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log20.第一日目、終了

「おかえり。いいアイテムは拾えたかね?」

「ええ、まあ……」


 洞窟の入り口で待っていたらしいジャッキーの言葉に、ソフィアは曖昧に頷いた。

 あの後、盗賊の隠れ家の最奥にて発見したアイテムやゲーム内通貨の量は序盤にしてはなかなかの量だとリュージが言っていた。

 特殊効果付きの武器こそ入手は出来なかったが、現在のレベルでも装備可能な上位装備が入手することができたとのことだ。

 青銅鋼なる武器で鍛えられた槍を手にしたソフィアであったが、疲れたように一つため息をついた。


「しかし、妙に疲れました……」

「お、ソフィアVR酔いか? やっぱり初めてで二時間越えはきつかったかね」

「違うそうじゃない」


 グレートアックスとウォーハンマーを肩に担いだリュージの言葉に断とした口調で返すソフィア。


「どちらかといえば、ボス戦の後遺症のようなものだ。あんなボスとの決着のつけ方があるか……」


 やはりボス戦の決着が気に入らないようだ。予定を延長してまで続けたゲームの終わり方としては、いまいち締まらないといいたいのだろう。


「いや、急所狙いはボス戦の基本よ? ああ見えて10Lv差だから、普通にやり合ってたら相当時間がかかるはずだし」


 リュージは申し訳なさそうに眉尻を下げながらも、はっきりと告げる。


「全員の体力とか考えれば早めにけりもつけたかったし。悪いけど、あの決着のつけ方は譲らんよ?」

「いや、まあ、リュージがみんなのことを思ってくれてるのはうれしいんだけどね……」

「うーん……ちょっと、ゴブリンさんかわいそうだったような……」

「そう? あたしは、あんなもんでいいと思うけど」


 ソフィアと同じ意見らしいコータやレミと違い、マコはリュージの言葉に賛成のようだ。

 軽く肩をすくめながら、いつもの冷静な口調で後を続けた。


「あのボスの火力を考えりゃ、受けられて一発、最悪その一発で即死じゃない? だったら、へんな意地は捨てて即効でけりをつけるべきでしょ。あたしら、所詮は初心者なんだしさ」

