに高い程度。武器の耐久度は若干低め。ここまではよい。

 だが、最大の問題点は装填数が1発であり、さらに再装填が不可能という点であった。


「……一発しか撃てず、さらに使い捨てなのかこの銃……」

「そうなんよ。クロスボウと比較した場合、小型で持ち運びに勝るんだけど、再装填不可の部分で大いに負けてるの。クロスボウとは武器としての質が違うんで、使い道とかを考えるとまったく役に立たないわけじゃないのも微妙な部分かねー」

「例えば?」

「例えばクロスボウだと、ある程度以上の等級のウロコ持ちにダメージが通りにくくなるんだけど、銀玉鉄砲だと接射すりゃそういうの一切気にしなくて良いとか」

「あ、ウロコ貫通するんだ?」

「おう。さらに薄い鉄板くらいなら無視できる程度に火力はあるんだわ。なので、非接近職の隠し武器として愛用されております」

「ああ、なるほど……。このサイズなら、ローブの袖の中に隠しておくことが出来そうだな」


 ソフィアは言いながら、銀玉鉄砲を試しにレミのローブの袖の中に入れてみる。

 されるがままにレミのローブの袖の中に入った銀玉鉄砲は、外からではその存在を感じることすら出来なかった。


「……デリンジャーみたいな拳銃ね……」

「実際、そういう想定の元で開発されたんじゃないかね? このミッドガルドで唯一、NPC商店から入手できる銃だし。1Lvからでも使用できるから、初心者救済アイテムの側面もあるかもな」


 興味深そうに銀玉鉄砲を見つめるマコに、リュージは肩をすくめて見せる。


「けれど、本格的な銃の運用を考えるなら銀玉鉄砲は使えない。何しろ費用対効果が悪すぎる。NPCからこいつ一丁買う金で、普通の拳銃で使える銃弾なら百発は買えるからな」

「あくまで緊急用ということね……。他の購入方法は?」

「先に言ったとおり、商業ギルドか専門のガンスミスのどっちか。ただ、このどちらも初心者上がりじゃ手を出しにくいんだ」

「……理由はお金?」

「その通り。購入相手をどっちに選んでも、出てくるのはプレイヤーが作成した銃という武器。性能は抜群だが、その分価格が跳ね上がるのさ」


 そういってリュージがクルソルから呼び出したのは商業ギルドの価格掲示板と題された、イノセント・ワールド内の掲示板の一つだ。

 大量にあるそれらの中から銃器専門店のものを選び、適当に掲示板の書き込みを提示してみせる。

 マコ以下、銃に興味津々だったパーティメンバーは、表示されている価格に閉口してしまう。


「……どれもこれも刀剣類とは、文字通り桁違いの金額がつけられているな……」

「何でこんなに高いの……?」

「威力が高いとかレア度の高い素材使ってるとか色々理由はあるんだけど、一番の理由は全ての銃が個人の手によるオーダーメイドだからな」


 リュージはため息と共にクルソルを仕舞い込む。


「叩いて冷やして固める……とかっていうと知り合いの刀鍛冶にぶち殺されそうだが、刀剣類と比較して銃器の作成には手間隙がかかるんだそうな。細かいパーツが多いせいかね? だもんだから、その分の手間賃やらなんやらが上乗せされて、目玉が飛び出るような値がついてるわけさ」


 世の中、専門技能ほど手に入りにくいものはないかもしれない。何しろ個人の技術に依存するような専門技能であればあるほど、替えが利かないのだ。人間国宝と呼ばれる彼らの持つ技術も、決して替えが利くような代物ではないからこそそう呼ばれるのだ。

 イノセント・ワールドにおいても、それはさして代わらないらしい。銃器専門の作成者は絶対数が少なく、そのせいで銃器の価格は上がりがちというわけだ。


「……調べた限り、フルスクラッチで銃を作成する場合、それ専門のステ振りしとかないとほとんど粗悪品しか出来ないらしいわね」

「ああ、作り方は調べてるのか。マコの言うとおりで、ガンスミスと呼ばれる連中は銃器の作成に特化している……というよりはそれしか出来ないようなステ振り、スキル振りを要求される。そうした連中が心血を注いで銃を作ってくれた結果がこの値段というわけさ」


 リュージは天を仰ぎみるように椅子の背に体を預け、一つため息をつく。


「なんにせよ、素人にゃ手出しができない領域にある武器の一つ……それが銃ってわけさ」




なお、銃器による性能の良し悪しは素材よりもむしろガンスミスの腕前によって左右される模様。

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