「うーむ……」


 マコの言葉にも言い分はあると、ソフィアは唸り声を上げる。

 確かに彼女の言うとおり、ソフィアたちは初心者だ。リュージの言うとおりに動きの遅いボスを相手にしていても、危うい場面は存在していた。

 あの瞬間、リュージが急所殺しによってボスのHPを削っていてくれなければ、どこかで大ダメージを食らってしまった可能性は否定できない。

 ……しかし、心の中に納得のいかない部分があるのも事実だった。


「……しかし、なんだ。消化不良な感じがする。こう、もやもやした感じだ」

「僕も……どうせなら、びしっと決めたかったなぁー」


 手にしたロングソードを眺めながらポツリと呟くコータ。

 やはり彼も男。手にした武器で大物を倒してみたいという気持ちは、抑えられないのだろう。

 そんな、欲求不満な初心者たちを前にジャッキーは朗らかな笑みを浮かべて見せる。


「そうぶーたれずともよいだろう? ここ以外にもダンジョンやボスはたくさんいるのだ。今日が駄目でも明日、明日が駄目でもまた明日……という奴だ」

「そーそー。世界は広いんだぜ? いや、冗談じゃなしにマジで。俺だって、色々お気に入りのダンジョンとかポイントを紹介したいしさ」


手に入れたアイテムをインベントリにしまいこみながら、リュージも笑顔を浮かべた。


「一回こっきりで満足してもらっちゃ困るぜ? 特にソフィアには、まだまだ付き合ってもらうからな?」

「まあ、なぁ……」


 リュージの言葉に胡乱げな眼差しになりながらも、ソフィアは一つ頷いた。

 理解はできるが納得はしたくない。そんな彼女を見て、リュージは力強い笑みを浮かべる。


「フフフ……むくれるソフィたんもまたよし!」

「力強く肯定している場合か、バカもん」


 素なのかボケなのか分かりづらいリュージの後頭部を叩きながら、ジャッキーはゆっくりと一同を見回した。


「まあ、今回の反省会は別の機会にすればよいさ。諸君、そろそろログアウトしたまえ。予定の時刻は、当に過ぎているのだろう?」

「そういや、そうね」


 マコがクルソルを確認しながら一つ頷く。

 当初の予定を三十分ほどオーバー。延長戦としては、まあまあといったところか。


「初ログインにしちゃ、稼げたと思うしね。粘ってよかったわねー」

「うーん……まあ、そうだよね」


 マコと二人して入手できた魔道書を見下ろし、レミはようやく笑顔になった。


「まだこれは読めないけど、その分ゲームしてレベルアップすればいいんだしね」

「そういうもんかなぁ……ねえ、リュージ? 僕たちみたいな近接職にはスキルブックとかないの?」


 レミが抱えている魔道書がうらやましくなったらしいコータが、そんなことを問いかけてくる。

 リュージは軽く首を振って肩をすくめた。


「あいにく外付けスキルはないなぁ。魔法系でよけりゃ、モンスタースキルってのはあったけど」

「モンスタースキル? また癖が強そうだな……」


 レイピアを鞘に収め直したソフィアは立ち上がる。

 そして一度大きく伸びをすると、改めて皆のほうへと向き直った。


「まあ、そこは後日とすべきかな……ジャッキーさんの言うとおり、そろそろ私はお暇するよ」

「おう。ソフィたん、また明日ね」

「じゃーね、ソフィア」

「またね、ソフィアさん」

「ソフィアちゃん、またねー」

「うむ。ログアウト後、三十分は何もせずゆっくり過ごすと良いぞ」

「そうさせてもらいます。それじゃまた」


 仲間たちとジャッキーに別れを告げたソフィアは、クルソルのログアウトボタンを押す。


《イノセント・ワールドからログアウトいたします。お疲れ様でした。ゲーム終了後はゆっくりと休息をとり―――》


 ジャッキーも言ってくれたようなアナウンスが頭の中に流れ、あたりの風景が一気にぼやけていく。

 一瞬白色の地平線が視界に映り、そのまま周囲がブラックアウト。

 そして気が付いたときには体を柔らかなベッドに横たえており、体を起こしてメットを外すといつもどおりの自分の部屋が目に入った。


「……ふう」


 ソフィアは一つため息をつくと、ベッドの上にVRメットを置いて、また体を横たえる。

 額には軽く玉のような汗が浮かんでいるのを感じる。VRメットをかぶっていたからというだけではなさそうだ。

 運動をしたわけでもないのに、全身を心地よい疲労感が覆っている。これが、リュージたちの話していたVR酔いの一種だろうか。

 ソフィアは横になりながら、今日一日で得られたプレイの内容を反芻し始める。


「………」


 初めてのログインに、リュージとあちらの世界での邂逅。

 ……今思い出すだけでも、最悪の初ログインである。知り合いであろうとも、そのままログアウトして絶交してもおかしくないはずだ。

 リュージの相変わらずぶりにゲンナリしつつ、その次に赴いた武器屋のことを思い出す。

 結局選んだ武器はレイピアであったが、他にも興味をそそられる武器はたくさんあった。今日拾った武器には別の武器もたくさんあったため、それを試してみるのも悪くないかもしれない。

 そして、初めて突入したダンジョン。第一エンカウントから死に戻ってしまったのは嫌な思い出であるが、そんな感覚も新鮮に感じていることに気付いた。

 死、ということに思いを馳せられるほど経験を積んではいないが、やはり何でも味わいたくない感じだ。

 逆にモンスターとの戦闘は手に汗握る感覚であった。先に死に戻りを経験したせいだろうか。今までの遊びの中で最も緊張したと間違いなく言える。


「……フフ」


 思わず、笑みがこぼれた。なんだかんだいって、楽しかったのは間違いない。確かに結末は納得のいくものではなかったが、それでも今回のプレイは楽しかった。

 そうしてゲームの余韻を楽しんでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


「ソフィア? 起きているかしら?」

「母様?」


 扉の向こうから聞こえてきた声の主に驚きながらも、ソフィアは扉を開ける。

 開いた扉の向こうに立っていたのは、ストールを肩に羽織った母、エレアの姿があった。

 母の突然の来訪にソフィアは小首をかしげた。


「母様、どうかされたのですか? こんな……夜中に」


 時刻は九時半を当に越えている。早く風呂を済ませなければと思いつつ母の様子を窺うと、エレアは少し困ったように微笑んだ。


「いえ、いつもなら九時を越えたあたりでお風呂に下りてくるのに、まだ下りてこなかったから……さっき覗いたときは、横になっていたでしょう?」

「あ、ああ……」


 VRメットと母の顔を見比べ、ソフィアは彼女が心配してくれていたことに気が付いた。

 予定では二時間だけのつもりだったのだ。それが三十分もオーバーしている。確かに、エレアが不審を覚えてもおかしくはない。

 ソフィアは申し訳なさそうに眉尻を下げながら、母に事情を説明する。


「すみません、母様。イノセント・ワールド……VRMMOを学校の友人とプレイするあまり、熱が入ってしまいまして……つい、長く遊んでしまったんです」

「まあ、そうだったの。……あなたにしては、珍しいわね」


 ソフィアの口にした理由に驚きはしたものの、エレアは直ぐに嬉しそうに微笑んだ。


「フフ。お相手は、隆司君かしら? よくお話を聞くものね」

「いえ、確かに隆司ですが彼だけじゃないですよ、母様」


 母の口から隆司の名が出るのに奇妙な居心地の悪さを感じながら、ソフィアは後ろ手に扉を閉めて部屋の外に出る。


「お風呂にはこれから入ります。心配かけちゃって、ごめんなさい母様」

「ああ、いいのよソフィア。あなただって、夢中になって遊ぶことくらいあるもの」


 エレアは嬉しそうに笑いながら手を振って答え、それからソフィアの肩を抱くようにその背中を押し始めた。


「お母さん、少し嬉しいわ。……ねえ、ソフィア。一緒にお風呂に入りましょう? それで、イノセント・ワールド、って言うゲームについて教えて欲しいわ?」

「はい、母様。……といっても、私も始めてプレイするゲームですから、そんなに知りませんけどね」

「なら、始めてみた感想とか聞きたいわ。あなたが夢中になれるゲームって、興味あるもの」

「ちょ、母様、あまり押さないでください」


 フフ、と笑いながら自分を押してゆく母に困惑しながら、ソフィアは笑いながら足を進める。

 母にどうやって今日の感想を伝えるか、それを考えながら。




なお、リュージ辺りは引き続きログインを続けた結果、母親にコブラツイストを喰らうはめになった模様。

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